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大怪獣と星槍の巫女~後編~

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大怪獣と星槍の巫女~後編~

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第四章 建設中のテーマパーク

 広大な敷地を囲う分厚い鉄板の柵は、城壁のようだった。
 所々で鉄骨や組み上げ足場の見られる不完全なテーマパーク内の、あちらこちらに巨大な重機が放置されていた。
 その間を国頭 武尊(くにがみ・たける)シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)を乗せたバイクが走っていく。
 ほぼ出来上がり掛けているセンターモールの手前には、作業員用の大きな立て看板が立っていた。
 武尊のバイクがそのまん前で止まる。
 シーリルがバイクの後部座席から看板を見上げ。
「……どこに居るでしょうか……?」
「連中が此処に身を潜めたって事は、目的は大方時間稼ぎだろ……となれば、室内型の遊戯施設に潜んでいる可能性が高いな」
「……なるほど。――早く見つけて、エメネアさんに届けないと」
 シーリルがギュッと武尊の腰に回した腕に力を込める。
「きっとエメネアさん、とんでもない無茶を考えて――」
「それはオレの知った事じゃないな」
「え?」
「オレは物干し竿としての槍が欲しいだけだ」
「……武尊さん。物干し竿を買えるし、代わりも用意できますけど――」
「他の連中が余計な事をする前にグダク達を抑えるぞ」
 ザァウン、とバイクが排気する。
「きゃっ」
 二人を乗せたバイクは成り損ないのテーマパークの中へと潜り込んで行く。

■テーマパーク観覧車付近
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は無人で佇む巨大な掘削機と、水の張られていないスプラッシュアトラクションとの間を抜けていく。
 何をしていたかといえば、ぶらぶらとしていた。
 怪獣が出たというので駆けつけてみれば、星槍がかくかくしかじかな状況だという。
 怪獣は遠目に見たし、星槍の方に興味が沸いた。
 それで、そっちの胸毛だかグダクだかを追って、こんな萎びた工事現場くんだりまで来たのだけど。
 まあ、何をどう探すなんてのは考えてなかった。
 当てにしたのは野生の勘――なんてところ。
 そんなわけで、当て所無くぶらついていた現状だ。
 豪奢なメリーゴーラウンドには、まだ馬も馬車も無かった。
 それらはドでかいコンテナの横に梱包された状態で転がっている。
 その内に、あの突き出した鉄棒達に備えられて、陽気な音楽に合わせてグルグルと回るんだろう。
 ぽり、と頭を掻きながら見上げたのは、ずぅっと天を突く観覧車。
 ぽかんと眺めていたら、その根元の方で何やら動く影があった。

「ほらぁー、見てぇ〜」
 桐生 円(きりゅう・まどか)のパートナーのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がスカートの裾を広げながらふわりと回転する。
「おぉーおぉーきなぁー観覧車なのぉ」
 広げた両手と一緒に観覧車を仰ぎ見る。
「うん」
 円がくるくると回るオリヴィアの隣に立って、回らない観覧車を見上げる。
 オリヴィアが動きを止め。
「きっと面白いわぁー、ねぇ? そうでしょう、桐生」
 艶やかに、でも無邪気に目を笑み細めて、円を見やった。
「うん。きっと面白いよ、マスター。だって、こんなに大きいから」
 円が子供のように笑ってから、視線をオリヴィアから巡らせながら、銃口を、近付いてきた足音――カガチの方へと向けた。
「面白い……ねぇ?」
 両手を挙げたカガチは、のらくら笑いながら観覧車の根元の地面の方を見ていた。
 全く別の遠い所で銃撃音が響く。

■テーマパーク 中世エリア付近
 大草 義純(おおくさ・よしずみ)は携帯を片手に未完成なアトラクション達の間を駆けていた。
 向かっていたのは銃撃音の元。
 携帯の向こうに居るのはパートナーのジェニファー・グリーン(じぇにふぁー・ぐりーん)
 ジェニファーの方はテーマパーク中央にはパークの象徴予定として配されている巨大な王城に連なる尖塔のてっぺんに居た。
 そこから、双眼鏡でパークの様子を把握して義純へと指示を送っている。
 速やかな伝達のために、あらかじめパークの見取り図を区切ってA1、B2などといった符丁を決め合ってあった。
 携帯の向こうの指示に従って、中世風の町並みの方へと曲がり込む。

