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リアクション
第2章 殺人事件というかどつき漫才のこと
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青 野武(せい・やぶ)は、校長室がぶっ飛ばされたのを受けて、パートナーの守護天使黒 金烏(こく・きんう)、同じくパートナーの英霊で17世紀フランスの文人・剣豪・物理学者のシラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)とともに、謎の建造物を作っていた。
「警護と言えば教導団!メンツにかけて物理攻撃は防いでみせよう!」
マッドエンジニアの野武が気合を入れる。
物置セットに通風孔と換気扇、簡易トイレを加えて、ブロックで補強、その上から鉄板とセメントを塗り重ねたというそのトーチカ兼シェルターは、入退路や配管、煙突の隙間を狙っての狙撃防止のため、妙に曲がりくねった角度になっており、トーチカというよりクトゥルフ神話学科の崇拝物のような外観であった。
「この中であれば通常の弾丸なぞ効力は持ちませぬ。しばしご辛抱下され」
「……しかたないのう」
野武に案内され、アーデルハイトはしぶしぶ不気味な外観の建造物に入る。
あまりにも犯人や、悪気のない生徒による襲撃を受けたので、一人になったほうが安全と判断したのである。
入り口は、野武と金烏とシラノが順番に見張りをする予定だったが、ほどなくして、中で何かが倒れる音がした。
野武たちが駆けつけると、アーデルハイトが死んでいた。
「科学の進歩に犠牲は付き物じゃ、合掌」
「尊い犠牲でありました」
野武と金烏が合掌し、シラノが黙って十字を切る。
「これは一見通常兵器に見せかけた魔法じゃな。あとはイルミン生の領分であるから、お任せしよう」
野武が推測を述べる。
「誰かが侵入して至近距離から撃たれたぞ! というか、そういう技術を持ってない奴でも、考えてみれば高位の魔法使いならテレポートが使えたりするのじゃ! 冷静に考えたらまったく無意味だったのじゃ!」
復活したアーデルハイトがわめく。
それは無視して、地球の医学に深い関心を持っている金烏が、アーデルハイトの死体を検死しようとする。
「いいかげんにしろ!!」
アーデルハイトが金烏を魔法でぶっ飛ばすのと同時に、野武がトーチカの自爆スイッチを押す。
「ぬぉわははははははは! 自爆は男のロマン!! 失敗作も一緒に処分じゃああ!!」
「「命」は平等だ。ならば「死」も平等であるべきなのだ。不死の魔女の死因を究明したかっただけだというのに、まったく非協力的な御仁で困ったものであります」
「しまった、アーデルハイト殿にぶっ飛ばされれば私も星になれたかもしれなかった。なりゆきで月に行けたかもしれないのに!!」
野武と金烏とシラノが同時にふっ飛んでいく。
「つ、疲れる奴らじゃ……」
アーデルハイトが嘆息する。
同じく教導団からやってきた、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、真面目に護衛を申し出る。
もとい、野武達も真面目ではあったので、堅実な方法で護衛を申し出る。
(やれやれ……校内で殺人事件とはな……他校の問題だが戦場以外での殺人を見過ごす訳にもいかないか……しかし……アーデルハイト様は身に覚えがないと言っていたが……この人は知らず知らずのうちに恨みを買うタイプだろうからな……当てにならんか……)
そんなことを考えていたグレンは、アーデルハイトに確認を取る。
「アーデルハイト様……一応、先に聞いておくが……犯人が分からないからって周りの人を手当たり次第に燃やすとか凍らせる……なんて事……考えてないだろうな?」
「お前は私をなんだと思っておるのじゃ!! ざんすかじゃあるまいし、そんなことするわけないじゃろうが!!」
「ならいいんだが」
一応、今回、アーデルハイトは先に手を出した相手しかぶっ飛ばしてないつもりなのである。
「アーデルハイト様、私たちが護衛しますが油断だけはしないでください」
グレンのパートナーの機晶姫ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が、優しい口調で言う。
(アーデルハイト様を殺すなんて……犯人を見つけましたら生きている事を後悔させてあげないといけませんね! それにしてもエリザベートさん……落ち着いてましたね……ここではこんな事が日常茶飯事なのでしょうか……?)
