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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者

リアクション

「なんです、今のは。人の声に、電気のようなものも見えましたよ」
 美羽たちが襲撃者と戦っているころ、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は情報収集のために町を回っていた。
「とにかく行ってみましょう」
 遙遠は騒ぎのあった方に向かおうとする。とそのとき、塀の上を何かが風のように通り過ぎた。
「あれは一体!?」
 遙遠は進路を変更すると、ブラックコートを羽織ってすぐに謎の影を追跡した。

「今回の事件、正義の味方として見過ごすわけにはいかないぜ!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、特撮ヒーロー【ケンリュウガー】の衣装を着て夜の町に降り立つ。彼はヴァンガードエンブレムを目立つように取りつけていた。その様子をパートナーのリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)は陰から観察する。
「牙竜ったら、どういうつもりなのかしら」
 リリィは、最近牙竜がクイーン・ヴァンガードに入隊したことをよく思っていない。正義の味方が特定の組織の利益で動くことに納得がいかないからだ。そのため、牙竜が正義の味方らしく動けるよう、近頃は悪役【暗黒卿リリィ】の衣装を着てライバルキャラとして動いていた。
「……やっと出てきやがったか」
 見晴らしのいい屋根の上に立っている牙竜は、とてつもない殺気を感じて表情を引き締める。やがて何者かが屋根を飛び移って彼に近づいてきた。時を同じくして、謎の影を追っていた遙遠も近くを通りかかる。
「はあ、はあ……。速すぎます。あっという間に見失ってしまいましたよ……。おや、あれはもしかしてさっきの……!」
 屋根の上では謎の人物が既に牙竜の目の前まで迫っていた。牙竜に向かって武器を振り上げる。
「もうヴァンガードに用はねえ、俺は抜けるぜ」
 その瞬間、牙竜がヴァンガードエンブレムを取り外し、投げ捨てた。
「ここからは、正義の味方ケンリュウガーの放送時間だ!」
 牙竜の行動に、相手は攻撃を中断して立ち止まる。遙遠はこのチャンスに必死で目をこらし、目標を観察した。
「まさかあれが襲撃者ですか? く、ここからではよく見えません。手に持っているのは武器? 大きい。剣やナイフではないようですね……」
 襲撃者は足下に転がったエンブレムをじっと見つめている。その様子を見て、牙竜が言った。
「……襲ってこねえか。あくまで狙いはクイーン・ヴァンガードってわけだな」
 そこへ牙竜のクイーン・ヴァンガード脱退宣言を聞き、リリィが彼の元に駆けつける。
「牙竜!」
「リリィ、来てたのか」
「クイーン・ヴァンガードに入ったのには理由があったんだね」
 リリィが嬉しそうな顔で牙竜を見つめる。
「こいつを誘き出す必要があったからな。あんな組織に興味はねえさ」
「やっぱり牙竜はヒーローだ! さあ、さっさとあいつをやっつけちゃおう! 援護するよ」
「ああ、だがその前に聞かなきゃならねえことがあるな」
 牙竜が襲撃者にまっすぐ対峙して問いかける。
「貴様、なんでこんなことをする。クイーン・ヴァンガードに何の恨みがあるんだ?」
「……」
 襲撃者はその問いには答えない。そしてヴァンガードエンブレムを踏みつぶすと、踵を返して屋根から飛び降りた。
「わわ、こっちに来ます!」
 遙遠は慌てて身を隠す。
「おい、待て! くそ、リリィ、追うぞ!」
 牙竜とリリィは急いで襲撃者の後を追った。
「ふう。あの襲撃者について、もう少し詳しく知りたいですね。先ほどのやりとりを見る限りクイーン・ヴァンガード以外は襲ってこないようですし、調査を続けてみますか」
 遙遠は立ち上がって走り出す。すると通路の角で何かとぶつかった。
「いって!」
 通路に尻餅をつく小さな少年。それはレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)だった。
「す、すみません」
 遙遠がレイディスに手を差し出す。すると、レイディスの胸にヴァンガードエンブレムが光っているのに気がついた。
「そのエンブレム……あなたもクイーン・ヴァンガードの隊員ですか?」
「あ? そうだぜ。俺はレイディス。夜な夜なクイーン・ヴァンガードを襲うヤツがいるっていうから、どんなやつか顔を拝んでやろうと思ってよ」
「そんな、危険です! 相手は隊員を抵抗する間もなく倒すほどの手練れなのですよ。それをたった一人で相手しようだなんて!」
 遙遠の言葉に、レイディスは笑みを浮かべる。
「だからいいんじゃないか。相手が強ければ強いほど燃えるってもんよ。それに、同じ隊員として放っておけないだろ?」
「それはそうですが……」
 方法というものがある、そう言いかけて遙遠は目を見開いた。
「危ない!」
 遙遠がいきなりレイディスに飛びつく。その刹那、背後で街路樹が真っ二つに割れた。襲撃者がレイディスに斬りつけていたのだ。
「後ろから攻撃とは、噂通り卑怯なヤツだ」
「逃げてくださ――痛っ」
 遙遠は襲撃者に向かっていくレイディスを止めようとするが、動けない。レイディスを助けたとき、足をくじいてしまったのだ。
「あんたには借りができちまったな。代わりと言っちゃなんだが、俺がこいつの正体を暴いてやるぜ。そこでしっかりと見ててくれ!」
 敵は相手が抵抗する暇もないほど素早く行動しているのだろう。襲撃事件の話を聞いたとき、レイディスはそう予想した。そして先ほどほんの一瞬だけ見た襲撃者の動きで、それが間違いではなかったと確信する。
「ならば機動力を奪うのが最善手!」
 レイディスは奈落の鉄鎖を襲撃者に向けて放つ。しかし、このスキルで重力に干渉できるのは極めて限定的な範囲だ。なんなく効果範囲外に逃れられてしまう。そして気がついたときには、レイディスは敵のリーチ内にいた。
「うおおっ!」
 このままではやられる。レイディスはのるかそるかの大勝負に出た。封印解凍で防御力を犠牲に攻撃力を高め、処刑人の剣を思い切り振り回す。襲撃者は身を翻しながら斬撃を加えた。
「……当たらなければ意味はない。悔しいが俺の負けだ……ぜ……」
「レイディスさん!」

