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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

リアクション


第5章 優勝だけが目的じゃない?

-PM14:20-

「動かないでくださいね、スケルトン」
 修道服を着込み悪魔祓いの仮装をしている緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、タルの中に入っているスケルトンを洗剤を使い徹底的に殺菌消毒してやる。
「これだけ洗浄しておけば大丈夫そうですね。食べ物を扱うわけですからエタノールとかより、こっちのほうがいいでしょうから」
 つるんっとぴっかぴかになったアンデットの身体を、衛生上問題ないか念のためチェックする。
「1ミリでも動いたらお仕置きしますよ。さて、次は棺ですね」
 生地を流し込む外枠をスケルトンを覆うように作成する。
 使われるがままのアンデットはもし動いたらジェノサイドされるかもしれないと、怯えて石造のように動かない。
「こんなもんですかね。次は棺を作りましょうか」
 外枠の作成を終えた彼は、耐熱性の鉄製棺の作り始める。
 ちょうどその頃、七枷 陣(ななかせ・じん)も参加しようとカフェへやってきた。
「今日のオレは吸血鬼や、近づいたら吸ってやるぞ〜」
 吸血鬼の衣装を纏い、マントをはためかせてそれらしく振舞う。
「ご主人様、冗談はその辺にしておいて作り始めましょう」
 傍にいる小尾田 真奈(おびた・まな)がさらっと流す。
「そうやね。あっヨウくんも来てるみたいだし、なんだかライバルがものめちゃめちゃ多いな。というかあの場所・・・何か出てきそうなBGMが流れてきそうやね」
「えぇそうですね・・・」
 材料を計量しながらその場所へ視線を移すと、遙遠がいる数m先にトマスたちが殺伐とした雰囲気の城を作っている。
「デンジャラスゾーンやね。えーっと最初はケーキを作るんだったか?」
 見なかったふりをして陣はお菓子作りを始める。
「レンジって便利ですねご主人様。こんなに簡単にカボチャが柔らかくなるなんて」
「まぁ大きさによるけどコンロを使うより早い場合があるからな」
「薄力粉をふるっておいていただけませんか?」
「おし、いっぱいふるっておこうか。―・・・ぶはっ!」
 ボウルにバサッと出してしまい、粉だらけの真っ白な顔になってしまう。
「袋の口は少しだけ開けるんです。全部開けてしまっては入れづらくなってしまいますよ」
 真奈はため息をつきながらも、ハンカチで陣の顔を拭いてやる。
「―・・・あっ」
 拭けたのはいいが、今度は真奈の黒ずくめの魔女の衣装に粉がついてしまった。
「ご、ごめん!」
 ぱっぱっと彼女のスカートについた粉を陣が手で払う。
「あの・・・ご主人様。私、自分で払えますから」
「すっすまん」
 思わず赤面してさっと彼女から少し離れる。
「問題ありません。粉は取れましたから」
 一方、真奈の方は気にしている様子はなく、トスンッとミキサーを置く。
「ん?そんなの使うのか」
「早く出来ますから便利ですよ」
 ミキサーの中にカボチャと牛乳、グラニュー糖を入れて蓋を閉めてスイッチを押す。
 ギュァアアッ。
 たった数秒で材料が混ぜ合わさる。
「ご主人様は生キャラメルクリームなどの方を担当してください」
 常温に戻したバターと卵、ふるってもらった薄力粉を加えてミキサーにかけながら頼む。
「それなら簡単に出来そうやね」
 グラニュー糖をさらさらっと鍋に入れ、牛乳と生クリーム、蜂蜜を加えて焦がさないよう混ぜながら鍋で煮詰める。
 ぷくっぽこっ。
 木ベラでゆっくり混ぜていると粘りつくように泡立つ。
「おっと。鍋から下ろしておかないとな」
 余熱で焦げないように、火を止めて濡らした台拭きの上に乗せる。
「ありがとうございます。こちらはケーキを焼く準備が出来ました」
 生地をおたまですくい、真奈は大きめなマドレーヌ位ありそうなジャックオウランタンの型に流し込む。
「焼けるまで20分ちょっとありますね」
 型をオーブンに入れて焼き時間をセットし、ぽちっとスタートボタンを押した。