ソニアは、犯人に怒りを燃やしつつも、疑問を感じていた。
(殺されても復活できるなら護衛なんて必要ないんじゃないか? まあ……殺人を見過ごすなんて事を俺がする訳ないがな。それにしても……イルミンスールの生徒には流石の俺も同情するぜ)
同じくグレンのパートナーの英霊{SFL0010615#李 ナタ}は、グレンやソニアとはまた別のことを考えていたが、本気で護衛に当る気持ちは同じである。
「アンタの護衛は疲れそうだな……」
「やかましいわ! 疲れてるのはこっちじゃ!」
パートナーのナタクとアーデルハイトのそんな口論にグレンが割ってはいる。
「あ〜……今度からは殺されない対策をしておく事を勧める……なぜ? アーデルハイト様……知らない奴らに予備の身体とはいえ、色々されてても良いのか?」
「嫌に決まってるじゃろう。真面目に護衛してくれるのはありがたいが、まったく……」
アーデルハイトは、感謝しつつもぶつぶつ言う。
「死んでしまわれた予備の身体はこの後……どうするんですか? まさか、放置しておくなんて事はしません……よね……?」
ソニアも、心配そうに疑問を述べる。
「放置するか! ちゃんと後で処分するのじゃ!」
「処分ですか……」
それはそれで、どうするのか気になるソニアであった。
そこへ、鈴木 周(すずき・しゅう)が現れて提案する。
「なぁなぁ、アーデルハイトちゃん。俺に考えがあるぜ! 予備の体、何人か貸してくんねーかな? あと自由に動かせると助かるんだけど」
「む、そんなことしてどうするつもりじゃ」
「いいか、アーデルハイトちゃんってわりと長く生きてるだろ? つまり外見10歳っても相殺されてロリコン扱いは間違ってるってこった。という訳で! 予備の体を自由に動かして、俺とイチャイチャしてもらえばすごく嬉しい! あ、エリザベートちゃんは最低あと6年したらOKだぜ!」
「『という訳で』じゃない! そんなことできるか!」
「いやいや、予備の体を動かせば囮になるかもしれないだろ? これで、俺はアーデルハイトちゃんのハーレムができて万々歳だしさ。そもそも、女の子が殺されるとか許せないぜ! それに、ナイスバディもいいが、ツルペタも捨てがたいよな!」
「誰がツルペタじゃ!!」
「あ、つい本音が!! ぐはあっ!?」
なんとかアーデルハイトを言いくるめようとした周であったが、真の勇者、すなわちスケベの本性は隠そうとして隠せるものではなかったらしい。
またしても、イルミンスール上空にお星様が増える。
「こんなに強いのにどうして殺されるんだ?」
ナタクは素朴な疑問を口にした。
「ねえねえ、ちょっといい?」
露出度の高いファッションのセクシー美女、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)がのんきに提案する。
「3度目は至近距離から発砲って言ってたわよね? その時の位置関係から怪しい人って特定できないのかしら〜。まぁ、出来ないんだったら囮でも使って犯人をおびき出したらどう? ほら……今までの死体があることだし、別の身体を囮に使ってそっちを狙わせたら? いいじゃない、どうせまだ予備の身体を用意してるんでしょ?」
「『いいじゃない』じゃない! 絶対嫌じゃ!」
「そうなの?」
ターラは首をかしげる。
「て、いうかそこらへんに転がってる死体はどう処理をするつもりなのかしらね……」
「それは言えん。秘密じゃ」
「えーなんで?」
そんな漫才の中、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)がやってくる。
「アーデルハイト女史。いったいどこにそんなに予備の身体を隠しておるのじゃ? たくさんあるなら1、2体くらいわしにもらえんじゃろうか?」
(死んでも死んでも「私が死んでも代わりがいるもの」的にどんどん新しいのが出てきておるが一体どこにこんなに隠しておるんじゃろうな! 秘密工場でもあるんかね?)
