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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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「目安としては、新規に店を出した所でしょうか」
 ペコ・フラワリーにくっついて闇市を回りながら、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は言った。
「右手を持ち去った海賊本人が店を出しているのであればそうでしょうけれど、そうとは限らないところがやっかいですね」
「店を出すのではなく、店に売りつけているかもということですか?」
 ナナ・ノルデンは、ペコ・フラワリーに聞き返した。
「ええ。あちこちに、女王像買いますとかの看板が出ていますから。クイーン・ヴァンガードがいかに事を表立たないようにしたくても、裏の世界の口までは塞ぐことはできないということのようですね。元々女王像は、最高に高価な売り物ですから、人寄せとしても有効なのでしょう」
 周囲を見回して、ペコ・フラワリーが言った。営業停止という張り紙をされた鍋の横で買い取りの幟をあげている店など、それらしい店はいくつもある。本物を売るには、意外と容易い環境だ。
「そうですね。ほしがる人は多いですから。アルディミアクも力を欲して、星拳を奪うためにココさんを狙っているんでしょうか」
「星剣を手に入れるためには、持ち主を殺すしかないそうですから」
「ココさんの言うとおりなら、姉妹で殺し合いなんて……」
「もちろん、そんなことはさせませんとも。それに、リーダーと妹さんは、本当の姉妹ではないそうですから。パートナー契約を結ぶときによくあるでしょう、姉妹や兄弟としての強い絆を約束するということは。それは、時に本当の姉妹よりも強い絆で結ばれるということなのかもしれません」
 きっぱりと、ペコ・フラワリーが言った。
「でも、それならなんで二人が戦うことに……。一つの仮説をたてたんですけど。もしかしたら、シェリルさんは誰かに洗脳されて、ココさんをいもしない姉の仇だと思い込まされているんじゃないかって」
 先に手に入れた十二星華プロファイルを根拠に、ナナ・ノルデンが言った。
「もしかすると、いいえ、多分間違いなく、星拳をほしがっているのは、シェリルさんを操っている海賊か、十二星華のティセラだと思います」
「でも、それほど単純ではないでしょう。単に星拳がほしいだけなら、アルディミアクを殺してしまえばいいだけです。彼女がシェリルであるなら、リーダーの星拳も呼び出せなくなりますから、自動的に二つの星拳が手に入ることになります」
 二人がパートナー同士であるならば、星拳自体は両方ともアルディミアク・ミトゥナに属していることになるからだ。だが、そうであるならば、アルディミアク・ミトゥナがココ・カンパーニュの意志を押さえて光条兵器である星拳をコントロールできるはずである。そもそも、一つであるべき星拳が二つに分離していること自体が異常であるのだ。何か、それを可能にしている理由があるに違いない。だが、それは今のところまったくの謎であった。
「でも、十二星華でなければ、星剣を使いこなすことはできないようです。パートナーの代わりはいるにしても、十二星華を殺してしまっては意味がないのでしょう」
 ナナ・ノルデンが首をかしげる。
「つまり、星剣本来の力を使って何かをする計画があるということですね。単純に、ティセラにしても海賊にしても、手下としての戦士がほしいだけかもしれませんが。でも、普通に考えたら、何か目的があるはずです」
「ティセラは、自分がシャンバラの女王になるという目的がありますから。海賊は、何が目的なのかしら?」
 ナナ・ノルデンが考え込んだ。単純に海賊がティセラ・リーブラの部下ということで理由がつきそうでもあるが、どうもそれだけでは説明できないことも多い。
「単純に、力のある部下がほしいだけかもしれませんし、ティセラと何か密約があるのかもしれませんが。でも、今のアルディミアクの力でも、充分に強いはずです。それをさらに強くする必要があるのか、あるいは、リーダーが敵に回りそうなので今のうちに潰そうとしているのか。いずれにしても、本人の口から語ってもらうしかないでしょう」
「そのためには、海賊たちからシェリルさんを引き離すのが一番だと思います」
「ええ。ですから、彼らがほしがっている女王像の欠片を使って、うまくアルディミアクだけをおびきださないと。すべてはそこからです」
 ペコ・フラワリーは、ココ・カンパーニュのために、決意を新たにした。
 
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「なによ、ちっともそんな本なんか売ってないじゃない」
