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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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【十二の星の華】狂楽の末に在る景色(第2回/全3回)

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「痛みを伴う症例なら応急処置の後に、それ以外の再発患者は、ここに集めるんだ! 急げ!!」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の声が川原の一角から放たれた。
 同じく村中で発症者たちを集め、診察と治療をしていたのだが、再発者が現れた事で手法を改めた。村の中と外、その全ての患者を診なければ本当の解決策は生まれないと判断しての事だった。
「手の空いている者は言ってくれ、呆けてる暇こそ無いぜ!」
「エース! この人」
「どうした?」
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が担架に横たわるヴァルキリーの肌を指した。
「肌の水分が無くなっていくんだ。腹部から、どんどん広がってる」
「……っつっ、アリシアさんの所に水が確保されてる。まずはそこへ連れていくんだ! エオリア、先導してやれ」
「はい」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は次を言われる前に乾いた皮膚にナーシングを唱えた。
「新たな症例だ、しっかり伝えてくれ」
「分かりました」
「自分も行こう」
 エオリアに代わり、片方の手で担架を持ちながら、ラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)はもう片方の手でヒールを唱えた。
「器用ですね」
「君もやろうとしていただろう? ナーシングの方が負担は大きいからな。自分がやろう」
「ありがとうございます」
 3人がアリシアの元へ向かった時、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は頭を掻いていた。大神 愛(おおかみ・あい)と広げて見るカルテが、2人を悩ませていた。
「なぜ発症までの時間に差があるのです」
「えぇ、見事にみんなバラバラです」
 治療した後に、2人は患者たちから状況を細かく聞き、カルテを作成していた。
 一行は、一度は全ての村人たちの治療を終えていたので、発症者の把握は完了していたのだが、一人一人を結ぶ共通点は、なかなか
に見つけられないでいた。
「再発者に至っては、前症状からの推移なども考慮する必要があります… よね?」
「… 恐らく…」
 それをするという事は、とんでもなく膨大な場合分けを手作業で解いてゆくようなもので…。
「うぅん、やりましょう、やりますよ!」
「はい! もちろんです!」
「早速です!」
 気合いを入れ直したメシエが問いたのは、ヴァルキリーではなく霧咲 命(きりさき・みこと)であった。
「えっ、何で私に聞くの?」
「彼女、まだ苦しそうでしょう? だからあなたに」
「治療していて気付いた事はありませんか?」
「気付いたこと…」
 腕の中のヴァルキリーは左腕を地に垂れている。重い、動かないと言っていて、それが時間と共に全身に広がったと言えた。
「自由に動かせないと言ってたわ。神経系の毒なのかも」
「神経系…」
 これも新しい症例だった。一体どれだけの種類があるというのだろうか。
「ありがとうございます。何かあったら、すぐに言って下さい。すぐに駆けつけますので」
「お願いします」
 メシエは、新たに発見した症例を含むカルテをアリシアの元へと運んだ。カルテに目を通しながら、アリシア・ルード(ありしあ・るーど)リアトリスからの報告も同時に聞いていた。
「それはつまり、水晶化の目的は、川ではなく、あくまで村、という事でしょうか?」 
「そう… とも考えられるかと…」
 ガラクの村からトカール村まで。調査をしながら川を下ってきた。枯れた草木はガラクからトカールの川縁に見られた為、毒がガラクから流れてきた事は間違いない。ただ川縁の水晶化に関しては、ガラクを離れるとすぐに見られなくなったのだ。
「ヴァルキリーたちを苦しめている毒は、三槍蠍の毒にほぼ間違いないでしょう。彼らがその蠍と戦うという事は…… こちらからも応援要員を出す必要がありますね」
「なっ… くそっ」 
 アリシアの言葉を聞いたエースは、たまらずダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に電話をかけた。
 ダリルは、イルミンスール魔法学校、ベルバトス ノーム(べるばとす・のーむ)教諭の研究室にて、教諭と共にトカール村の川から採取した毒の解析をしていた。
「ダリル! 解毒薬は、まだなのかっ!」
「今やっている、しかし、この毒は−−−」
「ダ−リ−−ル−−−!!!」
 受話器の向こうで大きくなってゆく声は、エースにも聞こえてきた。この声は、どうやらルカルカ・ルー(るかるか・るー)のようだ。
「ダリルが作って、私が届ける! 邪魔する者は全てどいてもらうわよ!! −−−って思ってたのに!!! どうして薬が出来ないのっ!?」
 机をバンバン叩いている音も聞こえてきた。受話器の向こうのやりとりを聞いたエースは、僅かに落ち着きを取り戻していた。
「ダリル、こっちも人手が足りないんだ。何とか、解毒薬を完成させてくれ」
「分かっている、全力でやっている、しかし−−−」
「解析作業が難航している、という事ですね?」
 静かに言ったアリシアは、受話器に近づき、そのままに続けた。
「三槍蠍の毒は、蠍の状態によって成分が異なります。村に蔓延した毒は、恐らくそれらの毒の幾つかが複合されているのだと思います。だとすると−−−」
「そぅ、解毒する順序や程度を全てシュミレーションしなければならない。全ての症状を一度に治す薬なんて、くっくっくっ、時間かかるよぅ」
「ノーム様!」
「アリシア…… 無事なのか? 無事なんだろう! そうなんだろぅ?!!」
 受話器を完全に取られてしまった…。何なのだ、この引力は…。
 アリシアはトカールとガラクにおける現状を、教諭に報告した。
「どうやら、だいぶ混乱しているようだねぇ」
 ドォォォオン!!
 受話器の向こうから聞こえた爆発音。
 聞いた一同は、もちろんに慌てたが、教諭だけは、静かに言った。
「爆発物… 相変わらず自己主張の強い男だ」