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リアクション
「美しいお嬢さん、お手をどうぞ」
カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)は、紳士的な態度で稲場 繭(いなば・まゆ)に手を差し出した。女性のリードには慣れているようだ。歯の浮くようなセリフを照れることなく口に出来るところがカッコイイ。カルナスは内心、可愛い女の子に当たってラッキー!と思っていたが、もちろんそんなこと態度にはおくびにも出さなかった。
「可愛い」とは言われても「美しい」という言葉には慣れていない女性は多い。繭は、嬉しい気持ちよりも恥ずかしい気持ちのほうがいっぱいで真っ赤になりながらも、もじもじと自分の小さな手をカルナスの手に重ねる。男性に慣れていない繭は、キンチョーがMAXだ。カルナスは、繭がダンスをしやすいように、自分のほうへと引き寄せる。きゃっと小さな悲鳴を上げて、繭がカルナスに身体を預けた。
「あ、そ、その……。ご、ごめんなさいっ!」
あぁ、初々しい反応が本当に愛らしい。カルナスは感動に浸っていたが……、はっ!殺気?!
ルイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)のきつい視線は、繭に不埒な真似をしたら許さんと、明らかな敵意が感じられたが、カルナスはその視線を受け流して、どこ吹く風だ。
「ふふっ、繭ってばだいぶ緊張しているようね」
そんなルインの気持ちを和らげようとしているのか、はたまた煽っているのか、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、繭の反応を楽しそうに見ている。腰にはいっぱいのお菓子を抱えた崩城 理紗(くずしろ・りさ)と崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)がまとわりついている。そしてなぜかロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)まで……。
「ねぇ、どっちの勝ちー?」
「かちー?」
「帰ってから数えてみましょうね」
せがむ2人にと、亜璃珠は優しく答える。
「トリックオアトリックですわー!さぁ、おとなしくイタズラされて下さいませー!」
ロザリィは、ルインにもそう言ってはみたものの、もちろんルインの視線はカルナスから動かない。すごすご……。
「パーティーだし、いいじゃない。あれくらい」
亜璃珠は、理沙とちび亜璃珠の頭をなでながら言った。ついでにロザリィも。なでなで。厳しい視線というか、殺気を放っているというか、要するにガンを飛ばしているルインも、繭が楽しんでいるのであれば、ぶち壊すような真似はしない。カルナスは保護者付きの可愛い娘ちゃんに当たってしまったようだ。これは今日はちょっと、手出しは出来ないぜ。カルナスは冷静に読みつつも、もちろん、繭に甘い言葉を浴びせ続けた。真っ赤になって俯く繭の反応を見て、カルナスは可愛いぜ、とまずまず満足だった。
「エレン、あたしのお菓子も受け取ってくれないかな♪」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、うさ耳を揺らしながら、パートナーとして見つけ出した神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)に可愛くラッピングしたクッキーの袋をぎゅうぎゅうと押し付けた。けっこう自信作らしい。
「誰とカップルになるのかな、って思ってたけど、お友達でうれしいよっ!」
ミルディアはパーティーの雰囲気が好きらしく、いつもよりテンションが上がっているようだ。
「ありがとう、ミルディア。美味しくいただくわね」
オペラ座の怪人の仮装をしたエレンは、衣装に銀の髪がとても似合っている。いつもステキだけど、今日はなんだか一段とステキ☆
「せっかくだから、一緒に食べましょう」
エレンはクッキーを加えると、ミルディアの唇にそっと近づいた。ミルディアははむっとクッキーを加えて、んーっと半分から折った。クッキーのかすがぽろっと落ちる。
「えへへー。美味しく出来たよ♪」
ミルディアはもぐもぐと満足げな笑顔を浮かべた。エレンは自分が胸に指していた黒百合を一輪取ると、うさ耳のところに付けてあげた。
(今日はとってもいい子にしてるのに、香苗の運命のお姉さまはどこにいるのかしら?!)
