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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−1/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−1/3
【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−1/3 【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ−フリューネサイド−1/3

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終章 ロスヴァイセ家襲撃



 7日目。
 いつも通りの穏やかな一日だった。晴天の空を白い綿雲がゆったりと泳いでいた。今日もまた何事もなく一日が終わるものとカシウナな人々は信じていた事だろう。だが、日没の差し迫った時刻、それは水平線の上に現れたのだ。
 最初にそれに気が付いたのは、カシウナ空港の管制室だった。茜空と雲海の狭間に八つの機影が見えた。管制室は所属と目的を明らかにするべく無線を行うが反応はない。かなりの速度で南下してくる船達は、間もなくカシウナの人々にその正体と目的を明らかにした。船体に刻まれたドクロのシンボルは、彼らの所属を伝えるのに言葉を必要としなかった。頭上を飛んで行く飛空艇に、住民達は驚きの声を上げる。そして、八隻の船は丘の上にあるロスヴァイセ邸を取り囲んだ。
「……さて、計画通りにいきましょう、皆さん」
 チーホウ空賊団首領・青龍刀のチーホウが無線で各船に合図を送った。それと同時に、甲板上に並んだ各空賊船の小型飛空艇が次々と空へ飛び立つ。獰猛な殺人蜂達がロスヴァイセの屋敷に一斉に群がった。


 ◇◇◇


 一機の小型飛空艇が炎を上げて、ロスヴァイセ邸に突っ込んで来た。
 ふらふらと蛇行しながら飛ぶ姿は、多くの人間がそれを見て何かトラブルがあったと思うだろう。実際、護衛にあたっていた生徒の多くはそう思ったし、フリューネもそう思った。ただ、八ッ橋優子だけはそう思わなかった。
「……どっかで見た事のあるイモ発見」
 飛空艇の座席に乗る二人に見覚えがある。ほんのひと月ほど前、雲隠れの谷で真っ正面から戦った……通称『一人っ子』と『絶滅しそう』であった。二人はヨサーク空賊団に組みしていたと、彼女は記憶している。
 優子は盛り塩を手に取った。ただの盛り塩ではない。ヒマな時に(この数日間は大変ヒマだったが)卵白でガチガチに固め、そして尖端を石槍のごとく鋭く尖らせた一品である。きっとヒマ過ぎると、人間こんな工作をしたくなるのだ。
 シャープシューターで狙いを定め、ドラゴンアーツを使って飛距離を伸ばす。
 おおきく振りかぶって、八ッ橋、第一球投げました。
 大気を切り裂きながら進む盛り塩は、吸い込まれるように絶滅しそうの額に突き刺さり、彼を絶滅させた。


 数十機の小型飛空艇がロスヴァイセ邸を取り囲んだ。
 その時、既に屋敷の各所に均等に配置された生徒たちが、先手を取って攻撃をし始めた。奇襲に来たつもりが完全に不意を突かれたのは、空賊連合のほうだった。混乱したあげく撤退する者もいれば、突撃する者も出た。突撃を仕掛けた勇敢な空賊には、こちらも既に準備を終えた飛空艇所持生徒が迎撃を行った。
「どきなさいっ!」
 窓の傍を飛ぶ空賊艇に、九条風天はストームシールドを手裏剣のように投げつけた。空賊艇はすんでの所でその攻撃をかわした。だが、その隙に風天が空賊艇に飛び移った。白兵武器の扱いは慣れたもの、近接先頭で撃墜を目指す。
「今のうちに、ユーフォリアさんを連れて脱出を……!」
 彼の乗った船はふらふらと庭園のほうに沈んでいった。
 鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)はガラスの飛び散った。廊下を見て愕然としていた。
「ああ、折角掃除したのに……っ!」
 わなわなと震える彼女は、伏見明子のパートナーの一人である。
 彼女と共に潜入し、以来メイドとして仕事に励んでいたのだ。初めこそ、何故魔道書がメイド仕事などしなくてはならぬのかと憤りを感じていたが、最近では仕事にも慣れて、着々と立派なメイドの道を進んで……。
「……って、違う! これでは本当に只の使用人ではないですか!! 一応私もヴァンガード協力者!!!」
 屋敷の雑務をこなす傍ら、邸内のウィークポイントはチェック済みである。すなわち、最も安全な脱出ルートを知っていると言う事だ。ユーフォリアの前に立って歩き、誘導を行う。
 とその時である。ガラスを突き破って、一機の空賊艇が前方に侵入してきたのは。
「ん? おい、そいつが持ってるのがもしかして……」
「身の丈に合わぬ欲望は身を滅ぼす。それを身を持って知るといい」
 空賊の前に、明子のもう一人のパートナー九條 静佳(くじょう・しずか)が立ちはだかった。彼女はユーフォリアの、と言うよりは、女王器の護衛役としてここにいる。空賊が振り回す剣を紙一重でかわし、軽身功を使って懐に飛び込む。
「これが因果応報と言う奴だよ」
 隙だらけの胸に正拳突きを叩き込む。
「ここは私が引き受ける先へ行くんだ……!」


