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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~

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魂の器・第1章~蒼と青 敵と仇~
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「何か、良い匂いがしますね。あそこに集まっているのは、各校の生徒でしょうか」
 大荒野を進んでいた杵島 一哉(きしま・かずや)は、風に乗って漂ってきた食欲をそそる匂いに足を止めた。アリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)が目を眇めて集団の様子を確認する。
「小型飛空艇がいくつも停まっています。荷物も沢山置いてあるようですし、旅の途中に見えますね」
「蛮族の類ではないようであるな」
 空白の書 『リアン』(くうはくのしょ・りあん)もそう判断する。
「行ってみましょうか……お腹もすいてきましたし」
 ということで、一哉達はモーナ達に近付いていった。

 エクスを中心として、巨大鍋に簡単な料理が作られていく。調理台を身体に括りつけ、材料や道具を入れた袋は前足で。ワイバーンがそうして運んでくれた諸々で、食事を作る。他のお皿や結構な人数分なので、睡蓮やメイベル達もその手伝いをしている。ちなみに、炭水化物系として用意されているのは小さめのフランスパンだ。
「料理得意なんだね、エクスさん」
「おぬしもなかなか出来るな。おかげで、効率良く料理が出来るぞ」
 セシリアとエクスが着々と料理を作っていると、唯斗が後ろから覗き込んできた。
「エクスの料理の腕はプロレベル、家事の腕はマスターレベルだからな」
「ふふふ。一家に1人は欲しいだろう」
 得意げに、唯斗に言われたからかこれまた嬉しそうに、エクスは言った。
「あ、自分で言っちゃいましたねー?」
 睡蓮が楽しそうにつっこみを入れる。和気藹々とした雰囲気である。
「これで元お姫様ってんだから詐欺だよなー」
 唯斗は、盛り付けかけていた料理をつまみ食いしてみた。美味い。しかし――
 ぶしゃあっ!
 エクスが神速で光条兵器「契約器・テスタメントギア」を出してツッコミを入れた。
「お、おぉお……」
 指をぴくぴくとさせて果てる唯斗を放っておき、エクスはとても良い笑顔で皆に言った。
「……では、料理を配るとしようかの」
 そんな彼らの様子を、モーナは目を丸くして見つめていた。
「……良いわけ? あれ、放置で」
「良いのです。あれも楽しんでやってますから」
「しゃれになってない気がするけど……」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に言われ、モーナは驚き覚めやらぬままに作業に戻る。彼女達は、未沙と一緒に各種小型飛空艇の整備をしていた。午前中に飛び続けた飛空艇をきちんとチェックし、午後も問題無く飛んでもらわないといけない。
「回復要員と臨時コメディ補正で大丈夫だそうです。あ、それと……これはここまでにマッピングした地図です。所々にあった山や壊れた遺跡の跡、私達が通った道筋を書いておきました」
「え、地図?」
 渡された紙には、確かにヒラニプラから辿ってきたルートが書き込まれていた。
「バイクで、しかもすごいスピード出してたよね……いつ、書いたの?」
「ここに来てから書きました」
「…………」
「これから先もお任せください」
 思わず黙ってしまったモーナだが、プラチナムは平然としている。
(な、ナチュラルつっこまれ要員……!?)
