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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第1回/全3回)

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【十二の星の華】「夢見る虚像」(第1回/全3回)

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第五章 心の時間の止めかた

 空京。
 高層建築が立ち並び、沢山の人が行き交うこの街も、二本三本と路地を辿ると薄暗く、陽の光も届かないようなスペースを内包している。
 街が賑やかなだけに、余計に物寂しい。

 ガシャン。

 そんな路地裏に、ものが砕ける音が響いた。
 像を包んでおいた布ごしに、たった今襲撃者によって砕かれたばかりの像の破片の感触が伝わってくる。
 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)はその顔を絶望に歪め――る代わりに不適に笑った。
 直後、襲撃者の鼻先で轟音と閃光が炸裂した。

「残念。それはただの粘土細工。私のトラップです」

 冷静なレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)の声が響いた。
「『残念』じゃなーい! 師匠っ! 私まで黒こげにする気!?」
「元気そうじゃないですか、無事で、何よりです」
「無事じゃなーい! 焦げた! 大事な髪が焦げたっ!」

 タタタッ!

 喚いた玲奈の口先の空間を、銃弾が薙いでいった。
「さっさと下がれっ! 髪どころじゃすまなくなるぜっ!」
 ブラックコートに光学迷彩、隠れ身と完璧な装いで潜んでいたジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)が姿を現して叫ぶ。
 玲奈とレーヴェの目が、光り輝く軌跡を捉える。二人は、ジャックが足止めの銃弾をバラまくのに乗じて下がり、距離を取った。
「お姉ちゃんっ、確認できたっ?」
 振り返って玲奈が声を投げる。
「光条兵器で間違いないわっ! その人、剣の花嫁よっ」
 同じく身を隠していた如月 葵(きさらぎ・あおい)から声が返った。
「人数は?」
「たぶん一人。でも玲奈、気をつけてっ!」
 玲奈はそれに笑みを返した。
「さって。一人だけってのが残念だけど、大事な証拠っ! 絶対捕まえてイルミンスールに持って帰るよっ!」
「『証拠』じゃなくて『証人』、もしくは『犯人』。『持って帰る』じゃなくて『連れて帰る』ですね」
 レーヴェが指を振るって訂正する。
「細かいなぁ」
「そういうところをきっちりしておかないと、玲奈が何をするか分かりませんからね」
「では、行くぞっ」
 咆哮にも似た、ジャックの声が響き渡った。

 ……

 結局のところ人数差で十分に押し切れた戦闘だった。
 最後に放たれた玲奈の氷術が襲撃者の自由を奪い、あっさり片が付いたのだ。
「みんな、大丈夫?」
 飛び出すのをずっとこらえていた葵が、全力で駆け寄ってきて、三人が笑みを返すのを見て胸をなで下ろした。
 それから、少し躊躇した後、倒れている襲撃者に近づいていく。
「どうしたの? お姉ちゃん」
「うん、大丈夫かしら、って思って」
「ええ? 襲ってきたやつだよっ!?」
「そうね。でも、私も剣の花嫁だし、なんか見捨てておけなくて」
 にっこり微笑んだ葵に、玲奈はやれやれと肩をすくめた。

 葵が近寄ると、襲撃者の手がピクリと動く。
 葵はその側にしゃがみ込む。
「どう? お姉ちゃん?」
 しばらく、しゃがみ込んでいる様子の葵の背中に、玲奈が声をかけた。
「……」
 返事はない。
「お姉ちゃん?」
 とてとてとて、と近づいていった玲奈が葵の肩に手をかける。
 バッ――。
 と、乱暴にその手が振り払われた。
「え?」
 常ならぬその反応に、玲奈が完全に虚を突かれる。

 くるりと、その葵が振り返った。

 額には見慣れぬ――いや、先ほどの襲撃者がつけていた物と同じデザインの機晶石。
 アイパッチに隠されていない方の目にいつもの優しい光はなく、ただ無表情な瞳に玲奈の姿が反射している。
 先ほどの襲撃者の目と、全く一緒だった。

「あ……あ……」
 怖ろしい憶測が玲奈の頭を掛けめぐり、その背中をガクガクと震えが走る。

「お姉ちゃんっっっっっっっっっっっっっっっっ!」