「さあ、ユーフォリア様、こちらへ」
 邸宅の裏には非常時のための地下通路がある。既に、ヒルデガルドはスケルツァーノと共に避難を終え、あとはユーフォリアを逃がすだけであった。フリューネは逃げるつもりはない。ロスヴァイセの人間は伝統的に、戦いもしないで逃亡する事を嫌がる。それはなんとなく、自分が勝負自体から逃げてしまったような気がして、落ち着かないのだと言う。
「……どうしたんです?」
 フリューネが問うと、ユーフォリアは複雑な顔をした。
「やはり……、ここで逃げるわけにはいきません」
 彼女もロスヴァイセの人間、戦わずして逃げる事に抵抗を感じる。
「何を言ってるんです。ユーフォリア様の体調はまだ完全ではありません。今は避難する事を考えて下さい。クィーン・ヴァンガードも迎撃に出てくれていますし、協力してくれた仲間達も今はまだ万全です。しかし、戦況は多勢に無勢、やがて大きく展開が傾けば、逃げる機会はなくなります。ですから、今のうちに……!」
「わたくしなら、心配ありません。この白虎牙が守ってくれますから……」
「ですが……!」
 そうこうしてる間に、フリューネの背後に空賊艇が迫った。
「フリューネさん、お気遣いは嬉しいですが、そもそも、戦と言うものは万全の状態で行えるほうが珍しいのですよ」
 ふっとユーフォリアが目の前から消えた。と思った次の瞬間、背後からパァンと言う激しい音がして、フリューネは振り返った。すると、無人の飛空艇が頭上を通過して飛んでいった。搭乗者がどこに行ったのかわからない。ただ、空中に光の翼を広げたユーフォリアが拳を前に突き出し、浮遊する姿があるだけだった。
「ユーフォリア様……?」
「このような力があって逃げ出したのでは、一族の誇りに傷がつくと言うものです」
 そう言うと、また姿が消えた。フリューネはペガサスのエネフに股がり、天空へ舞い上がる。上空を飛び交う空賊艇が一機、また一機と撃墜されていった。見れば、搭乗者が凄まじい勢いで空に吹き飛ばされているのだった。彼らを吹き飛ばしてるのは、ユーフォリアの正拳だった。白虎牙による神速の飛行能力が、彼女の繰り出す拳を尋常ならざる次元に押し上げているだった。その一撃は、まさに稲妻の如し。
「すごい……、これが白虎牙の力……!」


