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最終決戦! グラン・バルジュ

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最終決戦! グラン・バルジュ

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第八章 立ちふさがる狂気

「トレジャーセンスに反応あり!? よっしゃ!」
 ジークフリートの頼みを引き受け、起動源への鍵を探していた切は、グラン・バルジュ内をめぐっていた。
 ブラックコートを纏い、鍵との関連がなさそうな敵は無視していく。彼にとって、鍵の入手が第一であるからだ。無論、鍵を持っていそうな相手であれば話は別だが。
「この部屋かぁ……どれどれ」
 ドアの前に立ち、聞き耳を立てる。
「進入した敵はどんどんこのグラン・バルジュを侵攻しているらしいぞ」
「な……何、バルジュ兄弟さえ健在ならば問題ないさ……」
(誰かいるな……なら)
 ブラックコートと隠れ身を使い、ゆっくりとドアを開け放つ。
 ドアが開いたことに兵士たちは気がついていない。
 即座に、距離を詰める。
「がふごっ!」
 一瞬にして近づいた切が、話していた兵士に面打ちを浴びせた。
「なっ、いつの間に!」
 残っていた二人の兵士が、今更驚く。
 そんなリアクションには目もくれず、切はテーブルに足をかけて跳ぶと、もう一人に斬撃を放った。
 防御することも出来ず、そのままドサリ、と崩れ落ちる。
「ひっ、く、来るなぁ!」
 辺りを見渡し、武器になりそうなトミーガンを構える兵士。
 全身の震えが伝わり、カタカタと銃身を鳴らす。
「……あ〜、コーラでもおごってやろうか?」
「……は?」
 突然脈絡の無いことを言った切に、兵士は困惑をあらわにした。
 その瞬間、切の足が半円を描き、兵士の握っていたトミーガンを跳ね飛ばした。
「油断しちゃだめでしょ〜。ていっ!」
「ふぎゃっ!」
 雅刀の柄で兵士の顎を打ち付ける切。
「ふう、らくしょーらくしょー。さてと、鍵を持っているのはどいつかな〜」
 切は、ガソゴソと三人のポケットを探り出した。

◆◇◆

 切が鍵を探していた頃。
 起動源の扉の前では、相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)が爆薬を仕掛けていた。
「鍵なんぞ構わん! 気にするな! 爆薬で吹き飛ばす!」
 C4を床に設置しながら、洋が叫ぶ。
「いいか! 中に入ったら即刻強襲だ! 準備はいいな?」
「はい、洋さま」
 みとの返事を聞き、爆薬を稼動させる。
 直後、まるで大砲のような爆音が響いた。
「どうだ?」
 薄灰色の煙を手で仰ぎながら、洋が扉の様子を探る。
「ダメらしいですね……」
 扉は、ビクともしていない。
「おーい! 鍵見つけましたよ〜!」
 そこへ、春美たちがやってきた。
「鍵、鍵、し、しばらく鍵は見たくねぇ……目が潰れる」
「はははっ、そんなときは俺だけを見てばいいんだよ。雲雀」
「ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃねーよ!」
 あの後、トレジャーセンスを使ってもどれが正しいものなのかはわからなかった。
 故に、大量の鍵山の中を一つ一つ精査し、やっとそれらしきものを見つけたのだ。
「やったー。鍵二つゲットーーー!!」
 さらにそこへ、切もやって来た。
「やりましたよぅ! 鍵、二つも見つけちゃった」
「何と! やってくれるとは期待していたが、ここまでとは……」
 心の底から驚いたような表情を見せるジークフリート。
「よし! これなら中へと入れるな! 皆、行くぞっ!!」
 強襲の準備をしていた洋が、気炎を上げる。
 春美と切が三つの鍵穴に鍵を挿し、回す。
 ゴゴゴ、と物々しい音を響かせて、扉が横に開いた。
「あっ、みなさん、自分たちは情報撹乱のため、制御室に行ってみるのであります!」
 雲雀たちは、扉が開いたのを確認すると、急ぎ足で去っていった。
「よし……突入するっ!」
 マシンピストルを構え、洋は扉の中へと入る。
 洋に次いで、次々と中へと入っていくメンバーたち。
 起動源のある室内は薄暗い、しかし普通のコンピュータルームのような部屋だった。
 部屋の中心に、巨大な四角柱がある以外には。
「なるほどな……これが起動源か。早速破壊するとしようか」
「防衛システムが発動するらしいから、気をつけろよ」
「無論、覚悟は出来ているであります!」
 ジークフリートの忠告に、微笑で返す洋。
 そして、起動源へと向き直り、マシンピストルの引き金を引いた。
 乾いた音と、銃口の明滅が幾度も起こる。
 そのたびに、カンカン、と柱が削れていく音が響き渡った。
 やがて、弾が切れる。
「ど、どうだ……」
 静まり返る室内。
「緊急事態発生! 緊急事態発生! 何者かによる攻撃を感知! 至急防衛システムを作動させます!」
 つかの間の静寂を破り、起動源が警告音を発しだした。
「やっぱりか!」
 ちっ、と舌打ちを洩らす洋。
 やがて、ガチャガチャと金属音が聞こえてくる。
 部屋の奥から現れたのは、樽のようなボディを細い四本足で運んでいる、奇妙なロボット。
「あっ、ちょっとブサカワかも……」
「冗談言ってないで、戦うよ春美」
「そうね――ディオ、歌で奴らの攻撃力下げて」
「はいよっ! そーれっ!」
 アコースティックギターを持つと、弾き語りを始めた。

