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WahnsinnigWelt…全てを求め永遠を欲する

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第4章 心弱き者は・・・森はいずれ森の糧

「迷って帰って来れない人が何人もいるんだよね?パンダ隊で鍛えた方向感覚があってもキツそう・・・」
 一緒に来てくれそうなイルミンの生徒がいないか、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は魔法学校の傍で探す。
「森の中へ入っていく生徒がいますよ」
「えっ、本当!?声をかけてみよう、陽子ちゃん」
 迷わないようについて行こうとティアン・メイ(てぃあん・めい)の後を追いかける。
「まったく。こっちに来たばかりで色々不案内な癖に、こんな危険なミッションを受けて、しかも勝手に先に行ってしまうなんて!」
 玄秀に置き去りにされたティアンは、プンスカと怒り顔をする。
「研究所を探しに行くなら、私たちも連れていって!」
「たぶん同じ方向だと思うからいいわよ」
「パートナーが先に行ってしまったんですか?」
「そうなのよ。敵方についた魔女もたくさんいるっていうのに、まったく無謀すぎるわ。そう思わない!?」
「え、えぇ・・・そうですね」
 玄秀の愚痴を聞かされた緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は作り笑顔で言う。
「誰か入り口の木の枝に、リボンをつけていますね?」
「1って数字が書いてあげるけど、何だろうね」
 透乃は不思議そうに首を傾げて見上げる。
「たぶん先に向かった人がつけた目印じゃないの?」
「じゃあそれをたどって行けば、たどりつけそうだね」
「だからといって探すだけでも大変そうですよ、透乃ちゃん。早く行かないと、逃げられてしまうかもしれませんし」
「え〜っ!?そんなの絶対やだっ、急がなきゃ!」
 ティアンの背中を押して森の奥へと進む。
「ちょ、ちょっと。そんなに押さないでよ、きゃあっ!?」
 急かされたティアンは石のようなものに躓いてしまい地面に突っ伏す。
「あはは、ごめんね。どうしても早く戦いたくって・・・。大丈夫・・・?」
「―・・・ティアンさんの下に何かいませんか?」
「へっ?」
「う・・・ぅ・・・うぅっ」
 彼女の下敷きになっている何かが苦しそうに呻く。
「だ、大丈夫!?」
 ぱっと退き、倒れているイナ・インバース(いな・いんばーす)を助け起こしてやる。
 十天君を探しに行こうと森に入ったが、道が分からず彷徨い、行き倒れてしまっていたのだ。
「立てますか?」
「えぇ、なんとか・・・。ありがとうございます」
 陽子に助け起こされ、ぺこっと頭を下げてお礼を言う。
「何か匂ってきましたね」
「―・・・それって果物や、お菓子の匂いかしら?」
 もしや幻影を見せる香りなのかとティアンが眉を潜める。
「いいえ、鉄のような感じがします。―・・・これは、血です!」
 超感覚がなくても分かるほど怪我人が近くにいる。
 助けに行かなくては・・・。
「これはかなり、深手かもしれません。急がなくては!」
 血の匂いがする方へ全速力で走る。
「あぁ〜、行っちゃった」
 怪我人を助けずにはいられない彼女を透乃が見る。