 クイーン・ヴァンガードが次々と襲撃者に倒されていく中、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とパートナーである双子の姉妹ラミ・エンテオフュシア(らみ・えんておふゅしあ)ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)はあくまでも対話による事件解決を望んでいた。三人は襲撃者を誘い出すべく、ヴァンガードエンブレムをつけて人気のないところを歩き続ける。
「……ユニ……ラミ……油断するなよ……事前情報からして、相手がかなりの強者であることは間違いない……」
 クルードには銀狼の耳と尻尾が生えている。超感覚を使用して五感を研ぎ澄ませているためだ。彼はこの姿をあまり人に見られたくないと思っていた。
「ちゃんと話し合いに応じてくれるといいのですが」
 ユニはディテクトエビルでクルードの超感覚をサポートする。
「そもそも、ちゃんと私たちを狙ってきてくれるでしょうか」
 ラミが言った。と、クルードの耳がぴくりと動く。
「……その心配はないようだぞ……」
「「え?」」
 瞬間、クルードがユニとラミを抱えバーストダッシュで飛び退る。アスファルトを叩く高い金属音が響き渡った。
「……お前が今回の事件の犯人か……俺たちに戦う意思はない……お前の目的が何なのか、話を聞かせてはくれないか……」
 クルードは両手を広げて敵意がないことを示し、襲撃者に呼びかける。だが敵は一直線にクルードに向かってきた。
「……!」
 クルードは腰の【月閃華】と【陽閃華】を咄嗟に抜き、相手の突進を受け止める。襲撃者はガードの上から絶え間なく攻撃を繰り出した。
「「クルードさん!」」
 ユニとラミが心配そうな顔で戦況を見つめる。そうすんなりと事が進むとは思っていなかったものの、いざこのような光景を前にしてユニは足が動かない。ラミに至ってはまだ戦闘で役に立てるほどの力はなかった。
「くっ……!」
 クルードは封印解凍を使ってなんとか攻撃を弾き、敵との距離をとる。そして二人のパートナーに向かって言った。
「やむを得ん……ユニ、ラミ、光条兵器を……!」
 その声でユニとラミが我に返る。
「「は、はい!」」
 二人はクルードに向かって駆け出した。
 ユニの光条兵器はクルードの身の丈ほどもある長大な野太刀【銀閃華】。ラミの光条兵器はそれをぴったりと納める漆黒の鞘【黒封華】。抜刀術を使うクルードは、【銀閃華】を【黒封華】に納めた状態からの居合抜き、『居合い太刀』を得意としている。
 だが、ユニとラミが各々の光条兵器をクルードに渡すまで敵が待ってくれるはずもない。襲撃者は邪魔者をあしらうかのように武器を一払いした。
「「きゃあっ!」」
「ユニ、ラミ……! 貴様よくも……!」」
 クルードは我を忘れて襲撃者へと向かって行った。