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リアクション
7.進攻する者
「思ったよりも大変な事になってきてるね」
パンダ像は人ならざる者をも引き寄せている。
霧雨 透乃(きりさめ・とうの)達は像を破壊するため、一直線に駆けていく。大き過ぎる力は、災いを招くだけだ。
「早いとこ、あの像をどうにかしないとな」
霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)の表情も険しい。自分達の学校が発端となっている以上、その責任は学校だけでなく手伝った自分達にもあると透乃も彼女のパートナーも考えている。
ならばこのまま村の中で激しい混戦状態に入る前に、一気に像へと接近するしかない。
眼前にはアンデッドの姿。彼らは自分達以外にパンダ像に近付く者は、全て敵だと認識しているようだ。村人も含めて。
そのため、透乃に向かって襲い掛かってくる。
「邪魔、しないで!」
迫り来る亡者達に、彼女は炎を纏った拳を突き出す。その一撃による衝撃と熱風は、眼前の敵をまとめて吹き飛ばすには充分な威力を持っていた。
それでも、命なき者達は怯まない。
「大人しく倒れててくれればいいのに……」
だからといって、立ち止まって相手にするわけにもいかない。拳を振りながら、彼女は走る。自分の編み笠に意識を向ける事もなく。
「透乃ちゃん……」
そんな彼女を見つめる緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の顔には、翳りがあった。
無謀にも真っ直ぐに突き進んでいく彼女の事を案じているからだろう。だが、まだ陽子は自信を失ったままで、攻撃をするのが躊躇われている。
「…………」
今はまだアンデッドだからいいが、この先には魅了された契約者が待ち構えているだろう。いっそ、自分も笠を捨て、その中に入れれば楽になれるに違いない。
「……透乃ちゃんを傷つけさせはしません!」
大切な人が、自分が戦わない事で傷つくところは見たくない。陽子が覚悟を決め、透乃を援護する。
彼女を取り囲まんとするアンデッド達に、ファイアストームを放つ。炎はアンデッドを阻み、その間に彼女達は前へと踏み出す。
「まったく、もうアンデッドは飽き飽きだってのに」
一行の中でも、月美 芽美(つきみ・めいみ)は不機嫌であった。早いところ、殺し甲斐のある生身の人間をやり合いたい、だがそこになかなか到達出来ない事による苛立ちがあるようだ。
「邪魔よ」
二度と立ち上がらないよう、黒コゲのアンデッドにとどめを刺していく。
「もう少しッ!」
先陣をきる透乃の視線の先には、パンダ像の祠、そしてそれを囲み守ろうとしている契約者達の姿があった。他の三人も、それを確認する。
「あら、ちゃんと生きてる人も多いのね」
切れば血を流す人間の姿に、やや機嫌が直る芽美。
「芽美さん、殺そうとはしないでくれよ」
「……分かってるわよ」
泰宏に窘められるも、彼女としては殺さずにいる、という選択肢はない。要は、気付かれないように殺せばいいのだ。
一般人が粗方像の周囲から離れていたのが、せめてもの救いだろう。そうでなければ犠牲者が出ていてもおかしくはない。かと言って、魅了されている契約者相手に本気で殺し合いをしていいというわけでもないが。
「――コイツッ!」
同じアンデッドでも、敵は実体を持っている者ばかりではない。泰宏と芽美を囲んできたのは、実体なきゴースト達だ。物理攻撃しか今は出来ない泰宏には相性が悪い相手だ。
「死人はさっさと消えて」
芽美がゴースト達に雷術を打ち込む。
「ち、まだいたか!」
彼女の足下を這ってきた焦げたアンデッドが、雷術の隙に襲い掛からんとしていたが、それに気付いた泰宏が防ぐ。
「ほんと、キリがないな」
泰宏と芽美、透乃と陽子の距離は開いていく。
「そこまでだ。これ以上パンダ様に近付くな!」
透乃達の前に立ちはだかったのは、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)とクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の二人だ。
