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リアクション
第3章 森を守護する妖精アウラネルク
-AM10:00-
「困ったな・・・マンドラゴラを飼育している先生が見当たらない。訊きたいことがあったのに、今日はお休みなのかな?」
魔法草を育てている部屋の中で、世話している先生が部屋の中で作業していないか探していた恵は、腕を組んで考え込んでしまう。
「仕方ないなぁ。知識不足でちょっと不安だけど今から森に採りにいこうかな」
校舎の外へ出て空飛ぶ箒に乗り、イルミンスールの森へ向かった。
「野生のマンドラゴラか・・・いいねー!一度でいいからジツブツ拝んでみたかったんだよなー!なぁ!大地!」
マンドラゴラの採取をしに森へ向かっている生徒たちを見ながら、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は遊びにやってきた蒼空学園の生徒、志位 大地(しい・だいち)に話しかけた。
「そうですねぇ。時間もあることだし、行ってみますか」
「じゃあ少し準備してくるから、ここでちょっと待っててくれよ」
ウィルネストは魔法草を採取するために、学園内へ入っていく。
数分後、ようやく支度をすませた彼が校門に戻ってきた。
「お待たせー!そんじゃ行こうか」
「その中に何が入っているんですか?」
大地はウィルネストから受け取ったリュックを背負いながら、中身に何が入っているのか訊いてみる。
「ついてからのお楽しみだ♪」
笑顔で言うウィルネストに大地はリュックの中身を予想し、2人は遠足気分で森へと向かっていった。
「ごめん待たせたかな?」
「遅くなってすまない」
和原とフォルクスが司たちの所へ駆け寄る。
「いや、大丈夫だ」
「よかった、まだ出発していなかったな。手伝いの人手が足りているようだから私も一緒に行くことにする」
ロレンシアも加わり、一同はイルミンスールの校舎の外へ出た。
イルミンスールの森の入り口で一旦足を止める。
「―・・・森の奥に行ったことがある者はいるのか?」
陽一の問いかけに、イルミンの生徒たちは首を横に振った。
「もし迷ったらアウトかよ・・・」
「それだったら道標として、枯れ枝を土の上につきたてて色ペンで印をつけておいたらいいであろう」
フリーレが蛍光色のペンを見せて提案する。
「なるほど・・・それなら森を荒らすことにはならないよな」
彼女の提案に陽一はその手があったかと頷く。
「迷子にならない方法も分かったことだし、先にすすもうぜ」
「えぇ、魔法草を採取して学園に戻りましょう」
一同、外敵が潜んでいないか周囲を警戒しながら森の中を進んでいく。
「どうやら進みだしたようだな。彼らの後を追おう」
「えぇ、私たちも行きましょう」
木の陰から陽一たちが進み出したのを確認し、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)は彼らに気づかれないように後を追う。
「もしも・・・妖精と交渉が失敗したらどうしますか?」
「その時は仕方ないだろう。といっても、命を奪うわけじゃない」
「―・・・それはそうですけど・・・」
「どうしたんだ?」
「いいえ、別になんでもありません」
クルードの言葉にユニは、ニコッと微笑んでみせる。
「止まれ、すでに誰か妖精と会話している者たちがいるようだ」
ユニの手を取り、進もうとする彼女を静止させる。
「ここのまま様子を窺おう・・・」
「そうですね・・・」
2人は草陰に身を潜め、状況を見ることにした。
「アウラネルクさんは妖精といっても小さくないのね。ワタシと同じくらいの背の高さだわ」
マンドラゴラを採取に来た生徒たちよりも先に、森の守護者アウラネルクを見つけたラペル・チェンバロッテ(らぺる・ちぇんばろって)は彼女の近くへ寄る。
守護者は袖の長いモスグリーンのローブを身に纏っていた。
「フフフ・・・どうも初めましてアウラネルクさん、ワタシはラペル。それでこっちがクルクスよ」
ラペルは森の守護者へ微笑みかけて、失礼のない態度で挨拶をする。
「さぁクルクル、挨拶しなさいよ」
「イエス、マスター」
クルクス・ナインレッド(くるくす・ないんれっど)は丁寧にお辞儀する。
