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【2019修学旅行】京料理バイキング

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【2019修学旅行】京料理バイキング

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第一章 作戦会議


「明日の予定は全部キャンセルして、生徒は全員寺で坐禅ね」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は館内放送で部屋に呼びつけた山葉 涼司(やまは・りょうじ)に対して毅然と言い放った。
「坐禅は勘弁してくれ、皆明日の観光も楽しみにしてんだからさ」
 涼司の説得も無意味だった。
 環菜はすでに流行っている罰ゲーム「環菜様オデコタッチ」の内容を生徒の一部から事情聴取して知っていると告げた。
「いや、今朝のは罰ゲームなんかじゃないって。ホントに赤かったから、心配したんだ。坐禅は勘弁してくれ」
 涼司はマジックを袖に隠しながら、環菜を一生懸命宥めようと努力する。
「そう……それなら、1つ条件があるわ」
 環菜が向けた黒い笑みに、涼司は背筋の震えを覚えた。



「本日の午後の予定は京料理の学習に変更です。各班長で連絡をもらってない方はこちらに資料がありますから受け取りにきてくださいね」
 涼司のパートナー花音・アームルート(かのん・あーむるーと)の声が蒼空学園生徒の宿泊するホテルの廊下に響いた。
「あの、涼司さん。こんな感じでいいんですか?」
「……あぁ、細かい説明は俺がする」
 花音の後ろを歩く涼司が返事をした。
 既に環菜から館内放送で「夕食は生徒たちによる京料理バイキング」を行うことが告げられているが、細かい内容までは知らされていなかった。
 涼司は部屋を一つずつ回り、班長たちに説明を繰り返していた。失敗すれば明日の観光が中止になると告げるたび、涼司へ非難と怒りの声が浴びせられた。
「なんかみなさんの視線が怖いです……」
「花音、我慢してくれ。これも」
 涼司が言い終わる前に、廊下を塞ぐように弥涼 総司(いすず・そうじ)とパートナーの浅生 賢太郎(あそう・けんたろう)が現れた。
「涼司さん、少し顔を貸してくれよ」
 温和そうだが強い意志のこもった総司の言葉に涼司は戸惑った。
「おっと涼司くん、ここは通せないんだよ」
 総司をサポートするように道をふさいだ賢太郎も構えを崩しておらず、隙はどこにもなかった。
「心配すんなって、山葉。お前さえその気ならすぐに終わる話しだぜ」
 涼司の背後に立った黒霧 悠(くろぎり・ゆう)は脅しにも聞こえそうな言葉を言いながら、どこか楽しんでいる雰囲気があった。
「……んと、よくわかんないけど悠のお手伝いだよ」 
 悠に隠れるようにパートナーの瑞月 メイ(みずき・めい)も顔を覗かせている。
「逃がしてくれないってわけだ。用があるのは俺だけか?」
 涼司は言いながら、救出に入ろうとする花音を手で制した。
「山葉、そろそろおしゃべりはおしまいにしようぜ」
「男は黙って行動あるのみだろ」
 悠と総司は左右に広がるとお互いのパートナーへ合図を出した。
「よし、確保したよ!」
 賢太郎の声と同時に四人は涼司の両手両足をつかんで担ぎ上げると、いきなり廊下を走り出した。
「総司、最初からこれが手っ取り早かったな」
「あぁ、優柔不断なやつはグズグズするから面倒だ」
 総司も悠も拉致というよりも、お祭りの神輿を担いでいくようなノリだ。
「お祭りみたいだね!」
「そうだぜ、浅生。こっからでっかい祭りを始めんだ」
 賢太郎も元気に頷いた。
「うん」
「こっちだ!」
 総司が器用に舵を取りながら猛スピードで一般生徒の間をすり抜けていった。
「……ん、……んと、じゃあね」 
 廊下を曲がる寸前、メイは花音に手を振った。
 突然の事態に呆気に取られていた花音も我に返ったが、時既に遅しだった。



