リアクション
―チークタイム― パーティー会場の一角に人だかりが出来ていた。 大きなガスコンロの上には大きな鍋が置かれ、中は鶏肉、三つ葉、カマボコ、花型に切った人参が昆布だしで煮込まれている。 隣に置いてあるテーブルには沢山の器と薄く輪切りにした大根、飾り切りにした柚子の皮が置かれている。 そして、その前には杵を持った透乃と、臼の横にしゃがんで待機している陽子がいた。 臼の中には湯気が出ている白く美しいもち米が入っている。 透乃は白地に落ち着いたピンク色の牡丹の花が描かれた振袖、陽子は黒地に透乃と同じ模様の入った振袖を着ている。 それぞれ袖が邪魔にならないように、たすき掛けしている。 タノベさんが用意した衣装とはこの振袖だったのだ。 「それじゃあ、餅つき始めるよー!」 透乃が大声で言うと、お客さんから拍手が起こった。 2人で目で合図をすると、餅つきが始まった。 透乃が杵でもち米をつくと、陽子が絶妙のタイミングでこねる。 「わあ……息ぴったり……」 見ていた鏡神 白(かががみ・しろ)が感歎の声をあげた。 「なんか見てるだけで面白いね!」 「これ、食べられるんでしょ!?」 白の横で更科 黒(さらしな・くろ)と青崎 更紗(あおざき・さらさ)も目を輝かせている。 この3人は天御柱学院制服で参加している。 「食べますよ。お雑煮にして配ってくれるみたいですね」 更紗の問いに答えたのは、たまたま近くにいた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)だ。 淳二は黒のタキシードを着て来ており、決まっている。 「お雑煮! 楽しみー!」 答えを聞くと更紗はさらに目をキラッキラさせた。 「よいしょ! さ、お餅が出来ました。食べたい方は順番に並んで下さい」 陽子が言うと、テーブルの前には長蛇の列が出来あがった。 「わあ! 凄い行列になったね! よーし、待っててね!」 透乃が器の下に大根を敷き、陽子にちぎったお餅を入れてもらう。 お餅の入った器に鍋の中の具や汁を入れ、最後に飾り切りした柚子の皮をのっけて、並んだ人達に配っていく。 そして、このお雑煮は好評のもと、一瞬でなくなってしまった。 「用意した甲斐があったよ! ね、陽子ちゃん」 「はい」 2人は美味しそうに食べてくれている人達の笑顔を見て、自分達も自然に笑顔になるのを感じた。 ーーーーーーーーーーーー 「ごっはん……ごっはん……♪」 白のしっかりと持った器の中には今出来たばかりのお雑煮があった。 「食べるぞ〜!」 「更紗も食べるぞ〜!」 黒と更紗もしっかりとお雑煮を手にしている。 「色んな料理があっちにあるみたいですよ。はい」 淳二は片手にはお雑煮を、もう片手には色々な料理が乗ったちょっと大きめの取り皿を持っている。 その大き目の皿を白達に差し出した。 「ありがとう……あ、ボクは……鏡神 白……よろしく……」 「ワタシ更科 黒!」 「更紗は更紗って名前だよ!」 「長原 淳二です、こちらこそ宜しく。なんか、さっきまで一緒にお雑煮に並んでいたのに、自己紹介してなかったのって不思議ですね」 「……うん……」 淳二の言葉を聞き、白はコクリと頷いた。 4人で談笑しながら、ゆっくりと食事を楽しむのだった。 ーーーーーーーーーーーー ダンスを踊れるスペースでは、目立つ2人の姿があった。 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が踊っているのだが、その優雅なダンスに他の踊っている人達の目は釘付けになっていた。 緋色を基調とした襟ぐりの大きく開いたイブニングドレスの裾がステップを踏むたびに揺れ、花のようだ。 キラリと指に光るのはお相手の真一郎から贈られた婚約指輪、首元には鋼の薔薇をモチーフにしたダイヤと黒水晶の首飾りが照明の明りを受け、輝いている。 真一郎の方はスーツだ。 「ルカ達、綺麗だな」 「そうだな」 夏侯 淵(かこう・えん)と姜 維(きょう・い)が踊っている2人を見てそう呟いた。 淵は燕尾服と銀の懐中時計、維は男物のスーツを着ている。 「兄者のスーツが微妙に変わっているが、淵さんがやってくれたの?」 「ああ、ネクタイを蝶ネクタイに、ベルトをサスペンダーに変えといた。