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リアクション
第14章 カノン対パンツ番長
「あ、あああああ!」
国頭武尊と激戦を繰り広げていたガノンは、唸り声をあげ、うずくまった。
「どうした? そろそろスタミナ切れか」
国頭は唇の血を舌で舐め、にやりと笑う。
だが、国頭の身体もボロボロになりつつあった。
ガノンにサイコキネシスを何度も仕掛けられた影響で、筋肉が崩壊しかかっているのだ。
「ふう。ここは? あなたは?」
深紅の龍が倒れた影響であろうか。
カノンの身体を支配していた「死楽ガノン」の人格が消失し、もとの「設楽カノン」の人格が回復された。
だが、カノンに戻ったとはいえ、依然として、非常に不安定な状態が続いている。
「さあ、闘い再開だ。その下着を頂くぜ!」
国頭はペッと血を吐き捨て、カノンを羽交い締めにすると、股間に手を伸ばした。
「何をするの? い、嫌! こ、殺す! コロスコロス!」
設楽カノンに戻っても、パラ実生に乱暴されたトラウマから来る怒りは、健在であった。
カノンは国頭の身体を突き飛ばし、サイコキネシスでたかだかと宙に持ち上げると、逆さまにして、脳天から地面に叩きつけた。
「おわあああああ!」
今度こそ、国頭は倒れたかに思えた。
だが。
「なあ、姉ちゃん。パンツ・オア・ダイって言葉、知ってるか? パンツか、さもなくば死か。オレには、どっちかしかないのさ」
国頭が立ち上がるのをみて、カノンを見守っていた生徒たちから、驚きの声があがる。
「す、すごい。まさに、ドスケベのかがみだ!」
カノンの敵ではあったが、ここまで執念深いと、さすがに感動せざるをえない。
「あなた、真の変態なの?」
カノンは尋ねた。
「そうだよ」
国頭は即答した。
「よし、また、俺が囮になるぜ!」
猫井又吉が音波銃を構えて、カノンの側面にまわりこむ。
それまでのように、囮戦法に簡単にひっかかるはずだった。
だが。
「はい、さようなら!」
カノンは国頭を睨んだまま片手を猫井に振り、サイコキネシスで軽く吹っ飛ばしてしまう。
「うーん。俺は、もうダメだ!」
吹っ飛ばされた猫井は、地面に頭をしたたかに打ちつけ、失神する。
こうして、カノンと国頭の一騎討ちとなった。
「いや、待てよ。俺たちも加勢するぜ!」
カノンを見守っていた生徒たちが、国頭につかみかかろうとする。
だが、またしても他の参加者が乱入してきた。
「待てー!」
東風谷白虎(こちや・びゃっこ)は、銃を乱射しながら叫ぶ。
「もう。しつこいですね」
うんざりしたような口調で、結城真奈美(ゆうき・まなみ)がいった。
東風谷と結城は、カノンと国頭が闘っている現場に乱入し、追いかけっこを続ける。
「くらえ!」
東風谷は銃を乱射した。
発射された弾丸がサイコキネシスによって操作され、縦横無尽に飛び回る。
「うわー!」
カノンを援護しようとした生徒たちは、慌てて逃げ惑う。
実は、弾丸といってもゴム弾なのだが、誰もそのことに気づかない。
「そろそろ反撃しましょう」
結城はレビテートで浮遊すると、杖を構え、サイコキネシスで身体を高速回転させる。
「とあー!」
すさまじい勢いで振りまわされる結城の杖が、東風谷の弾丸を弾いた。
弾かれた弾丸は、そのまま東風谷を襲うかにみえた。
「そうはさせませんよー」
玉風やませ(たまかぜ・やませ)が、フォースフィールドで自分と東風谷を覆う障壁をつくりだし、東風谷自身を襲った弾丸を防いだ。
「女性の超能力者ですか。なら、容赦はしません!」
結城は、杖を振りまわしながら玉風を襲う。
ガイーン!
