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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

リアクション

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 多少、平和になったところで、「聖少女の素敵なお父さん」ことアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、エリザベートのパートナーの聖少女、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)とともに現れる。
 ミーミルは、ホームズっぽい帽子とコートで探偵コスプレをさせられていた。
 「うむ、似合っているぞ……まずは記念に写真を一枚。今度、ヴィオラ達にも見せてやろうな」
 「はい」
 のんきに写真撮影するアルツールに、ミーミルがかわいらしく微笑む。
 「さて、今回の事件。キーワードはアーデルハイト様の聞いた「チャン」、そして至近距離からの狙撃。まず狙撃については、アーデルハイト様に気づかれずに接近しての射撃。恐らく、手練れのゆる族のソルジャーとみて間違いない。教導団の所属か、教導団くずれのパラ実のどちらかでしょう。そして、チャンですが……恐らく「父」ではなく名前でしょう。教導団で、チャンといえば我々は先日の教導団合コンの呼びかけで聞いたはず。そう、金鋭峰団長のお世話係マリー・チャンという女性です。これらが指し示すのは唯一つ、アーデルハイト様を狙ったのは、マリー・チャン女史をアーデルハイト様に奪われたと勘違いしたゆる族ソルジャーだったのだ! と、お父さんはこんな感じなんだが、ミーミルはどう思う?」
 「アーデルハイトさんが、マリー・チャンさんを奪ったんですか!?」
 アルツールの推理に、ミーミルが驚きの表情を浮かべる。微妙に勘違いしてしまったらしい。
 「アルツール、ミーミルに変なこと吹き込まないでくださぁい。超ババ様の『ほーらつ』な生活について知ってしまって、ミーミルが汚れてしまったら大変ですぅ。だいたい、なんでミーミルがそんな格好してるんですかぁ」
 「こら、エリザベート! 誰が放埓な生活をしてるだと? 私がそんなことするわけないじゃろう!」
 「ん? ミーミルにコートとかを着せた意味? 娘の可愛い写真を撮るためだが、何か問題が? 校長には、後で写真を焼き増ししますのでご安心を」
 「じゃあ問題ないですぅ」
 「お前ら、私を無視するなー!」
 「お母さん、『ほーらつ』ってなんですか?」
 「ミーミルは知らなくていいのですぅ。さあさあ、ここは物騒ですから、今は向こうに行ってなさいねぇ」
 「? わかりました、お母さん」
 「このままここにミーミルがいたら可愛さで地球もパラミタも滅亡してしまうからな。しかたない、向こうで撮影の続きをしよう」
 エリザベートは、ミーミルに危険が及ばないよう、校長室を退室させた。

 「普通、チャンとは年少者または愛玩対象名の下に付けるにつける呼称……。親父をチャンと呼んでいいのは乳母車の子どもだけじゃきに。しかし、ここにちゃん付で呼ばれる対象や乳母車の子どもがおるじゃろうか? いや居らん。執事は「セバスチャンちゃん」となる筈じゃしのう。はっ! 残る可能性は愛玩動物! 動物が騒動の中心ならば農学科として黙っちゃおれんき。姿の見えん「小さくて白いシャンバラ山羊ちゃん」を護らなければならんきに!」
 棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)は、パラ実農学科生徒として、無駄に使命感を燃やしていた。
 「教えてお爺さん! 教えてザンスカールの森の木よ!」
 「え? なんですか?」
 「意味不明ざんす!!」
 亞狗理が、セバスチャンやざんすかをがくがく揺さぶる。
 「こ、これは白パンじゃ!」
 「あ、それは朝ごはんののこりですぅ」
 エリザベートの机の引き出しを勝手に開けて、亞狗理が大騒ぎする。
 「ベッドは干草に違いないきに!」
 「さっきからなにやってるですぅ! 校長室を荒らすんじゃありませぇん!!」
 大騒ぎしすぎて、亞狗理はエリザベートに魔法でぶっ飛ばされた。
 亞狗理のパートナーの守護天使バウエル・トオル(ばうえる・とおる)は、アーデルハイトに「禁猟区」をかけていた。
 「これで、犯人の襲撃時にはいち早く察知できるはずです」
 「うむ、すまんのう」
 一見、殊勝な心意気だが、バウエルには不穏な企みがあった。
 (万一の襲撃時には、いち早く『ヒール』を施しましょう。……即死じゃなければ、脳死くらいにはなるんじゃないでしょうか? 多分。まぁ……手違いが起こって、アーデルハイト様が二人! なんて事になるかも知れませんが、幽霊騒ぎで犯人の動揺を誘うかも知れません。誘わなくても面白いですしね。ダブったババ様は山に還してあげましょう♪)
 そこへ、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、明るい緑色のマントをひるがえしてやってくる。
 「突然だが、私は基本的にシリアス担当として生み出された。だから普通、私自身からギャグは出ないようになっている。だが今回はあえて『メタ発言』という形でギャグを言わせてもらいたい……」
 皆を見回し、エリオットが憶測を披露する。
 「まずシナリオガイドのアーデルハイト女史の台詞、特に太字の部分に注目。その部分を、よく見えるように大文字で発言してもらいたい」