 ――土砂降りの雨の中、君は一体何を待っているの?

   もう戻らない。そんなこと、とっくに知っているはずなのに、何を期待しているの?――

 ――ただひとつの間違いが、亀裂が、終局へと導いていく

   無駄なんだよ。何もかも――

 ――無駄なんだよ。きっと自身の想い、後悔、そして、存在さえも


 寂しげな、心臓を鷲づかみするような、不安を掻き立てる悲しみの歌が、響き渡る。
 それは、機械であるロボットたちにも伝わったのだろう、最初に出てきたときよりも若干動きが鈍重になっている様子だ。
「雷王の高貴な魂よ、我に宿れっ! シビれて逝け〜☆」
 相棒の歌とは対照的な明朗な詠唱で、春美はサンダーブラストを放つ。
 マジカルステッキから放電した電気が、紫電となってロボットたちへと飛来していく。
「……GHYTOLMUo%%!!」
 言葉では表現出来ないような音を立てて、ロボットたちはぷしゅーと煙を上げていく。
「よし! これで邪魔者はいなくなったな。後はきど――」

「果たして、そうだろうか」

 起動源だけだ、と言おうとした洋の言葉に、低い声が被さる。
 ロボットたちが現れた場所から再び出てきたのは、バルジュの隷使を引き連れた、三道 六黒(みどう・むくろ)戦ヶ原 無弦(いくさがはら・むげん)葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)羽皇 冴王(うおう・さおう)の四人だった。
「なっ――」
「ふふふっ……オルディオンの前足を土産にしただけはあったわ……。ここでこのような兵(つわもの)たちとめぐり合えたのだからなぁ……くっくっく」
 カカ、と笑う六黒。
「六黒様がいるなら、負ける気なんてしないぜ!」
 そうだそうだ、と声を上げ始める隷使たち。
「と、それから、この起動源の防衛システムはまだ発動中のようだぞ」
 楽しそうに言う六黒。
 その言葉の通り、奥から再びロボットたちが現れた。
「おいおい……やばいんじゃないですかい?」
 切が、苦笑いを浮かべ始める。

「相変わらずだな。六黒」

 洋たちが入ってきた扉の方から、凛とした声が響く。
 その部屋の全員が、その場所へと顔を向ける。
「ほう……」
 心底嬉しそうに、六黒が笑う。
 そこに立っていたのは、レン・オズワルドだった。
「まずは、俺と戦ってもらうぜ、六黒」
「ふっ……。それも面白いかも知れんな……よかろう」
 深く腰を落とし、一気に駆けた。
 途中すれ違った誰一人として、止められないほどの速さだった。
(なんてヤツだ……)
 洋の顔には、冷や汗が浮かんでいた。
「はいは〜い。正義の味方サンどもよ! お前らも滾ってんだろ!? とっととかかってこいよ!」
 飄々と、そして一方的に、冴王が第二ラウンドの開戦を宣言した。

