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リアクション
第2章 森のプレゼント探し
「おい、大丈夫か? 前回より囲まれて狙われてねえか? 大変だな」
「た、大変でしたにゃ……ぜいぜい」
ゴビニャーが並木のプレゼントを探している噂が広まったのか、彼のもとには一緒に考えてあげようとたくさんの人が遊びに来ていた。神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)もレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)と榊 花梨(さかき・かりん)を連れて散歩の途中に寄ってくれたようだった。翡翠は紅茶と苺のタルトを手土産に、おっとりとした笑顔で挨拶している。
「入学したということで、お祝いに来たのですが……」
「う〜。前回より、人気かも。でも負けないもん」
「翡翠さんはお料理上手にゃ〜。くんくん、いいにおい」
「ふむ、先を越されたかな。格闘娘の転校祝いだ、一緒に飲まないか?」
林田 樹(はやしだ・いつき)もジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)、緒方 章(おがた・あきら)、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)を連れて入学祝いの品を持ってきてくれた。こちらは大人向けに日本酒の包みを持参したらしい。ゴビニャーはふと、自分は弟子希望者1人でも大変なのにこの人たちは何人もパートナーがいて大丈夫なのだろうかと思った。思っただけ。
「ありがとうですにゃ。今日はお客さんも多いし、ぜひうちに上がっていってくださいにゃ」
ゴビニャーはかやぶき屋根の自分の住む家に、翡翠・樹たちを招待していただいたお茶とお酒を頂くことにした。レイスやジーナに手伝ってもらって並木の分を残してタルトを切り分けていく。
「……パラ実の現状を考えると、『メリケンサック』のような暗器、か?」
樹は本来プリーストのはずだが教導団らしいアイデアを口にした。女性向けではないが身を守る、扱いやすい武器が1つはあったほうがいいのではないか。
「ワタシはですね、女の子だったらプレゼントにはお洋服が良いんじゃないかと思うんですっ。で、ワタシのお薦めは、これです!」
「……樹さん、大変ですにゃ」
「……言うな、猫旦那」
ジーナは特技の裁縫と至れり尽くせりを駆使して、魔法のように樹を瞬間早着換えさせた。
「まず一つ目! 白いレースとピンクのチェックが可愛い『甘ロリ』服! 頭のピンクのリボンが特徴ですよ」
「ジーナさん、器用ですねえ。あ、花梨。ご迷惑にならない程度に……」
「はーい! モフモフ♪ りんちゃんも可愛いけど、あの子肉球触れないから、堪能するの」
「そう言うもんじゃねえだろ? お前なあ、いい加減にしておけよ? 女性恐怖症になりそうだぞ、相手」
花梨はどさくさに紛れてゴビニャーの隣に座り、モフモフと肉球を楽しんでいた。先ほどもみくちゃにされて少々ぼさぼさの耳やしっぽがゆらゆら、ぱたぱたしているのをみて我慢が出来なくなったらしい。
「次がこれっ! パラ実らしく黒とボルドーのカラーリングがハードな『ゴスロリ』服! ちょっとくらい返り血浴びても目立ちません!」
「ほあああ!!! 樹ちゃん、それ、胸!! 胸が大変な事に!!」
「……もう喋るな! それ以上出血したら命にかかわるだろ」
大変なのは、樹ではなく誰かの頭だ。
樹のふりふりひらひらな服を見て興奮した章は今日も元気に鼻血を出して虫の息だったが、レイスのヒールによってどうにか命を取り留めていた。
「最後はこれ! ミニ丈のメイド服! 足下はピンヒールの編み上げブーツ! やんちゃなパラ実生を、踏んづけちゃうのに最適です!」
「花梨も、ああいう服に、興味がありますか?」
「はっ!! 確かに花梨様も似合いそうです!!」
「えっ? えっ?? 翡翠〜〜!?」
花梨は盛り上がってきたジーナに第2のマネキンに選ばれ、裏であれこれと着せ替えされることになった。狙ってやったのか、そうでないのか。翡翠は樹を見てにこにこと笑っている。
「あー、カラクリ娘。
趣味が良いことは認めるが、樹ちゃんが可哀相だぞ。ねー、樹ちゃん」
本当に説得力がなかった。
「僕はオーソドックスに、入学してからも使えるものとして、
万年筆や腕時計をおすすめしたいな。高校生へ向けて贈るプレゼントとしては良いんじゃないかな?」
「手先が器用そうですから、木を彫ったブロ−チでも良いかもしれませんね」
「プレゼントねえ……ピンと直感で、選んだ方が良いと思うぜ? 変な物は、やるなよ? 相手、処分に困るだろうしさ」
「最近は普段勉強で使うから電子辞書を贈るケースもあるそうだ。それもどうだろ?」
「でも本当は、誰でもプレゼントは中身がなんであれ、もらえれば、嬉しいと思いますよ? 尊敬している人からもらえば、更に喜び倍増で、大事にすると思いますけど……」
「うん、良いこと言った!」
翡翠は章とレイスのほのぼのと会話を楽しみ、皆が自分の持ってきたタルトを食べるのを見ていた。ゴビニャーは樹にもらった日本酒を飲みながら、コタローにも話を聞いてみようと思いつく。コタローは今日も蠅たたきで必殺技の特訓をしていた。でゅらんだるっ、でゅらんだるっ!
