校長室
葦原明倫館の休日~丹羽匡壱篇
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第6章 亥の刻〜ながかったいちにちもやっとおわるぜ。 *21時30分* 「いやぁ〜、なんとか無事にすんだな」 「しかし、安心はできぬでござるよ」 夢に見たことは結局、かたちを変えて現実のものとなっていた。 しかし、今日はまだ2時間30分も残っている。 匡壱も佐保も、気を張る元気もないが気を抜けもしない、中途半端な気分に陥っていた。 (どこでお茶しようかなー。 えへへー、今日は奮発しておいしい和菓子たくさん買ってきたんだー。 食べるの楽しみだよー) 「ん、桃色……何してるんだろう?」 かちゃりという小さな音が響き、校長室の解錠を知らせる。 引き戸のくぼみに、ハイナが手をかけたときだった。 「む、なにやつ!?」 「わぁ! えっと、えっと……」 曲がり角から、校長室をの方こっそり覗き見ていたのは鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)。 ハイナに見つかってしまい、その場にしりもちをつく。 「お……おいしい和菓子をたくさん買ったんで、皆さんにおすそ分けに来ました!!」 言い訳が思いつかずにわたわたしているとき、眼についたのは……箱。 氷雨は、両手に持っていた大きな箱を前へと突き出した。 「そうか、それは悪いことをしたのう」 「ではお茶にしましょうか、もう遅いので少しだけですが……皆さんもどうぞ。 手伝っていただいたお礼をいたしましょう」 (なぜかお茶会になっちゃったよ……今度は気になっても、そばに寄らないことにしよう!) こかしてしまったことに責任を感じ、ハイナはみずから氷雨を助けに。 そのまま手を引き、ともに校長室の隣にある応接室へと入室した。 ほかの、蛍光灯の交換を手伝った者達もなかへ入り、最後に房姫が引き戸を閉める。 なにかあってはいけないので、校長室はもちろん、応接室にも鍵もきちんとかけました。 「1、2、……18ですか」 「蛍光灯1本とりかえるのに、またえらい人が集まったものよのう」 茶器を準備するためにと数えてみたところ、いまこの場には18名もの人間が座っている。 想い出してみれば、ハイナに房姫、匡壱と佐保、交換終了まで残っていた者が13名にプラスして、氷雨で18名。 それだけ、ハイナと房姫が困っていると言えば動く生徒が多いということ……か。 葦原明倫館は、まだまだしばらく安泰そうである。 (そうだ! この機会に、前々から疑問に思ってた食堂のことについて訊いてみよう) お菓子を円の中心へと並べながら、氷雨は考えていた。 実はずっと、ハイナにぶつけてみたい疑問があったのである。 「総奉行さん、ボクずっと気になってたことがあるんで訊いてもいいですか?」 「ふむ、答えられることなればのう」 (ほう……氷雨、なかなかの義理堅さだ) いきなり訊くのも失礼かと思い、きちんと相手の許可をとる心づかい。 氷雨の律義な対応に、匡壱も茶をすすりながら感心する。 「あの、食堂のメニューって誰が考えたんですか? メニューの名前がずっと気になっていて……」 「食堂をとりしきる女将さんでありんす。 じゃがめったに表には出てこず、教職員でも知っておる者が少ないため、『謎の女将』と呼ばれておるよのう」 「『謎の女将』ですか……」 ついに、葦原明倫館の謎の一端が明らかとなった……と言ってもよいのだろうか。 人物を特定するところまではこぎつけても、本人に会えないとなればそれは謎のままか。 いつかこの『謎の女将』が、皆の前へと顔を出す日がくることを信じよう。 「総奉行さん、ありがとうございました」 「またなにか疑問があれば、遠慮なく訊くがよい……ん?」 