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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第3回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第3回/全3回)
空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第3回/全3回) 空賊よ、風と踊れ-ヨサークサイド-(第3回/全3回)

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chapter.5 中央の谷ルート1・とんでくる 


 雷雲ともちち雲それぞれの谷で激しい攻防が繰り広げられているその少し前。ヨサーク本陣ではヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)が船員たちの士気を上げようと差し入れとしてお菓子を配っていた。
「他に何かお役に立てそうな、お手伝い出来ることはありませんか?」
 しかしこんなものではヒメナは満足しなかった。もっと何か手伝えることは……そうだ、とヒメナは閃いた。洗濯してあげよう、と。パンツ洗ってあげよう、と。
「皆さん、お洗濯しますので、今はいているものを脱いでもらえますかー?」
 ヒメナの素っ頓狂な提案に、船員たちは驚きの表情を見せる。
「い……今かいお嬢ちゃん!? もうすぐ俺らも戦うんだぜ?」
「大丈夫ですよ、ちゃんとパンツは裏返して洗いますから」
 ヒメナはもう洗濯する気満々だった。こうして有無を言わさず船員たちのパンツを入手したヒメナは、それを氷術と火術の組み合わせで洗おうとする。が、その時谷の北から突風が訪れた。
「あっ……!」
 物理法則に従って、ヒメナが持っていた数々のパンツは風に飛ばされ、南側へと消えていった。
「す、すすす、すみませんっ!」
 何度も頭を下げ謝るヒメナを苦笑いで許す船員たち。当然彼らはこの後、ノーパンで戦うこととなる。
「……何してるの、ヒメナ」
 平謝りを続けるヒメナの後ろから、契約者の蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)がやってきた。
「あっ、路々奈さん! この方たちのパンツを飛ばしてしまって……」
 ヒメナの説明に疑問符を浮かべる路々奈だったが、とりあえず彼女は自分の用件を伝えることにした。
「よく分かんないけど、ほら、これ持ってきたからテスト始めるよ」
 路々奈がそう言って取り出したのは、もちち雲の欠片だった。
「あっ、わ、分かりましたっ。じゃあ私ちょっと風下の方にこれ持っていきますね!」
 ヒメナは路々奈からもちちを受け取ると、そのまま彼女と少し距離を置いた。それを確認した路々奈は、氷術で小さな氷を生み出す。
「じゃ、実験開始ね」
 その言葉と同時に、彼女は氷を風下へと放った。彼女たちが一体何をしているのか、それが分かるのはもう少し先のことだった。



 中央の谷ルート。
 東にある雷雲の谷や西にあるもちち雲の谷とは違い、この谷に特別な特徴はない。ただ広い谷間を、時折突風が吹きつけてくるだけである。
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、前回同様白い布を被ってもんぺをはいた農民スタイルで谷を進んでいた。布が強風で飛ばされぬよう、しっかりと手で押さえながら。
「ジュレ、思った通り、ここのルートが一番広々としてて動き回れそうだっぺよ!」
「……カレン、別に今は普通の言葉遣いで良いのではないか?」
 カレンに話しかけられたパートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が冷静に言葉を返した。彼女たちは前回、上手いこと男装して団員になれたということで、今回も引き続き変装しての参加をしていたのだった。ジュレに突っ込まれたカレンは「あはは、つい」と照れ笑いを浮かべながら元の口調へと戻った。杖を撫でながら、嬉しそうに彼女は言う。
「へっへ〜、思いっきり魔法の力を試せるチャンスだねっ」
 ちなみにカレンの持っている杖は鋤に偽装させてあり、相方のジュレールも前回と同じくはんてん(ざしきわらしの刺繍つき)・手袋・ニット帽の3点装備と抜かりはない。もっとも、ジュレールの方はその格好に依然不満を抱えていたようだが。
「珍しいなカレン。いつもは人に対して全力で魔法攻撃してはいけないと言っているのに」
 ジュレールがカレンの言葉に反応した。するとカレンは、その杖を回しながら楽しそうに答えた。
「この空を楽しい空に戻したいっていう、団長の言葉に感動しちゃったんだ! だから、どうしても団長にユーフォリアを手に入れてほしいなーって思って」
「……などと言って、本当はユーフォリアを見てみたいだけではないのか」
「あ、あはは、そんなことないよっ! うん、ないない! ほらっ、そんなことより先に進むよ!」
 本音を見抜かれたカレンは、お茶を濁すように前進を促した。未だ敵軍の姿は確認出来ていない。