「ん・・・何、この美味しそうな匂い!どこかに果物とかあるのかな?」
 くんくんと透乃が鼻をひくつかせ、唾をごくりと飲み込む。
「ここら辺にそんなのがあるなんて、聞いたことがないわ。これは幻影を見せる香りよ、気をつけてどこからくるか分からないわよ」
 ティアンが周囲を警戒しながら、2人に注意したとたん・・・。
「もう人の・・・私?」
 どこからか女の悲鳴が響いてきたかと思うと陽子の目の前に、傷だらけのもう1人の自分が吹っ飛んできた。
 アルティマ・トゥーレと封印解凍を使い、自滅してしまった自分の姿だ。
「陽子ちゃんが2人!?ドッペルゲンガーの森でもないのに、どういうこと!」
「これは・・・私のトラウマ・・・・・・。透乃ちゃんに迷惑をかけてしまったり、倒しきれなかった時の私です」
 録画した映像が再生されているように、目の前で過去の出来事を見せつけられる。
「うーん、私はずっと悩んだりするタイプじゃないから、何も現れないのかな?私自身の成れの果てでも出るかと思ったんだけどね」
「私の方にも現れる気配がないわね」
 恵まれた家庭で育ったティアンには、そもそも幻影となるトラウマはない。
「これをのりきらなければ、きっとまた・・・」
 去年のことを2ヶ月くらい引き摺り、ずっと落ち込んでいたが、今では立ち直っている。
 ―・・・はずだったが、心の奥底で未だに引き摺っている。
「あなたの考えが甘いから、私がこんな目に遭うんです・・・」
 過去の未熟な私がゆらりと立ち上がり私を睨みつける。
「どうして失敗したか・・・身を持って分からせてあげます!」
 凶刃の鎖の刃にアルティマ・トゥーレの凍てつく冷気を纏わせ、封印解凍と併用させた切っ先で喉元を狙う。
「(乗り切るには、幻影の私を倒さなくてはっ)」
 いっきに仕留めてやろうと、彼女の心臓を目掛けて振るう。
「―・・・・・・っ」
 間髪かわし致命傷を逃れるものの、刃が首筋を掠める。
「フフ・・・。それが命取りにもなりかねないということ、まだ学ばないなんて・・・」
「ただ掠っただけじゃないですか!」
「掠っただけ・・・?笑わせないでください。あなたも私の腹を掠めただけです。同じ技のみを使い、相手が未熟な私だからこそ生きているんですよ?」
「(同じ技のみ・・・?いったいどういうことなんでしょう・・・)」
 分からなければトラウマを乗り越えることは出来ない。
 その彼女の言葉の意味を必死に考え込む。
「ねぇ、助けなくていいの?」
「これは陽子ちゃんのトラウマだよ。私は手出ししないし、ティアンちゃんも助ける必要ないよ」
 パートナーを助けないのかと聞くティアンに透乃は首を左右に振り、彼女をじっと見守る。
「はぁ・・・もたついている暇はないのに」
 助けは不要と言われたものの、このまま放っては行けず、2人を待ってやる。
「反動の大きい技を避けられたら、どうなると思います?」
「そんなの隙をつかれて・・・。(隙・・・そうだったんですね。だから私は今まで・・・!)」
 彼女の問いかけに、今までの自分のミスに気づき、鎖をぎゅっと握り締めて振るう。
 2つの技を併用して致命傷を狙い、封印解凍の身体の負荷で隙が出来てしまう。
 ここまでは私と未熟な私は同じ結果・・・。
「さよなら・・・未熟な私」
 ズァアアッ。
 次の手を考えていない私に罪と死の闇黒を放つ。
「気づいたんですね・・・」
 ディテクトエビルで魔法攻撃のダメージを和らげたが、鎖による衝撃までは耐え切れず、片腕に深手を負った。
「相手が未熟な私でしたから、同じ攻撃の後に使いましたが。アルティマ・トゥーレと封印解凍、この2つを使った技は本来、相手の隙を狙う時に使うべき技なんです」
「えぇ・・・、そうです。そうでないと・・・私のような目に遭ってしまうんですよ・・・」
 時として相手に避けられ、倒しきれないターゲットを倒すために、彼女の力も借りなきゃいけないこともある。
 1人で倒すなら隙を狙わないと、反撃をくらってしまうほど、扱いが難しいのだ。
「仕損じたら反撃をくらってしまうからこそ、透乃ちゃんの力が必要になったりするということですか」
 トラウマを乗り超え、消えていく過去の自分の幻影を眺める。
「でもやっぱり、1人はまだ少し難しそうです。その時がきたら・・・透乃ちゃん、私に力を貸してくれますか?」
「もちろんだよ、陽子ちゃん!」
「ありがとうございます・・・」
 未熟な私に別れを告げた私は、恋人の透乃ちゃんのところへゆっくりと戻る。