 連れ込まれた部屋の中央に取り囲まれるように座らされた涼司は、それぞれの顔を見回した。
 正面に立っているのは部屋の主であるトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)、そのパートナーである千石 朱鷺(せんごく・とき)ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)だ。
 奥で静かに目を閉じて座っているのがベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)だ。しかし、利き手は常に愛用のグレートソードに手をかけていて油断が出来なかった。
 彼のパートナーマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は涼司と目が合うと元気に会釈した。
 他には先ほど涼司を拉致した総司と悠が廊下やドアを塞ぐように陣取っていた。
「まぁ、そう睨むなよ。何もお前を責めようってわけじゃない。ここにいるやつらの目的は同じだ」
 トライブはなだめるように涼司の肩に手を置いた。
「環菜のオデコに肉って書いてやるのじゃ」
 ベルナデッドがイタズラっぽく笑うと、ヴァンパイア特有の八重歯がカワイク顔を覗かせた。
「そうそう、あの女の鼻っ柱へし折ってやろうぜ」
「わかってるのか、トライブ。そんなことしたら明日は」
 涼司は事態を理解しているのか確認した。
「ご心配なく明日の座禅の手配はもう出来ています」
 落ち着いて語る朱鷺の言葉に誰も慌てる様子はなく、すでに全員の覚悟は決まっていた。
「まぁ、そういうことだ。せっかくお前を作戦会議に招待してやったんだ。仲良くやろうぜ」
 トライブは悪戯っ子のような顔で楽しんでいた。
「まだ疑っていらっしゃるようですね」
 朱鷺は真意を測りかねている涼司を見て、トライブを促した。
「あのよ〜、どうせやるんだったらみんなで盛り上げようぜ。そのほうがお互いにチャンスが増すってもんだ」
「これだけ言ってもダメとは、山葉涼司は逃げ腰じゃな」
 ベルデナットの挑発を涼司は敢えて受けた。
「わかったよ。どうやら座禅を恐れてるやつはここにはいないみだいだしな」
「それでこそ男だ。あの魔人デコに肉と書いてやるぜぇぇぇ!」
 興奮気味のベアをマナが抑えた。
「ベア、うるさい」
 涼司はどうにも一筋縄ではいかないメンバーがそろったものだと思った。



 一方で環菜の指令を受けた者たちも出し抜かれたままではなく、トライブの部屋の前では密偵たちが集まって様子を探っていた。
「やっぱり、俺の予感は当りましたね」
 環菜様の親衛隊を自称する樹月 刀真(きづき・とうま)はパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に話しかける。
「さすが、刀真」
 月夜は答えつつ、ペイント弾を込めたハンドガンを構えて周囲を警戒した。
「中の様子はどんな感じですか?」
 刀真は中を探るルカルカ・ルー(るかるか・るー)に質問した。
 ルカルカは特殊部隊での経験を生かし、ファイバースコープをドアの隙間から慎重に差し込んでいた。
「あともう少し。淵、ダリル、ルカルカの身体を支えてて」
「わかった。淵、そっちをもってくれ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は膝をつくとルカルカの姿勢をサポートした。
「いっそ中に斬り込んだほうが早いんだが」
 ルーのパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)の呟きに、同意したのは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。
「そうとも、こんなコソコソしたマネは正義の味方には似合わないぜ!」
「牙竜、ルカルカの邪魔になるのでもう少し静かにしてくれ。それにその衣装は目立ちすぎじゃ……」
 ダリルがたしなめるのも無理はなかった。
 牙竜はヒーロー衣装ケンリュウガーの上にお土産屋で購入した新撰組の羽織を着込んでいて、目立つことこの上ないのだ。
「そうか、ヒーローとしてはこれくらい当然だろ?」
「え、ボクに聞いてるんですか? えっと……」
 急に同意を求められた烏山 夏樹(からすやま・なつき)も返答に困った。
 パートナーのエカテリーナ・ゲイルズバーグ(えかてりーな・げいるずばーぐ)にヘルプを求めるが、彼女は興味もなさそうにあくびしただけだった。
「よし、これで全員の顔もバッチリだよ」
 ルカルカはファイバースコープをつないだモニターの画面を周囲にも見せた。
「このラクガキ小僧さんたちがターゲットですのね」
 さっきまで一番興味なさそうにしていたエカテリーナが獲物を狙うような眼を光らせる。
「まさかスパイさせられるとは思わなかったです。環菜様に忠告したのが裏目に出るなんて」
 夏樹のボヤキをエカテリーナが慰めた。
「大丈夫ですわ、ナツキ。明日の予定は潰させたりはしませんわ」
「もう、こういう任務はボクより宇都宮さんの方がむいてると思うんです。早く来てくれないかな」
 夏樹は頼りになる友人が待ち遠しいようだった。
「刀真、まだなの?」
 警戒に当る月夜は少し焦りが出ていた。
「心配するな、敵がきたら蹴散らすだけだ」
 牙竜はヒーローらしく自信たっぷりだ。
「音声はもう少し拾えますか?」
 刀真の問いかけに、ルカルカは頷くとマイク感度の調整を始めた。
「……誰が……成功するか……やっぱ……」
 


