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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・降り立つ影

 
「間一髪ね」
 第五ブロックでアスピドケロンと交戦していたローザマリア達は、寸でのところで敵の起こす津波に飲まれずに済んだ。
 ちょうど、壁沿いに梯子があったため、それを掴む事で何とかやり過ごしたのだ。
「だが、どうする? あの皮膚を破らない限り、倒せぬぞ」
 と、{SFL0017517#ライザ}。
 敵の強固な皮膚に傷をつけるのは、困難だった。
「敵の弱点は、おそらく冷気です。お任せを」
 が、ブリザードを使用し、プール事アスピドケロンを凍らせようと試みる。
 ただ、敵の巨体と力もあって、あまり長時間は動きを封じる事が出来ない。
「氷の上からなら、どうかな?」
 動けなくなっている間に、ライザが即天去私による一撃を加える。凍っている間なら、身体も脆くなるはずだ。
 一方、ローザマリアは梯子の上からスナイパーライフルを構え、アスピドケロンの目に狙いを定める。
 とどめの一撃を放つ。
『グギャァァァアアアアア!!!』
 目を射抜かれ、叫びを上げるアスピドケロン。
 さらに、ライザの一撃を受け、身体の一部から血を流していた。
「行ける!」
 だが、痛みでのたうち回ったせいで、不規則に大波が押し寄せる。さらに、巨体が飛び出し、壁にぶつかったりもする事で、室内が大きく揺れる。
「く……下に落ちたら……」
 助からない。
 敵が暴れるようになったせいで、かえって隙がなくなってしまった。
  その時である。
「なに、あの人は?」
 突然、アスピドケロンの甲羅の上に、女性の姿が現れた。どこからかテレポートしてきたらしく、突然。しかも、そのまま浮いていた。

『マスター、何者かの介入を受け、座標に誤差が生じました。申し訳ありません』
『構わん。アール現在地は?』
『アスピドケロンの真上です。現在交戦中と見受けられますが、いかがなさいますか?』
『合成魔獣は始末しておけ。我々には必要がない。始末次第、こちらへ来い』
『かしこまりました』
 思念での会話を追え、紅眼白髪の女はアスピドケロンを見据えた。
「マスターの命に従い、消去します」
 それは、菊の放ったブリザードとは比べ物にならない規模だった。
 一瞬にして、アスピドケロンを囲う水という水が、氷河と化した。そして――

 パァン。

 音を立て、アスピドケロンが氷河ごと粉々に砕け散った。

「待て!」
 ライザが叫ぶも、女は彼女達に一切視線を送らない。
 そのまま消えてしまった。
 圧倒的な力をもって、合成魔獣を倒して。

            * * *

 パラミタ内海の施設内。
「このあたしから全部を奪うなんて、そんなのは認めないわ!」
 メニエスは憤慨していた。
 魔道書もシステムも既に敵の手中、あろうことかエメラルドまでも渡ってしまった。
「ですが、ここへのテレポートの時、何か異常があったようです」
 ミストラルが言う。
「ええ、何者かの魔力干渉があったようね」
 転送される際、メニエスは魔力の「乱れ」を感じた。傀儡師の依頼主の下にいた者達が、全員この施設内の別々の場所に転送されたようである。
 幸いというべきか、敵の配下はここにはいない。いるのは彼女のパートナーと、
「だけど、この方が都合がいいじゃねェか。出し抜くチャンスだぜ?」
 ナガンだった。
「狙い通りの場所にみんな飛んだわけじゃねェんだ。だったら先にシステムを見つけちまえばいい」
 まだ敵がこの施設を掌握したとは考えられない。彼女達は今、飛ばされてきたばかりなのだ。
「あれ、ナガンさん、遅かったじゃないですか」
 ちょうど、ナガン達の転送先に居合わせたのは、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だった。
「悪ィな、手違いが起こっちまってよ」
 とはいえ、ここで合流出来たのは好都合だった。
「みたいですね。伊東甲子太郎さんの姿が見えませんから」
 彼女は、ナガンから話を聞き、伊東に興味を持っていたようだ。
「お嬢、どうするつもりで?」
 宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が、優梨子の顔をおそるおそる見遣る。
「そうですね――ん?」
 彼女が殺気看破で人の気配を感じ取った。
「あっちへ行ってみましょう。ナガンさん、敵の顔は分かりますね?」
「もちろんだぜ」
 ナガンが移動の準備を始める。そこに黒幕もいるかもしれない。
「強い方達だったらいいんですけどねー」
 この場には、ナガンの呼んだ者が他にもいた。牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だ。
「二人、不気味なヤツがいた。そいつらは特にヤベェかもな」
「それは楽しみです。ナガンさん達が来るまで、暇で仕方なかったので、ゆりちゃんと、ちょっとこの建物の機械の兵隊さんをどっちが多く倒せるか競争しようとしてたところなんですよ」
「一体倒したところで、弱すぎてつまらないって事で飽きてしまったんですけどね」
 物騒な事を笑いながら言い合うアルコリアと優梨子。この二人だったら、暇潰しに殺し合う事さえありそうだ。
「では、参りましょう」