「まだ何も見えてこないな。我らが目撃したものといえば、背後から飛んできた男性用下着だけだ」
 ジュレールがその場の状況を口にした。彼女の言う通り、この中央の谷ルート部隊が目にしたのは、先ほどヒメナが飛ばしてしまった船員たちのパンツだけであった。しかし、その言葉の直後、一行はその目に新たな飛来物を捉えた。それはなんと、こちらに向かってくる12発ものミサイルであった。
「ミサイルだ、カレン!!」
 ジュレの大声にカレンは即座に反応し、待ってましたとばかりにその杖をかざした。
「この大空を耕すのはボクたちヨサーク空賊団なんだから、邪魔はさせないよー!」
 そしてカレンの杖から、縦横無尽に雷が放射された。雷たちはまるで杖に閉じ込められていた鬱憤を晴らそうとでも言わんばかりの勢いで、辺りを青白い光で埋めていった。襲い来るミサイルは次から次へとその雷に当てられ、ヨサークの部隊がいる場所よりもやや前方で爆発を起こす。こちらが風上ということもあり、爆風すら一行には届かなかった。
「人じゃなかったから、手加減なしだよっ! あ、でも今日だけは、人が相手でも加減しないけどね!」
 嬉々とした表情でカレンが、さっきのジュレールとのやり取りを思い出して言った。が、その慢心は危機を招く。カレンの雷はその全てを撃ち落としてはいなかった。撃ち漏らした数発のミサイルが、煙を越えて向かってくる。
「カレン、油断大敵なのだよ」
 カレンの後ろからジュレールが体の向きを変え、機晶姫用のレールガンを構えた。電磁加速され発射された弾は、残りのミサイルを的確に撃ち落とした。
「わっ、ナイスフォローだよジュレ!」
「落とされたら溜まったものではないから、我も容赦はしないのだよ」
 こうして敵の先制攻撃を見事防いだ中央の谷部隊は、敵軍との距離が近付いてきていることを理解した。同時に、北から南へと突風が吹いた。その風は砂を孕んでいて、パラパラと音を立てて一行の背中に砂の感触を与えていた。
「……砂塵ですね」
 運良く技師ゴーグルを持っていた影野 陽太(かげの・ようた)は、そのゴーグルをすかさず顔に装着した。もっとも、風向き的に彼の目に砂が入ることはまずないのだが、きっと彼は臆病、良く言えば慎重派なのだろう。そしてこの砂塵を好機と捉えた一行は、風に乗り進軍を開始した。

 少し進むと、一行は妙な空間を発見した。砂塵が吹き抜ける中、ある軌道だけがぽっかりと砂の横断を阻んでいたのだ。まるでそれは、ポルナレ……もとい、何者かが姿を消していて、砂を弾きながら向かっているかのようである。
「俺だって、ヨサーク船長の役に立ちたいんですっ。いきますよ……!」
 陽太は星輝銃の銃口をその空いた軌道に向けると、シャープシューターで狙い撃った。慎重な彼は、スプレーショットも併用しその周辺にも弾を放つ。すると少し離れたところから、バス、と何かに光線が命中した音が聞こえた。
「やった! 命中です!」
 どうやら予想通り、姿を消した侵入者が迫ってきていたらしい。しかしその作戦は、砂塵と陽太の銃撃によって未遂に終わった。敵もそれを悟ったのだろう、イタチの最後っ屁のような、狙いの定まっていない弾丸が空間から数発放たれ、軌道は元へ戻っていった。
「やっぱり、もう敵は目の前みたいですね」
 銃口を下げ、陽太が緊張気味に呟いた。彼の言う通り、ヨサークの部隊はもうフリューネ部隊のすぐそばまで来ていたのだった。
 じき砂塵は止み、ヨサーク部隊はフリューネ部隊の姿をついに捕捉した。横に広がったフリューネ部隊を見て、彼らはその数の多さに一瞬怯む。が、風向きと戦略次第ではいくらでも攻略は可能なはず。そう信じ、彼らは各々の正面にいる敵へと挑むのだった。

 今しがた奇襲を防いだばかりの陽太の前にいたのは、飛空艇に乗ったふたりの女性。片方はセミロングの髪につり目の、なんとなく反抗期っぽい女子高生。もう片方はウェーブがかった髪にいかにも海賊がかぶりそうな帽子を乗せている、カリブ海にいそうな女。ふたりともちょっと男勝りな雰囲気があったため、陽太は少しびびって目を逸らした。しかしここで踏ん張らねば、何のためにこのルートに来たのか分からない。陽太は本陣にいるであろうヨサークのことを思い出し、星輝銃をふたりの乗り物に向けた。
「君に恨みがあるわけじゃないですけど……尊敬するキャプテンのためです」
「こっちだって退くわけにはいかないのよ。てか、目を見て話しなさいよ、イモね」
 反抗期が陽太をキッと睨みつけた。陽太は怯えを紛らわせるかのように、星輝銃を乱射した。銃口から飛び出た幾重もの線は、直線軌道で四方へ飛んでいく。反抗期はとっさに距離を置き、近くにいた仲間の真横に飛空艇をつけた。その仲間も彼女動揺飛空艇に乗っており、ピンクの長い髪が特徴的な女だ。将来歌手になりたそうなオーラが出ているので、ピンク歌手と呼ぶ。そのすぐ近くには、ピンク歌手のパートナーであろう男もいる。さらっとした金髪と青い瞳をした彼は、いかにもハリウッドの青春映画に出てきそうだ。とりあえずビバリーヒルズとでも呼んでおこう。震える手で銃を構えたままの陽太をよそに、反抗期とカリブ海、ピンク歌手にビバリーヒルズは何やらこそこそと会話をしていた。
 もしかして、今がチャンス?