「ワタシたちアナタとお友達になりたくてここまで会いに来たの。マンドラゴラとかいう魔法草を採りに来たわけじゃなわよ。そうよねクルクス」
ラペルの言葉にクルクルはコクリと頷く。
会話を試みるが妖精からまったく返答はない。
「―・・・あぁそういえば・・・イルミンスールの生徒たちがその魔法草を採取に来るんですって。しかも他の学校の生徒たちも沢山ね・・・」
「それは真なのか?」
「えぇ本当よ。アウラネルクさん、どうするの?(やっと話せたわね)」
ハスキーな声色でやっと返答した妖精を見てラペルは作り笑いをし、心中では不適な笑みを浮かべていた。
「ほぉら・・・噂をすれば・・・」
後ろを振り返りラペルは、マンドラゴラの採取を許可してもらいにやってきた生徒たちを指差す。
「さぁどうするのかしら?魔法草を全て採られてしまうかもしれないわよ」
「失礼ですね、そんなことしませんよ!」
アーデルハイトたちのためにマンドラゴラを採取にきたエル・ウィンド(える・うぃんど)は、片足で地面をダンッと踏んで怒鳴る。
「ボクたちはアーデルハイトたちの病を治す分だけ、魔法草を採る許可を貰いに着たんだ!」
誤解を招くようなことを言うラペルに対して、ホワイト・カラー(ほわいと・からー)が怒りを含んだ口調で言い放つ。
「どうかしらね。そんなことアウラネルクさんが簡単に信じられると思っているの?」
「あなたはなぜ私たちの邪魔をするんだ」
今度は本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が抗議の声を上げる。
「邪魔なんかしてるつもりはないわ。ワタシたちはアウラネルクさんと仲良くしたいだけよ。そのために採取に立ち入ろうとしている人たちを、ここから先へ入らせないようにしているだけ」
「その行動が私たちの邪魔しているんじゃないですか」
安芸宮 和輝(あきみや・かずき)は冷静な口調でラペルに言い返す。
「相手の挑発に乗るのやめようよ!これじゃあ、信じてもらえるものも信じてもらえなくなっちゃう」
言い合いしている彼らにヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が横から口を挟み静止せた。
「本当に病気で苦しんでいる人たちがいるんだよ。ボクたちを信じて、アウラネルク!」
「私たちの言葉に一切嘘偽りはないでございます」
清泉 北都(いずみ・ほくと)に続けて、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が嘆願する。
「人間の事情で森へ進入することが良くないことだとは思っている。しかし・・・どうしても助けたいんだ」
守護者の方へ1歩近寄り、真剣な眼差しで緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)も交渉に加わる。
「いきなり信じてほしいとはいいません。ですから私たちの話しをどうかこのままお聞きください」
紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)も遙遠の前に出て、無理に採らない意思を表す。
「どうしたら信じてもらえるんだ・・・」
説得の方法が浮かばないエルは、俯き苦悶の表情を浮かべた。
「俺たちは戦って無理やり奪おうとかしたりはしない。お願いだ・・・ほんの少しでもいいから俺たちの話しを聞いてくれないか」
「無闇に魔法草を密猟したりした人間たちに非があることはたしかです。そのことでアウラネルク様がとてもお怒りなのは重々承知しています」
敵意のないことを猫塚 璃玖(ねこづか・りく)とルゥース・ウェスペルティリオー(るぅーす・うぇすぺるてぃりおー)は、言葉で言い表そうとするが妖精からの返答はなかった。
妖精アウラネルクは交渉しに来た者たちを冷たい表情で見つめ、発言に対して何も言葉をまったく返さない。
誰も彼女を説得できないと思っていたその時。
「彼らの言っていることは本当です」
「エリザベート校長からアウラネルク宛の書状もちゃんと貰ってきたぜ」
陽一たちが書状を片手にやってきた。
「司さんから渡してやってやるといい」
「あぁ分かった」
書状を陽一から受け取る。
「アウラネルク・・・読んでくれ」
受け取った書状を司が妖精へ手渡す。
「そ・・・そんなので・・・むぐ!」
