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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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 アンデッドの尽きぬ街 
 
 
 出だしこそやや出遅れはしたが、中型飛空艇で島に来た者たちのその後の進みは速かった。
 葦原明倫館への協力者は多く、アンデッドの排除はスムーズに行われ、それが時間短縮に繋がっている。
「どんどんいっくよー」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の弾丸が雨あられとアンデッドに撃ちこまれる。チムチム・リー(ちむちむ・りー)はいざという時レキを守ることができるよう、防御しながら傍らにいた。アンデッドも無限ではない。倒せば倒すほど安全になるのだからと、レキのフォローをしつつ、チムチムはアンデッドへの射撃を行った。
「上手くパンダを手に入れられたら、よく見せてくれると嬉しいんだよ」
 客寄せパンダをしっかり見てみたくて、レキはティファニーに協力している。元々は客寄せパンダに興味があっての参加だけれど、嘘をついて横取りしたり、出し抜いたりするのはレキの性にあわない。協力を申し出たからにはと、アンデッドの排除にも積極的に力を貸すようにしていた。
「飛空艇に運びこんでしまえば、好きなだけ見たり触ったりして構いまセーン。もちろん、籠から出すのは厳禁デスケド」
「ちゃんと見られるのが楽しみだよ。パンダ像って可愛いのかな?」
「そこまでは聞いてないデスネー」
 ティファニーがハイナから教えられているのは、パンダ像を手に入れるのに必要最小限の情報だけらしい……と、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はその様子から推し量った。
 手に入れるのに協力すれば研究に立ち合わせてくれるという条件で、涼介はこの探索に同行を決めた。調査の上、危険なアーティファクトであることが判明すれば、その処理はイルミンスールの領分だとは思うけれど、まずは入手しないことには始まらない。他の誰かが手に入れるよりも、多少なりともパンダ像のことを知っていそうなハイナの手にあるほうが、危険も軽減できそうだ。
「道を空けるのデース!」
 出遅れた分急がなければと、ティファニーも薙刀を振り回し、アンデッドを薙ぎ払う。
「あ、あまり傷つけないほうがいいか?」
 倒れたアンデッドを調べている大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)の様子に気づき、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は狙いをアンデッドの足下に絞った。あまり損傷させてしまうと、状態が分からなくなってしまうだろうと配慮したのだ。
「足下だな。よし」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)もトマスにならい、アンデッドの脚を狙った。戦闘が不能な程度にしておけば、調査の役に立つだろうかと、とりあえず手加減して。
「おおきに。……けどこいつら、倒さんといつまでも動いとるな」
 足を飛ばされれば手で這い、首になっても食らいついてくるアンデッドに泰輔は閉口した。動かれては調べにくいが、動かなくなるまで攻撃してしまうとアンデッドはぼろぼろで、調査に不適な状態になってしまう。
「なら、次に来たら浄化魔法だけで倒してみよう。武器を振るうよりは損傷させずにすむんじゃないかな。クレアも手伝ってくれ」
「うん。私とおにいちゃんのコンビネーションでやっつけちゃおう。さあ、かかってこ〜い!」
 横道から現れたアンデッドに、メイガスの涼介、プリーストのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)、双方のバニッシュが炸裂する。
「調査したい人以外は先を急いでくれ。私たちもここが片付いたらすぐに追いかける」
「絶対にパンダ像を手に入れてね」
 涼介とクレアに促され、ティファニーは肯いた。
「ここはよろしくデース。また後で会いマショー」
 後は任せて先に進んでゆくティファニーたちを見送る暇もなく、涼介とクレアはアンデッドを浄化し続ける。
「おにいちゃん気をつけて、中に1体だけ強いのがいるよ」
 他の者が倒れた後も1体のみは倒れず、ひからびた腕で戦斧をふるってくる。
「この世に未練を残せし生ける屍に、安寧の眠りを……!」
 力任せのその攻撃にてこずりはしたけれど、涼介とクレアは武器での傷をつけずにアンデッドを倒し終えた。
 地面に転がるアンデッドの脇に屈みこみ、泰輔はその服装や特徴、傷の有無等のチェックを行った。
「男女比は半々……こっちは子供のミイラみたいやな」
