First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last
リアクション
第六章 想いと想いのつなぎかた
イルミンスール魔法学校の教室。
「ほら、彼方殿。振るのだよ〜」
ハルセ・クリンシェ(はるせ・くりんしぇ)に渡されたサイコロを手に、彼方は口いっぱいに苦い物を詰め込まれたような表情を作った。
「おい」
「ん? そんなところに突っ立っていたら寒いだろう? 彼方、キミはいいかもしれないけどテティスさんに寒い思いをさせようだなんて、キミ、配慮が足りない。それともお腹が空いているのかい? ほら、餅に雑煮、みかんも用意しているから好きに食べてもよいぞ〜遠慮することはない」
そう言ってエル・ウィンド(える・うぃんど)は教室のど真ん中に設置したコタツに、彼方とテティスを招いた。
コタツの天板の上にはスゴロクが広げられ、用意された雑煮が湯気を立てていた。
「そうじゃなくてだな」
「なんだ、ボクの隣では不満かい? 仕方ない、特別にモディーラさんとハルセさんの間に入れてあげよう。その代わりテティスさんは自動的にボクの隣だけど」
モディーラ・スウィーハルツ(もでぃーら・すうぃーはるつ)とハルセが少し動いてスペースを作った。
「だ、か、ら、だっ! お前ら道案内じゃないのか!」
「ちゃーんと案内したのだよー?」
「俺はコタツのある部屋への案内を頼んだんじゃない。カンバス・ウォーカーと話の出来るところへ案内して欲しいと言ったんだ」
彼方は、軽くハルセを睨むが、ハルセは素知らぬ顔で目をそらした。
「カンバス・ウォーカーさんを捕まえるのはやめたのですわね?」
念を押すようなモディーラに、彼方は立て続けに首を振った。
「ああ。だから、先進ませてくれ。なんならテティスと二人で行く」
「でも……迷路ですわよ」
「……」
「みなさん」
トン、と天板にテティスが手を下ろし、ひとりひとりの顔を見回して口を開いた。
「私と彼方のやり方に落ち度があったのは認めるわ……すごく、焦ってた。だから私達が正しかったなんて言わない。カンバス・ウォーカーさんをいきなり捕まえたりもしない。約束するわ。でも、急がなくちゃ行けないのはやっぱりほんとだと思う。だから、お願い。先に、進ませて」
テティスの訴えに、教室には沈黙がおりる。
それを破ったのは、モディーラだった。
「真実に、いつでもまっすぐたどり着けるとは限りませんわ。スゴロクと一緒です。一が出るか二が出るか。三、四が出るか五が出るか」
「六は出ないの?」
「一回休みがあるかもしれませんし、もしかしたら振り出しに戻ることだって」
質問があっさり黙殺され、「ああ、モディのお説教が始まったのだよ〜」とハルセは呻いた。
「スゴロクは現実の縮図なのですわ」
再び訪れた沈黙に、エルが咳払いをひとつ。
「まあ実際のところキミたちが必死でウロウロしてたら不安がってカンバスちゃんは出てこないと思うね。スゴロクでもして少し落ち着いたらどうだい? 幸いボクはキミたちへの質問が山盛りだ。そうやって少し時間をつぶしていれば――」
ガラッ。
教室の扉が開いた。
「こちら珠樹。テティスと……あと、彼方を発見しましたわ」
携帯電話片手の狭山 珠樹(さやま・たまき)が送話口に告げた。
「時間をつぶしていれば――向こうから案内人がやって来る……ちょっと、早すぎだなあ」
残念そうに、エルは首を垂れた。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「な、なんで俺たちが本の片付けなんてしなけりゃならないんだ」
大図書室の小部屋の前に立って葛葉 翔(くずのは・しょう)は肩で呼吸を整えていた。
いまや扉の前にあった本の山はすっかり撤去され、代わりに、さっきまで叫んでいた四人の人影がぐったりと疲弊してひっくり返っている。
「はわわ、仕方ないのです。ちらかした物はきちんとかたつけないといけないのです」
「散らかしたのは俺たちじゃないだろっ!?」
「はわわ、ご、ごめんなさいです」
翔に言い返されて、土方 伊織(ひじかた・いおり)は身をすくめた。