正式な服装にしないとルカが恥をかくかもしれないだろ」 「淵さんは優しいなぁ」 「そ、そんな事ねぇよ!」 照れているのか、持っていたグラスを一気に飲み干した。 踊りが一段落すると、ルカルカと真一郎が戻ってきた。 「ちょっと待ってて下さい」 戻ってすぐ、真一郎はルカルカの側を離れ、どこかに行ってしまった。 「そんな寂しそうな顔しなくてもすぐ戻って来るだろ?」 「そ、そんな顔してた!?」 ルカルカは恥ずかしそうに頬を両手で隠す仕草をする。 「ただいま。……何かあったんですか?」 戻ってきた真一郎の手には2つのグラスがあり、ピンク色の飲み物をルカルカに渡した。 「なんでもないよ!」 ルカルカはグラスを受け取ると口を付けた。 「あ、美味しい」 「ノンアルコールのロゼだそうです。ま、ピンク色した葡萄ジュースって事らしいですけど」 「へぇ!」 説明が終わると、真一郎も持ってきた青い飲み物で喉を潤す。 「ね、外に行ってみない?」 ルカルカの提案に皆が賛同し、4人は会場を後にした。 「あれ? 淵? 維?」 「いないのですか?」 船首の方までの道を歩いていると、気が付いたら、後ろにいたはずの2人の姿が見えない。 「きっと気を使ってくれたんだね」 「そうですね、それならその好意を有り難く受け取ることとしましょう」 「そうだね」 2人が船首に出ると、大きな満月が水面を煌めかせているのを見る事が出来た。 「ね、野戦服や軍服じゃないルカは、どう?」 くるりと一回りして、ルカルカはドレスを見せる。 「今日の満月なんか比べ物にならないくらい綺麗です」 「なんかそこまで言われると照れちゃう」 頬を染めているのを見られたくなくて、真一郎の胸に飛び込み、顔を埋める。 それを受け入れ、そっと抱きしめた。 「そういえば、今日は前にネットで映像が流れていた怪盗パープルバタフライが出るみたいだよ、会ってみたいね」 「そうですね。一緒に見たいですね」 「うん……なんか、真一郎さんあったかい」 「それはルカルカもです」 2人は抱きしめ合ったまま、暫くそのまま互いの体温を感じあったのだった。 「今頃、あの2人は良い雰囲気になってるだろうな」 「そうだな」 淵は会場の扉を出ると、すぐに維の手を取り、そっと側を離れたのだ。 今いる場所は丁度、ルカルカ達とは正反対の船尾の方へと歩いていたのだ。 「その……腰巻ありがとな。重宝しておる」 「使ってくれてるなら嬉しいよ」 この2人も何やら良い雰囲気だ。 ーーーーーーーーーーーー 「わぁ……凄い……豪華な……パーティー……だね……」 「豪華ー!」 アイス・ドロップ(あいす・どろっぷ)と鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が口々に言う。 「早く料理とってこようよ!」 スノウ・ブラック(すのう・ぶらっく)がそう促した。 この3人はそれぞれお揃いのパーティードレスを着ている。 色だけが違い、氷雨は赤と黒、アイスは白、スノウは水色と白になっている。 「姉様ちょっと待っててね。今からスノウと料理持ってくるからー」 「あ、うん……待ってる……。2人とも……気をつけてね……」 「変な人に声掛けられたら大きな声で叫ぶんだよ!」 「うん……」 「じゃあ。行ってくるから待っててねー!」 氷雨はアイスに念を押してから、スノウと料理を取りにいった。 「うーん、お料理いっぱいあるねー。うーんと、スノウ、どれにする? って、もう食べてるし!」 料理が置いてあるテーブルに到着し、取り皿を持ったら、早速スノウは大根と水菜のサラダをよそいながら食べていた。 「もう、スノウお行儀悪いよ! しかも相変わらず、サラダしか食べてないし!」 野菜以外のものを全く口にしない偏食なので、肉料理もあるのだが、目もくれず、大根と水菜のサラダと栗金団とマッシュドポテトばかり皿によそっている。 「美味しいよ」 「うん、美味しそうだね……それはスノウの表情でなんとなくわかるよ。でも、スノウ折角だし他のものも食べなよー」 「……」 「むぅ……無視したー」 氷雨は仕方なく、野菜意外の料理を担当し、よそっていく。 「ねえ、それより招待状ちょっと見せて」 「いいよ。はいコレー」 氷雨からパーティーの招待状をしげしげと眺めると口を開いた。 「この招待状……明らかに怪しいよね」 スノウは栗金団を口にしながらそう言う。 