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たっゆんカプリチオ

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たっゆんカプリチオ
たっゆんカプリチオ たっゆんカプリチオ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「だから、きっと単なる食あたりですわ。探せば、絶対胃薬がありますから」
「いや、どうやったらこれが胃薬で治るんだよ」
 小鳥遊 椛(たかなし・もみじ)になぐさめられながら、篠宮 悠(しのみや・ゆう)は解毒剤を求めてあてもなくさ迷っていました。
 だいたい、篠宮悠は食事をしていただけなのです。なのに突然、男だというのに胸が肥大してしまったのでした。
「パラミタでは特にイルミンスールの近くではよくある食中毒の症状ですわ」
 小鳥遊椛は力説しますが、もの凄く嘘くさいです。もちろん、彼女か他の誰かが、篠宮悠の食事に毒を……、もとい、たっゆんサプリメントを混ぜたのは間違いありません。
「いずれにしろ、なんとかしなくちゃな。だいたい、さっきから収まりが悪くて、動きづらいったらありゃしないぜ」
「だから、ちゃんとわたくしの服を貸してあげましたのに。下着を拒否するからですわ」
 だ・め・で・す・よ・と、小鳥遊椛が軽く人差し指を振ってみせます。こんなたっゆんな姿では外を歩けないでしょうと、こんなこともあろうかとなぜか女物の服一式を持ってきていた小鳥遊椛が篠宮悠を着替えさせたのでした。
「誰が、下着まで穿けるか!!」
 篠宮悠が真っ赤になって怒ります。
「それはいけないんだもん。さあ、これを!」
 突如現れたカレン・クレスティアが、篠宮悠にブラジャーを突きつけました。
「誰がつけるか!」
「で、これは、おいくらですか?」
「そうですねえ、一サイズ上なんで……」
 怒鳴る篠宮悠でしたが、そのそばでは小鳥遊椛がすかさずカレン・クレスティアと値段交渉をしています。
「あんたら、人の話を……」
 とっても聞いてもらいたい篠宮悠なのでした。
「そうです。みなさん、俺の話を聞いてください」
 またもや突然現れた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が、拡声器片手に言いました。その出で立ちと言ったら、ショッキングピンクのパワードスーツを着込み、顔だけをかろうじて出しています。もちろん、腰から下の装甲は、スカートつきと言われる高機動用追加装甲に見える装飾つきです。パワードヘルムの後ろからはオレンジ色の髪を垂らし、当然胸部装甲はみごとなたっゆん型なのでした。
「みなさん聞いてください。俺、今度オッパイ党というコミュを立ち上げました。たっゆんも、ぺったんこも、ちっぱいも、みんなそれぞれ夢の詰まったオッパイ。そんなオッパイはすべて正義です。たとえ男でも、たっゆんを手に入れた以上、幸せを手に揉みしだく権利はあります。さあ、みなさん、ぜひ、オッパイ党に参加を! 参加要領は教室にあるコミュニティ一覧に……」
 熱弁をふるう如月正悟でしたが、そんな彼の前に立ちはだかる者が現れました。
「偽たっゆんはどこだあ。偽たっゆんは切り落としてやるぞお」
 なぜかなまはげの着ぐるみが、鉈を振り回しながらこちらへやってきます。一見するとゆる族のようですが、単なる普通の着ぐるみのようです。
「止まらんかー、このアホがー。どうしてこの季節になまはげが現れねばならん。おかしいであろうがあ!!」
 ダッシュで追いかけてきたニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が、なまはげを羽交い締めにしました。どうやら、中に入っているのは五月葉 終夏(さつきば・おりが)の用です。
「放してー。たっゆんなんか、みんな潰してやるんだー」
「そんなホラーなど、ワタシがさせん!」
 じたばたとなまはげ姿の五月葉終夏が暴れます。端から見ますと、なんともシュールな光景です。
