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第一回葦原明倫館御前試合

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第一回葦原明倫館御前試合
第一回葦原明倫館御前試合 第一回葦原明倫館御前試合

リアクション

   拾壱

 大助と輝が寝ているところへ、シズが運ばれてきた。既に治療は受けたからと渋るシズに、
「病院へは行ってもらいます」
と睡蓮が言った。
「大したことないって」
「そういう風に高を括るから、後々酷い目に遭うんですよ!」
 びし! と睡蓮はシズの顔を指差した。
「言うこと聞いておいた方がいいよ。この人より怖ーいのがいるからね」
 次の試合まで休ませて貰っている大助が、腹ばいになったまま言った。
「怖い?」
「まあでも、シエルさんが応急処置したので、大事には至ってないと思いますよ」
という睡蓮の言葉に、輝と見舞い中の瑠奈は反応した。瑞樹は輝とシエルと瑠奈のため、観客席で研究中だ。
「シエル、勝ったの!?」
「お姉ちゃん、すごいにゃー!」
「あなた方も三回戦に出るんでしょう? 凄いじゃありませんか」
と睡蓮。
「でも、相打ちだし」
 輝はため息をついた。
「オレもだけど」
「次は負けないよ!」
「おうっ!」
「おうおう、元気だのう」
 サクラコと共にエクスが天幕に入ってくる。お盆に器が載っている。
「とん汁ですよっ!」
「これを食うて、さっさと戻れよ、おぬしら。ああ、そこな新入り」
「俺のこと?」
 とん汁を受け取ったシズが、箸で自分を指差した。
「おぬしは駄目じゃ。寝ておれよ。もしどこかへ行こうとしたら、無理矢理にでも眠らせるぞ?」
 エクスが再び出て行くと、シズは誰ともなしに訊いた。
「眠らせるって……言葉通りだよな?」
 誰も答えなかった。


   第三回戦
  審判:天津 麻羅

○第一試合
 白砂 司VS.東雲秋日子

 秋日子はシズが心配でならなかった。あんな傷を負ったシズなど、滅多にあることではない。
 焦った秋日子は、とにかく【光条兵器】を発動した。――はずだった。何も起きない。
「どうして!?」
 司はにやりとした。彼の【シーリングランス】の効果で、スキル封じが働いたのだ。
「スキルなしでも!」
 秋日子は司の太ももを狙った。司はその弾を弾き返した。
 スキルも効かない。弾も弾き返される。どこを狙っても勝てない気がしてきた。
「負けない……うりゃぁっ!」
 秋日子は司の頭部を狙って、引き金を引いた。
 だがその時既に、司はそこにいなかった。秋日子のすぐ近くまで来ていた彼は、槍で彼女の足元を掬った。
「一ポイントでも、勝ちは勝ちだ」
 倒れた秋日子の喉元に穂先を突きつけ、司は言った。
 こんなに悔しいことはなかった。秋日子は、ぐい、と唇を噛んだ。絶対に泣くもんかと決めていた。武士は涙など見せぬものだ。


