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【2019修学旅行】穏やかな夜に

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【2019修学旅行】穏やかな夜に

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第3章 ロビーに集合!

 百合園女学院にも知り合いの多い、薔薇の学舎の藍澤 黎(あいざわ・れい)は、大きな荷物を持って、旅館のロビーに訪れていた。
「私、生まれた後すぐにイタリアに引っ越したからさぁ。ぶっちゃけ日本に来ても里帰りしたって感じしないんだよねー」
 黎が声をかけるより早く、真っ先に声をかけてきたのは雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だった。
 2人はソファーに腰掛けて雑談に興じていた。
「しかもここでも女の子達と一緒にって……イケメンと過ごしたいってわけじゃないけどせめて旅先では何時もとは違う体験したいわぁ……」
「では、旅先で行なうゲームでも如何かな? 大した物である必要はないのだが、賞品を用意してくれると助かる」
 黎はどさりと鞄をテーブルの上に置いた。
「何々?! なんか面白いことやんの?! やるやる! 賞品ね、了解〜」
 リナリエッタは目を輝かせて、賞品になりそうなものをとりに部屋に戻っていく。
 ちょうどロビーに出ていた校長の桜井静香の了承も得て、黎はロビーに出てきた少女達に共にゲームをやろうと声をかけていく。
「では、ロビーをお借りする旨、お話しを通しておきます」
 貸切ではあるがきちんと話しをつけておいた方がいいと思い、静香に付き添っていた白百合団のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が受付に向かう。
 黎はソファーの前のテーブルに、鞄の中のものを広げていき、まずは準備を行なう。
 てきぱきとクジを設置し、続いて取り出した友禅和紙で作られたビンゴ用紙を見て、黎はふっと軽く笑みを漏らし、隠すように目を伏せた。
「あ、可愛い」
 ビンゴ用紙を受け取った七瀬 瑠菜(ななせ・るな)が早速嬉しそうな声を上げる。
 黎は普通にメモ用紙で作ろうとしたのだが。
 パートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)にてきとーにするな、相手は百合園のお嬢様だと思い切り止められたのだ。
 京都で購入した友禅和紙を使って、フィルラントはそれはそれは丁寧に、ビンゴ用紙を作り上げた。クジを入れているティッシュの箱も、友禅和紙で飾られている。
「わ、私も…」
「ええ、是非」
 控え目に声を上げた須田 桃子(すだ・ももこ)の手を黎はそっと掴んで引き寄せて、側に座らせた。
 桃子は赤くなりながらビンゴ用紙を受け取るのだった。
「賞品はよろしければお預かりしておきましょう」
「はい…」
 桃子は持って来た紙袋を黎に手渡す。
「お願いしますぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)も用意してきたものを黎に預けて席についた。
「僕達も混ぜて下さい」
 静香を誘い、共に現れたのは、蒼空学園の菅野 葉月(すがの・はづき)だ。
「では、こちらへ」
 静香も一緒ということで、黎は奥の席に2人を招く。
「よろしくお願いします」
 葉月は黎と百合園生達に頭を下げて、静香とともに席についた。
 白百合団に協力をしている関係で、葉月は百合園生の様子を見にきていたのだ。
 白百合団の副団長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)も呼んではみたが、彼女は他に用事がある為ゲームには参加できないようだった。
 この旅館にはパラミタ人は入れないことから、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)には留守番をしてもらっている。
 ミーナにちゃんと土産を買って帰らなければと思いながらも、葉月は今はビンゴ大会を楽しむことにする。
「わたくしは……お預けするほどのものではありませんわ」