そんな疑問と、自分もロリだけどロリ好きという嗜好の持ち主であるファタは、飄々とした口調で怖いもの知らずな発言をする。
「だからお前ら、私の身体をなんだと思ってるのじゃ……」
アーデルハイトがジト目でファタをにらむ。
「ロリがロリを好きで何が悪い! 可愛いは正義という素晴らしい言葉があってじゃな……。どうしてもダメなら死体でもかまわんぞ」
トーチカから運び出されていた死体を物色しようとするファタに、アーデルハイトが魔法を放つ。
「こらー!! そんなに堂々と反社会的な言動をするな!」
「ぐふっ、アーデルハイト女史、そういいつつもSMとはマニアックな……。でもわしはどちらかというと自分がいろいろする方が好きじゃぞ」
「じゃかましいわ!」
ファタにさらに魔法を連射するアーデルハイトであった。
そこへ、「不良探偵」こと、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)が現れて言う。
「まあ、俺が犯人なら一回一回殺すなんてめんどくせーことしないで、予備の身体ぶっ壊すけどな。お、これって名案じゃね?……やっぱ悪役のが向いてんのかな? いやいや、名探偵たるものカスみたいな悪党が相手でも、相手の立場になって一回は推理するもんだろ。よし、てなわけで犯人はホトケの予備の身体を狙ってくる。これは間違いない! しかし、ここで問題が発生するな。『俺たちはホトケの予備の身体がある場所を知らない』このままじゃ、警備のしようがないってもんだぜジョージ」
深夜通販のアメリカ人っぽくおおげさに肩をすくめ、悠司が続ける。
「予備の身体を提供するのを渋ってるみてーだが、これは囮捜査といって、地球の警察組織が一般的に用いるとても効率的な方法なんだ」
(それにどーせ今のままじゃ、死ぬ度にてめー来るまで待たないといけねーし、めんどくせーんだよ! それなら元から案内しろっての……)
とりあえず本心は隠して言う悠司だが、こんなことも言ってみる。
「犯人は光学迷彩使ってるか、言い争ってなかったセバスチャンくらいしか容疑者いねーんじゃねーの?」
悠司のパートナーの剣の花嫁レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は、そんな様子を生暖かく見守る。
(さすが「頭が不良探偵」だよ。バカな悠司に代わって、きちんと観察して考えてみよう。『あたしのチャンを返せ』って言ってたみたいだし、ちじょーのもつれ? って言う奴?……え、父親の名前なの? どこでわかったんだろ? えーと……地球の時代劇であった『ちゃん(お父ちゃん)』ってこと? うーん……ボクは人の名前かと思ったんだけどなぁ。悠司の推理で光学迷彩って話あるし、間違ってないと思うけど、光学迷彩してるのはその犯人だけじゃないと思うんだよねー。変に見つけられてぼこぼこにされる人とかいなきゃいいけど。まあ、アーデルハイト様くらいすごい魔女なら何とかなりそうだし、放っておこうっと)
そんなレティシアのパートナー放置プレイの中、すったもんだのあげく、アーデルハイトはとうとう根負けする。
「ええい、しかたのない奴らじゃ! でも、絶対に変な事するなよ!? 絶対だからな!!」
アーデルハイトは数体の予備の身体がある部屋に、一行を案内した。
風間 光太郎(かざま・こうたろう)が、アーデルハイトに注意を呼びかける。
「万が一、犯人の捕縛に失敗しても大丈夫なようにしておくべきでござる。公開するのは一部だけにすべきかと」
「もちろんじゃ。これはほんの一部じゃ」
光太郎も、犯人が光学迷彩を使用していると予想して、部屋の入り口にペンキを塗った。
「これで、無事に犯人を捕らえた暁には、拙者に予備の身体の作り方、移り方を伝授願いとうござる。一人前の忍者になるため、夢の分身の術をマスターしたいのでござる」
「それはさすがにおいそれと教えるわけにいかないのう。これは大変に高度な魔法で……」
「えー、ずるいでござる! 拙者も分身の術使いたいでござる!」
「ずるくないしこれは忍術じゃない! こら、服の裾をひっぱって駄々っ子になるなー!」
そんな中、予備の身体があっというまにすべて破壊される。
「あ」
ペンキをつけた犯人の足跡が転々とついているが、一行の目の前には殺されたアーデルハイトの姿があった。
駄々をこねる光太郎が騒いでいるうちに、みすみす犯人を逃がしてしまったのであった。
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