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リアクション
拾伍
決勝戦
白砂 司VS.神崎 輝
「司くんーっ、頑張るですよー!」
サクラコが両腕をぶんぶん振り回しながら、飛んだり跳ねたりしている。それを見て、張り詰めていた緊張感がふっと緩むのを司は感じ取った。ついでに強張っていた身体が、柔らかくなる。
サクラコの一族は、異邦人である司を快く迎え入れてくれた。もはや司にとってもジャタは故郷と呼んで差し支えない。
しかしながら、ジャタは蛮族の土地と思われている。そこに住む者も然り。彼らが政治権益を得るためには、誰かが中央に打って出ねばならない。
司はそれを自分の役割だと思っていた。この御前試合で優勝することが出来れば、ハイナと直接重要な話をする機会にも恵まれよう。もしかしたら、他校の校長ともパイプが出来るかもしれない。そうなれば――。
それは司の悲願だ。
司の双肩には、サクラコの一族全てが掛かっている。ここまで来て、負けるわけにはいかない。
緋雨が片手を上げた。
司と輝は深々と礼をし、それぞれの得物を構えた。
緋雨の手が下がった瞬間、司は【荒ぶる力】と【シーリングランス】を発動した。獣のごとき力に、輝は堪えようとしたが、大きく吹っ飛ばされた。
もんどり打った輝に、観客席からは叫び声が上がる。
輝は頬を拳で擦りながら立ち上がった。大きく血が滲んでいる。ヒリヒリと痛んだが、気にはならなかった。
「こんな傷ぐらい……」
司は【適者生存】を使った。輝の身体が、びくりと硬直する。本能レベルで恐怖を感じていた。
「負けられない……!」
振り絞るような声だ。逃げ出したくなる本能を、辛うじて理性が支えている。
司が地面を蹴った。地面すれすれを穂先が通過し、輝の足元を狙う。
「負けられない!」
今度は叫んだ。輝は【スウェー】を使った。ちょうど口金の部分へ、輝の剣がぶつかる。そのまま輝は司へ向けて駆けた。剣が太刀打ちから石突へ向け、滑るように移動する。
「何!?」
輝の剣が、司の腕を叩いた。【適者生存】で攻撃力は下がっていたが、スピードで加味された力は、彼の手から握力を奪うには十分だった。
カラン、と槍が落ちた。
「しまった――」
いや、まだだ。まだ手はある。――手、のみが。
司は輝の足元目掛けて、ダイブした。
だがそれは、輝にとって格好の的だった。
「これで……終わらせてやるっ!!」
渾身の力を込めた一撃を、司の腕目掛けて振り下ろした。
「――!!」
ズザアァ……。
土煙を上げ、司は地面に突っ込んだ。そして、ぴくりとも動かない。
緋雨とプラチナムは近づいて、確認した。
「気絶してるわ」
「骨が折れているようです」
膝をついて司の意識を確認していた緋雨は立ち上がり、精根尽き果てへたり込んでいる輝の手を取った。
「勝者、神崎輝!!」
「――え?」
わあっ……と大きな歓声が上がる。
「ボク……勝ったの?」
まだよく分かっていない輝が、ぽかんとして尋ねた。
「輝!!」
「お兄ちゃん!!」
「マスター!!」
パートナーたちが観客席から飛び出してきて、輝に抱きついた。
「み、みんな、怪我は!?」
「何言ってるの! 輝の決勝戦を見逃すわけないでしょ!?」
シエルは制服の下に包帯を巻いているらしく、白いものが見える。
「最初から見てましたぁ!」
と、これは瑠奈。
瑞樹は黙って、三人を抱きしめる。
三人の反応を見て、輝は初めて実感した。
「優勝しちゃった……」
胸の内からこみ上げてくる。
「優勝したんだ……」
両の拳を握り締め、そして、ぐっと天へ向けて突き上げる。
「優勝したーっ!!」
ミシェルの【ヒール】で治療を受けている司の前に、サクラコが立った。
司は顔を上げられない。
「負けてしまったな」
「知ってます?」
「何をだ」
「主人公は、一度敗れて這い上がるものですよ」
司はサクラコを見上げ、ぱちくりと目を瞬かせた。
「まだ終わってません。戦いはこれから、ですよっ」
「……それじゃあ、物語は終わってしまうだろう」
司は微笑を浮かべた。
銀が司に肩を貸す。
「痛みが取れたら治療所だ。ここじゃ応急処置しか出来ないからな」
頷き、司はサクラコを振り返った。
「次を待っていろよ」
「了解です!」
司は、目を細めて笑った。
「いい勝負だったね」
うーんと伸びをしながら、氷雨は立ち上がった。
「表彰式、見ていかないんですか?」
と、デロちゃん。
「必要ないよー。見たいものは見れたし。その内、今出た人と戦うこともあるかもねー。そしたら今日の試合が、少しは参考になるんじゃないかなー?」
「そういうこと、ありますかねえ……」
「ないといいと、思う?」
「はい」
「じゃ、そういうことにしとこっかー」
氷雨の本心がどこにあるのか、デロちゃんには分からなかった。
麻羅を探し続けていた鳳明は、試合場の外で彼女を見つけた。梅の木の下に両足を投げ出して座る麻羅に、鳳明は青ざめて駆け寄った。
「麻羅さん!」
「……おお、鳳明か。試合は終わったか?」
「どうしたの!?」
「……なに、半分は自分でやった」
スキルの反動でガタが来ていたところへ、六黒の【一刀両断】を受け、完全に動けなくなった。肋がいっているかもしれん、と麻羅は冷静に分析した。
しかし六黒もまた、ノーダメージではすまなかった。自力では歩けず、足を引きずりながら、ドライアの肩を借りて立ち去った。願わくば、しばらくの間でも寝込んでくれるといいのだが、と麻羅は願い、苦笑する。あの男にとって、死以外の傷は何ほどのこともないだろう。
鳳明の肩を借りて、麻羅は立ち上がった。その時、鳳明は気がついた。隣の木に、花が一輪もついていないことに。その根元に、全ての花が落ちていることに。そこに、まだ新しい、大きな傷跡があることに。
一体何が起きたのか、鳳明は尋ねることが出来なかった。
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