「蝶が印刷されてる時点で正体名乗っているようなものじゃん……」 「まぁ、いいじゃん、面白そうだしー」 2人はあるていど、料理をよそい終ると、アイスの待つ場所へと急いだ。 「……凄い……パーティー……ひーちゃんと……スノウちゃんに……連れられてここまで来ましたが……なんのパーティーか……聞いてませんでした……。一体……何のパーティなんでしょう?」 「ねー、わかんないよねー」 邪魔にならないように隅っこの方に待機していたアイスにライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が突然話しかけたのだ。 ライゼはブライトドレス、ブライトティアラ、ブライトグローブ、ブライトヒールを身につけ、剣の花嫁の正装をしている。 「……えっと……どなた……?」 「僕はライゼ! ライゼ・エンブ! よろしくね!」 「……よろしく……えっと、私は……アイス・ドロップ……いっしょに……食べますか……?」 「良いの!?」 「……うん……きっと……もうすぐ……2人とも戻って来ますから……」 「わーい!」 「あ……来た……」 会話をしているとすぐに2人が駆け寄ってきた。 「だ、誰!?」 さっきまではいなかった人物を見つけて、氷雨とスノウは声を揃えて言った。 「僕ライゼ・エンブ! 今、友達になったところだよ! 「……うん……」 ライゼの言葉にアイスが頷くと氷雨とスノウは、受け入れた。 「全く、本当に盗みたいなら人集める必要ないじゃん! 確かに沢山の人が見てる中、颯爽と獲物を取って行くって言うのもカッコいいけど! たいていは失敗するよ! まぁ、目立ちたがり屋と本当は誰かに止めて欲しいって言うならこういう風に予告するのはいいかもね」 「さっきの話しの続きー? スノウ……なんか、やけに詳しいね……」 「だって、私、お宝のためなら――」 スノウが話そうとしているのをアイスがじっと見つめて聞いているのを感じ、スノウは言葉を詰まらせた。 「はっ! アイスちゃん! 私は大丈夫だよ! 怪盗じゃなくてトレジャーハンターだし! まだ、まだ! 法には触れてないはず!」 「わぁ……凄い一生懸命だねー。しかも、動揺してるし。スノウ、墓穴?」 「ま……まぁ、私はト、トレジャーハンターだから。怪盗と別物だよ!」 「……? よく、分からないけど……私……スノウちゃんの事……信じてるよ……」 「まぁ、墓穴のスノウはほっといて、姉様ー。はい、お料理持ってきたよー」 「ひーちゃん……ありがとう」 一所懸命なスノウは放置され、氷雨は持ってきた料理をアイスに差し出す。 「ライゼさんも食べてねー」 「ありがとうー!」 3人はスノウを放っておいて食べ始めたのだった。 ーーーーーーーーーーーー ご飯とトークを楽しんだライゼは仕事(?)へと戻った。 船上を低い位置で飛び、カップルがいないか、探し始めた。 船尾の方へと向かうと淵と維が2人でいるところを見つけることが出来た。 「恋人達に幸せをー!」 ライゼは2人の上まで来ると、パワーブレスを掛け、『幸せの歌』を歌った。 「恋人じゃない!」 「知らないもーん」 淵が必死に否定したが、ライゼはそのまま飛んで行ってしまった。 こっちはメイド服で料理を運んだりしてライゼとは違い、真面目に仕事をしている朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。 「次は取り皿の補充だな!」 取り皿が少なくなってきているのをチェックした垂は会場を出て、補充用の皿のある場所まで行こうと、船首の方へと歩いて行った。 「あっと……」 たまたま、ルカルカと真一郎が抱き合っているシーンに出くわしてしまった。 「失礼しました」 と、何事もなく立ち去ろうとしたのだが、ルカルカに呼び止められた。 「大丈夫だよー。えへへ。ね?」 「ええ、大丈夫ですよ」 「……ああー……でも、やっぱり邪魔しちゃ悪いからさ」 そう言うと、垂は仕事へと戻って行った。 (幸せそうだったな……あの笑顔を持続させる為に俺は俺の出来る仕事を頑張るかな) 仕事のモチベーションが上がった垂だった。 |
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