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葦原明倫館の休日~丹羽匡壱篇

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葦原明倫館の休日~丹羽匡壱篇

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第3章 未の刻〜あしはらめいりんかんってこんなにひろかったか。


*13時55分*


「いや〜まさか2時間も盛り上がるとは、楽しかったぜ。
 秋の新作も、向かいの店のとろろご飯もうどんも、全部美味しかったもんな!」
「うん、また今度行きたいでござるよ♪」

 皆とのスペシャルな昼食から戻ってきた匡壱と佐保は、士道科の建物へと向かっていた。
 実は昼食の折、明後日までの宿題が出されていたことを想い出した匡壱。
 しかし必要なデータ資料を、印刷したまま机の中に置きっぱなしにしていたのだ。

「道に迷った……どうしたものかなー、知り合いもいないし。
 うーん、困ったね」

 目的の建物にて、匡壱と佐保を迎えたのは桐生 円(きりゅう・まどか)だった。

(んー、なんか見た目がピンク髪のでかいサムライと胸の小さいちっちゃい忍者の子がいるね。
 訊いてみようかなー)
「ねー、キミたち。
 葦原の学校で博物館とかの場所を教えてもらおうかと思ったんだけど、迷っちゃったんだよね。
 職員室の場所、教えてもらえるかな?」
「え、あぁ、職員室か……ちょっと遠いから案内するぜ」
(う〜ん、これも夢をひきずっているのでござるかね?)

 にかっと笑って、円は2人の足を止める。
 教室まではあと少しだというのに……匡壱も佐保も、円の依頼を優先することにした。

「ボクは桐生円、百合園女学院から来たんだ、よろしくね」
「よろしく、俺は丹羽匡壱だ」
「拙者は真田佐保と申す者、よろしくでござる」

 まずはお互い、簡単に自己紹介。
 『シャウラロリィタ』の裾を軽く持ち上げて、円が礼儀正しくお辞儀をする。
 触発されて匡壱と佐保も、普段よりも礼の角度を深くしたり。

「先ほどの話だとそなた、これから博物館へ向かうのでござるか?」
「あぁ、葦原の美術品を見にいこうかと思ってね」
「それはよい、拙者と気が合いそうでござる」

 特殊な家系ゆえ、幼い頃から過去の物品に親しんできた佐保。
 方向性は若干異なるかも知れないが、博物館好きという点では話が弾むよう。
 一方、匡壱はまったく興味がなさそうで。

「ふぁ〜」
「しかたのないやつでござる。
 匡壱も、もう少しいろいろなことに関心を持った方がいいでござるよ?」

 あくびをする匡壱に、まゆを寄せる佐保である。

(んーこの忍者の子、胸小さい?
 友達になれる気がするな)
「キミ、胸小さいよね。
 胸の大きさとかで悩んでたりする?」
「はうっ、なぜ分かったのでござるか!?」

 匡壱を注意する佐保を観察していると、胸の小ささが眼についた。
 これはもしや、自分と同じ悩みを抱えているのではないだろうか……と思ったり。
 ずばり言いあてられた佐保は、胸を押さえて驚きを口にする。

「葦原の校長の胸大きいよねー、なにか秘密があるのかな?
 体操してるとか、食生活のおかげーとか……詳しいこと聞いたことある?」
「いや、残念ながら……」
「ピンクの髪のキミは?
 校長の胸の大きさでさ、なにかいい方法とか知ってる?」
「俺も知らねぇな」
(胸、ねぇ、小さい方が邪魔にならなくていいじゃねえか)

 またもや共通の話題を発見した円と佐保は、2人で大盛り上がり。
 先導するかたちで歩く匡壱には、女性の悩みより実用性の方が重要なようだ。

「じゃあじゃあ、ここに『ちっちゃい胸クラブ』の結成を宣言するよ!
 ボクが会長ね!」
「拙者は副会長でござる!」

 そして、新たな同盟が生まれた。

「そういえばさ、ピンクの髪って珍しいね」
「べっ、別にいいだろ?」
「あはは、誰も悪いなんて言ってないよ。
 キミ、可愛いね」
「ほっとけ……ほら、着いたぜ?」

 ちょっとだけ、匡壱に意地悪してみた円。
 普通に返せばいいのに……意地をはっても、もっと面白がられてしまうだけなのに。

「案内してくれてありがとう、お礼に『めいりんテリヤキバーガー』あげるよ」
「え、いいんでござるか!?」
「買いすぎちゃったんだよね、2人で食べなよ」
「ありがとう」
「じゃあね〜!」