◆◇◆

「どうした六黒、動きが手に取るようにわかるぞ」
 アボミネーションを使われてなお、レンは舞踏のように舞いながら六黒の攻撃をかわしていく。
「ほう……なかなかやるようだ。ならば――狂骨っ!!」
 部屋の奥で待機していた狂骨を呼びつける。
「唄え狂骨、滅びの歌をっ!」
「……」
 黙ったまま、カタカタと震えだす狂骨。
 まるで、歌を紡ぐようにリズミカルに振動する。そしてそのまま、頭部、胸部、腕部へとパーツ分けされた狂骨は、六黒の身体を包む様にして嵌っていく。
 まるで、その姿は黒鎧の鬼武者。
「これなら……もう少し楽しめそうだ」
 黒檀の砂時計を逆さにし、勇士の薬を呷る。
「それっ、いくぞっ!」
 奈落の鉄鎖を投げつける六黒。
「ぐっ――」
 何とかギリギリでかわす事が出来たものの、明らかにさっきとは違う。
 異変を感じることは、簡単だった。
 自身の身体の動きが遅くなり、逆に六黒の動きが早く感じるのだ。
「ふはははっ!」
 さらに、封印解凍と紅の魔眼を使い、攻撃力を上げて攻めてきた。
 射出するように、鎧からギロチンが伸びる。
 すかさず、奪魂のカーマインを乱射し軌道を逸らそうとするも、刃が肩を掠めた。
(厄介だ……)
 心の中で悪態を吐きながら、それでも諦めずに銃を構える。
「そりゃあああっ!!」
 豪放な掛け声と共に、再び襲いくる奈落の鉄鎖。
 素早い相手の挙動と、うまく動かない自分の身体。
 その二つの災いが重なり、レンは捕らえられてしまった。
「これで身動きは取れまい!」
 レンの全身を桎梏する鎖を、引っ張り上げる六黒。
 このままでは、六黒の間合いへと引き込まれてしまう。
(本当に、厄介だ……。だが――)
「あの世へと――旅立てい!!」
 ギロチンの刃が、獲物を狩ろうと――煌いた。
「だがこれで――捕らえることが出来るっ!!」
 ギロチンを銃身で防ぐと、そのまま六黒の両腕に掴みかかる。
「今だっ! ザミエル!」
「――何っ!?」
 それまで隠れていたザミエルが、六黒へと向けてスナイパーライフルの引き金を引いた。
 パン、と乾いた音と共に、六黒の胸部に穴が開く。
 狂骨を装備しているにも関わらず、風穴が開いたのである。
「ちいっ――」
 血飛沫が上がる胸を押さえながら、六黒はレンを蹴り飛ばして後退する。
「はっ、命中命中! 作戦成功だな! レン」
「ああ、懐まで潜った甲斐があったもんだ」
 奈落の鉄鎖で拘束されて引っ張られた時、レンはわざと六黒の間合いへと入ったのである。
 六黒を接近戦に持ち込んで動きを封じ、その隙にザミエルが狙撃するという筋書きのために。
「わからんな……。女、貴様はそやつの真後ろにいた。ならばわしを狙えぬのではないか?」
「私にはサイコキネシスなんてものが使えてな。弾道を変えるなんてこと、簡単に出来るんだよ!」
 勝利を確信したかのように、再び戦闘態勢に入るレンとザミエル。
「さて、覚悟はいいか――」
「ふっ――」
 空気の抜けるような、短い笑い声。
 それは、直後に――


「ふっ、ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!!!!!!」

 笑い、嗤う――
 それは、狂笑にして、狂喜。
 猛禽類の如く目を見開き、口を耳元まで裂きながら、六黒は嗤う。
「愉快っ!! 愉快だ!! これほどまで楽しい死合は久しぶりだ!!」
 明らかに重傷なのにも関わらず、狂った笑いを止めない。
「ふふっ、くくく……だが、これ以上はわしも危険だからな……。この辺で去るとしよう」
「逃げるのか? というより、逃がすと思うのか?」
「仕留められると思うなら、やってみるがよい!」
 そう吐き捨てると、六黒は部屋から立ち去っていった。
「逃がすかっ!!」
 即座に狙いを定め、ザミエルは引き金を引く。
 足、肩、二の腕と、当たってはいるが、どれも決定打にはならない。
 七発目に差し掛かったとき、ザミエルは悔しそうな顔で狙撃を止めた。
 必ず、七発目は暴発すると知っているからだ。
「よくやったさ、ザミエル」
「ちっ、今度こそは――と、大丈夫かレン」
「ああ。ダメージはそれほどではない」
 その言葉に、安堵のため息を零すザミエルだった。