 そう思った陽太は、まとめて敵を倒そうと決死の突撃を試みる。その時だった。彼の背後から、ばささっ、という音と共に何かが飛んできた。反射的に陽太は振り向く。もちろん姿勢を変えたのは陽太だけでなく、その他のメンバーも同じであった。そこで一同が目にしたものは、驚くべきことに大量のエロ本であった。なぜエロ本がこんなところを飛んでいるのか、それは誰にも分からない。普通ではありえないが、もしかしたら誰かの祈りがエロ本をここに呼び寄せたのかもしれない。しかしこのエロ本は、戦局を大きく揺るがしはしなかった。仮にこの部隊が健全な青少年ばかりで構成されていたとしたら、この瞬間部隊は全滅していただろう。しかし幸いにも、この中央の谷ルートを進むヨサーク部隊のメンバーはそのほとんどが女性であった。故に、この飛来物はたいした効果がなかった……かのように思われた。
 構成メンバーが「ほとんど」女性ということは、ごく一部だが男性もいるということである。それにはもちろん、今反抗期たちと一戦交えている陽太も該当する。加えて彼は、あのエロ集団でお馴染みののぞき部部員でもあった。自ら積極的にエロへの執着は燃やさないものの、逆にそれは彼のむっつりさを示していた。健全な青少年である彼は、流れてくるエロ本を仲間に見つからないようにすっと一冊だけキャッチし、さりげなく服の下に隠した。そして周りの視線が自分に向いていないことを確認すると、こっそりとページをめくり始めたのだった。
「こ……こんなところまで見せちゃうんですか!?」
 彼はもうすっかりエロ本に首ったけである。そこに、追い打ちをかけるようにさらなるエロアイテムが飛んでくる。それは、素晴らしいプロポーションのブロンドガールが描かれたセクシーな看板だった。この風は卑猥なものしか運んでこないのだろうか。
 この状態を勝機と見たピンク歌手は、飛空艇を陽太に向けて飛ばした。スピードがついたその飛空艇は陽太を飛空艇ごと弾き飛ばし、陽太は180度体を回転させた。そこに後ろから飛んできたセクシー看板が挟み撃つようにぶつかり、陽太の顔面にジャストミートする。陽太は鼻血を噴出させながら空へと投げ出された。不幸中の幸いと言うべきか、その鼻血は風に乗り、陽太の直線上にいたカリブ海の視界を遮った。その直後、すっかり気を失った陽太もカリブ海の豊満な胸にダイブしてきた。ある意味そこもカリブ海である。
「……ちょ、ちょっと何するんだい!」
 不測の事態に動転したカリブ海は、気絶状態の陽太と共に雲海へ沈んだ。

 陽太がやられるや否や、ピンク歌手とビバリーヒルズがいるところに如月 玲奈(きさらぎ・れいな)がやってくる。彼女を後ろに乗せ、飛空艇を運転しているのはパートナーの如月 葵(きさらぎ・あおい)である。そしてその横を、もう一機の飛空艇。こちらに乗っているのも、玲奈のパートナーであるジャック・フォース(じゃっく・ふぉーす)レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)だ。
「野郎を後ろに乗せて、何が楽しいんだちくしょう……」
 銀色の着ぐるみを身につけたジャックは、運転しながら小さくぼやいた。
「同意ですね。私もせっかくなら綺麗なお嬢さんの後ろに乗りたかったですよ」
 どうやらジャックとレーヴェは、この分配にあまり納得がいっていないようだった。
「ほらふたりとも、愚痴はあとあと! 特にジャックはこないだアグリおじさんに助けてもらったんだし、全力で手伝うよ!」
 玲奈のそんな言葉で、ジャックは少し前の出来事を思い出す。自分が敵船で窮地に陥った時、助けてくれたヨサークとそのパートナーのことを。
「分かってるってんだ。あのふたりに助けられた恩、ここで返さないでどこで返すんだよ!」
