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空賊を倒せ!

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第1章 出航までに起きたこと

 ツァンダの港に、見るからに年季の入った大型飛空船が停泊している。船員たちにより物資の積み込みなどが行われており、もう間もなく出航せんといったような状況だ。
 これは、タシガン家の積み荷を乗せて空峡を渡り、タシガンへと向かう船である。

「んー、これはちょっちヒドスギじゃない?」
 ギラギラと照りつける陽光の下、褐色の肌を純白のドレスに包んだテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、これから自分たちが乗り込むこととなっている飛空船を見上げ、口を尖らせた。
「ま、仕方ないんじゃねぇか? もともと使う予定だった飛空船が故障して飛べないっていうんだからな」
 テレサの横に、彼女より大分若く見えるが、同じような褐色の肌をした少年が並ぶ。少年の名は九条 瀬良(くじょう・せら)。彼が身を包んでいる制服からもわかるように、蒼空学園の生徒である。
「それでも、もっとマシな船はあったと思うんだわ。これじゃあ空の旅をエンジョイできないでしょ?」
 テレサは瀬良に一瞥をくれると、また飛空船の方へ視線を戻す。彼女が、そこまで不満を口にするのも、無理のないことであった。
 当初、このミッションに用いられる飛空船は、大きくはないものの、比較的新しい型式のもので設備なども整っており、なにごともなければ快適な空の旅が約束されるようなものであった。
 しかし、その船は瀬良の説明の通り使えない状態となり、代わりとしてまわされてきたのが、旧式の大型飛空船なのだ。採用されている設備など推して知るべしである。
「そんなこと言ったって、これはミッションなんだから仕方ないんだろ……」
 そこまで口にして、瀬良は妙な感覚を覚えた。
 普段は軽薄な性格であるはずの自分が、明らかに年上の女性の子供っぽい言動に対して、諭すような言い方をしているのである。
 自分よりも精神年齢の低い者を相手にすると、大人ぶってしまうのだろうか。
「ああっ、なんだ!? 性に合わないな!」
「どうしたのよ?」
「なんでもないっ!」
 急に大声をあげた少年を不思議そうに見つめるテレサ。
「あ、ロザリー発見!」
 しかし、瀬良の背中の向こうに、パートナーの姿を捉えたようである。
 テレサは「じゃ、またどこかで会ったら!」と、瀬良に手を振ると、自らの相方の元へ走り去っていくのであった。
「パートナー……か」
 そこまで呟いて、脳裏にラティの姿が思い浮かぶが、瀬良はすぐにそれをかき消した。「ああっ、なんか調子が狂うぜ! こうなったら、賊の10や20、ぶっ倒して気を晴らさないとな!」
 大きく頭を振ると、瀬良は勢いよく飛空船の方へ駆けて行くのであった。


 飛空船の外でそんなやりとりが行われている頃、飛空船の中――件の美術品を保管する倉庫では、空賊対策の準備が粛々と進められていた。

「シップ・チェンジもあったことですし、出航まであまり時間がありません。作業は出航後でもできますから、必要な資材の積み込みに漏れがないかどうかだけは、確認しておいてくださいね」
 倉庫内での作業について陣頭指揮を執るのは、シャンバラ教導団参謀科の香取 翔子(かとり・しょうこ)だ。彼女の役割は多忙を極めるものだが、右往左往してその無造作に束ねられた黒髪を振り乱すようなこともなく、的確な指示を各所に与えている。
「木箱はここでいいですか?」
「失礼します、ちょっと大きな荷物が通りますよ――」
 船倉の入り口の方から男女の声が聞こえる。入ってきたのは、セイバーの安芸宮 和輝(あきみや・かずき)と、銀髪の魔女アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)であった。ふたりの両手には、大きな木製の箱が抱えられていた。
「あ、ええっと……和輝さんとアンナさんね」
 翔子は声の主たちに視線を向ける。ふたりは自分同様、船倉での作業を志願した者たちであった。
「はい、そうです。改めてよろしくお願いします」
「名前、覚えてくれて嬉しいです、翔子ちゃん」
 和輝は生真面目に頭を下げ、アンナは屈託のない笑みを浮かべる。
「一応、ここの責任者ですからね、それくらいは――。あ、材料はそこでいいわ。後でほかのメンバーと一緒に木箱制作を手伝ってくださいね」
「はい、わかりました」
 彼女らはこの船倉で、適当な木箱を材料に、美術品が入った木箱にそっくりのダミーをつくり、本物をそのなかに隠してしまおうと考えたのである。言うなれば『木を隠すには森のなか』作戦だ。
 翔子はそのために、材料となる木箱などを15個ばかり調達していたのである。それらは和輝たちの手によって、この後、次々と船倉に搬入されるのであった。


「そろそろ船が出るぞーッ!」
 予定時刻を2時間程度押した頃、飛行船の甲板の上から、船員の大きな声があがる。どうやら、出航の準備が整ったようだ。

「おおーい! 待ってくれへんか――ッ!」
 出航の合図に呼応するかのように、港の奥の方から浮浪者のような格好をした蒼空学園の生徒が駆けてくる。ナイトの井上 敏道(いのうえ・としみち)だ。
 そのすぐ後ろには敏道のパートナーである、ドラゴンニュートのアラン・シャロン(あらん・しゃろん)が追走している。
「はぁ、はぁ、はぁ! あの船員のオッサン、オレらのこと見えてるんやろか? なんか、出航の準備、止める気配あらへんのちゃうか?」
「……敏道、とにかく今は全力で走るしかあるまい。そもそも、だな。余裕をもって行動しないから、こういうことになるのだ」
 飛行船へ向かって全力疾走しながら、アランはそれほど息を乱すことなく、敏道に説教を始める。
「せやかて、仕方ないやろ。ひとつ前の旅から帰ってくるのが予定より遅れてしもたんやから――っとぉ!」
 飛行船めがけて、ふたりは跳躍。ストンと、その甲板に着地を決める。どうやら、出航には間に合ったようだ。
「よ、ギリギリだね」
 そんなふたりに声をかける者があった。金の長髪を持つ長身の男だ。名前は、ヴィンターリオ・シュヴァルツである。
「お前さんが駆けてくるのが見えたからな、船員に言って、出航準備を少し待ってもらったよ」
「ああ、せやったんか、おおきに」
 ヴィンターリオの言葉に、敏道は深く感謝した。それと同時に、飛行船はゆっくりと動き始めた。
「オレはヴィンターリオだ、よろしく」
「オレは、井上敏道。そしてこいつがアランだ」
 ヴィンターリオと敏道、アランはそれぞれに握手を交わす。
「ところで自分、どこの学生なんや? その服装、制服とかではないやろ?」
「ああ、そうだな。これは私服なんでね」
 ヴィンターリオの服は、白いTシャツにジーンズという、極めてラフなものであった。「なんていうんだろうな、規定の枠にハマるのも嫌なんでね。学外では基本的にこんな感じなんだ」
「なるほどなぁ」
「こだわりがあるのだな」
 それを聞いて、ふたりは理解を示した。
「そういうお前さんだって、その格好、学生には見えないぞ」
「ははっ、それは確かにそうやな」
 敏道は一応、蒼空学園の制服を着てはいるものの、それは汚くボロボロで、とても学生のようには見えなかった。
 そういった意味ではこのふたり、お互いに型にはまっていないのである。言うなれば、自由を謳歌しているのだ。