「ほぇ〜なんかすげーがある!」
 泉 椿(いずみ・つばき)は吸血鬼の仮装をして頭にアリスの角をつけてカフェの中を覗く。
「お菓子の家っぽいな。もしかして人が入れるサイズだったりするのか?」
 郁乃とマビノギオンが内装に使う椅子やレンガをアイシングでくっつけて組み立ている様子を見る。
「ここまで作るともう分かっちゃうね。このお菓子の家はエリザベート先生が入れるくらいかな」
「じゃあ、あたしも入れるんだな!?」
「そうだね。ばっちり入れるよ」
「やったー!んじゃ後で来るからな」
 片手をふりふりと振り、他の場所も見てみる。
「それにしても皆いろんな仮装してるな。おっ、何だあれ。お化けの効果音とか出ちゃうそうなゾーンだな!」
 トマスたちや遙遠がいるデンジャラスゾーンに踏み込む。
「砂糖人形を作っているな、あっちから行ってみるか」
 まずは子敬のところへ行ってみようと傍へ寄り、床に屈んで人形をじっと見る。
「それ人形だよな?見せてくれよ」
「途中ですから恥ずかしいです・・・」
「まだ食べるわけじゃないんだし減るもんじゃないだろ?まぁいいや、出来そうな頃に来ればいいか。ていうかミニスカートの看護婦の格好している時点で、恥ずかしがることないじゃないか」
「え、これはその・・・」
「ミニ・・・ミニスカートの看護婦ですってぇええ!?」
 カボチャを電子レンジで加熱していたミナ・エロマ(みな・えろま)が、音速を超えそうなスピードで走ってきた。
 コウモリ羽のアイドルに仮装した彼女は、飛ぶように2人のところへ走り、子敬を激写する。
「フフッ、看護婦ー看護婦ー!」
「やめろミナ、作業の邪魔になるだろっ」
「退きなさい椿」
 ヒップアタックでドスンッと椿を退ける。
「じっくり撮らせていただきますわよ」
「か、簡便してくださいっ」
 子敬は泣きそうになりながら両手で顔を隠す。
「あら・・・髭?構いませんわ、私のコレクションに入れましょう」
「うぅそんなぁ、あんまりです・・・」
「(パパラッチか!?)」
 しくしくと泣く彼をテノーリオが憐憫の眼差しで見る。
「ほら、邪魔になるから戻るぞ」
 椿はミナを作業場へずるずると引きずる。
「出来るまでここで見ているからな」
 これ以上人様に迷惑かけないようミナを監視する。
「分かりましたわ。(んもう、他の人も撮りに行こうと思いましたのに残念ですわ)」
 ミナは心の中で不満げに呟きながらも、一口大にしてレンジにかけたカボチャをマッシュする。
「バターはクリーム状になるまで混ぜるんですの。フッフフ、グラニュー糖がふんわりしてきましたわね♪」
 粉をふるいにかけてバターを混ぜ、グラニュー糖をすり混ぜる。
 カシャカシャと菜箸で溶きほぐした卵を加えて混ぜ、冷ましておいたマッシュしたカボチャを加え練らずにさっくり混ぜる。
 チーズも加えてカボチャオバケ型のバウンド型に、生地を流し込みオーブンに型を入れて焼く。
「(写真を撮りに行かないように見張っているだけなんて退屈だぜ)」
 カタカタと椅子を揺らしながら作っているミナの姿を見る。
「周りが気合い入っているやつばっかりだから、何か歌でも歌ってみるか?」
 華やかさを演出するために歌詞を考えてみる。
「思い浮かばないな。うーん・・・そうだハロウィンだし、カボチャの歌がいいなっ」
 何かいいアイデアはないかと周囲を見回し、使われなかった種をじっと見つめていると、ポーンッとひらめいた。
「♪かぼちゃかぼちゃかぼちゃ〜かぼちゃを食べると〜頭がよくなる〜♪」
「確かにかぼちゃは滋養が豊富ですけど、頭カラッポの椿に言われても説得力ありませんわ!」
 はぁっと嘆息し、焼きあがったケーキを椿の口の中へ放り込む。
「うん、うめえ!あれ、このジャムって?」
「吸血鬼ということで、血を見ないと物足りない・・・いえ、甘党の方へのサービスですわ♪こうしてカボチャの頭からかけると・・・いえ、正統派の食べ方でも十分おいしいんですのよ?」
「へぇーそうなのか!うめえーっ、もっとちょうだい」
「残りの生地は試食にくる方用ですわ。椿に食べさせる分はそれだけですわよ」
「あー・・・、分かった。審査の分もなくなっちまうかもしれないからな」
 出品するものをなくすわけにはいかないかと椿は我慢する。