 身に着けている粗末な布は荒く、朽ちかけている。この場で種族を特定できるような特徴は見られないが、この島に住んでいた普通の人々ではないかと思われた。
「なんや、こいつ半分潰れとるわ」
 半身しかない骸骨、首がおかしな角度に曲がっているミイラ。この辺りはそれが死因ではないかと思うが、まったく無傷なミイラもある。ひからびた肉は、どうして彼らがこんなところでアンデッドになったのかを語ってはくれない。
「何百年か経っていそうな遺跡ですね。島が栄えていたにしろ、随分前のことなのは間違いなさそうです」
 付近の家を調べていたレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が、戻ってきて泰輔に報告する。石や泥、木を組み合わせて作った家は時間の流れの中に今にも崩れていきそうだ。
「これはパンダ像がもたらした悲劇なんやろか……」
 パンダ像は人を魅了し、客を寄せるのだという。
 では寄せられた人はどうなるのだろう。
 少なくとも街が出来るほどには発展したはずなのに、今は島は無人となり、生命無き者ばかりが跋扈する地となっている。
「何百年……? これはそんなに経ってるようには見えないんだが」
 泰輔が調べる様子を観察していた涼介が、しぶとかったアンデッドの持つ斧をさした。錆びてはいるものの、何百年も経っているものではない。
「せいぜい数十年、ってとこやろか。けったいやな」
「泰輔さん、こちらの家にある修繕の痕跡……これも古いものではないようです」
 レイチェルがさす箇所には、そこだけ色の違う木が当ててあった。
「なんだかここ、気持ち悪いよ……」
 分からないことだらけで、とクレアは肩をすくめた。
 
 
「またアンデッドデスカー。どれだけいるんデショーネ」
 倒しても倒しても、どこからともなくアンデッドは現れる。
 きちんとした形をしているものばかりでない。わずかに残った骨を引きずって、おぼつかない攻撃を仕掛けてくるアンデッドさえいる。
「ここはわたくしたちが引き受けるわ。皆さんは先に」
 敵がどれだけいようとも、必ず持ち帰るのが明倫館の生徒としての使命。
 そう決意をこめて両手にユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)はすらりと脇差しを抜き放つ。
「わたくしたちって、俺も? かったりーな」
 ユーナと違い、シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)はこの任務に乗り気ではなかった。パンダ如きで生徒が集まるものだろうか。それに、集まったとしても葦原明倫館の力とならない有象無象ばかりでは仕方ない。と、かなり懐疑的な見方をしていた。
 けれど、戦うと決めたからには真剣勝負。気を抜いてはいられないことも、シンシアは心得ている。
「しゃあねーな。さっさと終わらせて、早く帰ろう」
 ティファニーを先に行かせると、ユーナとシンシアは連携をとってアンデッドを倒していった。
「もう死んでんだから、大人しく眠ってればいいのによ」
 頭蓋骨になってまで食らいついてくるアンデッドに、シンシアはうんざり顔だ。
「もしかしたら……客寄せパンダの力が強すぎて、囚われたら最後、二度と抜け出すことができなくなるのかも知れないわね。死してなお、パンダに引き寄せられ続けるのだとしたら……」
 ハイナが手に入れようとしている力が明倫館にもたらすのは、吉か凶か。
 そうユーナは危ぶむけれど、ハイナが明倫館の為に持ちかえれというのなら、それに従うべきだろうと自分に言い聞かせる。
 今すべきなのは、ハイナに言われた通り、きちんと魔封じの籠に入れてパンダを持ち帰ること。像の危険性を考えても、ある程度の情報を持っているのではないかと思われるハイナの手にあるほうが良い。何も知らない者の手に渡してしまっては、その地がこの島と同じ運命を辿りかねない。
 ユーナは未練ごと断ち切らんとの勢いで、アンデッドを片付けていくのだった。
 
「もう少しのはずデース」
 皆の協力を受けて街の中心に向かうティファニーは元気いっぱいだ。
 気力体力十分にある状態でパンダ像を目指す。
 この分だったら、勢力通り、葦原明倫館がパンダ像を手に入れそうだと緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は予想する。一番の勢力である葦原明倫館の陣営に協力を申し出ておいてよかった、と遙遠は心の中で安堵した。
 客寄せパンダをどうするにも、それを手に入れた勢力からの信頼が不可欠だ。パンダ像を調べたくとも、信頼されていなければ触れるところか近くにも寄せてもらえそうにない。
 自分が入手すれば自由に出来るのだけれど、それが難しそうとなれば、どこかの勢力に協力してそこが像を入手できるよう尽力するのが次善の策。
 アンデッドの撃退を手伝うことによって信頼を積み上げられれば、明倫館の協力者として認めてもらうことも出来るだろう。
