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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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 4.町・商店街

 町へ着くと、学生達は青年に先導され広場へと連れて行かれた。
 青年は、前回「迷いの森」で助けられた【町民討伐隊】の生き残りである。
「レンさん達、【リトルブレーメン町民相談役】の方々から連絡を受けております。お2人の蝋人形をお持ち致しました」
 彼はそう言って一行を広場に通したのだった。
 広場には人だかりがあり、中央の台座の上に【自警団】の面々に守られて2体の蝋人形が置かれていた。
 ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)オルフェウス・ジュニアのものである。
「これが無くなると、売れ行きがさっぱりになってしまうんだけれどもねえー……」
「天使のピエロ」の店長は残念そうに呟いたが、町民達の視線を受けて慌てて口元を押さえた。
 傍らには、オルフェウスを心配そうに見上げるトンボの姿がある。
(そういえば、トンボさんはオルフェウスの姿がおかしいって言ってたんだよね?)
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)はいち早くオルフェウスに近づいた。
(前回は、彼をじっくり観察出来なかったことだし。何か違いはあるのかな?)
 ルミーナとの違いを見比べる。
「『竪琴』と『光精の指輪』があるかないか、なのかな? やっぱ」
「『光精の指輪』がネック、ということですね?」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は首を傾げる。
「『光精の指輪』ではなくて『光輝属性』そのものに秘密がある、とか?」
「そんなに深い読みしなくてもいいと思うけどな! お譲ちゃん!」
 ふむふむと蝋人形をのぞき込んだのは、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)
 傍らで「邪魔するなよ!」と、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が鋭い目で睨む。
「それより、俺はこのオルフェウスってニーチャンに、『楽器』が無いのが気になるんだけどよお」
 オルフェウスを指さす。
「吟遊詩人なんだよな? しかも森を進むには音楽が必要って話だ。なのに無いじゃないか! どう考えても変だよな」
「…それは、俺も不思議に思っていたことだな」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)はアストライトの意見に同意する。
「…俺はそれが、ルミーナが持っている『竪琴』ではないのかと思うのだが。仮にそうだとして、問題はその使い方だな」
 単に竪琴を弾けばいいだけなのか? 
 何か特定のを奏でないといけないのか?
 それとも歌か?
 顎先に、優美に手を当てて考え込む。
「…何故、『森』に『音楽』なのだろう? 『森』というよりも、トレントに有効なのか?」

 その後、集まった町民達の1人1人にアストライトがオルフェウスの楽器について聞き回った。
 だがヴィゼントの横やりで、なかなか進まない。
「キサマは目を離すと何をしでかすか分からん。見張りも兼ねて一緒に行かせてもらう。それでいいな?」
 ということらしいが、アストライトが町人に声をかける度に間に入られては、聞き込みなど出来ようはずもない。
「それでも『竪琴らしい』ってことだけは、聞けたがよおー」
 ぶつぶつと呟きつつ、アストライトは一行に自分の成果を報告した。
「どうも、ルミーナの持っている『竪琴』らしいぜ!」

 だが結局、『竪琴』と『光精の指輪』が怪しいことだけは分かったが、使用方法までは見当がつかなかった。
「でもきっとこの2つって、意味があるものなんだよな?」
 だから店主さん、トンボさん と、コハクは真摯な表情で頭を下げる。
「申し訳ありませんが、この2つを僕に預けては頂けませんでしょうか?」

 そうした次第で、一行はとりあえず実物の「光精の指輪」と「竪琴」を借り受け、キャンパスへと戻ったのだった。
 
 ■
 
 かなり離れて、一行の後をつけて少年の行く姿があった。
 風祭隼人である。
「うーん、目ぼしい成果はなかったぜ」
 はあ、と多大な疲れを吐き出す。
 目の当たりにした2体の蝋人形の相違を思い出す。
 指にはめた指輪を眺めて。
「『光精の指輪』……これがやはりネックなのか?」
 
 ■
 
 同じ頃、酒場にいたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、酒場の店主からオルフェウスについての情報を聞いていた。
「オルフェウスのことねえー……」
 グラスを拭きつつ、店主はうーんと天井を見上げる。
「後は、歌かなあ?」
「歌?」
「うん、まあ、あいつも一応は吟遊詩人だしねえー」
 十八番の歌の中に、不思議なものがあるのだという。
「古い戦のものでね。何だったかな? トレント達は女王に従い……風の行く手に砦がある、って奴」
「ふうーん。砦って、例の『鏖殺寺院の砦跡』のことかな?」
「と思うよ。歌自体は、歴代の吟遊詩人達が歌い継いでいるものだからね」
 でね、お譲ちゃん、と。
 これは片目を瞑って。
「このことを、『町長夫人の件で探っていた』あの男の以外のバカに教えて欲しいんだ。『砦跡』に乗り込んで、人助けをしよう! なんて考えているような命知らずにさ」

 ■

 【捜索隊】の最後の1人、シルフィスティのキャンパスへの帰還を待って、一同は情報交換を開始した。
 シルフィスティの情報は【砦跡組】の篠宮 悠(しのみや・ゆう)達に伝えられ、コハクが借り受けた「竪琴」と「光精の指輪」は彼と共に森へ向かうこととなる。
 その他【捜索隊】からは、エヴァルト、ロートラウト、デーゲンハルトの3名も森へ向かうこととなった。
 コハクは【救助隊B】として。
 エヴァルト、ロートラウト、デーゲンハルトは【魔術師討伐隊】として。
 そして全員の用意が整ったところで、【魔術師討伐隊】、【救助隊A】、【救助隊B】の面々は「迷いの森」へと旅立ったのであった。
 遥か後方から、不敵な笑みを浮かべてメニエス・レイン(めにえす・れいん)が後をつけているとも知らずに……。