 ◇

 支柱と鉄骨に吊り下げられた海賊船の横を。
「――ッ、コソコソ隠れてねーで出て来いやぁ!!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は、やったらコソコソと逃げ回る寺院の若い黒鎧の方を追って駆けていた。
「イルミンスールの紅蓮の魔術師、ウィルネスト様がお相手すんぜ!!」
 上方から放たれくる射撃を掻い潜りながら、黒鎧へと火術を放つ。
 が、捉えきれずに掠めるだけ。
 黒鎧は巨大なクレーン車の影に潜り込んで行く。
「ちぃッ!」
 一方。
 海賊船の上からウィルネストを狙っていたホブゴブリンが、比島 真紀(ひしま・まき)の射撃によって撃ち落とされる。
「――グダクの姿が見えない」
 真紀は、銃を構えたまま体勢低く駆け抜けていく。
 銃弾はまだ海賊船の上から、降り注いでくる。
「別れて行動しているのでありましょうか?」
 道端に並んだ街灯の太い支柱を遮蔽にして、銃口を巡らせ。
 海賊船の端から覗くホブゴブリンへと銃弾を返す。
 その向こうで、真紀のパートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、ウィルネスト達を追ってクレーン車の向こうへと回りこんでいた。
 その先で、売店の影から飛び出てきたホブゴブリンの剣を潜り抜けて、火術を放つ。
 一方、ウィルネストが立ち塞がったホブゴブリン数体へとアシッドミストを走らせ。
 ゴブリン達の後方、中世風の町並みを抜けてきた緋桜 ケイ(ひおう・けい)とパートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)のサンダーブラストがホブゴブリン達を一気に打ち倒した。
「あれ?」
 ウィルネストが首を傾げる。
 先ほど、黒鎧はケイ達がやって来た方向へと逃げ込んでいった筈だった。
「そっちに寺院の奴行かなかったか? 黒いの」
「は?」
「いや、こちらには来なかったですね」
 ケイ達と同じ方向から抜けてきた菅野 葉月(すがの・はづき)が言って、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が自分の髪先を弄りながら。
「空でも飛んだんじゃないの?」
 やる気なさげに言う。
 彼女は、葉月が自分以外の女の子のために……つまり、エメネアのために頑張っているのが気に食わないのだ。
「半分正解のようだな」
 彼女達と同じく中世の町並みを抜けてきた鄭 紅龍(てい・こうりゅう)が言う。
 彼の見上げた視線の先、黒鎧は、ゴキブリ宜しく建物の隙間に四肢を踏ん張り伝って、屋根の上へ逃げようとしていた。
「見つけたアルー!」
 紅龍のパートナーの楊 熊猫(やん・しぇんまお)が、黒鎧に向かってアサルトカービンを撃ち鳴らす。
「見つかっちゃったァー!!」
 黒鎧が悲鳴を上げながら屋根の向こうへと逃げて行く。
「逃がすか!」
 ウィルネストが負けじと建物の隙間を登ろうとして、
「待ってください」
 海賊船の上のゴブリン達を倒してきた真紀が、むんずとウィルネストの服を掴んだ。
「奴が連れていたのはホブゴブリンばかりでありました。神殿からは魔術師達も転送されている筈であります」
「つまり、あいつは囮なんじゃないか? このまま闇雲に追うのはマズイよ」
 サイモンが口元に手を掛けながら言う。
 ウィルネストが、んっと考える様に片目を顰めてから、頷く。
「……確かにそうかもな。こんだけ人数も居るし……もう少し効率的にやるか」
「では――まずは、お互いが携帯で連絡が取れるようにしますか」
 葉月が携帯を取り出しながら言う。
 そこへ、義純が姿を現す。
 
■テーマパーク 制御室
 カコンカコンと適当にスイッチを入れる。
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)のパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は制御室に居た。
 パーク内に音楽が鳴り始めているのが聞こえる。
 おそらく、施設内の明かりも点き始めただろう。
「アトラクションも動かせたら面白かったんだけどな」
 幾つか、完成しているものは動き出しているかもしれないが、ここへ潜入するまでの間に見掛けたアトラクションは、どれも未完成品ばかりだった。
「まあいいか」
 ひとまずの目的はパーク内に音を流す事。
 二つ目は監視カメラの利用だったが……そちらは何処にモニターがあるのか分からなかったし、多分、まだ半分も生きていないだろう。
 ともかく、アレクセイは携帯を取り出して、小型飛空艇と一緒にパーク外で待つ優希へと繋いだ。