 ◇◇◇


「さて……、そこまでだ」
 スピネッロはユーフォリアに呼びかけた。
 彼は仕立ての良いスーツに身を包んだ男だ。鼻の下にチョビヒゲを生やし、神経質そうな目を持つ。
 その大型飛空艇はカシウナの街の上に陣取っており、甲板には組織を構成する空賊がすらりと並んでいた。その手にはトミーガンが握られ、銃口は逃げ遅れた住民達に向けられている。
 ユーフォリアの表情が固く強張った。
「俺たちがこうするとは思わなかったのかぁ? 義賊だのなんだのって善人ぶってるおめぇなら、こうすれば何も出来なくなるよなぁ? その女王器を俺たちに渡せ。さもなけりゃ、俺の異名にふさわしい仕事をしなくちゃならなくなる」
「『血まみれ』のスピネッロ……」
 フリューネはユーフォリアの傍らに並び、スピネッロの船を睨みつける。
「おっと……、その場でその女王器は外せ」
 あの神速を警戒しての事だろう。現に彼はユーフォリアとは一定の距離を取って、拡声器を使って話している。言われるままにユーフォリアは女王器を外した。それを確認すると一隻の船が接近した。チーホウの船だ。
「さあ、こちらにその秘宝を渡してもらいましょうか?」
 船の甲板に降り立ち女王器を渡すと、チーホウは細い目をより細めて、フリューネとユーフォリアを見つめた。
「さあ、約束よ。関係ない人達を解放して!」
「もちろん解放しましょう」
 チーホウはスピネッロに合図を送った。住民を解放すると、スピネッロの船は上昇していった。フリューネとユーフォリアが安堵の息を漏らす。そんな二人を尻目にチーホウは甲板上にいる部下に目配せした。機会を窺っていた部下達がなだれ込むように、フリューネとユーフォリアを取り囲んだ。
「なんの真似よ……!」
 空賊たちを見回し、フリューネはハルバードを構えた。
「ワタシは約束は守る男です。確か、女王器と交換するのは住民の命だけ……ですよね? いい機会です。ワタシ達の障害となる義賊サンにはここでご退場願いましょう。さようなら……、フリューネサン」
 一斉に飛びかかった空賊たちは、次の瞬間、鮮血を飛び散らせて甲板から落下していった。
「な……、なんだ?」
「誰だ、あいつは……?」
 空賊たちはフリューネ達の前から飛び退いた。あの刹那、二人の前に飛び込んできたのは、十二星華の一人、獅子座(アルギエバ)のセイニィだった。取り囲む空賊たちはどうして仲間が一瞬でやられたのか、理解出来なかった。そして今、どうしてこの女の眼光に獰猛な肉食獣をだぶらせてしまっているのかも。
「セ、セイニィ……、どうしてここに……」
 状況は好転したのか悪化したのか。フリューネの表情に緊迫したものが浮かびあがる。
「はっ、ださっ。誰かと思えば……、こんな雑魚相手に好き放題されてみっともないわね」
「大きなお世話よ! ユーフォリア様に手出しはさせないわ……!」
「ふん」セイニィは興味無さげに一瞥した「女王器を持ってないあんた達に興味なんかないわよ」
「……なんです、アナタは? フリューネサンのお仲間ですか?」
 ふと、チーホウは哀れむような調子で言った。たった一人で乗り込んできた馬鹿な娘をあざ笑っているのだろう。だが、そんな余裕を浮かべているのは彼だけで、対峙している部下達は蛇に睨まれた蛙状態に陥っていた。
「い……、一瞬で仲間を五人もやりやがった……」
「まったく……、まったく動きが見えなかった……」
「お、おい……、見ろ。あいつの武器を……!」
 人知を越えた力を秘めた女。そして、その手に輝く爪型光条兵器の『グレートキャッツ』。この二つの要素が、重なった時、空賊たちの脳裏に嫌な記憶を蘇らせた。一ヶ月ほど前に空峡を震撼させた見えざる襲撃者【空賊狩り】の噂話を、眼前に佇む女は否応もなく思い起こさせた。
「……空賊狩りだ」どこからともなく声が上がる。
「空賊狩りだ、こいつが空賊狩りだ」次々に声が上がる。
 声色は次第に確信の色を強めていき、同時に恐怖の色がその声に宿っていった。
「話が早そうね。死にたくなかったら、大人しくそこから飛び降りるか、甲板の隅でガタガタ震えてるのね」
 たじろく部下に、チーホウはいら立ちを見せた。
「……何をしてるんです。チーホウ空賊団の看板に泥を塗る気ですか? まさか女一人に本気で怯えてるわけではないでしょうね。敵前逃亡は勝手ですが、その時はワタシがアナタ達を殺しますよ?」
 チーホウは腰に差した青龍刀を引き抜いて、鏡のような刃に部下達の姿を映した。
「う、うわああああ!!」
 恐怖を打ち消すように、雄叫びを上げて空賊たちは飛びかかった。
「馬鹿な奴ら……!」
 セイニィは舌打ちすると、風のように集団の隙間を通り抜けた。無論、ただ通り抜けたわけではない。空賊たちの胸から噴水のように血が噴き出し、十数名いた空賊たちは一瞬にして、自らが甲板に作った真っ赤な溜まりに溺れた。
「ば……、馬鹿な……っ!」
 チーホウは細い目を見開いて、信じがたい光景を見ていた。
 だが、すぐに気を取り直すと同盟を組んでいる他の空賊船を呼び寄せた。