「誰か、戸を叩きましたね」 お茶もお菓子も床へ置き、姿勢を正して礼。 登場こそおっかなびっくりだったものの、そのあとはとても折り目正しい氷雨。 ハイナも、いつになく上機嫌である。 と、こんこんと、入口から音が聴こえてきた。 立ち上がり、覗き穴から外の様子をうかがう房姫と、刀を持ったハイナが扉のわきへ。 匡壱や佐保をはじめ、皆が軽く武器へと手をかける。 「殺気は感じられぬが……気をつけるでありんす、房姫」 「えぇ……では、開けます」 がらっ、と勢いよく戸を引くと、そこには。 「こんばんは〜卍兄妹です〜!」 「兄様が押し売りに来たのだよ」 「神楽ったら、人聞きの悪いことを言わないでくださいね?」 「あぁそんなことより兄様、お土産をっ!」 立っていたのは、卍 悠也(まんじ・ゆうや)と卍 神楽(まんじ・かぐら)だった。 まずい、悠也の眉間にしわがっ。 これしきのことくらいでキレたりしないだろうとも思いつつ、それでも予防線を張る神楽。 キレた悠也には、誰も手がつけられないから。 「そうでした。 これ、お土産のお茶っ葉です」 「ありがとうございます、いつもすみませんね」 「っておい房姫、そんなやつ入れんでよい!」 「おやおや……ずいぶんな言われよう、ボクって嫌われ者ですね」 (とか言って、絶対に楽しんでおるな) 提げていた緑の紙袋を房姫に渡し、よいしょっと敷居をまたぐ。 だが房姫とは違い、ハイナはあまり悠也を歓迎していないみたい。 ハイナの言葉に、眉を八の字にして両手を上げる悠也。 パートナーの様子を見て、若干あきれる神楽である。 「さて……御奉行? 今日もたっぷりと日本文化についてお話させていただきますね」 「妾はよい、もう充分に知っておる!」 「ダメですよ、知らないでアメリカンな日本文化にするのと、知っててするのとでは天地ほどの差がありますからね」 悠也は葦原明倫館設立当初から、ハイナの知識のかたよりを問題視していた。 そのためことあるごとにハイナをつかまえては、日本人視点の日本文化と欧米人視点の日本文化の違いについて話していたのである。 (兄様はいつも、どうでもいいことに熱心だな……かまいはしないのだが) 「房姫様、私がおつぎいたしますよ」 「そうですか、ではお任せいたしましょうか」 悠也のように、誰かに語りたいなにかがあるわけでもない。 急須を受けとると、神楽は全員の湯飲みに茶を注ぐ。 皆にとっての2杯目は、悠也が持ってきたお茶だ。 房姫の準備した茶には負けるものの、香り高く、まったりした味わいのお抹茶である。 (なにやら理由は不明だが、たいそう疲れることをしたのであろう) 「匡壱もほら……まぁ、なんだ。 疲労で倒れないことを祈っているよ……」 神楽が茶をついでいるあいだじゅうずっと、背後でねぎらわれていた匡壱へ。 勧める温かいお茶に、心をこめて。 「あ……あぁ、ありがとう、神楽」 「おっと、匡壱が赤くなってるでござるよ!?」 「やっ、やめろ! なってないって、佐保っ!」 「あはははは〜」 神楽の優しさに触れて、少し嬉しくなる匡壱。 ちょんちょんと肘を入れてくる佐保をとどめながら、茶を味わう。 匡壱にも、ようやっと平穏が訪れそうだ。 ただいまはもう1時間くらいで、月曜日になってしまうという時刻なのであった。
▼担当マスター
浅倉紀音
▼マスターコメント
お待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。 これまであまり……というかまったくと言ってよいほど出番のなかった葦原明倫館のNPC達を、総出演させてみました。 なかなか無茶やったぜ! 少しでも、いっち〜達に対して親近感を持っていただければ嬉しいです。 あ。 時間経過に根拠はありませんので、苦情とか出さないでくださいね(苦笑 楽しんでいただければ幸いです、本当にありがとうございました。