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WahnsinnigWelt…全てを求め永遠を欲する

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第2章 正気喪失・・・発狂の彷徨い

「どうも案内なしにたどりつける気がしないわ・・・」
 鬱蒼と覆い茂る森を見上げ、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は顔を顰める。
「教導団の訓練でサバイバルには慣れているけど、この森は厳しいわね」
「何か現れても動じず、先を急ぐことが先決よ。じゃないと、逸れて迷子になってしまうわ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は余計なものに気を取られないに注意する。
「それくらい、私だって分かっているわ」
 “お母さんみたいね”、と言いたくなる物言いにため息をつく。
「さて・・・。ティアンに捕まると自由に出来ませんから。先に行かせて貰いましょう」
「あっ!ねぇ、もしかして例の研究所を探している人かしら」
 森に入ろうとする高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)にセレンフィリティが声をかける。
「えぇ、そうですけど」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「いいですよ。でも、あまり離れないように気をつけてください。研究所へ向かった人が、目印を残してくれているみたいですけど。絶対に逸れないって保障はありませんからね」
 玄秀は木の枝に結びつけられた数字が書かれたリボンを確認しながら、同じ場所に行くなら道案内くらいしてやろうと2人の先を歩く。
「セレンフィリティさんたちは、どうして危険な場所へ行こうとしているんですか」
「どうしてって・・・。とあるイルミン生徒に頼まれてね、十天君の研究所探しの応援要員として来たのよ。あいつらに協力しに行くんじゃないわ」
「そうですか、ちょっと目的を聞いておこうと思いまして・・・。2人を疑ったわけじゃありませんよ」
「まぁ、欲のためにあいつらの側へつこうとしているヤツもいそうだし。そんなヤツ見つけたら、叩きのめすけどね」
「仲間だと思っていた人が突然裏切るなんて、よくあるパターンだと思いますけど」
「例え理由があっても場合によっては、失った信頼が戻ってこない時もあるわ。とりあえず私たちはそんなマネするつもりないし・・・あれ・・・・・・、どこに行ったの?」
 木々の間を通る2人の後に続いて来たのだが、2つの分かれ道の前でぴたっと足を止める。
「え〜っ!?ついて来ているか、ちょっとくらい後ろを確認してくれたっていいじゃない!」
 玄秀がどっちの方向へ進んだか分からず、どの道を行けばいいのか焦る。
「左側の木の枝にリボンがあるわ、きっとこっちね」
「ふぅ、よかった。番号通りに進んで行けば、なんとか追いつけそうね」
 リボンを見つけたセレアナの後についていく。
「―・・・結構歩いているはずなのに追いつけないわね。本当
にこっちでいいのかしら。あっちの道を行ってみない?」
 もしかしたら途中で道を間違えたのかと思い、別の方向へ行ってみようと言う。
「ねぇ、セレアナ、聞いてる?セレアナってば!」
 パキパキと枯枝を踏み鳴らし、返事を返さない彼女の方へ走り寄ろうとするが・・・。
「えっ、ぇえ!?どういうこと!そんな・・・セレアナとまで逸れちゃうなんて・・・っ」
 余所見をしている隙にパートナーとも逸れてしまった。
「森の中で彷徨って、もし出られなかったら・・・この骨みたいに。えぇいっ、落ち着くのよ、私・・・!」
 足元に転がっている白骨死体から目を逸らし、ぶんぶんと頭を左右に振って想像を消し去る。
「ここはいったん、森から出るしかなさそうね。―・・・はぁ、ふぅ・・・っ。全然出られないじゃないの!!」
 教導団で受けた森林のサバイバル技術で、出口を探してみるが同じような道ばかりで、余計迷子になってしまう。
「―・・・何、このアロマっぽい・・・いい香り・・・・・・。なんだかとても、気が安らぐわ」
 ふわん・・・と森の植物が発する匂いに酔いしれ、いつの間にか焦りや不安がどこかへ吹き飛んでしまった。
「うっ!急に傷が・・・どうして今になって・・・!?」
 心を安らがせる甘い香りが、彼女をズルズルと幻影へ引きずり込む。
 思い出すのも恐ろしい過去・・・。
「もしかしてこの香りのせいなの!?ぅ・・・くぁっ」
 数年前に襲われた時に負い、いまだに癒えず残っている心身の古傷が疼痛のような感覚が、じわじわと身体へ広がっていく。
「助けてセレアナ・・・助けてよ・・・・・・かふっ」
 爪で脳をギギッとゆっくり引っ掻くかの如く、徐々に精神の奥深くまで蝕んでいき、逸れたパートナーの名を呼びながら苦しみ悶える。
「どうして助けてくれないのよ!どうして私を独りぼっちにするの!?うわぁああぁあああ!!」
 キチガイじみた叫び声を上げ、そこら中に銃を乱射する。
「全部この古傷のうずきが、迷わせたのよ。誰かが私の傷に触れたせいだわ。―・・・誰かって誰?フフッ・・・そこら辺に姿を隠して、襲ってきているのね?そうよ・・・そうに違いないわ。そんなヤツ・・・粉々にしてやる!!」
 姿の見えない誰かが、傷をうずきさせているのだと思い込み発砲し続ける。