 ◇◇◇


「……集まってきましたね、ここは一旦退却致しましょう」
「そんなユーフォリア様! 大切な白虎牙が奪われたままです。今、このフリューネが奪還して参ります」
 エネフの胴を叩き、チーホウの元へ向かおうとするフリューネ。だが、ユーフォリアが止める。
「何故止めるんですか! ユーフォリア様も戦わず逃げるのは嫌だと言ったじゃないですか!」
「フリューネさん、あなたは今、考え違いをしています」フリューネの肩に手を置く「戦って負けるのは構いません。何故なら、自分を成長させてくれるからです。ですが、戦って死ぬのは許しません。理由は……、言わずともわかるでしょう」
「……わかりました。撤退しましょう」
 しぶしぶ了承すると、ユーフォリアは微笑んだ。
 チーホウの大型飛空艇を中心に、先ほどのスピネッロやミッシェルが集まってきた。フリューネとユーフォリアを乗せたペガサスは、低空飛行で市街地に潜った。ここならば、空賊艇の目を誤摩化しやすい。前方に屋根の上を跳んで移動する、ヴァンガード隊の隊長、鷹塚の姿が見えた。確か彼はロスヴァイセ邸の傍で指揮を執っていたはずだ。
「フリューネ、ユーフォリア……、二人とも無事だったか」
「どうしてここに。お屋敷はどうなったの……?」
「……防衛線を突破されてからはもろいものだった。物量の前に叩き潰されるとは……、我々がセイニィに使った手で破れるとは皮肉なものだ。通信が不能となってからは、各自の判断で撤退している。無事だと良いのだが……」
 鷹塚は、丘の上で火の手を上げるロスヴァイセ邸を見つめた。
 その時、上空から落ちてきた何かが、屋根の瓦を粉々に粉砕した。
 跳ねて屋根に転がったのは……、紛れもなくセイニィだった。彼女は咄嗟に受け身を取ったものの、衝撃を逃がしきれなかったのか、立ち上がる事が出来なかった。その両腕のグレートキャッツからは、パチパチと火花が上がっている。
 フリューネと鷹塚は身構えるが、その横をユーフォリアが素通りした。
「いけません! 彼女は危険です、近付いては……」
「先ほどはあなたのおかげで救われました。ありがとうございます。さあ、安全な所まで避難しましょう」
 そう言って、手を差し伸べるユーフォリアを、セイニィは青白い顔で見つめた。
「よ……、余計なお世話よ。あたしの戦いはまだ終わってない……」
「無理をされてはいけませんわ」
「まさか……、その女を連れて行くつもりなんですか?」
 フリューネが困惑した表情で問うと、ユーフォリアは静かに頷いた。
 セイニィが十二星華なる敵対者である事。これまでに何度もフリューネを含め仲間たちが傷を負わされた事。フリューネはセイニィの危険さを訴えたのだが、ユーフォリアはそれでも助けるべきだと主張した。
「今助けられる人を見捨てる事は出来ません。5000年の間にロスヴァイセの伝統は変わってしまったのですか? 常に高潔であれ、ただそれだけが騎士の一族としてロスヴァイセにかせられた、唯一の高貴な義務ですよ」
「……時間がない。連れていきたまえ」と鷹塚は言った。
「ヴァンガード隊はセイニィを追ってたんじゃなかったの?」
「我々は彼女の死体を見るために追っていたわけではないよ。私が撤退の時間を稼ぐ……」
 鷹塚は上方を注視した。市街上空には腐肉にたかる蠅のごとき密度で、空賊艇が飛び交っている。





つづく

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、公開が遅れてしまいまことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。

今回、セイニィに接触する生徒が予想以上に多かった事に驚きました。
しかも、敵対アクションよりも、友好アクションが圧倒的に多かったです。
この皆さんの行動は、間違いなく彼女の今後を左右する事になると思われます。

それにしても、セイニィがなんだか、すごく過保護にされてる感じになってしまいました。
寝っ転がってるだけで、みんなが食べ物を持ってきてくれるなんて、全人類の夢ですね。

次回シナリオガイド公開日は、私は把握してませんが、萩マスターが知ってると思います(笑)
それでは、また次回、お会い出来る事を楽しみにしております。