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リアクション
第7章 人在らざる者の憑依
-PM23:00-
「苦しんでいる魂を鎮めてあげたいよね・・・」
1つの身体に複数の魂が閉じ込められ苦しむ亡者を、アリア・エイル(ありあ・えいる)は哀れみ心臓を探してやろうとFエリア内を探す。
「やはりこの扉はスイッチを探さないと開かないか・・・」
ソウガ・エイル(そうが・えいる)は扉の周辺にスイッチがないか周囲をチェックする。
「1箇所だけロックが解除されているな」
グリーンになっているパネルを確認する。
Cエリアで周がスイッチを押し、1つだけ解除されていた。
「看護師を見つけた人たちから得た情報だと、どうやら彼女を甦らせるための実験が行われていたようだな」
「そうみたいだね・・・」
「だがそれは表向きの・・・だったそうだ。その実験を行うため何者かが知恵を与え、自らの目的に利用しているようだ」
「得体の知れない化け物を不死化させて甦らせようというやつだね」
「他にも死者たちを使って兵器として作ろうとしているようだが・・・」
「その謎があの扉の向こうにあるかもしれないよね・・・。あっ、ここ入れそうだよ」
歩きながら会話していると、入れそうな部屋を見つけた。
中に入ると見たこともない形状をしたドリルや、血まみれのペンチやメスが乱雑に放り投げられていた。
灰色にくすんだ壁には人間の物と思われる腕、頭部や内臓が釘で打たれ蕩け腐っている。
「なんだこの部屋は・・・」
おぞましい光景にソウガは顔を顰めた。
「机の上に何かあるよ」
エイルの指差す方を見てみると1枚のレントゲンがあり、それにはScrap“ゴミ”という意味合いで書かれている。
「酷い・・・実験に使えなかった人をゴミ呼ばわりするなんて・・・。早くこの部屋を出よう・・・、ここにはもう見るものはないよ」
「―・・・あれはもしかして・・・」
部屋を出る前にもう一度部屋の中を見回すと、壁際に打ちつけられた腕の近くにスイッチを見つけた。
息を呑んで指先の近くにあるスイッチを押しソウガはすぐさまそこから離れる。
どこかでガシャンッと何かが外れる音がした。
「扉の2つ目のロックが解除されたのか」
「見に行ってみよう」
2人は扉の方へ向かった。
「月夜、玉藻聞こえますか?今からそちらへ向かいますんで換気扇を止めてください」
刀真は無線機でパートナーに連絡を取る。
「換気扇のスイッチは・・・・・・」
Fエリアにいる月夜は換気扇のスイッチを探す。
「これ・・・?」
壁にあるスイッチをポチッと押してみると、換気扇の回転が止まった。
「我が天井の蓋を外してやろう」
金属の取っ手を掴み天井の蓋を開けてやる。
「お待たせしました」
刀真が床に降りたのを確認すると、玉藻は蓋を元に戻し月夜もスイッチから指を離す。
「入れそうな部屋を見つけたぞ。行ってみるか?」
「えぇ調べてみましょう」
「こっち・・・」
月夜に案内されて室内へ入ると、患者カルテが棚の中にびっしり納まっていた。
「この病棟で行方不明になった人たち・・・全員何かの実験に使われたようでしょうか。死因が全て心不全と書かれています」
「ずいぶんと都合のいい死因だな・・・」
「もうすでに何かの実験に使われてしまっているでしょうね」
「刀真・・・ここ鍵がかかってる」
「開けてみましょう」
ピッキングの技術で壁にある鍵を開け、蓋を外すと中から1枚の写真が出てきた。
「この写真・・・ムカデに似ているようだが。手か・・・足か・・・?なんだかそれっぽいのがいっぱいあるようだな」
「主犯者はこれを甦らせようとしているのでしょうか・・・」
妖怪のようにみえる不気味なムカデのような写真を見ながら、刀真は考え込むように呟く。
「他の場所は見たし、残るはFエリアだな」
カガチたちは通気口を通り、CエリアからFエリアへ向かっていた。
「やっと10つ目のファンを潜り終えましたねぇ兄貴」
「あぁそうだな」