「ちょーっと黙っててね」
「できれば向こうの草むらの方で大人しくしていてください」
筐子とホワイトがラペルの口を押さえる。
主人のピンチと言わんばかりに斬りかかろうとするクルクスを、璃玖が取り押さえた。
2人を草むらの中に置き去りにし、璃玖たちは妖精がいる場所へ戻っていく。
「おっ覚えてなさいよぉおー!」
ラペルの悔しそうな声が森中に響き渡る。
「ちゃんとエリザベート校長直筆だよ」
ミレイユの言葉に彼女はしばらく間を空けて頷いた。
「たしかに・・・イルミンスールの校長の直筆のようだな」
アウラネルクはエリザベートの書状を開き読み始める。
「なんとか話を聞いてくれそうな雰囲気になってきたようですわね・・・」
シルフェノワール・ヴィント・ローレント(しるふぇのわーる・びんとろーれんと)はほっと安堵した。
「―・・・アーデルハイトの病状ってどんな状態なんですか?」
「それが・・・魔力や生命力が著しくする恐ろしい病気みたいだよ」
ヒソヒソ声でイルミンスールの生徒へ訊ねる和輝に、筐子が小声で答えた。
「でも、密猟のせいで森に住んでいる精霊たちの生命力が弱まってしまったようですわ」
「うん・・・どうもそうみたいなんだよね」
妖精に聞こえないように小さな声で言うクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に、眉を潜めて筐子は悩みながら呻る。
「こういうのはどうでしょう。マンドラゴラを採取させてもらう代わりに、この地に必要なものを提供してあげるというのは」
「そのことなんだけど、校長から許可をもらって校舎内で栽培しているやつを植林してあげるとか」
「いい案ですね、後ほど妖精に話してみましょう」
和輝たちは自分たちの提案を話すために、アウラネルクが書状を読み終わるのを待つことにした。
一通り目を通し終わると、アウラネルクは書状から視線を外した。
「えぇっと・・・ただ採取の許可を貰うのはなんだから、こちら側の提案としてイルミンスールで栽培しているマンドラゴラをこの森に植林するよ」
話しかける頃合を見計らっていた筐子が妖精に提案をする。
「密猟を行っていた人のせいで森が荒らされてしまったのですよね。その人たちに代わってお詫びの言葉を申し上げます」
彼女の言葉に続けて満夜は、申し訳なさそうに謝罪の言葉を言う。
「ですからせめて森の復興にお役に立てればと・・・」
和輝は妖精の方へ近寄り、裏表のない表情で語りかける。
「どうしても魔法草を分けていただけないのなら・・・せめてタネだけでも分けていただけないでしょうか」
「採取しすぎるのを警戒しているんだよね。採るのは諦めるからマンドラゴラのタネを頂戴!」
真口 悠希(まぐち・ゆき)と山田 晃代(やまだ・あきよ)は採取を諦める代わりに、別の手段として魔法草のタネを貰おうと妖精に頼んだ。
「駄目・・・ですか?」
不安そうに小さな声で言うヴァーナーに対しても、まったく言葉を返さない妖精の態度にラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は苛立ち始める。
「(まったく・・・人間が嫌いなのは分かるが、いつになったら採取の許可だしてくれるんだ)」
「なかなか交渉してくれなくて苛々するのは分かるけど、そんなに焦っちゃ駄目だよ」
「今が辛抱の時なのだよ」
苛立ち紛れに足をタンタンと踏み鳴らすラルクに、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)とジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が小声で言う。
「ちっ・・・、そんなこと分かってるぜ」
罰が悪そうにラルクは舌打ちをする。
「風邪を治すお薬を作るために、野生しているマンドラゴラかタネがどうしても必要なのです・・・」
ジーナの言葉にも、アウラネルクは眉一つ動かさない。
「うーむ・・・そう簡単に我々の交渉に応じてはくれないとおもっていたが・・・。まさかここまで頑なに拒むとは・・・」
人間の侵入を拒む妖精にどう対応したらいいものかと、ガイアスは考え込んだ。
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