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約束のクリスマス

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約束のクリスマス
約束のクリスマス 約束のクリスマス

リアクション

「みんな・・・」
 らいむが言いかけたとき、外からスパイクバイクの爆音が響いてきた。
 ドアが開き、バイクに乗った『惨多黒臼(サンタクロース)』が現れる!
 サンタと同じ赤い服だが、あちこちにおどろおどろしい装飾がなされている!
 惨多黒臼サンタは大またで仁王立ちすると、
「ヒャッハー!いい子にしない悪い子はさらってお仕置きだぜ!」
 ポーズを決める。
「みんな助けて!悪い子のプレゼントは持ってかれちゃう!」
 らいむが悲鳴を上げる。
「俺たちのものを奪うなぁーーーーーーーーーーー!」
 さすが勇敢な子どもたちだ、数人の子どもが惨多黒臼サンタに突進しようと立ち上がったとき、
 サンタの格好をしたセリア・リンクスが、火術を惨多黒臼サンタに向ける。
 すばやく避ける、惨多黒臼サンタ。
 衣装がこげて、素顔が覗く。
「危機一髪だぜ!」
 衣装を脱ぐと、そこにはパラ実の姫宮 和希(ひめみや・かずき)がいる。
「余興だぜっ!俺を殺すなよっ!」
 和希が焦げた衣装にくすぶる火種を叩き落すと、ポケットから沢山のプレゼントが現れた。
「ナンだよ、カッコよく去りたかったのによぉ」
「ごめんなさいっ!」
 セリアが小さくなっている。
「いいってことよ!それより食おうぜ!」

 ドアの外では、正義が変身ポーズを決めたまま立っていた。
「出番取られちゃいましたね」
 正義は、惨多黒臼サンタと子ども達の戦いに割ってはいる予定だったのだ。
 あゆみが正義を慰めている。
「たまにはこういうこともあります」

「それでは、孤児院完成と皆様の幸せを祈って・・・かんぱーー」
 再びらいむの声が爆音で消される。
 今度の音は、エレキだ。
 会場に響くエレキサウンド。
「地獄のメリークリスマスッ!サンダークロスがやって来たゼェ〜!」
 悪魔メイクにサンタ衣装、黒マントで空から降りてくるのは、仏滅 サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)。 
「パーティーにゃクリスマスソングは欠かせねぇだろ!クリスマスもロックだぜ!!俺の歌を聞きやがれ!!ファァァーーーク!」
 怒涛のステージは、誰の邪魔も入らず終わった。
 ステージが終わると子供達が興味津々に近づいてくる。
「さ、さすがパラ実の子供達だっ!顔を見ても泣かないとは。」

「お話中すみませんっ、乾杯なんです、いいですかぁ?」
 らいむがサンダー明彦に話しかける。
「あっ、はい」
 グラスを渡されて恐縮する。


 そのとき、再び音がした。
 今度は外だ。
 馬のいななきが聞こえる。

 音の主は、薔薇学の鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。彼は人知れず愛馬アルデバランに跨り、集落の周りをパトロールしていた。
 白い息が光る。
 尋人が思っていたように、すべての巨大蟻が息絶えたわけではなかった。傷を負い巣に戻れなかった蟻の中には、足を数本失っただけで、生き延びた固体もいた。
 それらは、すこしずつ集落へと忍び寄っていた。
 今日、集落からは肉の焼ける匂いと甘い香りが流れ出て、明るい炎が集落全体を照らしている。生命値すべてを使って生き残った巨大蟻は集落を目指して着ていた。
 尋人は、白馬から地上でうごめく蟻の関節を目掛けて、ランスを振りかざす。
 出来れば誰にも知られずに、この作業を行いたかった。

 「ちょっと失礼!」
 黒崎 天音は人々にぶつかりながら、外を目指す。
 急いで愛馬に飛び乗ると、馬のいななきが聞こえた方向に走り出す。
 そこで見たものは、愛馬をかばう尋人だった。
「蟻は退治したぜ、もういないはずだ」
 しかし、最後の蟻は、死ぬ間際に酸を馬に吐いていた。
 馬のわき腹がこげている。
「早く運ぼう!まだ間に合う」
 少し遅れてブルーズ・アッシュワースが来た。馬の後ろに、ヴァーナー・ヴォネガットを乗せている。
「天使の救急箱です」
 箱を開けると、馬の怪我が治った。
「ありがと、パーティの邪魔をしちゃったぜ」
 帰ろうとする尋人の服をヴァーナーがつかむ。
「駄目です。馬ちゃんを休ませないと」
 その通りだった。

 会場では、再びらいむの声。
「全員が揃ったようです。では再びかんぱーい!」
 パーティが始まった。

 自分が持ってきたプレゼントをそれぞれに渡す。
 晃月 蒼は、夜なべして作った巨大モヒカンつきゆるスターをシー・イーに渡す。
「もし、お金がなかったらまたバザーに出して!」
 両手で握手する二人。

