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見えざる姿とパンツとヒーロー

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見えざる姿とパンツとヒーロー

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第一章

 廊下にインヴィジブルポーズが現れる少し前に、時が遡る。


 そこは誰が言ったのか、天国、聖域、理想郷、桃源郷……ありとあらゆる称賛の声があげられる。
 男ならば誰もが夢見るその場所を、正式には「女子更衣室」と言った。


「あ、ダメ……そんなとこ……」
「なにが……ダメなんですか? お嬢様……」
「ああっ、ミルフィ……私だけじゃ恥ずかしい……あなたも」
「んっ、お譲様、そこです……あっ」
「あ〜っと……あなた達、何……してんの?」
 現在「女子更衣室」では金色をした長い髪をした儚い雰囲気のプリースト神楽坂有栖(かぐらざか・ありす)と、そのパートナーである銀色の髪をツインテールにした胸が大きいヴァルキリーミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が囮の為に着替えをしていた。
 ただし、お互いに相手の服を脱がせていた為、後から入ってきた銀色の長い髪をした妖艶な雰囲気を持ったウィザードターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)から見ると、それはそれは仲のいい二人に見えた訳で。
「なんと言うか……邪魔したわね……」
 そう言って、ターラは更衣室のドアを閉める。
「あ、待って、なにか勘違い……ミルフィ? ちょっと、動けない!」
「お嬢様〜!」


「どうしたのターラ? 囮役は中で着替えてないと意味ないわよ?」
 更衣室に入ったと思ったらすぐに出てきたターラに話しかけたのは、輝く金色の髪をポニーテールにしたローグ白波理沙(しらなみ・りさ)その後ろにはパートナーであるシャンバラ人、桃色のセミロングの金持ちそうな可愛いナイトチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)がいた。
「私たちがターラさんをお守り致しますわ。ですから安心して着替えて下さい」
 囮役を不安に思っていると感じたチェルシーは、安心させるために声を掛ける。
「いや、なんていうか……先客が」
 しかし、問題は別の所だった。
「先客? そうか、他にも囮をやってるのがいるんだわ」
「囮? ああ、そうね……そうよね、あれは囮」
 なぜか納得している風なターラと、状況がわからない理沙とチェルシー。そしてターラのパートナー、黒髪ショートのかっこいい吸血鬼ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)はというと。
「俺、今回は出番無いんじゃ……?」
 女子更衣室には入れない為、若干仲間外れ気味な彼はとても不吉なことを考えていた。


 そこに、新たな人影がやって来る。
「囮作戦を実行中の様であります!」
 そう言ったのは機晶姫、端正な顔立ちで学生に見えず、白い髪をボブカットにしたセイバーのジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)だ。
「なんじゃ? 他にも囮を考えた者がおるのか」
 もう一人はそのパートナー。童顔すぎて学生にも見えない赤髪縦ロールのウィザードファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)だった。
「作戦名〜ドキッ! ロッカーの中からコンニチハ〜 作戦は中止でありますか?」
「いつの間にそんな名をつけたのじゃ? まあよい、作戦は続行じゃ」
 そう言うと、二人は更衣室に入っていく。その後も数名が更衣室に入り、囮として着替え始める。
 気を取り直し、ターラ、理沙、チェルシーも続いて入っていく。当然だがジェイクは外で待機した。
 今、更衣室の中は他校の生徒を含め女子が十数名、しかも着替えの真っ最中。いつ奴が来るかと、囮役の彼女らは緊張した。


「これだけ小麦粉があれば、捕まえるのは時間の問題ですわね」
 囮役の一人、黒髪ロングの綺麗な肌をした巨乳のプリースト佐倉留美(さくら・るみ)は小麦粉袋を両手にしてそう言った。
 応えたのは金髪をツインテールにした美少年にも、美少女にも見えるパートナーの魔女ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)
「見つけたらわしの炎で黒っこげじゃ、楽しみじゃのう」
 同じく両手で小麦粉袋を手にし、にんまり笑うラムール。
 留美はどこからか手に入れた小麦粉を使い、見えない犯人を捕まえようと考えていた。
「わたくしや、皆さんの服も一緒に黒こげしないよう、気をつけて欲しいですわ」
「そこはホレ、ご愛敬と言うものじゃ」
 一抹の不安を感じつつ、自分のパートナーを信じるしかない留美だった。