「このまま何事もなければいいですね。途中でゴーストが現れたりしたら厄介です」
何かが起きると予知するように、真奈はさらりと言い放つ。
「そろそろカガチさんたちが来る頃かな」
換気扇を止めるため、真はスイッチを押した。
「後がつかえているんだ、早くいってくれ」
「いやあかんってちょっと・・・!」
急かすようにカガチが陣の背をドンッと蹴った。
「あ、あのカガチ様。お戯れが過ぎる気がするので・・・」
おろおろした表情で真奈が止めようとするが、まったく言うことを聞かない。
急かされた陣はファンの隙間を潜ろうとする。
「んー、なんだこれ?」
止まっていたファンのスイッチを睦月が押してしまう。
「何かおしたような音が?」
「な、何でまた動いて・・・って!睦月君!?」
「―・・・って睦月!何してんのさぁ?!」
「ごーめーんなさーいー」
縁に叱りつけられ、ギュウッと頬のつねられた睦月は半泣きする。
「ぎゃあああ!予想通り再起動キタコレ!人体切断テラ勘弁なんですのおぉぉ!!」
「なっ、どうしてファンがまた動くんですか!?」
目を丸くし真奈は驚愕の表情をする。
陣は袖をファンにひっかけてしまい、ビッタンビッタン床に叩きつけられながらグルグルと回転する。
「ご、ご主人様が!すぷらったな事に!と、止まって・・・止まってください!」
ファンに向かってハンドガンを撃つが、銃弾は勢い良く回るファンに弾かれ、カンカンッと床を跳ねて陣の身体を掠めていく。
「ンギャァアッ痛い、痛いっ!死ぬっ死ぬから止めてぇええー!!」
「誰か・・・病院に、連れてってくださ・・・」
「ご主人様!し、しっかりしてください!ご主人様!?」
「犯人は多分むつk・・・・・・・・・」
真がファンを止めると、陣は自分の血で床にその言葉を書き記す。
Fエリアに下りた陣はナーシングで止血されたものの、真の救急箱で包帯グルグル巻きにされミイラのようになってしまう。
「ねぇ・・・何か向こうにいるよ・・・」
睦月が怯えながら言う視線の先には、Dエリアからついてきてしまった悪霊の姿があり、それがニヤリと笑うとカガチが突然バスタードソードで自らの胸を貫こうとする。
「ちょ・・・・・・何やっているんスッか兄貴!」
「来るな!来ないでくれ!俺には何も出来ねえんだよ!」
止めようとする陣の手を振りほどき、ブンブンと剣を振り回す。
悪霊がカガチに魂憑依をしたようだった。
「危なっ・・・。ぎゃぁっ、また血がぁあっー!?」
避けるために激しく動いたせいで、陣の傷口はパックリ開いてしまいピューピューと血が噴出す。
「離せ!死なせてくれ!苦しいのはもう沢山だ!」
憑依されたカガチは霊の意のままに操られ死のうとする。
「今度は、俺が助ける番だよ・・・」
刺し貫こうとする剣を奪い取ろうと掴みかかる真の腕に、カガチがガブリと噛みつき八重歯が食いこみ、ツーッと真っ赤な血が流れる。
「デキソコナイは俺だ!癒し手の血を引きながら癒しの力を持たないこの俺だ!」
「そんな泣き言は努力してからだぁああっー!」
「―・・・うぐぅっ!がはふぁあっ」
光術を込めた怒りの拳で腹部をドスドスッと何度も殴りつけた。
パタタッとカガチの口から鮮血が床にこぼれ落ちていく。
彼の手から剣がすり抜け、ザクッと床に刺さる。
「努力して努力して・・・それでも駄目ならもっと努力するんだ・・・。(ああ・・・多分根本的な所が俺と同じなんだろうな)」
床に倒れこむ姿を真はもう1人の自分がいるかのように見つめた。
安心したようにふぅっと息をついた瞬間、カガチは床に落ちているガラスの破片を手に取り、自らの心臓に突きたてようとする。
「うぅう・・・ぁああぁああ゛!何もできない俺なんて存在しないほうがいいだぁあっ、死んだほうがいんだよぉおおおっ」
未だに魂憑依から解放されていなかったカガチを止めようと、真はガラスを持つ手に掴みかかるが壁際に突き飛ばされ、その拍子に彼の胸がガラスで切り裂かれた。
ブシャァアアーッと壁や天井に鮮血が飛び散る。
身体を乗っ取る以上に魂憑依をすることができる強力な霊に対して、光術はほとんど役に立たなかった。