「ふっ。勧誘の邪魔はさせませんよ。さあ、みなさん、オッパイ党に■■を、いや、入党を! この俺といだき合いましょう!」
 ひとまず安全そうなのを確認して、気を取り直した如月正悟が、再び演説を始めました。
「まあ、なんて素敵なお誘い。ぜひ、ハグしたいですわ」
 如月正悟の演説に感動したてようなそぶりを見せて、志方 綾乃(しかた・あやの)がFカップをたっゆんとふるわせて言いました。
「おお、あなたのように夢のたくさん詰まった人は大歓迎だよ。さあ、こちらへいらっしゃい」
 如月正悟は、両手を広げて志方綾乃をまねきました。
「だそうですわよ。行っておあげなさい、いちごちゃん」
「わ゛か゛っ゛た゛あ゛」
 志方綾乃に言われて、仲良 いちご(なかよし・いちご)ちゃんが、ずんと床を力強く踏みならして前に出ました。
 ぱきーん。
 写真を撮っていたジュレール・リーヴェンディのカメラのレンズが吹っ飛びます。ファインダーをのぞいていたジュレール・リーヴェンディが、そのまま機能停止しました。
「きゃあ、ジュレ!! 機工士さーん、急患なんだもん!」
 カレン・クレスティアが、悲鳴をあげて動かなくなったジュレール・リーヴェンディをかかえてその場を逃げだしました。
 ちなみに、仲良 いちご(なかよし・いちご)の容姿はこちらで御確認くださいませ。もちろん、たっゆんサプリメントは服用済みです。それはそれはみごとなたっゆんになっておられます。
「た゛き゛締゛め゛て゛あ゛け゛る゛!!」(V)
 ドドドドっと、仲良いちごちゃんが、タックルをかますようにして如月正悟をだきしめました。とっさに奈落の鉄鎖で仲良いちごちゃんの突進を止めようとした如月正悟でしたが、とうてい止められるものではありません。
「ぐああぁぁ、せっかくたっゆんになった胸が、つ、潰れ……」(V)
 ミシミシと、如月正悟のパワードスーツがきしむ音をたてました。
「き゛ゅ゛〜゛っ゛」
 追加装甲のスカートが吹き飛びます。
「悪い子はいないよね。てっしゅー」
 それを見た五月葉終夏は、命からがら逃げだしていきました。
 
    ★    ★    ★
 
「大丈夫かな。そんなに無理して食べるからであるぞ」
 人目もはばからず通路の隅にうずくまっている秋月 葵(あきづき・あおい)の背中をさすりながら、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)が呆れたように言いました。
「だってえ、胸が大きくなるって聞いたんだもん」
 えづきながら、秋月葵が答えました。
「十粒も食べたのに全然効かないなんて……。こんな騒ぎを起こすなんて、きっと大ババ様の仕業……。いいえ、ぺったんこな大ババ様が、あたしたちぺったんこにこんなことをするはずがないんだもん。きっとこれは、明倫館のたっゆんの陰謀なんだわ。男をたっゆんにして、あたしたちをおとしめる作戦なんだもん」
 真っ青な顔をして、秋月葵はつぶやきました。
「やれやれ、そんな逆恨みをしないでも……」
「なによ、黒子はたっゆんになりたくはないの?」
 少し元気になってきたのか、秋月葵が立ちあがって言い返しました。
「我はこれで構わぬし、主の魔力が高まるのであれば、別にぺったんこでも……」
「あたしはぺったんこのままでいいとしても、男がたっゆんになるのは許せないんだもん。あんなのとか」
 そう言うと、秋月葵は、たまさか近くを通りかかったカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)を指さしました。
「たゆたゆ、たっゆん。ゆんゆんゆん。ふーん、ふんふん。最初は驚いたけど、結構これっておもしれーじゃん」
 もう、のりのりでたっゆんな状況を楽しんでいるカセイノ・リトルグレイだったのですが……。
「天誅!!」
「うぽあっ」
 秋月葵渾身の回し蹴りが、カセイノ・リトルグレイの胸に炸裂しました。当然のごとく、突然できた新しい急所にカセイノ・リトルグレイは対処できません。あっけなく気絶してその場にひっくり返ってしまいました。
「このこのこの……」
「こ、これ葵もうそのへんでやめ……」