◆◇◆

「おらあああっ!!」
 冴王が銃を乱射する。
 敵味方関係なく銃口を向けているため、味方の兵士にも当たっているのだが、そんなのお構いなしで攻撃し続ける。
「ぎゃあああっ!!」
「さ、冴王さん、お、俺らは味方ですって!」
「うるせーなぁ。ごちゃごちゃ抜かすとあんたからやっちまうぞぉ!」
「ひっ!」
 脅えるようにして、その場から離れる兵士。
「ふん、結構な残虐ぶりだな。器の程度が知れる」
 ジークフリートが、冴王へ皮肉を投げる。
「けっ、続きはあの世で言いなっ! それっ!」
 今度は、ジークフリートへと狙いを定めてくる。
「シオン!」
「魔王様!」
 高速でジークフリートへと迫ってくる銃弾を、横から入ったシオンが、綾刀で真っ二つにする。
 そして、すぐさま冴王へと走り出す。
「シオン! パワーブレスだっ! 受け取れ!」
「さんきゅです! でえええいやっ!」
 強化された脚力で、冴王へと肉薄する――が、
「やらせはせんよ――バニッシュ!」
 突如、無数の光弾がシオンに襲い掛かってきた。
「こんなもの、当たらなければ――なっ!?」
 光弾のさらに奥から、仕込み投げ刃が飛んできた。
「くっ……」
 瞬時に両腕を交差して顔をかばうシオン。
 切り裂かれた腕から、鮮血が滴り落ちる。
「ふむ……なかなかやるようだの」
 無弦がうんうんと頷く。
「ゆ、許さないのだっ!! 酸の霧、ここに来たれ! アシッドミスト!」
 シオンの代わりとばかりに、ノストラダムスの魔法が、二人を襲った。酸の霧が、溶かすように包み込んでいく。
「おっと、あぶねぇー!」
 霧の濃度が薄い場所を瞬間的に見極め、アシッドミストの範囲から脱出する冴王と無弦。
 それでも、冴王が装備していたサファリスーツが少し、溶けている。
「やれやれ……そろそろ潮時かねぇ……。親分もトンズラかましたようだし」
「それもそうですな……」
「じゃーなっ! 遊んでくれてありがとよっ! 縁があったら、またなー!」
 明るい言葉をかけながら、無弦と共に冴王は去っていった。
「た、助かった……のでしょうか? ジーク様」
「今のところはな……。だが、敵がいなくなったわけではない! 油断するなよ」
「はいっ! 魔王様」

◆◇◆

「制御室って……ここかよ……」
 エルザルドの得た情報を元に来た部屋は、思いっきりドアの上部に金属のプレートで、『制御室』と書いてあった。
「まぁいいや……カグラ、見張り頼むな」
「俺たちは中に行って、様子を見てくるよ」
「わかった。でも、あんま長いのは勘弁やで? オレ、退屈なんは嫌やから」
「出来るだけ、早く戻ってくる」
 そう言って、雲雀はエルザルドと部屋へと入っていく。
 壁に貼り付けられた大きなモニターに、起動源の様子が映っている。
 それを見た雲雀は、混乱しながらエルザルドに言った。
「ちょ……。あれ大丈夫なのかよっ!?」
「六黒たちは去ったようだし……後は雑魚ばかり。何とかなると思うよ。でも、起動源の防衛システムが厄介だね。何とかできるといいけど……」
 ふむ、と思案顔になるエルザルド。
 そこへ突然、エルザルドの持っていた銃型HCに、知らせが入った。
 すかさず、エルザルドはチェックする。
「制御室にから通信が出来るかもしれないよ。雲雀」
「……どういうことだ?」
「まぁまぁ。ぽちっとな」
 制御室にあったコンソールを叩くと、画面に艦橋の内部が写った。
 真ん中にいるのは、天城 一輝である。
「よう! 起動源のことでなんか困ってるんだって?」
「一輝殿! そっちは無事でありますか?」
「ああ。意外と余裕だったぜ――と逃げようとしてんじゃねっつの!!」
 がしゃん、と画面の中から騒音が聞こえてきた。
「あ、あのー、一輝殿?」
「おっと、悪い悪い。えっと、今からトラップ解除と起動源のデータを送るから、確認してくれ!」
 ピッ、と、コンソールの画面にファイルが映る。
「それじゃ、頑張れよっ!」
 それだけ言うと、画面がプツンと切れてしまった。
「エル、わかるか?」
「ちょっと待って……」
 博識を使い、操作方法を引き出す。
 やがて、手が独立して動いているのではないかと思うスピードで、コンソールを叩いていくエルザルド。モニターには、よくわからない数字やスクリプトが現れては消え、消えては現れていく。
(うわっ……すっげぇ……)
 コンピュータさばきに、見とれてしまう雲雀。
「はい。終了。これでグラン・バルジュ内のトラップは全解除だ」
「ちょ、待った! 起動源の防衛システムはどうなんだよ!?」
 雲雀の問いに、ちょっとだけ苦い顔をして答えるエルザルド。
「それがね、ロボットの出現を止めることは出来たんだけど、起動源自身が魔法とかで抵抗できるようになっちゃったんだ」
「おまっ、ダメじゃねぇか!」
「いや、あのロボットに比べればずいぶん楽になるはずだよ。詠唱中は動けないし、そもそも魔力を持たない機械だから、威力なんてものは高が知れている」
「む……」
 エルザルドの言うことが正しいとわかっていながらも、雲雀は少し悔しそうな顔をした。
「さて、情報撹乱とでもいこうか! 雲雀! レッツゴー!」
 コホンと咳をして、声の調子を整えると、マイクに向かって喋りだした。
「あー、てすてす。こちらシャンバラ教導団の土御門雲雀っ!! バルジュ兄弟は我々に敗北! バルジュ兄弟は我々に敗北! また、起動源の防衛システムは魔法使用に切り替えた。実質の無効化である! 故に、これ以上の抵抗は無駄である。至急グラン・バルジュを脱出されたし! 我々は無闇な殺生はしない! 直ちに脱出されたし!以上!」
 一気に喋り終えると、ふう、とため息を吐く。 
「へえ……」
 一部始終を見ていたエルザルドが、によによ笑う。
「な、なんだよ気持ちわりー……」
「いやいや、結構様になってたから、つい。雲雀、意外とクーデレかもね」
「はああっ!!?? クールならともかくデレって何だよ!? 今の情報撹乱にそんな要素が小さじ一杯分でもあったか!!?」
「いや……クーヤンデレのほうがいいかな?」
「人の話を聞きやがれ!」