「ハロウィンといえばカボチャだよね!僕は簡単なお菓子を作ってみようかな」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)はカボチャの皮を剥き一口サイズにする。
「この鍋を使おうかな。よいしょっと」
 20cm口径の鍋をトンッとコンロの上に置く。
「水はここの水道水を使おうかな」
 ザバザバッとコップを使って2カップ分の水を入れる。
「んーっとメイプルシロップ・・・。それと、塩をひとつまみと粉寒天を入れて・・・やわらかくなるまで煮るんだよね」
 キュポンッ。
 冷蔵庫から取り出して蓋を開け、計量スプーンで大さじ4、塩を摘んでぱらぱらと加えて5gの粉寒天を入れる。
 コトコトコト・・・。
「―・・・はぁ〜、いい匂い♪」
 沸騰し始め、鍋に入れたシロップの甘い香りが漂う。
 火を止めてミキサーで攪拌し、おたまですくい流しカンに入れて冷やす。
「冷やしている間に小豆ソースを作らなきゃ。あぁっ零れちゃう、・・・ふぅセーフ」
 零れそうになる豆乳を大さじ4分、大さじ5の茹で小豆が入っているすり鉢の中に加え、大さじ1のメープルシロップと一緒にゆるさにする。
「全部するんじゃなくて小豆が何粒か、形が残る程度にしなきゃね」
 ずりずりずり。
 小豆がすられ、どんどん粒が小さくなっていく。
「うーん食感があったほうがいいからこれくらいかな?後はカボチャが冷えるのを待つだけだね」
 ちょこんと椅子に座り、冷え固まるのを待つ。



「ケーキが焼けましたね」
 真奈は両手にミトンをつけてオーブンからケーキ型を取り出す。
「この半分にする作業が大変なんです」
 スポンジを片手で押さえ、ナイフを使い横半分に切り、上面にホイップを塗っていく。
 その上に残りは乗せてお皿に盛りつけ、ケーキ全体を陣に作ってもらった生キャラメルクリームで塗る。
「私がコルネ袋を作りますから、その間にご主人様はケーキの空いているところにチョコホイップを詰めてください」
「おっけー、はみ出さないように気をつけないとな・・・」
 陣はカボチャ型の目や口の空いてる部分に、真奈から渡されたチョコホイップをにゅにゅっと詰める。
 彼女の方は溶かしたチョコを溶かし、クッキングシートでコルネ袋を作り、即席のチョコペンを作る。
 ホワイトチョコプレートに英語で“ハッピーハロウィン!”と書き皿に添えて完成させた。
 ハッピーハロウィン!の文字の後には、名前を書くスペースを残してある。
 審査用はエリザベートやアーデルハイトたちの名前が書いた。
「可愛いケーキを発見しましたぁ〜」
 完成したケーキの傍へ、トコトコとエリザベートがやってくる。
「日付が変わるのが待ち遠しいですねぇ」
「お茶をご用意しておきますね」
「はい、ありがとうございますぅ〜可愛い魔女さん♪」
 デジカメで撮影しながらにっこりと笑う。