■テーマパーク ウエストエリア センターモール付近
 奇妙な形の屋根をした土産物屋やカフェテリアが並び、妙にメルヘンな通りを構成している。
 だが、戦車のような重機が停められていたり、工具が散らばっていたり、シートが掛けられていたり、と如何にも建設中の風景で味気ない。
 遠く、幾つものアトラクションや施設の向こうから聞こえる戦闘音。
「――グダク達と戦ってるのかな?」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)のパートナーのライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が、落ち着かない様子で呟いた。
 垂が、まだ内装の整わない土産屋の中を確認しながら頷く。
「かもな」
「でも――あっちの方からは、お宝の気配は感じないんだけどなぁ」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、自分の”カン”に少し不安を覚えながら、かくんと首を傾げる。
「ふぅん」
 沙幸のパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)が、己の顎に手を絡めながら目を細めた。
「ならば、あちらはおそらく囮ですわね」
 沙幸と美海は空京からの通信で状況を知り、星槍奪還に協力すべく、朝霧達【星槍奪還】チームと合流をしていた。
 そして、【星槍奪還】は沙幸のトレジャーセンスで星槍の行方にあたりを付け、付近を手分けしている探索している所だった。

「今度こそ星槍をエメネアちゃんに届けるんだ、絶対に!」
 ライゼが、ぐぅっと拳を握りながら気合を改める。
 探索を続ける樹月 刀真(きづき・とうま)の横で、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はライゼの決意を聞きながら、己の掌を見詰めていた。
 エメネアと別れる時に、刀真の真似をして、「星槍を取ってくる」と、彼女の頭を撫でた掌。
「友達だから」
 ぽつり、と零す。きょとりと見返してきたエメネアに言った言葉だ。
「ゴアドーを封印したら皆で遊びに行こうね!」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が言う。
「エメネアさんが寂しいのは、ボクも嫌だ。友達には幸せになって欲しいもん」
 朝霧が、「ああ」と頷き。
「俺達が遊びに行くのも良いが――」
「こっちにも誘おうよ! 例えば、ここが完成したら一緒に遊びに来るとかさ!」
「それいい! ボクさっきから気になってるアトラクションがあってさー!」
 ライゼとファルが、きゃあきゃあと盛り上がりながら両手でハイタッチなどをする。
「あー! いいなー! 私も行くー!」
 沙幸が混ざって、いぇー、と三人でハイタッチ。
 そんな三人の様子を少し遠目に見やりながら、刀真は何か決意を改めるように視線を強めていた。
 そこへ、近くに設営されている作業員の仮設小屋を探索していた安芸宮 和輝(あきみや・かずき)とパートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が戻ってくる。
「何だか楽しそうですわね?」
 クレアが首を傾げながらのんびりとライゼ達の様子を眺め、美海が和輝の抱えている物を見やった。
「それは?」
 和輝に抱えられていたのはロープと作業員服だった。
「罠や変装に使えるかと思いまして」
 和輝が微笑みながら小首を傾げた。

 と――。
 パーク内に音楽が流れ始める。

 ◇

 タマネギ型の外装をしたファンシーテイストのレストラン。
 さきほど唐突に灯りが点いて、オレンジや淡いピンクの照明がメルヘンちっくに店内を照らし出していた。
 シュークリームの皮の内側のような店内だった。
 角ばった所が無くて、何から何まで丸っこい。
 吊り下げられたランプシェードまで丸々とした何かしらキャラクターの形をしている。
 ただ、まだ内装が整っておらず、所々で木板や鉄骨、石膏の継ぎ接ぎが見えて、いまいちメルヘンになりきれていない。
「――うーん」
 【星槍奪還】チームの神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、壁に空いていた隙間に上半身を突っ込んで、きょろきょろと懸命に手がかりを探していた。
 壁裏の真っ暗闇の空間しか見えない。
「……何処に潜んでいるのでしょうか?」
 壁の隙間から、ふぅ、と抜け出して、有栖は溜め息交じりに零した。
「この辺りは、あらかた探しましたわね」
 パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が、有栖の頭に乗っかった小さな埃を払ってやる。
「ったく」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が、片目を細めながら口端を曲げる。
「早ぇとこ見つけてエメネアに届けてやらねーと……怪獣が封印出来たけど、エメネアは死んじゃいましたー、じゃあ後味が悪過ぎるぜ」
「しかし……もし、星槍によって封印が成功したとしても、彼女はまたそれに縛られる事になるのか……?」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、思案するようにほつりと零した。
 ミューレリアが、んーっと片目を細めながら呼雪を見上げる。
「でもよぉ……」
「分かってる……それでも、こんな事で危険な目に遭わせるよりはずっとマシだ――封印に間に合うよう星槍を届けなければいけないのは変わらない」
 呼雪が軽く首を振る。
 ミルフィが二人の方を見やり微笑む。
「この件が終わったら、皆でエメネアさんのお買い物に付き合ってあげませんか?」
「買い物?」
「この前見つけたワンピース、きっとエメネアさんに似合うと思って」
 有栖が、ぱち、と胸前で両手を合わせて言う。
「白いティアードフレアですの?」
 ミルフィが小首を傾げ、
「それでしたら、わたくしは、あのフリルブラウスにミニのギンガムスカートを推しますわ」
「あ――確かに可愛いかもしれません!」
 少しばかりエメネアの衣装談義で盛り上がる二人を前に、
「この二人はさぁ……突っ込み待ちなのかな」
「さぁな」
 ミューレリアと呼雪がそれぞれ零していた。

