リアクション
8.ヒラニプラの心思 「彼を知り己を知れば百戦殆からず。今日はぽっかりと一日あいてしまったので、己を知るためにパートナーの戦力について考察・評価をしようと思う……」 教導団寮の一室、月島 悠(つきしま・ゆう)は自室のパソコンにパートナーたちの分析データを打ち込んでいった。 「まず、千夏はトーチカ型の機晶姫だ。だが、実際にトーチカとして運用するにはまだ経験と防御能力が足りていないだろう。多数の敵、特に契約者の精鋭を相手にするにはまだまだ力不足。今は遠征先で雨露を凌ぎつつ賊程度の攻撃は気にせず耐えられる程度だ……」 月島悠が文章を打ち込んでいく。 はたして、藤 千夏(とう・ちか)をトーチカとして運用しなくてはいけない状況というのもある意味特殊だとは言える。 本来の形状通りであれば、それなりの耐久力と装甲を誇るはずであるが、いかんせん機晶姫であるがゆえのもろさがある。それを経験によって補い、本来のトーチカ以上の防御力を叩き出すのが最終目標であるのだが、装備の装甲板を抜かれたらもう後がないというのが実情だ。この追加装甲の限界値の見極めがパートナーとしての月島悠の責務であろう。 「マックスは悪魔的な魔鎧。装着してみての評価を開始しよう。前の持ち主が射撃戦に特化していたのだろう、射撃武器を扱う装着者との相性は良好。格闘も銃底をそのまま相手に叩きつけるような動きであれば阻害されにくい。反面、接近戦で常にやりあうには可動域に難がある。マックス自体がソルジャーとして戦闘能力を有するので、個々に戦闘を行った方が今はいいかもしれない……」 実際問題、マクシミリアン・フリューテッド(まくしみりあん・ふりゅーてっど)は重装甲の鎧のため、機動力は望めない。それゆえ、射撃であれば抜群の安定感を実現できるようだ。だが、まだレベルが低い現在、強力な一戦力よりも、それぞれに特化した別個の戦力の方が、有効運用できるかもしれない。 「翼は、ガトリングガン型の光条兵器を持つ剣の花嫁だ。光条兵器は見た目は派手だが、光弾が分散した分、全弾命中させなければ本来の威力が出ない。それゆえに、若干武器に振り回されている形の翼では、雑兵に対しては有効でも、熟練兵に対しては不利となる場合が多いとも言える。そのため、オフェンスとして私が光条兵器で敵を排除し、ディフェンスとして翼をサポートに回した方が戦果を上げられると思われる。問題は、それを翼が許すかで……」 「何をしているのですか?」 ふいに、月島悠の背後に現れた麻上 翼(まがみ・つばさ)が、パソコンの画面をのぞき込んだ。 「何よこれ。ボクと悠くんの腕力なんて、大差ないじゃない。オフェンスはボクだよ!」 ガチャンと取り出した光条兵器の銃口を月島悠にむけて、麻上翼が叫んだ。 「ちょ、ちょっと。翼……、落ち着いて……」 直後、月島悠の悲鳴が寮中に響き渡った。 9.夢のザナドゥ 「ここがザナドゥかあ。ついにやってきたんだよね」 見慣れぬ異境の土地を見回して、ルカルカ・ルーが感激の声をあげた。今日は、ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)をガイドにして、ザナドゥツアーの初日だ。姿は見えないが、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も自分たちのそばにいるはずである。 「そうよ、ここが悪魔の世界、ザナドゥなのよー」 ニケ・グラウコーピスが、らららと踊りながら言った。なんだか、いつもと様子が違う気がする。本当に本人なんだろうか。 「私とあなたの出会い……。相応しい人を探してたの。バトルロワイヤルの深紅の龍討伐の記録で彼女に興味をもったの。彼女が何者かは、調べたらすぐ分かったから、契約の勧誘に訪ねたの。ルカがちょっと普通と違うのは、契約してから知ったのだけれど♪」 「ルカは普通だもん」 歌うように言うニケ・グラウコーピスに、ルカルカ・ルーはぶうぶうと文句を言った。 「何やってんだ、お前たち?」 ザナドゥでは明らかに不審者な二人に、彼女たちを見つけたイアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)が声をかけてきた。 いきなり地元の悪魔に見つかってしまったとルカルカ・ルーが緊張して身構える。 「なんだかやばそうな女だぜ。おい、そっちの男、お前の魂はちっとはまともか?」 隠れてルカルカ・ルーたちの後をついてきていたエース・ラグランツをあっさりと見つけて、イアラ・ファルズフが言った。 「なぜ、ばれたんだ!?」 エース・ラグランツが、ちょっと驚く。自分では完璧に隠れていたつもりだったのに。 「そうよ、見つけちゃうなんて反則なんだもん。いったい、どうやって見つけたのよ?」 ルカルカ・ルーも、思いっきりイアラ・ファルズフに突っ込んだ。 「理由か? それはなあ、これが夢だからだよ」 「へっ!?」 イアラ・ファルズフの言葉に、ルカルカ・ルーがきょとんとした。 「さあ、契約しようぜ。ははははははは……」 そう言うなり、イアラ・ファルズフが、エース・ラグランツをかっさらって逃げて行く。 「ちょっと待ちなさいよ。ニケ、追いかけるんだもん!」 そう叫んで、ルカルカ・ルーはイアラ・ファルズフの後を追いかけようとして……転んだ。 ★ ★ ★ 「いたたたたた……。あれっ? ここどこ?」 パジャマ姿のルカルカ・ルーは、寝ぼけ眼で周囲を見回した。自分の部屋だ。いつの間にかずり落ちて、床と顔が仲良しになっている。 「夢を見ていたの……!?」 ルカルカ・ルーは、がっくりとベッドの上で突っ伏した。 ★ ★ ★ 「はあはあはあ、げええええ……。なんだか酷い夢を見たぜ。いきなり悪魔にさらわれるわ、ディープキスされて舌に刻印をされるわ。なんでこんな夢を……」 同じように自室のベッドの上で目を覚ましたエース・ラグランツは、何かの気配を感じて壁の照明スイッチを手探りでつけて起きあがった。 見知らぬ誰かが部屋の中にいる……。 「よっ」 片手を上げて挨拶したイアラ・ファルズフが、ニヤリと笑った。 そして、時計の針が0時を告げた……。 担当マスターより▼担当マスター 篠崎砂美 ▼マスターコメント
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