 2機の飛空挺は、ピンク歌手とビバリーヒルズ目がけ突撃する。とそこに、新たな敵の姿が見えた。飛空艇に乗ってはいるが、背中に白い翼を生やしている、やんちゃそうな守護天使だ。パッと見口が悪そうなので、ガヤと呼ぶ。ガヤの出現に気を取られた玲奈たちの背後から、先ほどとは別のセクシー看板が飛んでくる。今度の看板に描かれているのは、色っぽい黒人女性らしい。玲奈たちがそれに気付くより先にその存在を視認したビバリーヒルズとガヤは、看板に注意がいかないよう自分たちに目を向けさせようという作戦に出た。
「おい、そこの駄犬! くっせーぞ、風呂入ってんのか? それと後ろの眼鏡、クールぶりやがって、本当は眼帯女のデカパイが気になってしょうがねーんだろ、このムッツリスケベが! つか、なんだよ、眼帯女のデカパイ。巨乳はステータスってか。どうせおまえ夜な夜なおっぱい大きくする機械に吸わせてんだろ? このアバズレが!」
 ガヤがその名の通り、汚い言葉を一気に浴びせる。
「な……なんて口の悪い人なの?」
 思わず玲奈が非難めいた言葉を口にすると、ガヤの矛先は彼女に向いた。
「ああ? うっせーぞ、クレーター胸! 何発隕石落ちたんだ? 完全にえぐれてるじゃねーか!」
 一斉に黙り込む玲奈たちを見て、ガヤは勝利を確信した。しかし彼女たちは、傷ついて黙ったわけではなかった。激しい怒りを沈黙へと変えていたに過ぎないのだ。あの男は生かしてはおけない。4人の意思が揃った。まず、背後からの飛来物を警戒する役目を負っていた葵が看板の存在に気付き、隣を飛ぶジャックにも回避を促す。あっさりとスルーされた看板は、玲奈たちを撃墜させようとしていたビバリーヒルズの横をかすめていった。そして2機の飛空挺は素早くガヤを取り囲むと、さっきの仕返しとばかりにガヤを集団でボコボコにした。
「誰がクレーターよ!」
「オレは毎日シャンプーしてんだぞ!」
「許さない……この鞭の餌食になるのよ」
「覚悟はよろしいですね」
 氷術やトミーガン、光条兵器の鞭などでずたぼろになったガヤは、見るも無残な姿で空の向こうへ消えていった。



 一方、初撃のミサイルを撃退させたカレンとジュレールは、同じイルミンスールの生徒たちと向かい合っていた。片方は箒に乗った、いかにも「はわわ」とか言いそうな子供、もう片方は飛空艇に乗った、銀白のカラーで身を包み暗闇でも目立っている女らしき人。
「同じ学校の子でも、容赦しないよー!」
 カレンは再びその杖から雷を生み出し、はわわと銀白を焦がそうと閃光を飛ばす。が、そこは子供でもイルミンの生徒。はわわも雷術を使い、雷同士を衝突させた。
「やるねー、でも負けないよ!!」
 上下左右、ありとあらゆる方角から鋭角な雷がはわわを襲う。
「は、はわわっ」
 はわわは、はわわと言いながら必死にその雷をさっきと同じように相殺させて凌ぐ。しかしはわわがはわわと言うだけあって、はわわに迫る雷の数と勢いははわわのそれを圧倒しており、はわわははわわだけではなくはわわはわわと何度もはわわと慌てた。
「はわわはわわうるさーいっ!」
 はわわはわわと喚くはわわのはわわを聞き飽きたカレンが、はわわに次なるはわわを言わせる間もなくはわわに向け雷を撃つ。が、そこに銀白が立ちはだかり、ディフェンスシフトを用いて防御の姿勢を取る。どうにかカレンの雷を防いだ銀白は、その手にハルバードを構える。が、雷を使う相手に先端の尖ったこの武器では相性が悪い。じりじりと劣勢の様子を見せるはわわと銀白だったが、その時彼女たちの目に、またもや何かが飛んでくるのが見えた。それは、イルミンの生徒たちの間でお馴染みのあの熊みたいなゆる族を模した着ぐるみだった。もちろん中に彼は入っていない。それを反撃の糸口にしようとした銀白は、不利と知りつつもその手のハルバードをカレンたちに向けた。はわわはそんな銀白にヒールをかけ、先ほどの防御時に受けたダメージを回復させる。