勢いを増した結城の杖が、玉風のフォースフィールドを打ち破り、玉風と東風谷をゴルフボールのように遠くへ打ち飛ばしてしまう。
「は、はれー。メロンパーン!」
地面にうちつけられ倒れた玉風は、体力を回復させようとメロンパンを食べ始めるが、途中で失神した。
「ち、窒息するぜ」
同じく地面にうちつけられた東風谷は、震える腕で玉風の口から食べかけのメロンパンを引き抜き、そのまま失神する。
「さあ。先へ!」
結城は山頂へ急いだ。
東風谷たちと結城が闘っていた間、カノンと国頭はついに決着をつけようとしていた。
カノンは力をかなり消耗してきていて、足もとがふらつきだしている。
「オレも超能力を使うぜ。これで最後だ!」
国頭は、登山用のザイルをサイコキネシスで操り、カノンをぐるぐる巻きにした。
「どうだ。抜けられないだろう? これで、頂きだ」
国頭は、身動きできないカノンの股間の貞操帯に手を伸ばす。
「い、いやー!」
そのいやらしい手の動きに、カノンの嫌悪感が爆発した。
カノンの全身からみえない力の奔流が放たれ、ザイルの縛めをぶちぶちと断ち切ってしまう。
「うわー!」
みえない力に押し飛ばされ、国頭は転倒する。
国頭の体力も、限界に近づいていた。
「はあはあ。近寄らないで! でないと、もう」
カノンは息を荒くさせて、国頭を睨む。
ザイルを断ち切ったカノンの力は、カノン自身の衣も引き裂いてしまっていて、カノンはいまや、股間に貞操帯をはめただけの全裸に近い姿である。
だが国頭は、カノンの裸ではなく、貞操帯にしか興味を持たないようだった。
「さすがだな。服を全部捨てた後も、パンツだけ残るとは。気に入ったぜ。まるで、オレに奪われるのを待っているようだ」
国頭はよろめきながら立ち上がり、カノンに近寄ってくる。
2人とも、体力が限界にきていた。
「オレの勝ちだな。お前は、さっきので体力を消耗し、立っているのもやっとだ。いま、どれだけの超能力を使える? 武器のないお前は、もう勝つことはできない」
国頭は、震える腕を、カノンの股間に差し伸べた。
「武器なら、あるわ」
憔悴しきった顔で、カノンはいった。
「なに?」
国頭は、カノンが戯言をいったのだと思った。
「ここに!」
カノンは、両手を股間の貞操帯にかけて、念じた。
サイコキネシスの微妙な圧力で、貞操帯にひびが入る。
「たあー!」
カノンは、割れた貞操帯を股間から外すと、国頭の顔にはめた。
がきっ!
国頭の動きが止まる。
「はあ、あっ。窒息する! やった、やったぞ。勝ちだ、オレの勝ちだ! ハハハハハハ!」
笑いながら、国頭は倒れた。
完全に失神したのか、もう起き上がることはない。
貞操帯の割れ目からのぞく国頭の顔は、薄笑いを浮かべ、幸せそのものといった至福の表情であった。
(あれ? いま、国頭は、負けたんだよな? 勝ってないよな?)
闘いを見守っていた生徒たちの誰もが、同じことを考えていた。
国頭は「勝った」と感じたようだが、一般生徒からみれば、いま行われたのはバトルロイヤルの一環であって、国頭は「負けた」としか思えないのであった。
ともあれ。
「カノン、やったな! ついに国頭を倒したぞ!」
生徒たちが、歓声をあげてカノンに駆け寄る。
しかし、アンジェラ・クラウディは、誰よりも早くカノンに近づくと、大きなマントで身体を包み込んだ。
「カノン。これで身体、隠す」
貞操帯を自ら割ったカノンは、正真正銘の「全裸」になっていたのである。
混戦状態の中、生徒たちにカノンの身体がよくみえなかったのは、まさに幸いであった。
「はあ。私は、もうダメです」
マントで身体を隠したカノンは、国頭との闘いで力を使い果たし、疲れきった表情のまま、目を閉じ、倒れこんだ。
「カノン!」
生徒たちは悲痛な叫びをあげる。
「設楽カノン。最強、いえ、最悪の敵を前に、素晴らしい闘いぶりだったわ。女性として、いえ、戦士として、尊敬に値するわ」
神崎遥(かんざき・はるか)は、マントを身体に巻きつけて気を失っているカノンの前にひざまずき、敬意を表する。
やっと出会えたカノンだが、全力の闘いには勝利したものの、精神不安定な状態から抜け出せたかどうかは疑問だった。
おそらく、今後も、カノンの精神は何かにつけ揺れ続けることだろう。
だが、今回の闘いのように、障害に全力でぶつかっていくことが、運命を切り開くことにつながるのである。
そのことをカノンに教えられたように、神崎は感じた。
「みなさんは、疲れているでしょう? まだまだ多数の参加者たちが登山道を登ってきて、闘いを仕掛けることが考えられるわ。いっそのこと、カノンを山頂にまで運んでいった方が安全だと思えるわね。私たちが運んでいくわ。いいでしょう?」
神崎の言葉に、周囲の生徒たちはうなずく。
バトルロイヤルはまだ終わっていない。
危険に満ちた状況が続くのだ。
「遥さん。カノンさんを運ぶの、私も手伝いますわ」
そういって、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は神崎とともにカノンの身体を抱えこんだ。
「誰か襲ってきたら、ボクが守るよ。安心してね」
ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、カノンのあらたな護衛となった。
カノンと、その周囲の生徒たちは、山頂へと移動を始めた。
「海人。俺たちも山頂に向かおうぜ。闘いを最後まで見守るんだ」
西城陽も、車椅子を押して、海人を山頂に運ぶことにする。
既に、かなりの高みまできている。
山頂は、すぐそこであった。
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