「そんな逃げ方・・・絶対許さない、させるものかぁあっ!」
壁をダンッと蹴り、飛び上がった真はカガチの脳天にカカト落しをくらわす。
「救えた・・・俺に出来た・・・」
ようやく気絶したカガチを抱え、一刻も早く悪霊から離れようとする真たちは、もう看護師探しどころではなくなっていた。
「おっ、誰かいるな。おーい!」
周が手を振りながら政敏たちに駆け寄る。
「探索の途中で見つけたんだけど、これ何か分からないか?」
「何かのファイルのようだな。見てみてくれ」
受け取ったファイルを政敏はカチェアに手渡す。
「えぇっと・・・ゴーストの研究資料みたいですね。ヒューマノイド・・・・・・ドール・・・って名称のようです」
「どれどれ?まだ開発中のようね」
リーンが横から覗き見る。
「何体か開発に成功して、試験的にどこかへ放ったみたいですよ」
「それって誰かを・・・襲わせるためか?」
「えぇおそらく」
顔を顰めて聞く周に、カチェアが頷く。
「これは体内から触手を出したり、穴のあいている心臓がある・・・あたりでしょうか。そこから白い煙を出すそうです」
「ただの煙?」
「いいえ・・・体内に吸い込んでしまうと、酸が臓器にダメージを与えるようですね」
首を傾げるレミにカチェアは首を左右に振り説明を続けた。
「毒性はあるのか?」
「多少あるみたいですよ・・・しかも傷を負っても再生するようですし」
「再生・・・甦る・・・・・・ていうことじゃなくって傷が治っちゃうってことね」
「そうです、しかもその速度はかなり速いようです」
「でっ、どうやって倒すの?」
「書いてません・・・」
「もうそれって存在してるのよね?」
「そんなのトンネルの外に出てきたらどうなっちゃうの!?」
レミとリーンは目を丸くして言う。
「大量生産される前にくいとめないといけませんね」
「厄介なことに首突っ込んじゃったわね・・・」
「この後よかったらモーニング一緒に食べないか?」
周はカチェアとリーンを誘う。
「学校があるので遠慮しておきます」
きっぱり断れたのと同時に、周はレミに足をグリッと踏みつけられた。
「ふぎゃぁああ〜っ!」
「ドールね・・・名前の通り創造主には逆らわなさそうだよな」
政敏はため息をつきながらも、これからどうしたもんかと悩んだ。
-AM2:30-
「見当たりませんね・・・看護師の霊・・・・・・」
島村 幸(しまむら・さち)はナースステーション内をキョロキョロと見回し看護師の霊を探す。
「根気良く待てばきっと彼女はここへ現れてくれますぞ」
ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)の励ましに、半ば諦めそうになっていた幸は無理やり笑顔を作る。
「現れませんね・・・」
廊下を歩きながら霊がいないか、遠野 歌菜(とおの・かな)も一緒に探してみる。
「いま真たちから連絡があったが・・・カガチが悪霊に憑依されて看護師探しどころじゃなくなったようだ」
無線機から通信を受けたブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)は深くため息をつく。
「幸姐さん・・・・・・・・・」
歌菜は恐る恐る幸の方を見ると、彼女は沈んだ表情をしていた。
てっきり怒り出して解剖してやると騒ぎ出すのかと思ったが、まったくその様子はなかった。
「現れてくれないんでしょうか・・・」
顔を俯かせていると、どこから女の声が聞こえてくる。
「あなた・・・また来てしまったのね・・・・・・」
「近くにいるんですか!?いるなら出てきてください!」
「どうしたの幸姐さん?」
突然声を上げる幸に、歌菜はきょとんとした顔をする。
どうやら彼女たちには看護師の霊の声は聞こえていないようだった。
「私たちに見せてくれた日記に書かれていた人って・・・ヘルドのことですか・・・?」
「―・・・えぇ・・・そうよ。結婚の約束をしていたわ」
「何か・・・伝えたいことはありませんか?」