 神楽坂 有栖は、フェルト生地で作った手作りのうさぎさんやねこさん、子犬などのぬいぐるみを持ってきている。
 スカート仕立ての可愛らしいサンタ服に身を包んだ有栖と、トナカイの角と赤い鼻をつけたミルフィが、子供たちにひとつずつ手渡している。

「エレンから預かった」
 ビスク ドールは、用事でこれなかった神倶鎚 エレンから、孤児の一人にプレゼントを渡す。以前エレンと仲がよくなったエナロだ。
 操り人形っぽいぬいぐるみで、ビスクは遊び方を教えている。器用なエナロはあっとゆうまに使い方を覚えた。
「ありがとうって伝えて・・それに字を覚えたら手紙を書くって」
 頷くビスク。

 ロザリンド・セリナは、木製のジグソーパズを。ピースの端に穴をあけて、そこに紐を通しペンダントにしている。一人一人に。手渡すロザリンド。みんなでひとつ、力を合わせて頑張ってという思いがこもっている。

 九条 風天は、ミニチュア作成は武蔵が、水晶の加工は器用な風天が、穴を開けて糸を通すのは素早くこなす今宵が、と三人の合作、木刀のミニチュアを楕円の水晶(安物ですが)の中に閉じた首飾りを子ども達の首にかけている。

 七瀬 瑠菜は、手作りのエプロンを一着だけ持ってきていた。
 考えた末、瑠菜はそのエプロンを台所に置くことにした。
「お米をとぐ人専用エプロンだよ、このエプロンをしてお米をたくとおいしくなるよ」
 おにぎりがあっという間になくなってしまったため、瑠菜はまたおにぎりを作っている。


 ヴェルチェ・クライウォルフは、子どもたちを集めて、歌で遊んでいる。
 両手を腰にあてて、
「パラミ〜タァには七匹のドラゴン〜♪
 考え〜はそれぞれ違うけど〜、み〜んな仲良く暮らしてる♪
 さぁ踊りましょう♪」

 「みぎ〜て♪」と歌いながら、右手を振り、振りながら同じフレーズを歌い、「ひだ〜りて♪」と左手を加え交互に振る。両手を振りつつ歌い、「おぉしり♪」とちょっとお尻を突き出して振る。同じように歌いつつ、「回って♪」とその場で一回りする。
 おぉしり♪のフレーズで笑い転げる子どもたち。

 ヴェルチェはビーズ等で作った手作りアクセサリー人形を全員に渡している。

 ルーナ・フィリクスが夜を徹して作った手編みのマフラーと手袋は、さまざなな色がある。
 ルーナは子ども達の髪や瞳の色を見て、一人ずつ手渡している。
「少し時間が掛かるけど、待っていてね」
 ルーナはそれぞれに毛糸を使って名前を刺繍して渡している。
「美しい糸だね」
 子どもたちはルーナの手先に釘付けだ。
「残った毛糸もプレゼントするわ、今度遊びにきたときには編み方も教えてあげるね」
 子ども達の目が輝く。

 ザカコ・グーメルはパーティ会場を抜け出し、子ども達の部屋に向かった。イルミンの図書館にて事情を話し廃棄予定の本や教科書を集めてきている。そのなかには絵本も多くある。
 強盗 ヘルと昼間に廃材で作った本棚を部屋に運び込むと、その棚に本を並べる。
「喜んでくれるといいのですが」
 ヘルは黙々と作業している。
「ヘル、今回の経験を生かして、いつか自分達も子供が笑顔でいられる孤児院を作りましょう」
「そうだな」
 本棚には空いているスペースがある。
 二人は相談して、大き目の本棚を作った。
「また本を持ってきましょう」



 棚畑 亞狗理はシー・イーの隣にいる。
「シー・イーの粥も食いたかったのう」
「粥はご馳走ではナイヨ」
 シーは子どもたちが嬉しそうなのを見て、自分のことのように嬉しい。
「いや、シー・イーの粥は特別じゃき」
 亞狗理としては精一杯の告白だが、シーに届いたかどうかは不明だ。


 羽入 勇はカメラマンとして大忙しだ。
 おいしいご馳走もあまり食べることができない。
「おい!」
 一人の子どもが勇の口元に唐揚げを押し込んだ。
「食え」
「ありがと!おいしいよ」
 その子どもはパーティの間、ずっと勇の隣にいる。その子は時々消えては、ケーキやら果物やらを持ってくる。
 勇がカメラを子どもに向ける。
 カメラには、口をへの字に曲げた子どもの顔が映っている。
「はいっ、カメラに向かって笑顔、笑顔!1たす1はー?」
 勇の言葉に、
「俺、朝歯が抜けたんだ」
「抜け替わりの時期なんだね・・・」
 勇がにっこり笑う。
 つられて男の子も笑った。
「パシッ」
 シャッターが切られる。
「キミ、カメラ好き?」
 頷く子ども。
「又来るね、そのときは古いカメラ持ってくるよ」
 男の子はじっと勇を見ている。