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【カナン再生記】黒と白の心(第2回/全3回)

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【カナン再生記】黒と白の心(第2回/全3回)

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第2章 戦場の戦士たち 1

「うおおおおぉぉぉッ!」
 己が力を誇示するがごとく、幾多の兵が咆哮をあげた。
 槍の刃先が猛然に風を切り裂き、敵兵の鎧の隙間を縫ってその体に突き刺さる。鮮血が舞い、敵兵の悲鳴が上がる。それは戦場においては大した光景ではない。大勢の戦士たちが、そこで戦いの幕をあげていた。
「いけ! 突撃しろおおおぉぉ!」
 上級兵の声を合図にして、尖兵たちが一斉にぶつかり合う。あちこちであがる悲鳴と砂埃、そして金属の叩き合う音。
 イナンナ率いる南カナンの軍勢と『神聖都の砦』軍は、互いに譲り合うことのない戦いを始めていた。そして、その中を駆けるは無論――シャンバラの勇士たちである。
「な、なんだぁっ!?」
「鯱だ、鯱がきたぞおぉ!」
 戸惑う敵兵たちに向かっていたのは、砂地をまるで海のように泳ぐ砂鯱だった。
「イ、イェーガー小隊だっ!」
 味方から歓喜にあふれた声が聞こえてきた。鯱に跨る三人の中の先頭、ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)の手が、それに応えるかのようハンドキャノンを握る。その鋭い視線が捉える目標は、敵の遠距離部隊、魔法使いの軍勢だ。
「撃て、てー!」
 砂鯱のスピードに気圧されながらも、敵の魔法使いたちは火炎の玉を弾丸のようにはじき出した。火術で生み出した火炎の玉は、砂鯱めがけて飛んでくる。
 が、次の瞬間、砂鯱が砂にもぐりこんだと思ったとき、それに跨っていたニーナたちの姿が消えた。
「ど、どこだ!?」
「あまい……ですよ」
 ささやくような声が聞こえたのは、頭上だった。
 魔法使いたちが見上げたとき、すでにハンドキャノンの照準は彼らを捉えている。加えるなら、それだけではない。
「おらおらおらおら! 邪魔だどけぇ!」
「がっ!」「ぐぇっ!」「ひぐっ!」
「逃げようったってそうはいかへんで」
 ともに砂鯱から飛び降りていたスタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)ニコラス・エリスン(にこらす・えりすん)の銃が、遠距離部隊の兵たちを圧倒していた。オールバックのどS吸血鬼と、キモカワイイを狙って外したような、なんとも言えない外見のゆる族が銃を連射する光景はある意味シュールであるが、実力のほどはいかんともしがたい。
 敵兵の一部は魔法使い軍へと援護に向かった。だが、空を割る一閃が、それを許さない。
「ぐあああぁぁっ!」
「な、なんだっ……!?」
 敵兵たちが構えた前に待ち構えていたのは、刀を握るグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)だった。どこか幼い顔だちでいながらも、その反則的に飛び出た二つの果実に目が――ああ、いや、軍人らしい冷然な態度で、彼女は兵士たちに対峙した。
「これ以上先には、いかせません」
「…………」
 いつの間にかグロリアの後ろから顔を覗かせていたレイラ・リンジー(れいら・りんじー)の無表情な顔も、敵兵たちを威圧してくる。その手に握る碧血のカーマインの銃口は、もちろん敵兵たちを捉えていた。
「ぐっ……」
 思わず後ずさった敵兵であるが、背後に目をやると更なる銃口が彼らを逃してくれなかった。
「無闇に命を落とすことはありません。降参してください」
 優しげな声色でアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)が告げる。自分が銃を向ける相手さえも心配する心優しき声だ。
 しかし、それが通じるかどうかは定かでない。ちらりと、敵兵の目が動いたのを、グロリアは逃さなかった。
「危ないです、アンジェリカッ!」
 グロリアの声にはっとなって、アンジェリカはとっさに砂に転ぶように飛んだ。次の瞬間、恐らくはあと一歩遅ければささっていたであろう矢が砂地に突き立つ。
「かかれぇ!」
 陣形の崩れたグロリアたちに、敵兵の反撃が始まった。
「くっ……!」
 予定通りにいかなかったとはいえ、そう簡単にやられるグロリアたちではない。しかし、すでに予測して動いていた敵兵との差は歴然としていた。グロリアの刀が敵兵の照準を縫って相手を切り裂き、レイラの銃弾が敵を穿つも、残りの兵士の銃口はグロリアを捉えて――
「な、なんだあれは……!?」
 そのとき、遠く敵兵たちの間にどよめきの声があがった。
 ビクッ……と、敵の腕が一瞬止まるのをグロリアは見逃さなかった。握っていた刀が振りぬかれる。
 それでも、スピードが間に合うか?
「ぐぁっ! ……き、貴様……!」
 背後から、敵兵の腕を穿ったのはアンジェリカの銃弾だった。激痛と痺れが腕を襲い、もはや敵兵の銃はグロリアを捉えること満足に叶わない。
「……ッ!」
 一閃が奔った。グロリアの目の前で、敵兵は声を発することすら失い、倒れ伏した。
「ありがとうございます、アンジェリカ」
「いえ……」
 アンジェリカは目を伏せて死する兵士を見つめた。
 あれだけ怒涛の声をあげていた者が、いまやまるで氷のように何も物言わぬ。アンジェリカの瞳に宿る哀しみの色は、まるで兵士に向けた追悼の色のようだった。