 ゼイゼイと荒い息をしながら、リン・ダージはうずくまっていた。
 買えたのは、『胸の大きさが人の大きさでありんす』と『たっゆんこそ正義』という、片袖脱いだハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の写真が表紙に使われている怪しい本だけだ。もちろん、内容はいいかげんで役にもたたない。
「ふっ、我はまだまだ探せるのだ」
 役にたたない本を三冊も買ったジュレール・リーヴェンディが勝ち誇った。
「そんな本、役にたつものですか。リーダーのようなたっゆんになるのは、このあたしなのよ」
 負けじと、リン・ダージが言い返す。もしここにココ・カンパーニュがいたら、軽くゴツンと頭を叩かれていただろう。
「それだけど、ゴチメイたちは、ココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナの関係をどう思っているのじゃ?」
 ジュレール・リーヴェンディが、ずっと不思議に思っていたことを訊ねた。
 二人の関係は、現在かなり殺伐としている。ゴチメイたちもそのへんの事情は聞かされていなかったわけであるから、思うところのこともあるのではないだろうか。
「それがどうかしたの? 別にリーダーがあたしたちに対して極悪非道に変わったわけじゃないんだし、むしろ、リーダーの力になってあげられるチャンスじゃない」
 きっぱりと、リン・ダージは言った。この程度で崩れる信頼なら、そもそもココ・カンパーニュについてきてはいない。
「騒がしいですね。ゆっくりとお酒も選べないです」
 ギャアギャア言い合うリン・ダージとジュレール・リーヴェンディに、闇市の密造酒を吟味していたノルニル『運命の書』が言った。
「ちょっと、お子様がお酒なんていいの?」
 お姉さんは許しませんよと言う感じて、リン・ダージが言う。ノルニル『運命の書』の外見は、どう見ても五歳ほどの幼女だ。
「私は、こう見えてもずっと昔からある魔道書ですから。合法です」
 きっぱりと、ノルニル『運命の書』が言った。
「あたしは、合法よ」
 リン・ダージが言い返す。
「わ、我だって……」
 ジュレール・リーヴェンディは嘘をついた。
「だったら、飲み比べでも……」
 ノルニル『運命の書』が挑発する。
「はーい、そこまで、そこまで」
 駆けつけたカレン・クレスティアが、二人を両脇にかかえあげた。暴走するお子様二人に、やっと追いついたというところだ。
「ジュレはまだ未成年でしょ。めっ」
 軽く叱ると、暴れる二人をかかえたままカレン・クレスティアはココ・カンパーニュの許へと帰っていった。
「つまらないですね。せっかく飲み比べができると思ったのに」
 ちょっと淋しそうに、ノルニル『運命の書』はつぶやいた。
 
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「それらしい物は、まだありませんな。どれも明らかな紛い物ばかりで、吟味する必要すらないくらいです」
 地元の教導団所属だからということでココ・カンパーニュたちを先導しながら、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が言った。
「本当、ごちゃごちゃといろんな物売ってるなあ。教導団のお膝元なのに、みんな大胆だよなあ」
 キマクでのバザーを思い起こして、ココ・カンパーニュはつぶやいた。あそこも、盗品や拾い物はあたりまえ、へたをすれば、敵対蛮族の襲撃まであるエキサイトなバザーなのだが、ここはそれと同じ臭いがする。
「教導団としても、何もしていないわけではないのだよ。ちゃんと監視をしているし、目に余ればガサ入れをしたりしているのだ。大きな声では言えないが、今日はこの闇市に手入れがあるという情報がある」
 さりげに、イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)がつかんでいる情報を伝える。
「それはまずいよ」
 困ったように、ココ・カンパーニュが言った。
「ああ。だから、急いで探した方がいいのであるが……」
 そう簡単にはいきそうもないことを、イングリッド・スウィーニーは熟知していた。なんにしろ、この闇市は大きくなりすぎたのだ。教導団が目をつけてもしょうがない。
「教導団としては、闇市の手入れが第一目的ですから。一斉検挙の命令が出るまでは、みんな自由というわけです。逆に言えば、時間は限られているわけですな」
 左右に並んだ店に目を走らせながら、道明寺玲が補足した。
「おや、珍しい物を売っていますね」
 何かを見つけたらしく、道明寺玲がふらふらと一つの店に吸い寄せられていく。
「さあさ、珍しい地球産の紅茶だよ。買っていってくれ」
 店の男が、愛想よく言う。
 紅茶缶の一つを手に取った道明寺玲は、裏を見てラベルを確認する。しっかりと、教導団の配給品のシールを剥がした後がある。横流し品らしい。