 室内ではそれぞれのやり方を巡って、意見が食い違っていた。
「ま、このゲームに勝てるとしたら俺だろうけど」
 自信たっぷりに自分の方法を説明する悠にベアが反論した。
「男に小細工などいらん。正面突破あるのみだ」
「まぁまぁ悠さんもベアさんも落ち着こうぜ。勝負は結果が全てだろ」
 総司は悠とベアをなだめた。
「そう、最後に書いたやつが勝者ってわけだ」
 トライブはベルデナットにマジックを渡した。
「任せておくのじゃ」
 それぞれがそれぞれの思惑で集まっているために一枚岩ではなく、あくまで共同戦線という形だった。
「何も仲良く一緒にやろうってわけじゃない。集まったのは敵か味方を区別するためだ。だろ?」
 トライブの言葉に全員が頷く。
 しかし、ベアが立ち上がりグレートソードを手にかけた。
「ちょっとベア、そんなもの抜いてどうするのよ? 仲間割れしてる場合?」
 マナの制止も聞かず、ベアはグレートソードを逆手に構えた。
「ベア!」
「曲者!」
 ベアが投げつけたグレートソードがドアの中央部を貫通した途端、驚きの声があがった。
「まずい、聞かれた」
 総司が廊下へ飛び出すと、月夜のペイント弾が威嚇で足元に飛んできた。
「刀真、ルカルカ、撤退よ」
「オッケー、月夜」
 撤収作業に入るルカルカをダリルと淵がサポートに入った。
「前方は受け持とう」
「任せたぞ、淵」
 隣の部屋で待機していた賢太郎とメイが飛び出してきて、廊下の反対側のルートを断った。
「ここはいかせないよ」
「……んと、ダメだよ」
 両手を広げてがんばるメイを悠は褒めた。
「メイ、ナイスだ」
 ピンチに牙竜は俄然と張り切った。
「ようやくヒーローの出番だな。何、俺を知らない? 俺はケンリュウガー。ただの正義の味方だ!」
 牙竜はしんがりを受け持とうとするが、夏樹が羽織を引っ張った。
「そんな時間ありません」
「助かったな、次はないと思えよ」
 牙竜は総司や悠を指差しながら後退を始めた。
「みなさん、散開してください」
 刀真の合図でルーたちはそれぞれの方向へと四散した。
「ちょっとベア! ドアを壊しちゃってどうするのよ?」
「あ……いや、いまのは」
 マナに捕縛されてボコボコにされるベアを止めることができるのは誰もいなかった……