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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

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   陸

  第一回戦
○第十五試合
 白麻 戌子(しろま・いぬこ)(蒼空学園)VS.ルナ・シュヴァルツ(るな・しゅう゛ぁるつ)(蒼空学園)

「やーやーまずは自己紹介といこうか。ボクは白麻戌子。キミの名も聞かせてもらえるかい?」
 屈託のない笑顔で手を差し出す。断る理由もないので、ルナは握り返して名乗った。
「良い名だねー。よしルナ・シュヴァルツ。正々堂々いい戦いをしようではないかー」
 ほがらかだが、それだけに何を考えているか分からない人物だとルナは判断した。――油断せず、早めに勝負をつけた方がよさそうだ。
 試合開始早々、ルナの大きめの竹刀から爆炎が放たれた。
 戌子はそれをモロに食らったが、
「おや、大したものだねー」
とけろりとしている。実戦ではないので威力は抑えたが、それにしても応えていない。
 戌子は薙刀を手に、とんとんとルナの周囲を飛び回った。ルナはその動きについていけない。
「ここだよ!」
 薙刀の刃がルナの足――特に甲の部分――を襲った。咄嗟にルナは、剣を返し、薙刀を救い上げた。自然、薙刀は弾かれる。ルナはそのまま、戌子の胸へ剣を切り上げた。
「やあやられてしまったね」
 ははは、と戌子は笑った。「でもキミの力はこんなものじゃないだろう? 次はもっと本気を出したまえよ。ボクは観客席から見ているからね」
 ルナは勝ったはずなのに、そんな気がしなかった。まるで「勝たされた」かのようだ。……それともそれが、戌子の作戦なのだろうか?


○第十六試合
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)(イルミンスール魔法学校)VS.クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)(薔薇の学舎)

 サクラコは第一試合の勝者、白砂司のパートナーだ。普段は司が隙を作らせ、サクラコが敵を攻撃する、というパターンで戦う。今日は一人だから、とにかく攻撃しまくろうと考えていた。そして優勝すれば、“覇者”どころか“桜”の称号も貰えるかもしれない、と思うとワクワクしてくる。“桜”はご先祖様が賜った称号で、彼女の名はそこに由来する。
 一方のクリスティーは、第三試合の勝者、クリストファーのパートナーだ。細身の割りに胸板が厚く、こいつは強いぞ、とサクラコは直感した。
 サクラコの勘は正しかった。
 クリスティーは開始早々、まだ距離がある内に素早く踏み込み、続けざまに二度、槍を薙ぎ払った――【チェインスマイト】の効果だ。
 ならばとサクラコは【先の先】を使った。更に【神速】でスピードを上げ、【則天去私】を発動した。光り輝く拳が、クリスティーの胸を打つ。
「!!」
猫ぱーんち!」
 続けてもう一発。
 だがクリスティーも負けてはいなかった。胸を打たれたことで息が止まりかけたが、そのままサクラコの腹部へ槍を繰り出した。
 ほぼ相打ち。
 だがサクラコは、先のスキルの影響で、防御力が極端に落ちていた。
「負けんのヤだ……」
 そうは言っても体力が応えてくれない。サクラコはばったりと気絶した。


○第十七試合
 空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)(蒼空学園)VS.遊馬 シズ(あすま・しず)(葦原明倫館)

「正々堂々、真面目にやって負けたんだから、恥でも何でもないわよ。しゃきっとなさいな」
「うぅ、でも、師匠〜」
 頭に包帯を巻いて泣きべそをかいているアレックスに、リカインは嘆息した。
「あ、次キツネさんですよ、キツネさん!」
 サンドラが試合場を指差した。
「放っておきなさい。どうせこっちの応援なんて聞いてないんだから」
「でもぉ」