「それは?」
 店内奥の広い調理場を探索していた浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、ふとクロス・クロノス(くろす・くろのす)が手に持っている物に気付いた。
「え? ああ」
 クロスが翡翠の視線の先にあった霧吹きを持ち上げ、少し笑む。
「連中に、少しでも隙が作れればと思って――手製の催涙スプレーです」
「なるほど?」
「胡椒、唐辛子、酢を混ぜ合わせたものだから、目に入れられれば……それなりに効果はあると思うのだけれど」
「聞いているだけで辛痛くなりますね」
 目元がむずむずしてくる。
「もしかして、此処で材料を?」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)のパートナーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が問い掛け。
 ビニール梱包が掛かったままの調理場へと視線を滑らせる。
 奥の方では詩穂が、掃除の要領で隅々まで探索を行っていた。
 クロスが小さく笑いながら首を振り。
「空京で揃えたんです。――ああ、そうだ」
 言って、ビニール袋を取り出す。
 口の縛られた袋の中には何やら、赤み掛かった粉の塊がギュッと詰められていた。
「こちらは胡椒と唐辛子粉を詰めたものです」
「色々と考えるものですね」
 翡翠が言って。
 クロスは微笑んだ。
「好きなんでしょうね、こういうの」
「……まるでヒトゴトのように」
 翡翠が、少し眉を傾げながら言って。
「そうでしたか?」
 クロスが小首を傾げる。

 その向こうで。
「星槍を取り戻したら――」
 詩穂はパタパタと掃除ついでに探索を行っていた。
「エメネア様がもう置き忘れないようにリボンをつけて返してあげるんだー」
 オリジナルのメロディーを付けて歌いながら、ビニールに梱包された冷蔵庫の近くでハタキを動かし――。
 ふと、違和感を覚える。
「あれ?」
 ハタキを止めて、しばし、目を細めたり傾げたりして冷蔵庫を見る。
「どうしました?」
 セルフィーナ達が、詩穂の様子に気付いてやってきた時には、詩穂は二つ並んだ巨大な冷蔵庫を前に、うーんと首を傾げていた。
「この冷蔵庫。変だよね?」
「変?」
「だって、この大きさだと扉を開けた時、通路の端に引っかっちゃうよ」
「……言われてみれば、確かにそうですわね」
 セルフィーナが同じように首を傾げる。
 と――。
「――ビンゴ、ですね」
 翡翠が言う。
 彼は冷蔵庫の足元へとしゃがみ込んで、床面を調べていた。
 翡翠が床にうっすらと付いた足跡を差し示す。
「この冷蔵庫、退かしてみましょう」

■テーマパーク レストラン付近
「……見つけたみたいね」
 藤原 すいか(ふじわら・すいか)のパートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)はフリーフォールの根元の陰から、沙幸達がレストランに入っていくのを見ていた。
 頷いて、後ろの方へと振り返る。
「いーい、すいか。ゴアドーが復活した責任の一端は私達にもあるんだから……」
 なにやら上空の方を見上げている すいかへと座った目を向けて、
「ッもう意地でも星槍を奪いなさい!」
 イーヴィは言い切った。
「絶対にやり遂げるわよ。利用されっぱなしは性に合わないわ」
 目には気合がみなぎり、ぐぐっと拳が握られる。
 一方のすいかは、空を見ていた。
 遠く、ジェットコースターのレールの向こうを掠めた空飛ぶ人影。
「――……やっぱり来ましたね」
 すいかは、独り呟くように言ってから、歩き出す。
「って、すいか?」
「飛空艇を用意しましょう――イーヴィちゃん。お宝、星槍は絶対に手に入れます。例え、それでエメネアちゃんが命を失ったとしても、全ての非難は受け止める」
「……すいか」
「それでも私は幸せが欲しいんです」