姫野 香苗(ひめの・かなえ)は、次々と踊り始めるカップルを見ながら、少々気持ちが焦ってきた。がっついてたらお姉さまはゲット出来ない、と今日は壁の華を決め込んでいるというのに……。ぶつぶつ。
「お飲み物はいかがですか?」
せっかくのパーティーだというのに、積極的に参加していない香苗のことを十六夜 朔夜(いざよい・さくや)は気にかけていた。男装の麗人と呼ぶに相応しいその執事姿に、香苗はきゅん、とした。優しい。この人が香苗の運命のお姉さま?!しかし…待って、ここで獲物を狙う目をしてはいけない。今日の香苗はいい子に待つの。
「ありがとう。いただきます!」
「わたくしにもいただけるかしら〜?2つね♪」
佐倉 留美(さくら・るみ)が、朔夜に声をかける。香苗の目が鋭く光った。急な時には本性を隠しきれないもんです。うっかり。留美の胸には、ナンバー27のカード。香苗の運命のお姉さまっ!……でも、話しかける前に行ってしまった。留美は巫女姿の女の子と楽しそうに談笑している。パートナーなんだし、割って入るべきかしら?でも……。香苗が逡巡していると
「ずっと静かにしているけど、ご気分でも……?」
朔夜はそのまま横にいて、香苗を気遣ってくれる。朔夜のナンバーは35。今日の自分のナンバーとは違うけれど……。
「ええ、ちょっと気分が悪くて」
お姉さまゲットのためとは、まさか言えない。朔夜は、時々ホストとしての仕事をしながらも、香苗を気にかけてくれる。二兎を追うものを一兎をも得ず!香苗は、とぎれとぎれになってしまうけれど、今日は朔夜との出会いを大切にすることにした。
「あ、あぁ、あ、あのっ!静香様。ボクがその……、パートナーなんです!!」
数人の生徒たちと、テラスで談笑していた桜井 静香(さくらい・しずか)に、真口 悠希(まぐち・ゆき)はナンバー20のカードを突きつけるように差し出した。ダンスの申し込みだというのに、一生懸命に頭を下げている。広間のほうでは、すでにソシアルのためのミュージックが何曲も流れ、たどたどしいながらも一生懸命踊っている娘もいれば、上手にリードしてあげている人もいる。
「ボクのパートナーさん、よろしくね〜。みんなぁ、ちょっと行ってくるから、楽しんでてね♪」
静香はカードを突き出している悠希の手を取り、広間へと向かっていった。憧れの静香様と手をつないでいるというだけで、悠希の頭はちょっとパニック。こんな状態で、ボク、踊れるんだろうか……。これからもっと、か、身体が触れたり、肩を抱いたり……、考えてだけで悠希の顔はすでに真っ赤だ。次の曲が始まるのを待って、静香は悠希を広間の中央のほうへ誘い出した。さすがに静香はダンスに慣れているのか、動じる様子は一切ない。一生懸命リードするつもりでいた悠希は、緊張で手が震えている。静香は、にっこりと「大丈夫だよ」と声をかけ、気が焦っている悠希を宥めた。初めは必死だった悠希も、だんだんと落ち着きを取り戻していた。それでも、夢の中にいるみたい。ずっとこの時間が続けばいいのに……。
周りにどんなに人がいても、美しい音楽とダンスは、2人を二人だけの世界へと連れていってくれる。まるで刹那が永遠となるように……。たとえパーティーの時間が永遠でなくても。
永遠には続かないパーティーに、なんとか間に合うように辿り着いた変熊 仮面(へんくま・かめん)ではあったが、すでにほとんどのカップルが出来上がって2人の世界を作っているのを見て絶望したっ!くそぅっ!こんなパーティーぶち壊してやるっ!!
「まぁすたぁ〜!食べさせて〜!!」
かぼちゃ頭に身体はシーツでぐるぐる巻きの姿の桐生 円(きりゅう・まどか)は、手まで巻いてしまっているため、マスターであるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ににゃんにゃんと甘えていた。
「あらあら〜。お菓子もらっちゃったら、性的なイタズラ、してもらえないわよぉ〜♪」
「円ちゃ〜んっ。ドーナツ食べる?」
「食うかっ!!」
ドーナッツを両手に持ち、胸に当ててシナを作る変熊仮面。気持ち悪い。当然、蹴られる。円のやってることは楽しそうだと、加わったミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)もとりあえず蹴ってみる。どかっ!ばきっ!こっちは真面目に本気で真剣に痛い。
「男の身体には、興味ないのよね〜」
オリヴィアはマッパに動じなかった。男の裸なんてへへへん、だ。しかし、当然周りの乙女から悲鳴が上がる!!きゃーっ、変態!チカン!変質者〜!!!