 礼服姿の狐樹廊とヘッドホンをつけたシズは、何から何まで正反対であった。言葉遣いも性格も反対で、恐らく友人にはなれぬであろうタイプ同士だ。共通点があるとすれば、どちらも人間ではないこと、そして見た目通りの年齢ではないことか。
「参りますよ」
 狐樹廊はにっこり微笑み、走った。手にした扇をさっと横薙ぎにする。
 常であればそれで決まる攻撃であったが、これは試合である。手にした扇が、見たままの物でないことは、容易に察しがついた。シズは扇を跳ね返した。
「やりますね。では」
 狐樹廊は扇に隠し持っていた短剣を振るった。まるで彼岸花を思わせる細い炎が、幾重にも放たれる。
緋扇・曼珠沙華……」
 にやり、と笑う。
 直撃を食らったシズは、顔を歪めた。だが、仮にも悪魔である。そうあっさりやられてもいられない。
「本気でいかせてもらう……!」
 シズの右目が赤く光る。竹刀から、たった今熱くなった空気までもが凍るほどの冷気が放たれた。【アルティマ・トゥーレ】――必殺技まで正反対の二人である。
 狐樹廊の身体中に霜がつき、ピシピシと音を立てて凍り始める。
「これは……!!」
 半ば凍った狐樹廊と半分焼け焦げたシズは、片膝をついた。先に立った方が勝ちだ。しかし、道三のテンカウントが終わっても、二人とも立ち上がれなかった。
「引き分け。両者、二回戦進出!」
 何もかも正反対の二人だが、こんなところはそっくりだった。


○第十八試合
 ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)(イルミンスール魔法学校)VS.蒼灯 鴉(そうひ・からす)(イルミンスール魔法学校)

「ベルー! 私の分まで勝ちなさーい!」
 観客席からクリムリッテ・フォン・ミストリカが叫んだ。
「あれはおまえの仲間か?」
 鴉が尋ねた。
「……そうだけど?」
「パートナー同士、仲のいいことで羨ましい話だな」
「……?」
 観客席からオルベール・ルシフェリアが叫んだ。
「バカラスー! 出来るだけ無様に負けなさーい!」
「……俺の仲間はあれだ」
 あらそう、とベルは答えた。

 鴉は【封印解凍】を使った。身体に力がみなぎるのを感じる。
 試合開始の合図と共に、【アルティマ・トゥーレ】を発動する。
九鬼神滅流……氷華!」
 ベルは予想していなかったのだろう、咄嗟に腕で庇ったが、右半身が凍りついた。が、彼女は「氷雪の魔女」と呼ばれたことのある剣の花嫁だ。ダメージはほとんどないに等しい。そのままの姿勢で氷の飛礫を作り、鴉の【アルティマ・トゥーレ】を受けながら、それをぽんぽんと飛ばした。
「次は私の番よ」
 まだ凍り付いている腕を振った。最後の飛礫が鴉の正面に落ちる。六ヶ所に置かれたそれが線を結び、六芒星を形作った。
「何だ!?」
 星が光り輝き、足元から巨大な氷が現れ鴉を襲う。
「……氷の柩に抱かれて、凍えなさい」
「ぐあっ!」
「鴉!!」
 観客席のアスカは、悲鳴を上げそうになった。オルベールも舌打ちする。
【封印解凍】で攻撃力が上がった分、鴉の防御力は低下していた。
「そのまま沈むがいいわ」
 ベルが氷の飛礫を倒れている鴉の頭に向けて放つ。
「させるか!」
 鴉は右手で地面を叩き、無理矢理身体を起こした。左手で握った竹刀を一か八かで投げつける。鴉の髪を飛礫が掠り、同時に彼の全力を込めた竹刀がベルの膝を打った。
「一本!」
 道三の声が会場に響き渡る。
「……やれやれ」
 嘆息しながらベルは服の汚れを払った。ダメージはほとんどない。だが、負けは負けだ。
「こんなところかしらね。あなた、強いのね」
 随分な皮肉だな、と鴉は苦笑する。負けたベルより、勝った自分の方が満身創痍ではないか。
 自分のスキルより、ベルの技より、彼女の一言の方がよほど冷たく厳しいと鴉は思った。