「今の所は問題ないわ」
 そう言ったのは、更衣室で着替えている乳白金色の美しい髪をロングにしたヴァルキリー、セイバーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)彼女は目立たないマイク付きイヤホンを身につけていた。このイヤホンは携帯電話に付けてハンズフリーで会話できる。通信相手は外で待機するパートナー、優しい目つきをしたウィザードの高月芳樹(たかつき・よしき)
「わかった、そのまま囮を頼む」
 芳樹は更衣室の近くで張り込んでいた。途中、ジェイクと目が合い、会釈する。何故か同情の目を向けられた気がした。
 ふと、視線を更衣室に戻すと更衣室に近づく人影を捉えた。黒髪のショートで女子の格好をしているが、胸の起伏は無いに等しい。
「お前、そこで何してる?」
「ボクの事?」
 芳樹は警戒しつつ話しかけると、振り向いたのはナイトのはるかぜらいむ(はるかぜ・らいむ)ボーイッシュな彼女はよく男子に間違われる。
「着替えようとしてるんだけど……どうして?」
「いや、悪い、何でもない」
 男と間違えた、などと言える訳もない。らいむは不思議に思いつつ、更衣室のドアを開ける。
 すると、中から白い煙がもくもくと溢れるように流れてくる。
「わ、わ、なにコレ?」
 らいむが驚いていると、煙の中から誰かが飛び出してきた。服装は女子。顔は見えない。髪は桃色のツインテール。全身がお笑いコントのように真っ白。その誰かはそのまま走り去ってしまう。
 更に煙の中から出てきたのは、またもや全身が爆笑コントのように真っ白になっている有栖、ミルフィ、ターラ、理沙、チェルシー、ファタ、ジェーン、留美、ラムール、アメリアとその他にも数名の女子がいた。
「なんだ、何があったんだ?」
 ジェイクが気合で見分けたターラに駆け寄り、心配そうに聞く。
「いきなりケホッ! がケホッ」
 全員が煙に咳き込み、まともに話ができない。
「まさか、奴が?」
 誰かが走り去った方に振り向きながら芳樹は言う。
「ハァ……でも、男子は一人もいなかったわ」
 落ち着いたアメリアは言う。とりあえず痴漢などは無かった事と、コレが奴の仕業ならインヴィジブルポーズは女だと言うこと。
「まさか、わたくし達の小麦粉を使われるなんて」
 そう呟いたのは留美。続いてラムール。
「小麦粉の所為で炎も使えんし、最悪じゃ」
 煙と思っていたのは小麦粉だった。みんなは小麦粉によって真っ白になっていた。
 全員の話をまとめると、突然一人の女子が小麦粉をばら撒き、更衣室の中が何も見えない状態になったらしい。
 ラムールは炎の魔法を使おうとしたが、誰かがそれを止めた。それは、粉塵爆発を防ぐ為だった。
 粉塵爆発とは、細かい粒子が密室などの空間に充満した状態で火をつけると、空気中に舞っている粒子が一気に燃え上がり、爆発を引き起こす現象。
 それ以前に、口を開ければ小麦粉にむせてしまうので、魔法を使うどころでは無かった。
 結果として、誰もまともに動けなかったが、被害は無さそうだ。
「あの〜、どなたか私のショーツ知りませんか?」
 全員が一斉に振り向く。有栖。彼女の縞模様ショーツ、つまり縞パンが無くなっていたらしい。
 そこでらいむは思い出す。自分の横をすれ違って行った者の顔を。見えなかった顔は、見えていた。しかし、見えなかった。
 それは、縞模様のショーツ、つまり縞パンを頭に被っていたからだった。
 ターラがジェイクを怒る。。なぜ早く追いかけないのかと。それは他の者も思っていた事だった。ジェイクも芳樹もすぐには追わなかった。そして、二人は笑いながら答える。
「小麦粉」
 ジェイクと芳樹が指さした廊下には、白い粉の跡が点々と続いていた。