「……とりあえず、前を隠してくださいっ!!」
譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、最愛の女性に、そーゆー“ヘンなモノ”が目に入らないように、と遠野 歌菜(とおの・かな)を自身の背後に隠した。何してるんだ、こいつは……とりあえず、玄関ホールに連れ出そう。
女連れのヤツの言うことなんて聞けるか!とやぶれかぶれな変熊仮面。しかし…
「みんなの楽しみを邪魔してはいけませんよ!」
真剣に怒ってくれる歌菜の可憐さには負ける変熊仮面。前を隠して素直に2人の後へとついて行った。
割って入ろうとした静香であったが、生徒たちの問題は、生徒同士で解決するのが一番。……今回のはそういう話しではない気もするが。とっさに動きつつも冷静な判断を下す静香に、悠希は心酔を深めるのだった。
群青色の空に白い月がとがっている様の浮かんでいる窓を早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は見上げながら歩いていた。長い廊下には、幻想的に浮かぶ光にかぼちゃのちょっと不気味な笑顔が浮かんでいる。
「やっぱり、ヴァイシャリー家のお屋敷は、すごいですね」
「そうだな」
スカートをひらひらと揺らしながら歩くユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)を見つめながら、呼雪は見学してきた屋敷内を思い返していた。とくにラズィーヤのピアノ室にあった楽器たちに心惹かれた。
「あの……、これ、おかしいですか?」
呼雪がじっと見つめているので、ユニはスカートの裾をそっと押さえて、恥ずかしそうな表情を浮かべる。普段見ることのない格好や表情に、呼雪はうまく言葉に出来ない気持ちになった。
「大丈夫だ」
ユニの頭を撫でてやるものの、自分の気持ちがなんだか大丈夫ではないような気がして、呼雪は戸惑いを感じた。なんだ、この気持ち……。
「そろそろ、戻るか」
食べるものを食べた後は、パーティーの喧騒から離れていた2人だが、パーティーがいつ終わるのかはわからない。広間に戻っていたほうが良いだろう。もう少し2人でいたいような気もするが…。
「はい。……あれ?変熊様??」
手すりにつかまって階段を降りようとするユニが、広間の扉が開く光を確認した。シルエットが一瞬浮かびあがっては、消えた。呼雪はさりげなくユニの手を取ってやる。
「何やってるんだ……」
階段の下には、かぼちゃをかぶった相変わらずの姿の変熊仮面。こういうシーンで見ると、ちょっと憐れだ。変熊は帽子を脱ぎ、パンツ代わりに履いた。ユニは何も言わずに、そっと自分のマントを差し出した。上半身にソレを巻き付け、仮面を外した変熊はかぼちゃパンツ王子。
「だって、カップルばっかりで悔しかったんだもんっ」
何の言い訳だ。歌菜の毅然とした態度に、大和はすっかり惚れ直していた。変態の横だというのに、薔薇の砂糖菓子を渡して愛の言葉をささやいている。気持ちが盛り上がっているのはわかるけど、もう少しムードは大切にしよう……。
ユニのいつもとは違った女の子らしい格好に、なんとなくソワソワとしている呼雪の様子。本人の自覚もないというのに、妙にカンの良い変熊は、ますますふてくされた。俺様だけ一人……っ!
その時、広間の扉がきぃ、と開いて七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がちょこんと姿を現した。変熊が来たことはもちろん、服を着ていることにもほっとしたようだ。乙女として当然の反応と言えよう。
「あの……、変熊仮面さん。ボクと一緒に、踊りませんか?」
歩のセリフにその場にいたみんなが驚いた。もちろん、一番驚いたのはダンスに誘われた本人だ。呼雪とユニは顔を見合わせている。
「よろこんでっ!!」
変熊仮面は歩の手を取った。どちらかというと、手を洗ってから歩に触れて欲しかった。歩は変熊仮面のリードを受けて、広間へと戻っていった。もちろん、みんなから注目の的だったが、歩は気にせず天真爛漫な笑顔を見せた。
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