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リアクション
美術フロア 〜絵画コーナー〜
「へぇ〜。ほぉ〜」
熱「あれ、お前芸術に興味あったの? ……って、おい!」
黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)はリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)が熱心にダビデ像……の股間を凝視しているのを見て思わず突っ込みを入れる。リリィはそんなにゃん丸の心情などどこ吹く風で遠近法を用いて指で大きさを測り、にゃん丸の股間との比較を真剣に試みていた。ジーンズにジャンパー姿のにゃん丸は赤くなってリリィを引きずり別の場所に移動していく。リリィはデニムのショートパンツをはいていた。
ったく、新しい百貨店ができたっつーからからくり時計を見に来たってぇのに……。
「噂になる程なんだからよっぽどなんだろうねぇ。で、後どのぐらいだ?」
「あと4時間だよ〜」
リリィの買い物に付き合うのは骨が折れそうだ。ここは別行動が吉だろう。
「よしっ、3時に時計集合な!」
「オッケー♪」
目的のフロアが別にあるらしいリリィは特に不満もなさそうだ。にゃん丸は画集のあたりをうろうろとしていた。なんかエロいモンないかなー。
「……おっ! ヌードポーズ大全集?」
やっべ! 芸術だと裸とかアリだよね!! 保健室にも淡々と実はエロい本が並んでるしね!!
「何かお探しですか〜?」
ん? と目をやると売場担当の女性がニコニコとして立っていた。清楚系の美人……って、おい。今、自分が持ってる本やばいだろ!!
「こっ、これください!!」
「はい、ええとみつゑ著の『けだものだもの』ですね。5000Goldになります」
な、なにこれぇえ!? ちょっ、こんなの欲しくないよ!?
どこぞの元A級四天王の格言だろうか……。汚い字で書かれた格言色紙をいらないともいえず泣く泣く財布を軽くした。
「恥ずかしい……。もう、売り場に行けん……」
その後からくり時計前でえんえん3時間コーヒーを飲み続けるのであった。あるある、そういうこと。ファイト、にゃん丸。
「良いね、良いねえ。一人静かにも良いが、たまには誰かと話しながら楽しむのも良い物だ」
「俺はどうもこの絵って奴がよく解らん。写真じゃマズいのか?」
スカジャンを着た夢野 久(ゆめの・ひさし)が首をぼりぼりと書きながら着流し姿の佐野 豊実(さの・とよみ)に尋ねている。久は単純に新装開店した大きな百貨店に興味があったのだが、芸術分野の楽しみ方がよくわからないようだ。初歩的な質問を相方に投げかけてみる。
「この肖像画は良いなあ。目に魂が入ってる」
「魂って、え、これ魔法の絵とかだったりするのか? え、違う?」
「侘び寂を解さないにも程があるね。いっそ奇跡的だね。そんなだからその年で未だ浮いた話の1つも無いのだよ」
「お、俺はそんなに変なことを言っているんだろうか……つーか色恋は元々興味があんまねえんだよ、ほっといてくれ」
オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は少し離れた場所から心の中で『そんなことないわよぉー』と彼に同意のメッセージを送った。マスターと呼ばせている桐生 円(きりゅう・まどか)と一緒に絵画鑑賞中なのだが、オリヴィアに絵の知識など現在0に等しくそれっぽいことを言いたくても何も出てこない時だったのだ。シャツのフリルを直すふりをして考え中である。
「あの色使い、深みがあって良いと思わないかい?」
「色って、俺にはどれも同じ青色に見えるが……」
オリヴィアははっと気づいた、あの着物のオンナはどうやら美術に造詣が深いらしい。あいつの言うこと真似て適当に言っちゃえばいいのよぉー!
「へたくそだなぁ、ボクのほうが良くかけるよ。よくこんなの売ってられるね」
そう思わない、マスター? 抽象画のコーナーで尋ねる彼女とオリヴィアはまったく同じ感想を持っていた。円にはこのコーナーはつまらないらしく、帽子の中からひょいっと顔を出したゆるスターに『お前もそう思わないかい?』と語りかけながら次のコーナーに行きたがっている。
なにこの絵よくわからないわぁー、理解できなーい。はっ! 待ちなさいオリヴィア考えるのよ、適当な絵を置くわけ無いじゃないのぉー! 何々、あっちの女がいいこと言ってるわね。色遣いですって!? それだわ!! なるほど!!