「どいて!!」
走りの勢いを利用し、彼らに向かって拳を突き出そうとする透乃。
「――ッ!」
その一撃を、クリストファーはエンデュアで耐える。だが、炎の分は抑えられても、鳩尾に入った拳の痛みは想像を絶するものだ。立っていられるのもギリギリなほどに。
「陽子ちゃん!」
「はい!」
相手は契約者不安はあったが、サンダーブラストを放つ。
「パンダ様……万歳……」
透乃の一撃に加え、さらに強力な雷電が降り注ぎ、クリストファーはついに倒れた。
「……行かせないよ」
それでも、まだ動けるクリスティーが彼女達の前に立ち塞がっている。
しかし、ここで異変が訪れた。
「上を見ろ!!」
村の中にいる、誰かが叫んだ。
これまで、呼び寄せられていたのは、無人島にいたアンデッドや、荒野の獣だけかと思われていたが、空を飛ぶ野生のワイバーンまでが引き寄せられてきてしまったのである。
「次から次へと……」
これには顔を歪めるしかない。
ワイバーンは、地上の人間達を襲うため、滑空し始めた。
「あっ!!」
透乃の編み笠が、ワイバーンによって脱がされそうになる。だが、陽子がすかさずサンダーブラストを繰り出し、笠を透乃に被せる。
「助かったよ、陽子ちゃん。ここまできて私まで魅了されちゃったらどうしようもないもんね」
とはいえ、ここから先に進むのは難しい。戦いを避けては通れないのだ。
それでも彼女達は、パンダ像破壊のため前へ踏み出していく。
* * *
「村が出来かけていると噂では聞いてたが……こいつは厄介だな」
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はモンスターを吹き飛ばしながら村の中心部を目指していた。
もうアンデッドとの修行をする気はなかったのだが、どうにも思い通りにはいかないらしい。他の空大生のためにも、像を持って帰りたいというのに。
医学部に所属している事もあり決して成績は悪くないのだが、学長が興味を持つくらいだから、よほどのものなのだろう。現に、それほどの現象が目の前で起こっているわけだが。
ここに来るまでの間にもたくさん攻撃を食らったのか、アンデッド達は島にいたものよりも状態が悪い。それが彼らをより一層グロテスクに見せる。
「今は相手にしてる場合じゃねぇんだ!」
鳳凰の拳で纏わりつこうとするアンデッドを振り切る。問題はゴーストタイプの実体のない敵だ。
「く、コイツはどうしようもねぇ」
殴れない敵からは距離を取るしかない。ゴースト系のモンスターも身体がない以上こちらには触れないが、こちらの状態をおかしくする実に面倒な攻撃をしかけてくるからだ。
軽身功に続き、神速で一気に駆け抜けようとする。
しかし、今度は上空からワイバーンが飛来する。
「急いでいるんだ、どいてくれよ」
ワイバーンに向かってドラゴンアーツを繰り出すラルク。そのまま軽身功を生かしてワイバーンに飛び乗り、鳳凰の拳で地面に叩き落す。
敵も魅了されているようだったので、どの道乗り物としては役に立たなかっただろう。
像まであと少し。だが、そんな彼を阻む者が現れた。
「パンダ様を狙うモンスターを払ってくれて、ありがとうございます」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だ。
「ですが、パンダ様を拝むのにその笠は邪魔ではありませんか?」
次の瞬間、遙遠がバーストダッシュで距離を詰めてきた。
「遙遠が……外して差し上げますよ」
光条兵器を振るう。あくまで彼の狙いは笠であり、それだけを斬ろういう攻撃だ。
「――ッ!!」
それを、神速をもって回避するラルク。だが、守りを同時に行う事は難しく、遙遠の攻撃が笠をかすめてしまう。
「しまった、笠が……」
笠の一部が斬られた程度だが、それが魔封じの力を弱めてしまう。
「まだ、魅了されるわけにはいかねぇ!!」
だが、耳元に声が聞こえ始める。「我を愛せよ」というパンダ像の声が。それが、像の力を物語っている。
しかし、彼には砕音・アントゥールスという婚約者がいる。最愛の者を差し置いてパンダ像を崇める事は、裏切りに思えた。
(負けるな、俺!!)