「もう・・・・・・私のことはいいから研究をやめてほしい・・・と・・・」
「幸・・・誰と話をしているのですか・・・?」
パートナーが独り言を言っているように見えるガートナは、心配そうな顔をする。
「看護師の霊と話しているんですよ」
「私たちにはさっぱり聞こえませんな・・・」
「ねぇ・・・皆には何であなたの声が聞こえないんですか?」
「気持ちが通じる人としか・・・上手く声が伝えられなくて・・・・・・」
「―・・・分かりました、私の身体を使ってここにいる人たちにも聞かせてください。あなたを早く成仏させてあげたいですから・・・・・・」
幸の黒髪がふわっと揺れ、看護師の霊が入り込む。
「幸・・・姐さん?どしたんですか・・・大丈夫・・・・・・」
突然床に座り込む幸の顔を歌菜が覗き込んだ。
「今・・・・・・この人の身体を借りて伝えます・・・」
「例の看護師がとり憑いたのか!?」
ブラッドレイは驚きのあまり目を丸くする。
「ここで何を研究がされているのですか?」
「私を甦らせるための実験・・・最初はね・・・」
「最初・・・ということは・・・別の目的があるの?」
ガートナに続けて歌菜が問いかける。
「えぇ恐ろしい悪魔の実験が行われているの・・・。ここに来る患者や探索目的で遊びに来た人たちとか・・・皆使ってね・・・。不死の生物兵器を作る恐ろしい実験・・・今動いているのは研究段階のゴーストたちばかり」
「その犯人はまだ生きているんですか?」
「生きているわ・・・フードを被っていて、姿がよく見なかったわ。私の大切な人を利用して・・・許せない・・・・・・」
それだけ言い終わると、女の霊は幸の身体をぬけて消えてしまう。
「幸・・・幸・・・・・・しっかりしてください!」
「幸姐さん、起きて!ねぇ起きて!!」
ガートナたちが必死に呼びかけるが、トンネルを出る明け方まで幸は目を覚まさなかった。
「シャロちゃんたち上手くラブラブになれたかしら」
チョコバー食べながらルカルカは、他の生徒たちと一緒にFエリアでスイッチを探していた。
「こっちの部屋にはなかったようだ。そっちはどうだった?」
イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は1つの部屋の探索を終え、周りの状況を確認する。
「だめー、なかったわ」
「ありませんでした・・・」
「見つからないね」
御凪 真人(みなぎ・まこと)とセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が開いた自動ドアの傍から顔を覗かせた。
「まだ全部見つかっていないようだな、手伝おう」
アリシアにファンを停止させるスイッチを押してもらい、Fエリアに移動してきたロブとレナードもスイッチ探しに強力する。
「こっちにも部屋があるわよ」
「入って見ましょうか」
真人はスイッチがないか壁や床を手探りで探していると鍵穴に手を触れた。
ピッキングで開けてみると、丸いボタンのスイッチがあった。
「これでしょうか?」
「とりあえず押してみよう、えいっ!」
セルファは警戒心無しにポチッと押す。
「あぁ!トラップだったらどうするんですかっ」
「そうだったらそうで、仕方ないわよ」
ヘラッと笑っていると、ガタンッとどこかで何かが外れる音がきこえてきた。
「当たりだったみたいだね」
「まぁ・・・そのようですね」
「こっちにあったから押しておいたぞ」
ロブもセルファと同じく、躊躇せずにスイッチを押したようだった。
扉の方へ行くとソウガたちの姿が見えた。
「開いたようだぞ」
「おっ、中に入れるようになったのか」
「もしかしたらこの扉の向こうに、心臓があるのではないかと思ってな」
奥の廊下から駆け寄ってきたラルクに向かってイリーナが言う。
「この前エレベーターでとんでもない目に遭った今回は平気だったからな、俺も一緒に行くか」
ラルクも加わり彼らは扉の向こうへ歩いていった。
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