「あの、そろそろええかな?」

 外で待機していたカグラが、引きつった笑いを浮かべて入ってきた。
「あっ、こ、こんなことしてる場合じゃねぇよ! あたしらも早くここから逃げねぇと」
 カグラの言葉を聞いて、真顔になる雲雀。
「やれやれ。ちょっと空気を呼んで欲しいなぁ……フラグ建築中だったのに……全く」
「……オレが今後雷を使うときには、背中に気をつけたほうがええで」
 引きつった笑いが、真顔に変わる。
 軽く口げんかになりつつあったので、尚更脱出したかった。
 したかったのだが――
「貴様らーーっ! よくもやってくれたなぁ!!」
 嘘だと見抜いたバルジュの隷使たちが、部屋に押し寄せてきたのだ。
「……今、オレちょっと機嫌悪いんよね……」
 目がすわったまま、腕から電気を放電させる。
「ぶぶ漬け食べて――帰りなはれっ!!」
 落雷が?横に?走り、敵兵の群れを吹き飛ばした。
「なっ――え?」
 一気にいなくなった兵士を見て、激怒していた兵士は後ずさる。
「あ……いや、失礼しましたーーーーーっ!」
「……ふん」
 仏頂面で逃げる兵士を見送るカグラ。
「冗談なのにねー。あんなに怒らなくてもいいのに」
 エルザルドがぼそりと不満をもらす。
「……なんか、言うた?」
「何にも〜」
 おどけるエルザルドに、カグラは更に顔を怖くして出て行った。
「ああ、きっとあれだな。ずっと部屋の外で見張りさせてたのに、あたしらがふざけすぎてたからじゃね?」
「……なるほど」
「あっ、そこは納得するんだな……」
 奇妙な雰囲気のまま、部屋を出て行く雲雀たちであった。