 すっと横目で合図すると、すかさずイングリッド・スウィーニーがメモをとる。後で検挙するための物だ。
「それはそれ、これはこれですね。いかがですか、お一つ。プレゼントいたしますよ」
 道明寺玲は、一番よさそうな紅茶缶を一つ買いあげると、ココ・カンパーニュに渡した。
 
 
3.花の香り
 
 
「おっしゃあっ! 行くぜい、円」
 今やカリン党のトレードマークとなりつつあるプロレスマスクを被った吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、桐生 円(きりゅう・まどか)を大声で呼んだ。
「うげげ、なんだよ、あの黄色いプロレスマスク……。もう、やだぁー」(V)
 吉永竜司が女王像の右手を持ち逃げしたらしい海賊を見かけたと言うから話を聞こうと思ったのだが……。怪しい、あまりに怪しい。いや、普段が怪しくないと言ったら嘘になるが……。
「おーい?」
 呼べどもついてこない桐生円に、業を煮やした吉永竜司は、ずんずんと道を引き返し始めた。それに合わせて、桐生円がさささっと後退する。両者の距離は縮まらなかった。
「これはまた、面白い絵が撮れますな。国頭書院のライブラリに加えておきましょう。タイトルは、ずばり『美ぺったんと野獣トロール』ですな!」
 ビデオカメラを回しながら、アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)がほくそ笑んだ。
 未だにゴチメイからのビデオ出演契約はとれていないが、いずれは必ず撮るつもりではいる。だが、そのためにも、今日は逸品を手に入れなければならなかった。その名も、象に踏まれても壊れないビデオカメラ。国頭書院の他のメンバーが泣いて喜びそうなカメラだが、このヒラニプラの闇市なら、きっとあるに違いない。
「いいか、以上が奴の特徴だ。きっちり捜そうぜ」
 戻って桐生円を捕まえた吉永竜司が、捜している海賊の裏切り者の特徴を彼なりに伝えた。
「ああ、うん、分かった。おお、オリヴィアとミネルバがやってきた。よし、ここからは手分けしようぜ」
 周囲の視線を気にしながら、桐生円は答えた。まったく、怪しいプロレスマスクの怪人とスレンダーなゴスロリ少女の組み合わせでは、まさに美女と野獣だ。突き刺さってくる視線が痛い。
「ああん。手分けして捜すって、おい。まったく、しょうがねえなあ」
 逃げるように走り去っていく桐生円を見送って、吉永竜司が苦い顔をした。せっかく、一緒に来たいというから買い物に突き合う約束をしたのに、かわいい後輩とはいえ気紛れなものだ。いつの間にか、アイン・ペンブロークも自分の買い物に夢中になってはぐれてしまっている。
「さてと。おい、女王像の右手を知らねえか」
 いきなりすぐそばの通行人をむんずとつかむと、吉永竜司は彼流の訊ね方を始めた。
「ひー、あっちに一刀彫りの女王像売ってます。命だけは助けてくださいー」
「そうか。ありがとな」
 泣きながらいんすますぽに夫の店を紹介する通行人に短く礼を言うと、吉永竜司はそちらへむかった。
「ふう、やっと離れられた。まったく、少しは格好という物を考えてきてほしいもんだよなあ」
「円ちゃん、楽しそー」
 ほっと一息をつく桐生円を見て、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)がニコニコとしている。
「どこをどう見たら、そう見えるんだ」
「まあまあ」
 ちょっと怒る桐生円を、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がなだめる。
「この人混みの中で、目的の物とか人を探すのは難しいだろうからねえ。そこで、ちょっと目標を絞ってみたんだよ。ほら、キマクで、変な花の匂いをかいだろう。あれなら探しやすいと思うんだよねえ」
「ミネルバちゃん、あの匂いちゃんと覚えてるから探せるよー」
 はいはーいと手を挙げながら、ミネルバ・ヴァーリイが答える。
「いちおう、百合園女学院の温室でそれらしい花を探したんだけど、結局見つからなくてねえ。特別な花みたいだよー」
「じゃあ、それを探すとしよう」
 オリヴィア・レベンクロンの提案に、桐生円は乗った。女王像の右手を探すと、また吉永竜司と鉢合わせして、かわいい後輩攻撃を受けるかもしれない。それに、別の方向からアプローチした方が、手がかりは得やすいだろう。
 あの強い花の香りが、何かの薬か香水だとすれば、アルディミアク・ミトゥナの近くに行けば、その香りがするはずであった。あの花の香りのする部屋に籠もっていたらしいアルディミアク・ミトゥナは明らかに様子が変であったし、それに、変な声を聞いたような気もする。
「んーとね、こっちから匂いがするー」
 ミネルバ・ヴァーリイの案内で、桐生円たちは謎の花を探し始めた。