強靭な精神力で何とか自分の意志を保つ。だが、笠の力が弱まりつつある今、長くはもたないだろう。
「そんなに顔を歪めてどうしたのですか? さあ、一緒にパンダ様を讃えようではありませんか!」
完全に正気を失い、他者にまで信仰を強要する遙遠。新興宗教に嵌った人と同じようなパターンである。
「パンダ様バンザァァァアイイイ!!」
その後も笠狙いで、執拗に攻めてくる。
「生憎、手加減は出来ねぇ。時間もねぇんだ、覚悟しやがれ!」
魅了の力に抗いながらも、ラルクはヒロイックアサルト・剛鬼で拳を遙遠に向けて突き出した。
このままだと自分も目の前の人間と同じ末路を辿る事になる。それは避けなければならない。同じ空大生を殴り飛ばすのは忍びないが、やむを得ないのだ。
「ぐぶッ……!!」
殴られた遙遠が宙を舞う。朦朧とする意識の中で彼は眼下にあるだろうパンダ像を想う。
(パンダ様、貴方の素晴らしさを伝えきれなかった遙遠をお許し下さい)
そして最後に、大声で叫んだ。
「パンダ様バンザァァァアイイイ!!!!!」
それが、パンダ様を崇める遙遠の最後の言葉だった。
* * *
契約者同士の戦いもそうだが、やはりモンスターもどうになかしなければならない。
「チムチム、アンデッドを倒すよ!」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とチムチム・リー(ちむちむ・りー)は、村の中に侵入して来たアンデッドに対し、銃を向ける。
編み笠にはパンダの絵が描かれている。意図したわけではないが、村人にとってのパンダは唯一の神なので、彼女も信仰者と見られているようだ。
そのため、特に問題なくモンスター退治に専念出来ている。
「いくアル!」
チムチムがアンデッドに機関銃を撃つ。彼女が囮となって引き付けている間に、レキはスプレーショットで敵の足を粉砕する。
続いて、周りにの敵全体に向かってクロスファイアだ。ゾンビタイプは身体が残っている限り、起き上がってくる。ならば、粉々になるまで撃ち続けて行動不能にするしかない。
「キリがないよ」
それでも、次々と敵は村の外から集まってきている。
パンダ像の周には契約者がいる。像を奪還しようとしている人に、無駄な体力を使わせるわけにはいかない。
「モンスターはボク達に任せて!」
後続の人達へ呼びかけ、彼女達は攻撃に専念する。
その間に、明倫館を始めとした学生達がパンダ像へ向かって進み出す。
「上っ!!」
アンデッドだけが敵ではない。上空のワイバーンも、厄介な敵だ。銃を持っている事を活かし、今度は上空にその銃口を向ける。
ただ像の力で呼び寄せられているだけの生物を撃つのも忍びないが、同じ像を確保しようとしている仲間を危険に晒すわけにはいかない。
広範囲攻撃を行っていた事で、あまりスキルの乱発は出来ない。だからこそ、スナイプでよく狙って、引鉄を引いた。
命中。だが、今度は地上だ。
休む間もなく狙いを切り替える。建物の陰に移動し、そこからシャープシューターでアンデッドの足下を狙って攻撃をする。いくらアンデッドでも、足がなければそうそう動けるものではない。雲海を渡ってこれたのは、ゴーストやレイスに憑かれていたからだろう。そうでなければ浮遊能力なんてものは身につかない。
レキ達が足止めをしている間に、祠の周囲には次々とパンダを狙う契約者達が集まり出していった。
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