「私は円卓の騎士ベディヴィエール! この槍をもって戦に勝利をもたらしてみせましょう!」
 大きく声を上げることで、彼女たちの背後に迫る着ぐるみから注意を逸らそうとする銀白。しかしそれは徒労に終わる。
「本物がこんなところを飛んでいるはずがないのだよ」
 カレンの後ろに乗っていたジュレールがいち早く飛来物に気付き、レールガンで撃ち落としたのだ。つくづく中身が入っていなくて良かったと思う。さらにジュレールは続けざまにSPリチャージをカレンに施した。雷を放出し過ぎてガス欠になりかけていたカレンに、魔力が戻る。
「は……はわわ、万事休すなのです……っ!」
「ありがとジュレ! いっくよー!」
 今までで最大の雷がはわわと銀白を襲い、ふたりは仲良く雲海へと落下していった。

 見事敵を撃ち落としたカレンたちだったが、派手に魔法を乱発していた彼女たちは格好の標的にされていた。カレンが気付いた時、既に敵はカレンに向かってミサイルポッドを向けていた。それは、教導団の服を着た女の機晶姫だった。耳が分かりやすい形でメカっぽいので、メカ耳と呼ぶ。
「目標捕捉しました。六連ミサイルポッドの安全装置解除します」
 メカ耳が、ぼひゅっ、っとミサイルを発射した。しかしカレンはさほど動じない。
「へへーんっ、それはさっきも壊したヤツだもんねーっ!」
 そう、ミサイルの迎撃は彼女にとって、既にこなれたものだったのだ。カレンは回復したばかりの魔力を雷に変え、再度ミサイルを壊そうと杖をかざした。しかし、やはり慢心と共に危機は訪れるのだ。どうやらカレンの目に映っていたミサイルのうち何発かはメモリープロジェクターで意図的につくられたダミーだったらしく、偽のミサイルにも雷を振り分けてしまったカレンはその陰に潜む本物のミサイルを破壊する術をなくしてしまう。瞬間、カレンのそばで爆発が起こる。
「……けほっ、けほっ」
 黒煙で真っ黒になったカレンとジュレール。彼女らの箒はふらふらと蛇行し、今にも落ちそうである。しかしカレンはかろうじて踏ん張ると、ミサイルを撃った犯人を睨み、残りの力を振り絞ってサンダーブラストを唱えた。ジュレールもそれを後押しするように雷を重ね合わせ、二重になった雷がメカ耳に向けられる。だが、そこにメカ耳とパートナーらしき男が現れる。赤目と頬の傷跡が特徴的な、無口そうな人物である。
 無口はその手に持ったラウンドシールドで攻撃を防いだ。さらに、無口のそばには何だかガラの悪そうな男の英霊も佇んでいた。メカ耳、無口、ガラ悪の3人は素早く陣形を取ると、すかさず反撃に転じた。メカ耳が放った銃弾をどうにか避けるカレンだったが、その直後ガラ悪の繰り出した奈落の鉄鎖に捕まってしまう。
「負けたらフリューネに会わせる顔がねぇからな、こんな所で終わるわけにはいかねぇんだ!」
 目に見えない重力の鎖がカレンとジュレールが乗る箒を引っ張り、3人の元へと体が傾く。
「こ、こんな時ルミーナの激レアフィギュアが突風で大量に飛んでくれば……!」
 カレンはよっぽど焦っているのか、意味不明な願いごとをし始めた。その時、突風が吹いて何かが風上からやって来た。
 ルミーナ激レアフィギュアだ。
 無口たちがルミーナのファンであれば、これほど効果的なアイテムはないだろう。しかし残念なことに、無口も、メカ耳も、そしてガラ悪も特にそういうわけではなかった。「なんだありゃ」と興味なさそうに呟いて、ガラ悪は彼女たちの箒を叩き折った。ここであえなくカレンとジュレールは脱落となる。