「む、お嬢様をいじめるのは、許しませんよ」
サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が伊織の前に立ちはだかった。
「いや、別にそういうつもりじゃ……」
「ではどういうつもりなのです?」
「だから……」
くいくい。
顔を付き合わせたサーと翔の袖を、伊織が引いた。
「や、やめるですっ。中のカンバス・ウォーカーさんが、また怯えちゃうですよ」
「む、そうだな。じゃあ、開けるぞ? 準備はいいな?」
確認した翔は、扉に張り付くと、ピッキングに取りかかった。
ほどなく、かちりと音を立て、中からかけられた鍵が外れる。
間髪入れず部屋に飛び込む翔。
その目に映ったのは、ちょうど反対側の扉から逃げ出そうとしているカンバス・ウォーカー達だった。
「待ってくれっ! クイーン・ヴァンガードじゃない。話が聞きたいだけだ」
ヴァンガードエンブレムはポケットにしまってある。
翔は事前の準備が功を奏したことにホッと胸をなで下ろした。
「隣はヴァンガードのようだが?」
「はわっ!」
急に話を振られて伊織が慌てふためいた。
自分のエンブレムを確認して体を触って、頭に手をやる。
翔は額に手を当て天を仰いだ。
カンバス・ウォーカー達の伊織達を見る目に不審の色が宿る。
「ち、ちがうのですっ! 僕は、カンバス・ウォーカーさんを捕まえるなら現行犯じゃなきゃダメだと思うのですし! いや、捕まえに来たという、そういう意味じゃないのですよっ!?」
不審の色が一層濃くなる雰囲気があった。
パタパパタパパタパ……
伊織はアタフタと手足を振るい、「うー」と唸った挙げ句――
カラン。
手にしていたハーフムーンロッドを放り出した。
「ぼ、僕はカンバス・ウォーカーさんと彼方さん達に、お互いの事情を聞いて欲しいですよっ。はわわ、もし不安なら、このスーツも脱ぐですよ」
「お、お嬢様っ!? やめてください、はしたないっ!?」
服ごとスーツを脱ぎはじめようとする伊織を、サーが慌てて止めた。
「でもっ! 僕、カンバス・ウォーカーさんに信用してもらわなくちゃですよ!」
「もういいよ」
再び、衣服に手をかけた伊織を、
「ありがとう」
今度はカンバス・ウォーカーが止めた。
「ああ、円さん? うん、俺」
途中から、伊織の様子を下がって見ていた翔は、携帯電話を手にしていた。
「何とかうまくいきそう。ああ、やっと交渉。みんなに伝えて、もらえる?」
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
その教室は広めで、真ん中に今、机を集めて島が作られていた。
「シリウス殿のため、反対勢力を力でねじ伏せるのがヴァンガードの仕事じゃないでしょう? 女王位争奪戦のせいで発生した問題を一つ一つ解決することで、シリウス殿が信用を得る、その信用を守るのがテティス様……テティスの仕事だと思いますわ」
島の横に据えられた倚子では、珠樹の意見を、テティスが黙って聞き、
すぐ横に座っている彼方は、ただ時間が流れていくことに耐え難いのか、度々足を組み替えている。
珠樹が二人の前のカップにお茶のおかわりを注ごうとしたとき、携帯電話が鳴った。
「みのるん? まだですの?」
『そう急かすなって。ミーのせいじゃないぜ? パンクな姉ちゃん説得してもらうの大変だったんだぜ? そっちの準備は出来てるのかい?』
少し焦れたような珠樹の声に新田 実(にった・みのる)はあくまで気楽な調子で答えた。
「ええ、もう十分に。お茶も三杯目ですわ」
『テティス・レジャとも話せただろ?』
「ええ」
『だったらいいじゃねぇか』
「ちっともよくありません。我らの目的は、事件の解決、ですっ!」
『ああ、分かった分かった。もう待たせねぇよ』
実からの通話はそれで切れ――
ガラガラガラっと。
教室の扉が開いて、実が入ってきた。
「よう、待たせたな。ご対面、だぜ?」
その後ろに、カンバス・ウォーカーの顔が覗いた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last