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楽しい飯ごう炊さん

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楽しい飯ごう炊さん

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3.

【5班】
「この後、任せても良いですか?」
 と、葉月可憐(はづき・かれん)芦原郁乃(あはら・いくの)へ言った。
「え、うん、分かった!」
 先ほどまで雑用ばかりやらされていた郁乃がぱっと顔を明るくする。
 可憐は『機晶爆弾』を左手に、とことこと近くで行われている喧嘩の渦中へ。
「よーし、やるぞー!」
 と、気合いを入れて鍋をかき回そうとする郁乃。
 そこへすかさず止めに入る荀灌(じゅん・かん)蒼天の書マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)
「駄目です、お姉ちゃん!」
「ここは私たちが引き受けます、お料理をするなんて恐ろしいことに手を染めないで下さい」
 二人に押されるようにしてカレー鍋から遠ざかる郁乃。
「何でよー? あとはただかき回すだけ――」
 と、反論する郁乃。やる気は十分なのだが、彼女の手にかけた料理は、それはとても恐ろしいものになるのだった。
「良いんです、とにかくお料理だけはしないで下さい」
「誰も食べられないようなカレーになってしまったら、同じ班の方にも迷惑になります」
 その様子を見ていたアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、はっとしてお玉を手に取った。
 慌ててカレーをかき混ぜて、ふと近くに生えていたキノコに手を伸ばす。
「これ入れたら美味しそうかなー? 具も多くなるし」
 ぽいっとそれらをあるだけ入れて、ぐるぐるとかき回すアリス。
「爆風がこの季節、気持ちいいねぇー」
 と、アリスは能天気に言う。郁乃がやらずとも、ひどいカレーが出来上がりそうだった。

 可憐は『機晶爆弾』を使って不良の攻撃を防いだ。
「ふふ、私に触れたら火傷しちゃいますよ?」
 と、次々に爆弾を使用していく可憐。
 あちこちで煙があがり、状況はどんどん滅茶苦茶になっていく。仲裁どころか、可憐のしていることは相手を煽るばかりだ。
『行動予測』により衝撃許容範囲を計算していた可憐にはもちろん、爆発による害はない。ただ不良たちが、順番に爆発に巻き込まれていくだけだった。
 一方、雲雀は不良たちへ『ヒプノシス』をかけていた。
 何人かは眠りにつくが、やはり爆発のせいで大人しくはしてくれない。
 雲雀は『鬼眼』でガンをとばした。不良たちがびびって後ずさるものの、背後から別の相手が襲いかかってくる。
 エルザルドは叶月との距離を縮めると、不良たちの攻撃をかわしながら言った。
「熱いのは結構だけど、ヤチェルちゃんが心配してるよ」
 と、隙を見て叶月の身体に手を触れる。
『ヒール』により怪我を治してもらうと、叶月は苦々しく言った。
「っ、さすがに今回は無謀だった」
 彼から反省の色を感じ取り、エルザルドはすぐにその場から離れていく。
 ――すっかり取り返しの付かない事態になっていた。

【1班】
「喧嘩している人は全員、飯ごう炊さんのお片付けの罰を科すのです!!」
 と、どこからか持ってきたみかん箱の上に片足を乗せて威勢を張る天璋院篤子(てんしょういん・あつこ)
 自称ショートカット同好会・監察部である彼女の声は、誰の耳にも届いていなかった。ただ育ちを思わせる白い脚が、大正袴の裾からちょろっと見えている。
「武力行使するしかなさそうであります」
 と、篤子の隣で小松帯刀(こまつ・たてわき)が言う。
 その一方で、にっこり元気に笑う白舞(はく・まい)の姿があった。彼女もまた、自称ショートカット同好会・監察部の一人である。
「喧嘩はよくないよー!」
 と、両手いっぱいに飯ごうを抱えている。
「みんな仲良くしようよー」
「そうですわ! こんな喧嘩に意味などありません!!」
 と、叫ぶ篤子。
 そんな状況に紛れ込んで女の子にセクハラしようと考えるのは玄米(げん・べえ)
「とにかく暴れるのなら、ワシもおなごの乳を――」
 しかし、可憐の爆弾のせいでなかなか中へ入っていけないのだった。

 篤子たちが喧嘩の仲裁をする中、喧嘩同様にカレーも取り返しの付かないことになろうとしていた。
「うん、良い感じね」
 と、七味唐辛子やわさび、そしてハバネロを投入していくセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「あとはコクとまろやかさを出したいから……」
 取り出したのはココナッツミルクとハチミツ。……ハチミツは分かるとしても、その後に入れたのは福神漬けの汁だった。この時点で、すでにカレーから遠ざかっている。
 鼻歌を歌いながら、楽しくカレーをかき混ぜるセレンフィリティ。
 彼女のパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は飯ごうに水を入れすぎたことに気づかず、火にかけてしまった。すっかりセレンフィリティに気を取られているのだ。
「で、具を入れるっと」
 ざっくり切られた野菜や肉、いわゆるシーフードである魚介類に麺類、そしてスナック菓子を砕いたものをちゃんぽんでぶち込む。
「……」
「ヒャッハー、料理って楽しいわねー!」
 と、鍋は鍋でも中華鍋を振り回すセレンフィリティ。突っ込みどころが多すぎて、何が何だか分からない。実に不安である。
 しかし一方のセレアナも、それはひどいご飯を炊いていた……喧嘩の仲裁も良いが、篤子たちは一度こちらへ戻ってくるべきだ。可能なら、一刻も早く。

【結局】
「やめなさい!」
 ようやく引率の教師が駆けつけてきた。
 里也と朔が立ち止まり、エヴァルトとミュリエルが動きを止める。
 洋介が乱之介を捕まえて大人しくさせ、永太が教師の方に顔を向けた。
 紅鵡は撃つのをやめて、ノヴァがその場で大人しくする。バーバーも不良の頭をいじる手を止めた。
 可憐の最後の爆弾が爆発し、雲雀も動きを止めた。
 叶月が舌打ちをする。
「一体何があったか知らないが、喧嘩は――」
「オレが思うに、腹が減ってるからみんな殺気立つんだよ」
 と、教師の言葉をさえぎる武尊。
「みんなでカレー食おうぜ」
 ざわざわする一同に、ホーも言った。
「そうである、みんなで作ったカレーはとっても美味しいのである」
 静寂の中、誰かの腹の音が鳴った。やはりお腹が空いていたらしい。
「……」
 不良たちは互いに顔を見合わせると、苦笑した。