○第二試合
 トライブ・ロックスターVS.ドライア・ヴァンドレッド

「あんた強そうだねえ」
 ドライアと対したトライブは、心底感心したように言った。
「そういうおまえは、見かけどおりじゃなさそうだな」
「いやいやまさか、俺、見た目どおりよ? か弱くて可哀相な感じ?」
「三回戦に出ておいて、か弱いってことはないだろ。生憎だが、そんな口で油断するつもりはないぜ。手ぶらで帰るわけにはいかねェからな、こちとら」
 トライブは肩を竦めて見せた。竹刀を手に、とーんっとーんっとリズムを刻みながら軽やかにドライアから距離を取る。ぎろり、とドライアの目がその動きを追う。
 トライブは竹刀をひょいひょいと持ち替える。右、左、右、左、左、右、右、左……ドライアは段々イライラしてきた。
「いい加減にしろ!」
「そうする」
 ドライアが槍を構えた瞬間、トライブの左手から轟雷が放たれた。
「ぐあぁ!」
 トライブはすぐさま距離を取る。ドライアはブスブスと煙を立てながら、トライブを追った。
「っと!」
 荒れた地面にトライブは足を取られた。今だとばかりにドライアは槍を構えたが、トライブはくるりとバク転して事なきを得る。ドライアはすぐにまたトライブを追った。トライブは体勢を立て直す暇がない。くるくると回りながら逃げる。それをドライアが追う。
「ちょちょ、いい加減にしてくれよ〜! 俺、目が回ってきた!」
「なら、そこにいろ!」
 ドライアは、トライブの動きのほんの少し先を読んだ。【ランスバレスト】の強烈な一撃が、トライブを吹っ飛ばす。
 吹っ飛んだトライブをドライアは追った。
「てめぇの技、俺が食ったッ!」
「そうはいくか!!」
 ドライアの槍とトライブの剣が激突する。二人の得物が砕け散る。
 ……しばらくの間、二人は微動だにしなかった。
 やがて、トライブがすとんと腰を下ろした。
「あ〜、格好わりぃ。締まらねぇなぁ、どうも」
「それは、降参ということか?」
 麻羅の問いに、トライブは手の平をひらひらさせて答えた。
「ネタ切れ。ついでに体力切れ」
「はッ。甘いンだよ。……というつもりだったけどよ。あー、まぁ。楽しかったぜ?」
 座り込んだまま、トライブはにんまり笑みを浮かべる。
「あー畜生、総奉行のキッスが欲しかったなあ!」
「おまえ、そんなのが目的か!?」
「男の子なもんでね」
 勝負事の緊張感はたまらない。冷や汗が出てくるような戦いは、この上なく面白い。だがそれを、ドライアに言うつもりはなかった。
 あくまでトリッキーに。試合が終わろうともトライブは変わらない。こういう人間だと相手が思ってくれれば、次の戦いでそれが役に立つのだ。


○第三試合
 氷室 カイVS.四谷 大助

「お主、槍を壊しすぎじゃぞ」
 破損した槍を受け取りながら、麻羅は言った。
「いやあ、すまねえ。つい力が入りすぎちまってよ」
 詫びながら、ドライアは麻羅がじっと己を見つめているのに気づいた。
「何か?」
「……いや。お主は随分真っ直ぐだと思うてな」
「あー、それ、よくみんなに言われる」
「良いことじゃ。その真っ直ぐさを見失うでないぞ」
「……?」
 ドライアには、麻羅の言う意味が分からなかった。

 救護所から解放された大助は、真っ直ぐ試合場へやってきた。グリムも戌子も、まだ眠らされたままだ。ほとんどスマキ状態で天幕の傍らに置かれていた。あの二人が喧嘩した理由がどうも解せないが、ここは一つ、彼女らのためにも優勝したいと大助は思い始めていた。
 つまり欲をかいた。
 この戦いで敗因を求めるとしたら、そこにあるかもしれない。
碧日」と大助が呼ぶ同化昆虫と同化し、身体が青緑の燐光を放つ。服の下で筋肉が盛り上がるのが分かった。
 拳を握り締め、大助はカイの鳩尾目掛けて突っ込んだ。
 カイは竹刀を腰に当て、柄に手をかけ待っていた。
 ――居合いか、と大助は察した。しかし居合いは本来、刃を鞘の中で滑らせることでスピードを増す技である。竹刀や木刀では、本来の威力は出せない。避けられる、と踏んだ。
 だが、【ヒロイックアサルト】で攻撃力、スピードが上がっている分を大助は見誤った。
「我が刃は神速、刹那の時を翔る」
 大助が避ける間もなく、腹部に竹刀が打ち込まれる。大助の顔が歪む。碧日のおかげでダメージは少ないが、ポイントを取られたことは間違いない。
「……ちっ、攻めきれないか……」
 大助は舌打ちし、カイの竹刀ごと彼の足を叩き折ろうとした。
 だがその時には、カイは既に大助の後ろに回っていた。
「ヘ?」
 背中を強かに打たれ、大助は地面に鼻から突っ込んだ。
「うわぁっ! っ、いてて……」
 碧日が離れ、大助の身体が元の色に戻る。
「……あちゃー油断したか。はぁ、オレの負けだよ」
「何か、急いでいたのか?」
「え?」
「そう見えた」
 大助は、ぽかんとした。焦っていた? オレが?
 それから思い当たった。いつの間にか、戦う理由が変わっていたことに。最初は自分の腕試しだった。途中で仲間のためにと思った。だがそれは、「仲間のせい」にしていなかったか、と。
「ため」と「せい」では違う。いつの間にか陥りやすい錯覚だ。
 真に「仲間のため」、オレが出来ることは何だろうと大助は考えた。今すぐは、答えは出そうにない。