 執拗に胸を攻撃する秋月葵を、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』があわてて止めました。
「さあ、次よ黒子ちゃん」
 今や血に飢えた秋月葵は留まることを知りません。興奮したせいか、ネコミミと二股尻尾を顕わにして、フーッと唸っています。
「ちょっとお待ちなさい。そこの二人、わたくしのパートナーにいったい何をしましたの!」
 立ち去ろうとする秋月葵を、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が呼び止めました。ちらりと、秋月葵とフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』の身長を確認します。とりあえず、自分よりは一センチは間違いなく低そうです。それに、胸の大きさは二人合わせたとしても圧倒的に勝っています。これなら勝てそうだと、リリィ・クロウは強気に出ました。
「暴力はいけませんね。いくらたっゆんを叩き潰したからといって、それであなたたちのちっぱいが大きくなるわけでもないでしょうに」
「あなた・た・ち……だってえ」
 リリィ・クロウの言葉に、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』がピクンと片眉を動かしました。
「ちっぱいはそのままでいいとしても、男のたっゆんはだんだんと許せなく思えてきたな……」
「そうでしょうとも。さあ、次の男たっゆんに鉄槌を下すのよ」
「おう」
 秋月葵の言葉に、スイッチの入ったフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が同調します。
「ちょっとあなたたち、わたくしのパートナーをほっといて逃げる気? そんなこと、許しませんわ」
 足早に回り込んだリリィ・クロウが、二人の前に立ちはだかって言いました。
「そこをどくんだもん。ちっぱいに用はないんだよ」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、リリィ・クロウに言いました。
「何を……、わたくしは、あなたたちとは違いますわ」
「胸パッドの気配を感じるんだもん……」
「仲間だね」
 超感覚でリリィ・クロウの胸の膨らみの微妙な不自然さを看破した秋月葵が言いました。すかさず、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、リリィ・クロウをちっぱい仲間認定します。
「ちがーう。やっぱり、あなたたちには消えてもらう必要がありますわ」
 そう言うと、リリィ・クロウが身構えました。
「ははははは、パラミタの仮面売り、クロセル・ラインツァート開店。さあ、喧嘩をやめて、一緒にこの仮面をつけましょう。さすれば、たとえちっぱいでも、誰がちっぱいなのか分からなくなりま……」
「分かるわ!!」
 仮面をさし出すクロセル・ラインツァートに、三人のキックとパンチが炸裂しました。
「はうあ」
 吹っ飛ばされたクロセル・ラインツァートが、あっけなく大口を開けて気絶します。
「もらった!」
 今が最大のちゃーんすと、シャーミアン・ロウがたっゆんサプリメントでクロセル・ラインツァートを狙撃しました。狙い違わず、たっゆんサプリメントがクロセル・ラインツァートの口に飛び込みます。
「ごっくん」
 たっゆんサプリメントを呑み込んだクロセル・ラインツァートの胸が、みるみるたっゆんになっていきます。
「ちょ、ちょっと、やりすぎたんじゃ。胸があんなに腫れて……」
 あまりの変化に、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』があわてます。
「わたくしは、そんなに強く叩いてはいませんわよ」
 リリィ・クロウがすかさず否定しました。
「違うんだもん、この人も男のくせにたっゆんになっちゃったんだもん。男のくせにたっゆんたっゆんに、男のくせに……天誅!!」
 言ってるうちに怒りがこみあげてきて、秋月葵が他の者たちと一緒に、クロセル・ラインツァートをボコボコにしていきました。