 殺気看破の気配を辿り、その現場をまずは遠目で眺める。
「おや、もうお楽しみ中ですか……あれは、鴨さん?」
 優梨子が捉えたのは鴨と、それと対峙するスーツ姿の男の後姿だった。横には若い青年もいる。
「私はここで楽しませてもらいます」
 優梨子が戦場へと飛び込んでいった。
「マイロード、強大な魔力を感じますわ。これは……」
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)がそれを感じ取った。
「イルミンスールの時と似てるわね。システムが起動した、って事かしら?」
 メニエスも同様だ。この施設内の魔力の変化を、彼女達は感じ取ったのだ。
「上の方からですわね」
 そこにいけば、魔力炉か、この魔力を持つ者に会う事が出来るだろう。
 優梨子と蕪之進以外の面々はそちらへと向かう事になった。


「あら、美しい方ですね」
 施設内に魔力を流しているらしき第二ブロックの最上層へ向かっている最中、アルコリアが眼前に白髪紅眼の女性の姿を捉える。
「さっき言ったヤベェヤツの一人が、あれだ」
 ナガンが警戒を促す。
「相当な魔力の持ち主のようですわね。ならば、私の魔力を持ってどれほどの者か確かめて差し上げますわ」
 魔力を集中し、敵に狙いを定める。
「マイロードが為、ナコト真書――参りますわ!」
 目の前にいる女に向けて、アシッドミストを繰り出す。酸の濃度は、最大まで高めてある。
 しかし、
「無傷……ですの? 有り得ませんわ!」
 目の前の女は、一切ダメージを負っていなかった。彼女の周囲には結界が張られている。

『マスター、極めて強力な魔法使いを発見しました。いかがなさいますか?』
『放っておけ。お前はシステムの安定化を優先しろ』
『かしこまりました』
 
 思念による会話だったため、周りの者には分からない。彼女はテレポートしていった。
「待ちなさい!」
 だが、既にその姿はなかった。
「あの力、それにこの空間を覆う魔力――魔導力連動システムが、ここにもありますの?

 そうでなければ、彼女の魔法を食らって傷一つつかないなど、有り得ない。
 いや、ナコトはまだ知らぬ事だが、システムの管理者――かつてのノインのような存在ならば、可能な事である。
「ほう、どうやらここにいるのは一人ではなかったようじゃ」
 ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が、もう一つの人影を発見する。彼自身はベルフラマントで姿を消し、仲間以外に気配を感じられないように注意していた。
「二人揃っていやがるとは……」
 どうやらナガンがヤバイと感じたもう一人が、この人物のようだ。
「また面白そうな方ですね」
 アルコリアが興味を示す。
 そこにいるのは、一言で表すならば、『灰色』だった。なびく髪も、身に纏うドレスも、全てが。
 その瞳には包帯が巻かれている。視覚には頼っていないようだ。
 対峙する、アルコリアと『灰色』
 彼女達が向かい合っている間に、ナガン達は先を急ぐ。
「囀らなくて結構、お強いのでしょう?」
 アルコリアが、静かに攻撃体勢に移る。相手は、手に武器を持っていなかった。それが不気味さを増す。
「さあ、踊りましょう。私の太刀筋が見えるのなら、エスコートを」
 次の瞬間、アルコリアはその場からドラゴンアーツと抜刀術を組み合わせ、一閃した。

 何の躊躇いもなく――