「うっとね、こたはね、『ばいく』がいーとおもうんれす。ねーたんがばいくれ、いろんなとこいくれす。
ばいくあると、なみきしゃん。いろいろおれかけれきるとおもうれす。らから、こた、ばいくがいーとおもうれすよ」
「バイク、それもいいにゃん」
「並木は今年で16か、私も軍用バイクなら持っている。ジーナも所持しているな……」
「う? ねーたん、ばいくたかい? んじゃ、そらとぶほーきー」
花梨が先ほど樹が来ていたメイド服姿で戻ってきた。ジーナが花梨にスカート丈を合せていたらしく、ちょうどいい具合にしあがっている。なかなか似合っていた。
「うー? これもらめ? んじゃ、んじゃ、おんましゃんにするおー」
「コタロー君は、元気ですにゃー」
コタローはぴょんぴょんとみんなの足元をはねながら、ゴビニャーの家を珍しそうに見ていた。仏壇に白猫の遺影が飾られていたが、まだ子供のコタローにはそれが何かは分らなかったようだ。
「うー。……ごみにゃーしゃん。こた、ぷえじぇんとのおてつらい、れきたかにゃ」
「はいですにゃ。とっても助かりましたにゃん」
「よかったおー!!」
お客さんが帰ったあとは縁側でのんびりしていたゴビニャー。ポカポカと温かい陽気を体に受けて大きく欠伸をしている。
「心配事が増えて大変そうですね。肩でももみしましょうか?」
くるり。振り向くと道明寺 玲(どうみょうじ・れい)とイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が遊びに来ていた。
「おやおや。いらっしゃいですにゃ。今、座布団をお持ちしますにゃー」
「鰯の丸干しを持ってきましたニャ。一緒に食べましょうニャー♪」
「うふふ、まねっこですにゃ。イルマさん」
玲は今回もティータイムの準備をてきぱき整え、イルマは特になにもせず淹れてもらったお茶を飲んで縁側で足をぷらぷらさせていた。
「プレゼントは、あれや。お昼の弁当を作ってあげればどうでっしゃろ? お弁当じゃなくてお結びでもいいどすなぁ」
「何であっても並木さんにとって新しい門出であるのは間違ってはいないですよね。学校に行く際は一言激励の言葉をかけて差し上げるのは良いとは思いませんかな?」
言葉か。確かに品物にこめる思いをストレートに贈るのは大切なことだ。渡すときにかける言葉は考えていなかった。
「頑張ってでも良いと思いますし。何かの目標を設定したりしても良いのではないでしょうか?」
「にゃーん。今朝ヴァーナーちゃんにも言われたけれど、まだ私のほうがどう接していいのか分らないのですにゃ」
「……並木さんの憧れのゴビニャーさんの言葉なら、なんでもありがたく拝聴するのではないでしょうか?」
ゴビニャーは玲に肩をもんでもらいながら、耳をぺこっと畳んで困っていた。イルマもハンドマッサージと称して肉球をぷにぷにと触っている。全身のコリをほぐしてもらって眠くなってきたときに、縁側に長い影が落ちた。視線を上げるとクロス・クロノス(くろす・くろのす)が、やや緊張した面持ちでこちらを見ている。
「先日お会いした時は時間の都合上お願いできなかったのですが、ひとつお願いを聞いていただけますか?」
「にゃー。この前はどうもありがとうですにゃ。どうなさいましたかにゃ?」
「ゴビニャーさん、抱きしめさせてください。お願いします」
「はい?」
玲はクロスのために緑茶と茶菓子を用意し、座布団をひとつ縁側に並べた。
「腹が減っては戦は出来ぬという言いますからなぁ。クロスはん、お1ついかがでっしゃろ?」
「そ、そうですにゃ。まずはお茶でも飲んで落ち着くにゃ。な、なにか辛いことでもあったのですかにゃ?」
はい、と湯呑を渡すゴビニャー。いきなり飛びつかれるのは慣れてきたが直球でお願いされるパターンは初めてなので、戸惑っている。
「どうか、せめて肉球だけでも!!!」
ガバッと土下座して頼むクロスに度肝を抜かれ、ゴビニャーは慌ててそばに走り寄る。頭をあげてもらうように頼むがモフモフの許可が下りるまでテコでも動かないらしい。
ゴビニャーは思った。彼女は教導団だ。厳しい戒律の中で日々を過ごしている。もしかして、先輩にいじめられたのだろうか。いやいや、もしかしたら罰ゲームかもしれない。きっと人には言えない苦労があるのだろう。だって、そうじゃなかったら普通土下座なんてしないじゃないか。にゃーん。
「……分ったですにゃ!! 事情は聞かないですにゃ」
「ありがとうございます。……あの、後ろから抱きしめてもよろしいですか?」
「い、いいですにゃ」
「こちらに座布団を用意しました。よろしいですかな?」
モフモフモフモフ。
クロスはゴビニャーを膝にのっけて毛並みの質感を楽しんでいる。
「はう〜」
「あ、あのー。もういいですかにゃ?」
「……今のは聞かなかったことにしてください。あと、肉球も失礼します」
プニプニプニプニ。
「なんとも言えない弾力の肉球ですね」
イルマもどさくさにまぎれてゴビニャーのお腹をフカフカしていた。
「……動けないですにゃん」
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