◆◇◆

 雲雀たちが起動源の防衛システムを壊してから後、起動源の室内は一気にメンバーの攻勢へと転じていた。
「六黒さんたちもいなくなったし……、ロボットも止まっちまった……。お、俺らだけで勝てるのか……?」
「そこっ、怯むんじゃない! いくぞーーっ!!」
 もはや錯乱気味に突っ込んで来る兵士たち。
「はっ、もはや貴様らに勝ち目はない!! 潔く朽ちるがいい!!」
 魔道銃を構え、向かってきた兵士を蹴散らしていくジークフリート。
 そこでさらに、クリームヒルトがサイコキネシスを使い、床に散らばっているゴースト兵器を操る。
 銃、刀、槍、拳など、形状は様々だが、与える恐怖は一緒だった。
「や、やめてくれっぎゃああっ!」
 血飛沫を上げていく兵士たち。
「ご自慢のゴースト兵器に攻撃される気分はどうだ?」
 辛辣な言葉を投げつける。もちろん、返事は戻ってこなかったが。
「さて、雑魚も少なくなってきたところで……起動源を攻撃するのだっ!!」
 禁じられた言葉を発動させるノストラダムス。
「ああ、そうだ。切も起動源の破壊を手伝って欲しいのだ」
「はいよ。無茶なことじゃなければ何でもいいよ〜」
 兵士を切り伏せながら、白い歯を輝かせる切。
「よっし。春美、一緒にサンダーブラスト、お願いなのだ!」
「ええ! いいですよっ!」
 二人並んで、詠唱を開始する。
「雷王の高貴な魂よ、我に宿れ――」
「輝くは神威の雷光っ!」
 同じタイミングで、それぞれ片手を突き出す。
「シビれて逝け〜☆」
「サンダーブラストッ!!」
 二つの雷が、バチバチと弾けながら、巨大な落雷へと変貌する。
 そして、雷の嵐となって、起動源へと直撃する。
 直後、部屋の中に激しいスパークと、落石のような重低音の爆発が起こる。
「うわっ! ちょ、びっくりなのだ……」
「ダブルサンダーブラストってやつですね。すごい強力っぽいです……」
 雷の直撃を受けた四角柱は、最初見たときとは違った、黒コゲへと変化していた。
 していたのだが――
「ギギ、ガ、ガガッ――氷術、詠唱、開始っ!!」
 起動源の周りに、微弱ながら魔法の気配が生まれた。
「ちょ、何か来るぞ!」
「どうやら氷術らしいのだ! 切、何とかしてなのだ」
 ノストラダムスは、魔法から我々を守れと言っているらしい。
「了解っ! まあ実質上の無効化みたいなこと言ってたしね〜。そんな大したもんでもないでしょ」
 正眼に刀を構える。
 やがて、中空から、氷の槍が生まれ、向かってきた。
「おりゃっ!!」
 数回ほど切り上げを行っただけで、氷の槍はまるで小さな吹雪のように四散した。
「今だっ!! みと。全力で破壊するぞっ!!」
 固定砲台のようにじっとして、マシンピストルを撃ちまくる洋。
「わらわも……遠慮はしませんわ! 唸れ豪雷――」
 銃弾の後を追うように、みとの雷が疾走していく。
 焦げ付いてボロボロになったところへ、更なる雷と銃弾の掃射を受けて、起動源に亀裂が入る。
「火力で押し切るぞ! 撃ちまくれ! 銃身が焼き付き、壊れるまで!」
「はいっ!! せいっ、はっ!!」
 雷術だけでなく、火術、氷術も交えながら、みとは魔法を撃ちまくった。
「ようし……洋! そのまま攻撃を絶やすな! クリームヒルトっ!」
「なんだ?」
「サイコキネシスで、ゴースト兵器を起動源にぶつけ、誘爆させるっ!」
「なるほど! わかった、やってみよう」
 二人は、床に散らばっていたゴースト兵器に意識を向ける。
 すると、倒れていた兵士たちのゴースト兵器が宙に浮き始め、一箇所へと固まる。
 次の瞬間、一斉に起動源へと向かっていった。
「深淵の底に落ちるがいい……」
 カチン、という音が響き、閃光と共に大爆発が起こった。
「ほう、綺麗な花火だな……。バルジュ兄弟の宿願である幽帝国家グラン・バルジュ建国もこれで水泡に帰したわけだ……くくく」
 不気味な笑みを浮かべ、勝利を宣言するジークフリート。
「と、いうわけですよ。残ってる隷使の人、逃げるなら今のうちだけど?」
 脅すような口調の春美に恐れをなしたのか、残り少ない兵士たちは一目散に逃げ出した。
「ふぅ……。これで作戦終了だな」
「はいっ!!」
 洋が、みとに微笑んだ。

 ――目の前に写る景色が灰色でも、自分で彩ることは出来るから

   手を伸ばして、諦めないで、進むんだ。だから――


――共に、歩いていこう――

 一件落着したところに、ディオネイアの幸せの歌が響き渡った。