 そうして遙遠が明倫館がパンダ像を入手することを望んでいるのとは逆に、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、その目的としている客寄せパンダがどんなものなのか、がずっと心に引っかかっていた。
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が地球での語源を調べてみたところ、それは中国から日本にはじめてパンダが来た時、パンダ目当ての客で上野動物園がかつてない賑わいをみせた処から、とあった。それ以来、その人気で客を集めるもの、に対してこの言葉が使われるようになったらしい。その言葉には、たいして動かず芸も無いのに、という揶揄も幾分含まれている。
 パラミタでも同様のことがありでもしたのか、あるいは英霊がもたらした言葉なのかは、ネット上では調べられなかった。
「客寄せパンダがこんな辺鄙な場所に隠されてるなんて……。きっと何がしかの謎が存在するね。この籠ももしかしたら、魔封じというより呪い封じなんじゃないかな」
「なんだか楽しそうデスネー」
 あれこれと考えを巡らせているクリスティーにティファニーが不思議そうに言う。
「謎解きって楽しくない? ロンドンにいたときにも、謎解きは楽しい娯楽だった」
 とそこまで言ってから、クリスティーは慌てて付け加える。
「……と、クリストファーが言ってたよ」
 どこか不自然なクリスティーの様子には気づかず、ティファニーは走りながら肩をすくめた。
「そうデスカー? ナゾナゾは得意ではないデース」
「そのようだな」
 くすりと笑うクリストファーを遮りつつ、クリスティーはティファニーに尋ねてみる。
「探しに行く客寄せパンダは1頭だけ?」
「幾つとは聞いてないデスネー」
 けれど、とティファニーはハイナから持たされた魔封じの籠を眺めた。ここに入れて持ち帰って来いというのなら、パンダ像がとても小さなものでない限り、おそらく1体。
「もしかしたらそこに何かの呪いがあるんじゃないかと思うんだ。客は寄って来ても、パンダが夫婦じゃないから繁栄できない、とか」
「繁栄ならぬ繁殖ということか。だとしたら、片方だけというのは非生産的だね」
 葦原にはそぐわなそうだ、という言葉は口に出さずにクリストファーは心のうちにだけ留めておく。
 アンデッドにパンダがツガイの必要があるのかどうかを尋ねようともしてみたのだが、こちらの言うことを理解しているのかどうかさえ怪しい状態で、さっぱり会話にならなかった。よしんば知っていたとして、それを敵とみなしているこちらに教えてくれるとも思えないが。
「片方、か……客寄せパンダも寂しいとか? だとしたらうかつに持ち帰っては危険だよ」
 クリスティーは警告したけれど、ティファニーは気にした様子もなく答える。
「寂しいデスカ? なら、こんな誰もいないトコロより、葦原の方が賑やかで寂しくないデース」
 パンダ像を増やしたいのではなく客を寄せたいのだから1体でも構わないと、ティファニーはお気楽に考えているようだ。
「どうして『人寄せ』ではなく『客寄せ』なんでしょうねー」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)はその名づけが気になる様子だった。
「客ばかりで、もてなす主人のいない茶館だったらどうなりますことか」
 そこまで呟いてから、セルフサービスという手もあるかと、1人で納得して肯いている。
「セルフサービスの茶館っていうと……明倫館なら、生徒が自習するだけの授業ってことか? まあ、僕はパンダ像を見ることができればそれでいいから、明倫館でどんな授業をしようと構わないんだけど」
 現時点では教導団から特に指示も出ていないから、個人的興味で参加しても良いだろうと、トマスはパンダ見物をする為にこの探索に同行している。
「そうそう。アンデッド退治の労働を、見物料……というか、拝観料? にお支払いしますから、ぜひパンダ像を拝ませていただきたいものですね。ご神体ということは、きれいに色が塗ってあったりするのでしょうか?」
 興味をみせる子敬の様子に、テノーリオはむっつりと呟く。
「……ちょっと毛皮の色分けがユニークだからって、パンダは人寄せになり、タダの熊は駆除対象にされたり、漢方薬の材料にされたり……差があるよな」
 納得できない、という熊の獣人のテノーリオを、ティファニーはそんなことないと慰める。
「パンダ像がどうかは知りませんケド、テディベアは可愛いデスヨ。あとはほら、木彫りの熊はオミヤゲにもなるほどの人気デース」
「作りものはともかく、実物はどうだ」
「……うーん……色合いという以前に、問題があるような気がしマス」
「…………」
 ファイトだ俺、とテノーリオは自分で自分を励ました。
 
 そうしてパンダ像の話をしている彼らはまだ気づいていない。
 自分たちの足が何かに引き寄せられるように、一層速くなっていることに。