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来訪者と襲撃者と通りがかりのあの人と

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第3章 それぞれの捜査


「ウィンドウショッピングをしているルーシェル君を捕まえて、空京は危ないことも多いことを伝えてあげないとです」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)は振り返り、パートナーのアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)に言った。
 拳を握り締めて力説する由宇の姿は可愛らしいが、少し子供っぽく見える。その純情可憐な風情が、更に拍車をかけてパートナーのイジワル心をくすぐるのだ。
 ホテルからずっと離れた場所を歩きながら、腰まである白髪で、薔薇の学舎の制服を着た子を捜していた。
「いないですぅ」
「良く探したの?」
 隣にいてわからないはずもないのだが、アレンはさり気に意地悪を言った。
 由宇はそれに気が付いていないのか、顔を真っ赤にして説明し始める。
「ちゃんと探したですよ。こんなに人が多くっちゃ、どこにいるのかわからないです。アレンくんも探してください〜」
 そして、「超感覚を使ってでもっ」とか言いつつ、眉間に皺を寄せて唸りはじめた。
 アレンは小動物を見るかのような笑顔で由宇を見つめていた。
「?」
 なんで、そんな顔をするのかなあと思った瞬間、由宇は「パラミタ大たこせん☆食い倒れ」と書かれた看板に頭から突っ込んだ。
「きゃう!」
「由宇は馬鹿だなあ。そんな大きな看板に気が付かないなんて、【由宇しかできない芸当】だよね」
 アレンは笑顔で、つらつらとそんな意地悪を言った。
 探している由宇の視線は遠くにあって、足元や目の前の事には全然気付いていないのだった。
 アレンは口角を上げた。
 最初は一緒に連れられて来たのだが、「おバカな由宇一人じゃまず捕まえられなそうだ」と踏んでいて、仮の協力をすることに半ば決めていた。由宇の妨害をし、無難にルシェールを逃がした方が自分にとって面白そうだ。

(さて、どんな意地悪をしよう)

 アレンはことのほか、この状況を楽しんでいた。
 似た人間を見つけて由宇が行ってしまうのを止めないというのもいい。本物が通りかかったのを教えないというのも、古典的だが良いかもしれない。
 アレンがそんなことをぼんやりと考えていると、白い何かが由宇の横を通り過ぎた。
「ん〜〜〜?? あ、あれ……ルシェールくん?」
「ですねぇ」
「引き止めなくっちゃダメですぅ! ルシェールくぅ〜〜〜ん!」
 由宇はルシェールの名を呼んで引き止めようとした。
 しかし、ルシェールは雑踏に紛れ、気が付かない。由宇はもう一度、ルシェールの名を呼ぼうとした。その瞬間、アレンとは思えないような大きな声で彼が叫んだ。

「あーーーーーーーー!」

「え、何?」
 反対方向を指差すアレンに連られて、由宇は辺りを見回す。
 そこには何もいない。
 アレンを振り返ると、満足げに笑う彼がいた。
「って、そんなのに騙されないですよぅ! ……はっ! いない、いないですぅ〜〜」
「あははっ、ナントカが見る〜ってやつだね」
 アレンは目論見が成功して笑った。
 少々、味気ないが、ドジっ娘の由宇を困らせることができたから十分だ。
「アレンくん、ヒドイですぅ!」
 由宇は悔しがり、アレンの胸をポカポカと叩いた。



 エースは、ソルヴェーグから離れ、ルシェールを探していた。
 パートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)に上空から探すようにと頼んだのだが、まったく返事がない。自分は地上でクマラからの情報を待っているしかないが、クマラの嗜好を考えると不安になるのだった。
 クマラは味見と言っては、口いっぱいに頬張るような食いしん坊。しかも、この街にはクマラの邪魔をする障害物が多い。
 チョコレートショップにアイスクリーム、ファンシーショップの量り売りのお菓子。デパ地下の試食、ゆる族のパラミタ大たこ焼きと、数え上げればキリがない。
「はあ……」
 エースは溜息を吐いた。
 ホーリーローブを着込み、若き神の代理人のように見えたエースの表情は芳しいとは言えなかった。
 先ほどまで、心の中では「障害物は速やかに闇から闇に去ってもらおう」などと結構不穏なことを思っていた。だが、狙っている産業スパイ達は非契約者。あまり手荒なマネはできないし、おまけにクマラの姿も見えない。
 丸く治められれば良いのだが、集まった面々を見ると、正直、大団円になるとは思えないような気がする。
 そんなエースの気も知らず、クマラの方は他の生徒が探すだろうと高を括って買い食いをしているのだった。