 引き戸の前で、円は茶色い紙袋を差し出してきた。
 折りを伸ばして開いてみると、なんとも食欲をそそる香りが。
 感謝の気持ちを置いて、円は職員室へと消えていく。

「いけねっ、資料をとりに行くんだった!」
「また逆戻りでござるね」

 円を見送り、きびすを返した……はっ。
 大切なことを想い出して、匡壱と佐保は肩を落とすのであった。


*14時45分*


 教室から出てきた匡壱の右手は、数枚の紙資料を抱えていた。
 佐保の腕には、先ほどもらった茶色の紙袋。

「さて、これを置きにいったん帰るかな」
「そうでござるな、また夕食時にでも来るでござるか」
(佐保ねーさんと仲よくなりたいけど、どうすればいいんだろう?)
「なにやつ、隠れもせずにいい度胸でござる!」

 書類の処遇を話し合っているとき、佐保は妙な気配を感じた。
 振り返ると、大きなすいかを抱えた美少女が。

「あ、あのっ、私、リース・アルフィンっていいます。
 佐保ねーさん、友達になりたいですっ!」

 勢い余った告白を受け、応対を考えること数秒。
 のあいだにも、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)はまくしたててくる。

「私、明倫館に転校して来たばかりで友達が少ないんです。
 だから友達になって、佐保ねーさんにいろいろ教えてほしいのです!」
(本当は、佐保ねーさんが私の好みだったからですけど……いまは黙っておこう)
「うむ、構わぬでござるよ。
 友が多いにこしたことはござらぬゆえ」
「ありがとうございます、感激ですっ!
 これ、私が育てたスイカなんですけど、よかったら食べてください!」

 ずいっと、すいかを差し出してきたリース。
 なるほどそのために……と感動しながら受けとるが、結構重い。

「匡壱、運んでくれぬでござるか?
 拙者が持って歩くと、前が見えぬでござるよ」
「しかたねぇ、じゃあ代わりにこれ持ってくれ」
「あ、よかったらこの袋もどうぞ!」

 交渉の結果、匡壱がすいかを、佐保が紙袋と資料をもつことになった。
 するとリース、ちょっと大きめの紙袋を渡してくるではないか。
 佐保の持ち物が、ちょうどすっぽり収まるサイズである。

「おぉ、重ねがさねありがとうでござる」
「いえそんな、佐保ねーさんのお役に立てて嬉しいです!」

 こうして、佐保とリースは固い友情を交わしたのだ。
 3人は、階段を下りて、校舎の外へと向かう。

「忍者の佐保ねーさん相手にこそこそしても無意味だと思ったので、隠れるのはやめたんです」
「確かに……忍術にかけては、佐保はぴかいちだもんな」
「なんでござるか、その微妙な言い方は」
「でもでも、本当に佐保ねーさんはすごいです!
 転校してきたときから佐保ねーさんと仲よくしたいなーと思っていたのですが、なかなか話す機会がなくって。
 今日こそは、と心に決めて声をかけたのですよ」

 匡壱の言い回しにむっとする佐保だが、リースのフォローで危機回避。
 リースにしてみれば、ようやく友達になれたのだからもっとゆっくり話したい気持ちが強かった。
 雰囲気をぶち壊されては、もともこもないのだから。

「そういやぁさ、リースはなんで佐保のことを『ねーさん』って呼ぶんだ?」
「え、特に理由はありませんよ?
 まぁでも、かっこいいし尊敬もしていますので、呼び捨てにはできないかなぁって」
「そんな、別にかしこまらなくてもいいでござるに」

 なにげない匡壱の疑問にも、リースは眼をきらきらさせて答えた。
 無邪気さから、逆に佐保が恥ずかしくなったり。
 校門を出て途中まで一緒に歩き、分かれ道にてさようなら。
 明日の昼食をともにしようと約束して、互いに家路を急ぐのであった。