 用意してきた賞品に目を落としジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)はくすりと笑みを浮かべた後、物思いにふける――。
(ジュスティーヌとアンドレ、水と油ですけれど、わたくし抜きでうまくやっていけているのかしら……まあ、宿割りは学校が決めることですもの、仕方ありませんわよね)
 ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)は、ジュリエットのパートナーだ。
 修学旅行中も一緒に過ごしていたのだが、この旅館はパラミタ人は宿泊できないため、一緒に訪れることはできなかった。
「私も預けるようなものじゃないわねぇ」
 リナリエッタはポーチを持って戻ってきた。くすりとジュリエットと笑い合い、ジュリエットの隣に腰掛ける。
 パートナー達のことが少し心配ではあるが、ジュリエットも今はゲームを楽しむことにする。
「どうぞ」
 黎はお茶を紙コップに入れて、皆に出していく。
「ちょうどいい温かさで、美味しい……」
 端に控え目に腰かけていた蓮実 鏡花(はすみ・きょうか)が緊張気味にそう言葉を発した。
「パートナーのエディラントが用意してくれたんだ」
 黎は紙皿の上に、丹波栗を使った渋皮煮を並べていく。こちらもエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)が作ったものだ。
 熱心に作ってくれて、並べるだけ、注ぐだけでいいから、それ以上のことは何もしなくていいと強く言い、そして得意気にエディラントは黎に渡してきた。
 秋の風味を味わって欲しいと、自分と百合園の娘達の為に一生懸命作ったんだと微笑む彼の顔を思い浮かべ、黎は軽く顔をほころばせるのだった。
「桃子さん、お顔真っ赤です。どうかされましたか? ……まさか、黎さんに惚れてしまわれたとか!?」
 くすりと笑いながら、旅館に話を通していたロザリンドが静香の隣に腰掛けた。
「い、いえ。ちょっと緊張してて…」
 桃子はますます赤くなる。
「はっきり仰ってもいいと思いますわ。わたくしも、主催者の美しさに惹かれたことが参加の一因ですもの」
 お茶を飲み、軽く笑みを見せたジュリエットに黎は静かな会釈で答える。
「では、ロザリンドさんはどういった方が好みなのですか?」
「え?」
 葉月からの不意の質問に、ロザリンドが思わず目を向けたのは静香だった。
「つ、つい護ってあげたくなるような人でしょうか」
 ロザリンドも少し赤くなりながら、そう答えたのだった。
 彼女の様子に微笑みを浮かべた後、鏡花は隣に腰掛けて俯いている桃子に顔を向ける。
「私も緊張しちゃって……。よろしく、ね?」
 桃子は赤い顔のまま鏡花にふわっと笑みを見せた。
「あ、あの…。折角の修学旅行なのに、私まだ殆ど他の人とお話しできてなくて…。よかったら、少しお話ししませんか…?」
 桃子の精一杯の言葉に、鏡花は嬉しそうに頷いて、一緒にお茶を飲み、渋皮煮を戴いて「美味しい」の言葉から、どんなお茶やお菓子が好きかなどと会話を膨らませていくのだった。
「出来たっ! あたしの賞品はこの用紙ね」
 瑠菜は、ビンゴ用紙の裏になにやら文字を書いていた。
「皆さんの賞品楽しみですぅ〜。パートナー達に見せながら、お土産話をしてあげられそうですぅ〜」
 メイベルは別の旅館に宿泊中のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)のことを、思い浮かべる。
 2人には旅館で製造されている和菓子と、手作りの扇子を土産として購入してあった。
 笑顔で土産話を楽しみにしていると送り出してくれた2人も、パラミタの友人達と楽しい夜を過ごしているだろうか――。
「そうですね。僕もミーナに楽しんでいただけるような土産話をしてあげたいです。あと、食べ物のお土産も買って帰ることにします」
 葉月も一緒に行きたいと最後まで粘っていたパートナーの姿を思い浮かべ、微笑むのだった。
「……では、そろそろ始めよう。僭越ながら司会を務めさせていただく」
 皆の談笑に少し間が出来た時、黎が自然にスマートに言葉を発した。
「賞品は秘密ということで、早くビンゴした者から好きな賞品を選べるということでいいかな?」
「うん」
「お任せいたしますわ」
 皆の頷きを確認し、黎は開始宣言をするのだった。