「あれ? 誰かこっちに来るわよ!」
 その時、未沙が3人の少年少女に気付いて作業の手を止めた。真ん中にいる少年――一哉は、きょろきょろと誰かを探しているようだった。
「えっと……この集団のリーダーの方は……あ、あの人ですかね、一番年長者みたいだし」
 彼はモーナの前で足を止めると、前半部分だけ確認した。
「初めまして。杵島一哉といいます。リーダーの方ですか?」
「…………」
 モーナは再び黙り込んだ。手がぷるぷると震えている。
「……?」
「あたしはそんなに老けてないよっ! そんなに若作りだとも言わないけどっ!」
「う、うわあっ? す、すみません!」
 驚き、慌てて謝る一哉。モーナは仏頂面のまま、言った。
「確かに、あたしが依頼者だけどさ……で、何?」
「私達、ライナスさんの所に行く途中だったんですけど、何か良い香りがしてきたので、少し寄ってみたんです」
「どこに向かってるのかも気になったのでな」
 アリヤとリアンが説明する。それを聞いて、モーナは「ん?」という顔になった。
「あたし達も、ライナスさんの所に向かってるんだよ。ちょっと聞きたい事があってね。君達、ライナスさんに何の用?」
「機晶姫に詳しい方だという噂を聞いたので……。アリヤが機晶姫なので、自身の後学の為に、技術を学ばせていただければと」
「私も、自分の体についてのことなので、しっかり学べたらと思っています」
「魔道書としての知識欲のためなのだよ」
「ふうん……、じゃあ、目的地も同じだし一緒に行こっか。3人だけじゃ危ないよ?」
 そこで、メイベルとフィリッパ、ステラがお皿とパンの入ったバスケットを持ってやってきた。
「ご苦労さまですぅ〜」
「こちらで休まれてはいかがです? ちょうど、椅子代わりに使える岩があります」
「みなさま、熱いうちにどうぞ」
 誘われて腰を落ち着けるモーナ達に、陣と真奈が近付いてくる。
「ここ、ええか?」
「あ、うんいいよ、どうぞどうぞ」
 ちょうどモーナの隣が空いていたので、そこに座り、真奈達も料理に口をつける。
「……モーナ様は、ライナス様とはどういったご関係なんですか? 差し支えなければ、教えていただきたいのですが」
「ん? ああ、ライナスさんはね、あたしが工房を持つ時に色々教えてくれた人なんだよ。もう、7、8年くらい前になるかな? 研修、みたいな形で1ヶ月くらいは居たかな。まあ、こっちから押しかけたんだけどね。定期的に生活必需品を取り寄せてたみたいだったから、その一団に紛れたの。最初はすっごく迷惑そうにしてたのを覚えてるなあ」
「それは……センセの顔が目に浮かぶようやなあ」
「でも、本格的に仕事をするようになって、流石に会いに行ってる暇も無くなってね。初めの頃は心に余裕も無かったし、仕事が増えてきたらそれどころじゃなくなって。あそこ、電話も通じないし……だから、本当に久しぶりだよ。レポートとかで、ちょくちょく名前は見かけてたけどね」
「そうですか……それは、楽しみですね」
 真奈は、懐かしさを込めて話すモーナに、柔らかな笑みを向ける。
「うん。……そういえば、2人はライナスさんと知り合いみたいだけど」
「ああ、去年になるけどな、強化パーツの開発をするってんで世話になったことがあるんや」
「その時に製作したのが、このハウンドドックです」
 ハウンドドックを取り出す真奈。モーナは驚いた顔で皿を置き、それを受け取った。
「これ、知ってるよ。そうだ、売り出されたのは去年だったね。へえ、これを君達が……」
「ですから、折角の機会ですし、開発のお礼と、ハウンドドックの本格的なメンテナンスに参りたいと思いまして……。個人的な用件や想いで同行するというのは、少々心苦しいですけど……。あ、勿論、ファーシー様がキチンと歩けるようになる方が喜ばしいのは当然なのですが」
「ううん、そんな事は気にしなくていいよ。大丈夫。月夜ちゃんにも言ったけど、協力する理由なんて、それぞれでいいんだよ」
 軽い調子で言うと、真奈は少し安心したように笑った。
「ありがとうございます……それで、あの、モーナ様……」
「ん?」
「私、ライナス様にお会いしたらお話したいことがあったのですが、モーナ様にも出来ればご協力いただけないかと」
「話? まあ、あたしが出来ることなら協力するよ?」
「では……」
 一時の間をおいて、真奈は話し出す。
「あの時のような、機晶姫用パーツの開発の提案をしたいと思っています。皆様を守れる新たな力を作り上げるべく、ライナス様に助力して頂ければ、と……」
「あ、それはあたしも思ってたんだよね。また、機晶姫用の新しい装備とかライナスさんと研究開発したいなーって」
「本当ですか?」
 同意する未沙に、真奈は嬉しそうな笑顔を向ける。
「うん、完成したら、また各校の購買とかに置いて貰えるといいよね!」
「機晶姫用のパーツかあ……それは、あたしも興味深いね」
 2人の話を、モーナは少し目を輝かせて聞いていた。
「パーツって、例えばどんなのが造りたいの? このハンドキャノンみたいな武器とか?」
「勿論、武器が全てではないですが……」
 真奈は返してもらったハンドキャノンを仕舞いつつ、言う。
「ここ最近は色々な事件も起きてますし、新たな力を手に入れる時期が来ていると思います。勿論、武器が全てではないですが……備えあれば憂いなし、とも言いますので」
「うーん、なるほどねー」
「ファーシーさんが直ったら、皆でどうかな? きっと、楽しいと思うよ!」
「そうだね、あたしもライナスさんに言ってみるよ。うん、でも……?」
 モーナはそこでふと思った。
(あ、あたし、参加できるかな……!? 仕事が……、あれ?)