-PM16:00-

「なんだか試食にくるやつより作る側が多そう。えーっと空いてるところは・・・」
 大鎌の柄を握り死神の仮装をしている椿 椎名(つばき・しいな)は、キョロキョロとカフェ内を見回し空いている作業台を探す
「お、ここ使わせてもらおうか!」
 パタパタと走りドンッと大鍋をコンロの上に置く。
「始めの作業はボクがやるね」
 海賊の船長の格好をしたソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)は流し台でカボチャを丁寧に洗い、鍋にごろんっと入れる。
「ここもカボチャかのぅ?」
 ぐつぐつと煮える鍋の傍にいるソーマに、デジカメを手にしているアーデルハイトが声をかける。
「うーん。他の人と違って、マスターが作るのはちょっと・・・もっと・・・んー・・・かなり甘くなるかな」
「ほほぅ甘いとな?」
 どのように甘いのか聞こうではないかと近寄り、言葉を何度も訂正するように言う彼女を期待感に満ちた瞳で見つめる。
「そのままの意味だよ。食べてみれば分かるんだけど、まだ作り始めたばかりだからね」
「うーむ、気になるのぅ。私の口の中が、よい航海が出来るように期待しているぞ船長!」
 素晴らしい味の旅が出来るようにと杖をフリフリと振い、その場を立ち去っていく。
「アーデルハイトって食べることが大好きなんだね」
 蒸したカボチャを熱いうちにソーマは皮から種を取り実をこし器で裏ごしし、皮は器用にとっておく。
「あの小さな体にどんだけ広い収納スペースがあるんだか」
 椎名はバターを柔らかく練り、砂糖を2・3回に分けて加えてよくすり混ぜ、卵を少しずつ加えさらによく混ぜる。
「10個は軽く食べそうだな、試食にくる生徒たちの分まで取られそうだよ」
 裏ごししたカボチャとスライスアーモンド、バニラエッセンスを加えながら言う。
「確かに、それは言えるね。用意した分が足りるかちょっと心配になるよ」
 ソーマはこの場にあるベリーが足りるか不安になる。
「そんときはそんときだ。いざとなったら森で現地調達するしかないからな」
 ふるった薄力粉を一度にザッと加え、サックリと混ぜつつ不安感を増幅させるようなことを考える。
 生地を皮の器に流し込み、160度に温めたガス高速オーブンの余熱で25分間ほど焼く。
「そうなったらオーナーが取りに行くんですね。特に夜だった場合は・・・」
 飴細工を作る準備をしながらナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)がさらりと言い放つ。
「え、どうしてそうなるんだよ!?」
「ソーマ様と私は、ここで皆様にお菓子を提供しなければいけませんから。行くとしたらオーナーしかいないかと」
「いやだね!何が出るか分からない森の中に、何でオレが行かなきゃいけないのさ」
「新鮮な素材を使って提供してこそ、拘りのあるお菓子が作れるんです。―・・・と言いたいところですが、足りなくなりそうになってしまったらアーデルハイト様は立ち入り規制でもしましょうか」
「あぁ、それがいいな」
 本人が目の前にいないことをいいことに、冗談話をしながら椎名たちはお菓子作りを楽しむ。



「作るなら記憶に残るようなものを作りたいですね」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)はかぼちゃの皮を剥き、一口大に切りレンジで5分加熱する。
 仮装はつけ耳と執事服で、アリスのウサギのお茶会風の格好をしている。
「どれも美味しそうー!」
 出来上がっていくお菓子を、ユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)がきょろきょろと見て回る。
「まだ準備中ですから、邪魔しちゃいけませんよ」
「はーい♪」
 彼が使っているテーブルの傍に戻り、ニュッと顔を出す。
「真言ちゃんは何を作っているの?」
 牛乳とバター、チーズが湯煎で溶けていく鍋を覗き込む。
「パンプキンムースケーキですよ」
 割った卵を卵黄と卵白に分け、卵白は砂糖を加えて泡立てる。
「ふぅ、これが結構疲れるんですよね。さて、次はカボチャと牛乳、残しておいた卵黄と蜂蜜をミキサーにかけましょう」
 泡立て器を持ち上げて角が立つか確認し、加熱してやわらかくなったカボチャと温めた牛乳や他の材料をミキサーで滑らかにする。
「これを使うと手でやるより早いですね」
 ボウルに移し小麦粉をふるいながら泡立て器で混ぜる。
 卵白を少しずつ加えゴムベラで全体が綺麗に混ざるまで混ぜていく。
 型に紙を敷き生地を流し込み、お湯をはった160度に温めたオーブンで1時間ほど焼く。
「出来上がりが楽しみじゃのう」
 いつの間にやらやってきたアーデルハイトがオーブンの前に座り込む。
「焼き始めたばかりですから完成までに1時間はかかりますよ」
「―・・・ふむ、その頃に来るとしようか!」
「姿だけじゃなくって心もまだまだ若いんですね」
 他の場所を見て回る彼女の姿に、まだまだ心は子供なのかなと考えると、微笑ましく思えてくすっと笑う。