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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
たっゆんカプリチオ たっゆんカプリチオ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「お汁粉かあ、なんだか懐かしいなあ」
 オープンカフェの一画を借りて作られたお汁粉コーナーをみんなで取り囲んで、緋桜 ケイ(ひおう・けい)が言いました。
 どちらかといえば季節外れですし、お汁粉なんてお正月以来です。
「わらわが手ずから作ったのだからな、みな、心して食べるがよい。ただ、ちょっと餅を焦がしてしまったようなので、多少苦いかもしれぬがな。そのへんはまあ、我慢するのだ」
 三角巾に割烹着姿の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、微かに瞳の奧に企みの光を宿しながら言いました。
「ほれ、こぼすでないぞ」
「これがお汁粉……、初めてなのでドキドキします」
 お汁粉の入った椀を手渡されて、『地底迷宮』 ミファ(ちていめいきゅう・みふぁ)が喜びます。
「さあ、ソアとソラも食べるのだ」
 かいがいしくお汁粉を持った椀をソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)に配りながら悠久ノカナタが言いました。ちゃんと女の子も食べてくれないと、実験にならないようです。
「おまえはいいのかよ?」
 椀を受け取った雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、悠久ノカナタに訊ねました。
「わらわは、調理中に味見したからな。もう充分だ」
 三角巾を外してまとめていた髪を解きながら、悠久ノカナタが嘯きました。
「じゃ、食べようぜ」
「いただきまーす」
 準備が整ったので、緋桜ケイたちは一斉にお汁粉を食べ始めました。
「うっ、本当にちょっと苦いぜ」
「でも、美味しいですよ」
 軽く顔を顰める雪国ベアに、ソア・ウェンボリスが言いました。
「ひやー、のびるのびる」
 『空中庭園』ソラが、面白そうにお餅をのばして遊んでいましたが、その目がふと一点に止まりました。
「ミファ、あなた、その胸どうしたのよ!?」
 『空中庭園』ソラは、目を丸くして『地底迷宮』ミファに詰め寄りました。
「えっ、どうしたと言われましても、でも、なんだか、胸のあたりがきつい……。あらっ?」
 自分の胸をしみじみと見て、『地底迷宮』ミファがあらためて驚きました。ぺったんこが、いつの間にかたっゆんになっています。
「うおおおおお、胸が、胸が!」
 雪国ベアが、不自然にぽっこりと盛りあがった着ぐるみの胸の部分をつかんで叫びました。
「カナタ、何かやったな!」
 同じくたっゆんになった緋桜ケイが叫びました。お汁粉を食べたとたんみんながこんな姿になったのですから、犯人は明確です。
「はははははは、ちょっとした実験でな。そなたも、ますます女に磨きがかかったというものだな。おぬしだったらきっとやれると、わらわは信じておったぞ」(V)
「ごまかすな!」
 詰め寄る緋桜ケイに、悠久ノカナタがそっぽをむいてごまかしました。
「しかし、実験は大成功だ。これで、あの丸薬は、女にも効果があると判明したのだからな」
 『地底迷宮』ミファの胸を満足そうに見やりながら、悠久ノカナタが言いました。
「ちょっと、おかしいじゃない。私たちは、ぺったんこのままよ! 永世ぺったんこ名人のソアならいざ知らず、なんで私までぺったんこのままなのよ」
 『地底迷宮』ミファの胸をむんずとつかんで確かめながら、『空中庭園』ソラが叫びました。魂の叫びです。
「私だってずっとぺったんこじゃないもん。でも、なんで効かないのよ。量が少ないから? そうなの? そうなのね!」
 ソア・ウェンボリスが、何かにとりつかれたようにがつがつとお汁粉を食べ始めました。
「ふむ。効果にムラがあるようだな。だが、わらわが研究すれば、完全な薬となろう。さすれば、アーデルハイトにこの薬を使って……」
 悠久ノカナタが、ブラックな忍び笑いをもらしました。彼女は、たっゆんサプリメントが本当に女性に効果がないのかを検証するために、お汁粉に丸薬を混ぜて緋桜ケイやソア・ウェンボリスたちに食べさせたのでした。もし効果があるのであれば、これをアーデルハイト・ワルプルギスに食べさせて、大ババ様のぺったんことロリ属性を消滅させて、自分がイルミンスールのロリババの頂点に立つという、なんともブラックな野望をいだいていたのです。
「御主人……、諦めろ、運命には逆らえないんだ」
 雪国ベアが、ポンとソア・ウェンボリスの肩を叩いてなぐさめました。座ってお汁粉を食べているソア・ウェンボリスの目線の前で、雪国ベアの胸がたっゆんとゆれます。
「もう、ベアったら、……私、そこまで子供じゃないです」(V)
 もの凄い屈辱感に襲われて、ソア・ウェンボリスは紙とペンを出して手紙を書き始めました。
「拝啓、お父様。いかがお過ごしでございましょうか。こちらは毎日ベアにいじめられて泣いている毎日で……」
「まてぇい!! それはやめろ、御主人、やめてくれー!!」