 「もちろん、不死の存在とはいえ、
  魔女がその場で復活するなどということは、通常では決してありえません。
  強大な魔力を持つ、特別な存在である、アーデルハイトだからこそなしえている、
  アーデルハイトの特殊能力です。

 「違うだろう、アーデルハイト女史。だいたいそれは台詞ではないだろう」

 「面倒くさいのう。
  犯人の姿は見えなかったが、
  『あたいのチャンを……チャンを返せ!!』と、言っておった。
  どうやら父親について恨みがあるらしいが……。
  私にはまったく身に覚えがないのじゃ!!
  ……これでよいのか?」

 「よろしい。日本では「有名な時代劇」にあるように、自分の父親を「ちゃん」と呼ぶことがある。ところで、女史の台詞のそれは「カタカナ」で書かれているはずだ。父親のことを言うなら、カタカナではなく平仮名で書くと思うのだが? 平仮名ではなくカタカナで書かれたそれは、おそらく父親を指しているのではない。「チャン」という愛称を持った人物を指していると予想される。さて問題。ガイド中にいる『チャン』のつく人物とは誰かな? そう。「セバスチャン」にゆかりのある人物が犯人の可能性がある、ということだ」
 そのとき、バウエルの「禁猟区」が発動した。
 「やりました、これでアーデルハイト様にヒールをかけて2人にしてしまうチャンスです!」
 「何を言っておるんじゃ、お前はぁ!!」
 企みがバレて、バウエルはアーデルハイトにぶっ飛ばされる。
 それと同時に、アーデルハイトが何者かに射殺され、床に倒れる。
 「なっ!? 私へのツッコミをまだ誰もいれていないというのに!!」
 エリオットが慌てて辺りを見回す。
 その隙に、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は、校長室の棚をあさり、アーデルハイトの私物の魔方陣の布をくすねて、死体にかぶせ、創造・合成魔術の実験を行おうとしていた。
 「魔術の基礎は錬金術なのに、創造・合成系の実験が少ないのよこの学校。超婆様のダミー体をベースにして、超婆様を小さく『さらに』可愛くしたプチ・アーデルハイト、『アデ・クリ』を作りたいけど、いまのあたしの技術じゃできないから、ちょっと拝借させてもらうよ」
 九弓は、用途不明の、謎の魔方陣が描かれた布を発見するが。
 現場を見張っていたエリオットのパートナーの剣の花嫁クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)が、光条兵器の「スーパーバズーカ」を、姿の見えない犯人に向けてぶっ放す。
 「ターゲット、ロックオン! 粉砕するほどファイヤー!」
 「なに、ファイヤーだと!? 負けてられるか、ファイヤー!!」
 普段のほのぼのとした様子とはうってかわってノリノリになったクローディアの決め台詞に、ジャックが反応し、炎の魔法をぶっ放す。
 人形のように身体の小さな九弓のパートナーの二人の剣の花嫁マネット・エェル( ・ )九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が、クローディアのバズーカとジャックの魔法の爆風でぶっ飛ばされる。
 「きゃああああああああああああ!? ますたぁ!?」
 「ちょ……小さいPCへの差別反対!?」
 「ああっ、マネット、鳩ねえ!! ってぎゃあああああああああ!?」
 「いいやああああああああああああ!?」
 「鳩ねえって呼ぶな!」
 九弓とマネットと九鳥は、仲良くぶっ飛ばされた。
 ついでに、魔方陣の描かれた布も灰になる。

 こうして、校長室は大混乱に陥るのであった。