「困ったわね。目印を見つけるにしても、やっぱり土地勘のある人がいないと・・・」
 玄秀と逸れたセレアナは木の枝にリボンがついていなか、見落とさないようにゆっくりと進む。
「(それにしても静かね。さっきから一言も喋らないなんて)」
 道に迷ったが最後、永遠に彷徨い続けると噂されるせいか、妙に大人しいセレンフィリティの方へ振り返る。
「―・・・っ!?」
 後ろを歩いていたはずの彼女の姿がなく、どこを見渡しても見つからない。
「セレン、セレン!―・・・聞こえないみたいね」
 呼びかけても返事が返ってくる気配はない。
 彼女とも完全に逸れてしまったようだ。
 さぁもっと森の奥深くまでいらっしゃいっと誘っているかのように、ザザザ・・・ッと風に揺らされる木々の不気味な音だけが響き渡る。
「ふぅ・・・。こんな時は動かず待っている方がいいわね」
 大きく深呼吸をして気を落ち着かせ、歩き回らず2人のうちどちらか探しに戻ってくるのを待つ。
「何、この妙な香り・・・」
 鼻をくすぐるような、不思議な甘ったるい匂いに眉を顰める。
 彼女に纏わりつくように漂う香りがしてきたかと思うと・・・。
「―・・・風の音?」
 ヒュゥウウ・・・。
「嫌ね、何だか雨が降りそうだわ」
 空を見上げるとだんだんと強まる風に、真っ黒な雨雲が運ばれる。
ドザァアアーーーーッ。
「やっぱり降ってきたわね」
 突然スコールに襲われ、葉が茂った木の下へ隠れる。
「亜熱帯地帯みたいな降り方だわ」
 奇妙な雨に顔を顰め、誰かが仕掛けたことではと、冷静に判断して周囲を見回す。
「地鳴り・・・?そんな・・・嘘でしょ・・・っ」
 ズゴゴゴォオッ。
 豪雨の影響で森の中の川が増水してしまい、彼女を押し流そうと襲いかかる。
「はぁ・・・ここまで来れば、流されないわよね。―・・・何なの、これ。どうして私の方に?」
 木によじ登り安堵の息を漏らすのも束の間、まるで生き物のように濁流が木を登り追いかけ来た。
「モンスターなのかしら。それなら倒すのみね」
 ドフッと濁流をランスで貫くと、一瞬怯んだのかズズッと退くものの、再び襲ってくる。
「水の中にいるように思えないけど。もしかしてこの濁流事態が・・・?となると、どこかに核があるかもしれないわ」
 この窮地にいつもは冷静な彼女と思えない、捨て身のような一か八かの賭けに出る。
「(どういうこと・・・。こいつ、生物じゃないの?)」
 自ら飛び込んで必死に泳ぎ探しても、水しかなく元となっているものが見つかれない。
「(もう・・・・・・息が・・・)」
 ゴポッ・・・。
 溺れた彼女が気を失うと、濁流が消え去り雨もピタッと止んだ。
 不思議なことにセレアナの服はまったく濡れていない。
 何故なら彼女のトラウマが実態のない幻影を発生させていたからだ。
 幼い頃に死にかけるほどの災害に巻き込まれた過去の記憶が、幻影となって正体不明の怪物となって襲いかかってきたのだ。
 ゆえに攻撃を仕掛けても倒せるはずがない。
 草花の上に横たわった彼女は2時間以上も、気絶したまま・・・。



 セレンフィリティは発砲しながら精神崩壊しかかり、災害のトラウマでセレアナが気絶してしまっている頃。
 玄秀は1人、目印をたどって研究所を探している。
「注意した傍から逸れてしまいましたね。探したり追いつくのを待っている時間もありませんし。先を急ぎますか」
 2人を放って進むこと数十分、木々の間を吹き抜けた風が、フフフ・・・と不気味に笑うような音を響かせる。
「それにもう、危険なエリアへ踏み込んだはずですからね」
 足止めをくらうまいと辺りを警戒する。
 突然パキ・・・と枝を踏みつける音が聞こえ、ぱっと振り返ってみる。
「―・・・気のせいでしょうか」
 きょろきょろと見回してみるが、鳥や野ネズミ匹見当たらない。
「いえ・・・誰かいるみたいですね」
 自分の後ろを何者かつてきて、わざと痕跡を残している。
 踏み折られた枯枝を拾うと、クスクスッと笑い声が聞こえてくる。
 彼を囲むかのようにあちこちから、無邪気な子供の声音が響く。
「幻影ですか・・・」
 彼は幼い頃、親に捨てられ孤児院で暮らすことになったが、いつも独りぼっちで孤立していた。
 そこで暮らしていた子供たちに、いじめの標的にされ、ずっとムシをされていたのだ。
 こっちを見て何か話しているのを見る度に、陰口を言われているんじゃないか。
 そう思っていたが、ほとんどは本当に彼の悪口を面白おかしく話されていた。
 しかも彼の顔を見ながら、わざとこそこそと・・・。
 悪いことの分別のつかない子供というのは本当に残酷な生き物だ。
「陰でそんなことして、何が楽しいのかまったく分かりませんね・・・。これだから子供は嫌いなんですよ」
 彼にとって忘れ去りたい過去のトラウマだが、孤独の辛さが憎しみへと変わっていた。
「さっさと消えなさい」
 アシッドミストの霧を回りに発生させ、森が発する香りを消そうとする。
「吸着させられないみたいですね・・・。まったく鬱陶しい!」
 せせら笑う声が消えず、仮に出来たとしても一瞬の術では防ぎきれない・・・と舌打ちをする。
「人工的なようなものでもないようですし・・・」
 誰かの仕業でもないとわかったとたん、さらに彼の神経を苛立たせる。
「だったら、黙らせてやりましょう」
 声が聞こえる方へ近づき、冷徹な目で意地悪そうな幼い子供を見下ろす。
「これでもう、もう喋ることは出来ませんね」
 氷術で作りだした矢を放ち、子供の舌を切るように口を貫き火術で丸焼きにする。
「ふぅ、やっと静かになりましたね。さてと、早く行かなくては・・・」
 残りも躊躇なく八つ裂きにし、何事もなかったかのように先を急ぐ。