 雪国ベアが真っ青になって、取りあげた手紙をびりびりに破り捨てました。まだ死にたくはありません。
「なんだか、むこうは騒がしいですね。何かあったのでしょうか」
 少し離れた席でゆっくりとくつろいでいた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が、何事かと緋桜ケイたちの方を振り返って見ます。その隙に、フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が黒い粉末を彼のコーヒーの中に落としました。
「まったく、ゆっくりと読書もできや……んっ? このコーヒー、急に苦くなったような気が……ああっ!」
 コーヒーを飲んだ神楽坂翡翠は異変に気づきましたが、すでに手遅れでした。というか、本当の異変は、コーヒーを飲んだ後に起こったのです。
「あら、私にも負けないたっゆんだなんて。辻占いで稼いだお金で薬を買ったかいがあったというものね」
 楽しそうに神楽坂翡翠のたっゆんを眺めながら、フォルトゥーナ・アルタディスが言いました。占いで仮面の客から見料をぼったくれたので、薬の他にもいろいろと買い物をしてあります。
「ああ、これからどうしたら……」
 テーブルの上に指先で「の」の字を書きながら、神楽坂翡翠が恥ずかしそうにしました。ツボです、フォルトゥーナ・アルタディスにとってドストライクです。
「そのままじゃいろいろと困るわよね。服だって、今にもワイシャツのボタンが弾け飛びそうよ。ああ、ちょっと占ってみましょう」
 いつも持ち歩いている水晶玉を取り出してフォルトゥーナ・アルタディスが言いました。それをテーブルの上におくと、手を翳して何やらのぞき込みます。
「見えました。この災難を解決するには、女装して誰かと一緒にプリクラを撮る必要があります。さすれば、たっゆんの霊は満足してあなたから離れていくことでしょう」
「まってくれ、これは霊の仕業なのか!?」
 聞いてないと、神楽坂翡翠が言いました。
「試してみれば分かることだわ。さあ、あっちに行きましょう」
 そう言うと、フォルトゥーナ・アルタディスは大きな紙バックを守って、神楽坂翡翠を女子トイレに引っぱっていきました。
「えっ、あんっ、あうっ」(V)
 トイレの中で、何やら胸のあたりでごそごそやっていたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、二人の姿を見てあわてて外に飛び出していきました。
「なんで男の自分が女トイレなどに入らなければならないんです。恥ずかしい」
 真っ赤になって、神楽坂翡翠が言いました。
「だから、恥ずかしくないようにお色直しするんじゃない。さあ、脱いで脱いで」
 フォルトゥーナ・アルタディスが、神楽坂翡翠の上着を剥ぎ取りながら言いました。ワイシャツ姿になると、たっゆんがもろになります。
「はい、これに着替えて」
 買いそろえてきたメイド服、キャミワンピース、タイトスカートをさし出して、フォルトゥーナ・アルタディスが言いました。
「もう、どうにでもしてください」
 諦めて、神楽坂翡翠はされるがままになりました。しかし、胸がたっゆんになっただけで他は男のままですから、タイトスカートはずいぶん危険だと言わざるをえません。色気のない縞のトランクスがほとんど見えそうです。
「うーん完璧。さあ、プリクラに行きましょ」
 そう言うと、フォルトゥーナ・アルタディスは、神楽坂翡翠の手を引いてトイレを飛び出しました。
 外では、ヴァーナー・ヴォネガットが、緋桜ケイに挨拶代わりのハグをしてお互いに目を丸くしていました。
「胸がある〜う!!」
 思わず、お互いに叫んでしまいます。本来は、二人ともぺったんこ同士です。
「なんで、なんで、なんで。ミファに続いてヴァーナーさんまで……、裏切り者ー」
 ソア・ウェンボリスと『空中庭園』ソラが、別の意味で叫びました。
「まあ、まてまてまてまて……。パッドがはみ出ておるぞ」
 ソア・ウェンボリスたちをなだめすかすと、悠久ノカナタがヴァーナー・ヴォネガットの耳許に唇を寄せてささやきました。
「えっ、ああっ!!」
 パッドに気づいたヴァーナー・ヴォネガットが、あわててそれを押し込めます。けれども、無理矢理三段重ねにしたパッドは雪崩を起こして、ぽこぽこと全部飛び出してしまいました。
「ばれちゃった〜。せっかくこのお洋服に似合う胸にしてきたのにぃ」
 がっくりとヴァーナー・ヴォネガットが肩を落とします。
「まあまあ」
 とりあえずなぐさめようと、緋桜ケイがヴァーナー・ヴォネガットに近づきます。
「いいなあ、本物〜。私にもちょうだい」
 緋桜ケイのたっゆんをふにふにしながらヴァーナー・ヴォネガットが言いました。
「やれるものなら、誰でもいいから譲ってるさ!」
 ほしくてたっゆんになったんじゃないと緋桜ケイが叫びました。
「そうよ、よこしなさい」
「無理です〜」
 『空中庭園』ソラも、『地底迷宮』ミファの胸を両手でわしづかみにして叫びました。
「とにかくなんとかしろ、カナタ!」
 緋桜ケイたちは、悠久ノカナタを取り囲んで言いました。
「さあ、こちらもなんとかするために、プリクラに行きましょ♪」
 フォルトゥーナ・アルタディスは、緋桜ケイたちの方を見ていた神楽坂翡翠の手を楽しそうにとると、その場を後にしました。