「よく見なさいよぉ、まどかぁー。あれは素人目に見たら解らないけどぉー、構図? ってのよりも色を楽しむのもアリなんだからぁ」
「へーそうなんだ、そう考えるといい物に見えてきちゃうね」
いーよっしゃぁー! まどかからの信頼が1アップよぉー。着物のオンナ、やるじゃなぃー。あとは美術の教科書使ってごまかしていくわよぉー。
「清涼な風情の絵だね。風の音が聞こえてきそうだよ」
「いや、何も聞こえないが」
「君は実に駄目だな、是非マルデ・ダメ夫に改名したまえ」
オリヴィアはなんだかとってもものすごーく、久に同情してしまった。久は自分がおかしいのだろうか? と首をひねりながら見学2週目をはじめた相棒の背中を目で追っている。
「……何周回るつもりなんだ? ……気が済むまでか、そうか」
「これ、あなたにあげるわぁー」
「な、なんだあ??」
オリヴィアは所在無げにしている久に向って、美術の教科書を渡してやった。久は何がなにやらわからんが、親切心であるらしいことはわかったので受け取っておいた。
「よーし僕が描いたらもっといいのできそうだし、画材でも買ってかえろーっと」
「そうねえ、それがいいわよぉー」
オリヴィアと円は画材のコーナーに向かっていき、あとには教科書を眺めながら閉館まで相棒に付き合う未来を担う久が残された。
「これはぜひ見て回りたいですね、ふふ」
「ん? 珠輝どこ行くんだ? ……あぁ、美術フロアか。いつも僕のカフェ巡り付き合ってもらってるし、一緒に行くよ」
明智 珠輝(あけち・たまき)とリア・ヴェリー(りあ・べりー)はなんだかんだいっても仲がよく、休日は一緒に遊ぶことが多いようだ。
「おや、リアさんも興味がおありですか? よければ共にデート……」
「じゃあ僕も一緒に……ってデート!? な、ならいいっ。別行動に……」
「じょ・う・だ・んですよ、ふふ」
「変な冗談言うな、馬鹿!!」
空京百貨店のチラシが配られた前日にはそんなやり取りがあったそうな。顔を赤くしてむくれるリアのほっぺをつん、とつついて珠輝はその後数時間口をきいてもらえなくなるのであった。
「嗚呼ッ! なんという種類! 流石ですッ…! 絵の具の香りも芳しい……!」
白シャツにシンプルな黒のパンツ、同色の薄手ロングコートに身を包んだ珠輝は紫のスカーフをたなびかせてリアと共に来店していた。リアは白シャツにチェックのベスト、パンツというトラッドな格好をして赤いスプリングコートを羽織っている。
「いつでも貴族服&マントなわけじゃないですよ……! ふふ」
「……珍しいはしゃぎっぷりだな、珠輝。いいよ、好きなだけ見てて」
「リ、リアさん。申し訳ないのですがちょっと時間かかっちゃいそうです、他のフロアご覧になっててくださいね」
珠輝は芸術を愛している……自己表現や情熱にあふれたフロアは彼にとっては幸せ空間なのだろう。まあ、自分にはそこまでの情熱はないし他の場所でも回ってみようか。
きょろきょろと次の行き先を探して目をさまよわせると、珠輝と面識のある佐々良 縁(ささら・よすが)が佐々良 皐月(ささら・さつき)、蚕養 縹(こがい・はなだ)、著者・編者不詳 『諸国百物語』(ちょしゃへんしゃふしょう・しょこくひゃくものがたり)と共に画材のコーナーを歩いているのが見えた。何となく声をかけそびれてしまう。
「……ド変態なこと以外でも好きなものあったんだな、あいつ」
……いないと、やっぱ静かだな。まあ、いいけど。
リアはてくてくとシルバーアクセサリー体験教室に向かっていった。
「百貨店って本当になんでもあるんですね。色々勉強になりますね……」
「皆でワイワイ行くのも楽しいよねっ」
「見たこともないものもありますが、懐かしいものも多いですね。ついきょろきょろしてしまいます」
縁御一行は本日、諸国百物語の装丁を新調するため和紙を購入しに来た。途中で佐野豊実、明智珠輝が絵画の前でウハウハしているのを発見し縹は軽く挨拶をしている。彼が絵描きであることを考えればある種の必然ともいえた、今回は彼が絵師として頑張っているお祝いを買いにきたのもあるので見回る場所が多そうである。
「うーん。予想はしてたけど、なっかなかぁ」
縁は眠そうな目を値札に向けて、画材の値段と財布の中身を天秤にかけているようだ。地球からの輸送費込みだと現地に比べて高くなってしまうものもあるようだ。縹はもらえるってぇのは嬉しいもんだと思いつつも、それほど期待はせずに美術品を眺めて自身の芸の肥やしにしている。なかなか勤勉な絵描きであった。
「岩絵具も置いてあるんだな。えらい上等な色だけど…やっぱ高嶺の花だねぇ、まったく。……使ってみてぇたあ思うがなぁ」
「ん? はなちゃん、どーしたぁ?」
つつつ、と縹が行ったのは日本画材料コーナー。岩絵具は人工的なものもあるが他の画材に比べるとだいぶ高価であり、ニカワを混ぜて使用する玄人好みの画材であった。
「百ちゃん、あれなにかわかる?」
「これも絵具です。岩絵具といって……石を砕いて顔料にするんです……。今も昔も高いですね……」
「ふーん、石も絵の具になるんだー。……わ、けっこう高い」
画材に詳しくない皐月は諸国百物語に、こっそりと質問している。材料工学専攻の縁はある程度の値段は知っていたようで、むむぅとあごに手を当て考えるポーズを始めた。
「うわー岩絵具かぁ……画材の中じゃ高値の代名詞だよねぇ。やっぱり欲しいのかなぁ?」
「あ、いやぁなんでもねぇんです。ちっとあっちも見てくらぁ」
いやぁ、縁あねさんにいただくにゃあ過ぎたわがまま。わっちだけの買い物じゃないからねぇ。そんな様子を見た皐月はくいくいと縁のそでをひっぱり、慈愛に満ちた笑顔を向けた。
「よすが、出すもの出せたら買えるんでしょ?」
怖い。
諸国百物語は袖で口元を隠しおろおろと2人の様子を見ているが、これは交渉ではなく脅迫のためあっさりと話がまとまりそうだった。
「……ええっとぉ、ナンノコトデセウカ?」
「……窓がわの本棚、工学大全・上巻の324、5ページの間」
まったく、隠しているつもりだったのかな・ お掃除からお金の計算まで、誰がしてるか思い出してほしいな。
「ううう……わかりましたよぅ。出せばいいんでしょう、出せばっ!」
「ふふふ、はなちゃん。よすががプレゼントしてくれるって♪」
裏側を見ていた縹は皐月の声を聞くと嬉しさを隠せないようにぴょこっと耳を立てる。
「え、いいんですかい?!」
うわぁ買ってもらっちまった……ますます精進しねぇと!
ニコニコと絵具を大事そうに受け取る縹。まったく、最初から素直に出せばいいのにね♪
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