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第二章:家に帰ろう
 朝と昼の交代時のバックヤード内の事務室では、勤務を終えたルカや小次郎、北都、セレンフィリティ、ノーン達の朝のバイト達が”ウエスト品の弁当”を食べていた。
「ふぅ、なななの力で今日の勤務も無事に終わったね」
 嬉しそうにおにぎりにかじりついたなななを、一斉に一同が見る。なななが弁当ではなくおにぎりなのは、皆の賛成多数により彼女への配給は『鮭』のおにぎり5個と決まったためである。
「……」
「……」
「……」
「まぁ、朝で三角クジも終わるほど、お客が来ましたからね。大盛況には違いありませんね」
と、箸で丁寧に焼き鯖の身をほぐす小次郎がクールに呟くと、ルカアコが「優しいよね」と彼を見る。
「それはそれとして、セルシウスさん、大丈夫かなぁ?」
「こんびには大変です。以前の店長が過労で倒れられた理由もわかりますね」
 北都とリオンの会話にノーンが加わる。
「平気だよ! セルシウス店長は元気だもん」
「なななも元気よ!!」
「……そうね」
 憔悴しきった顔で呟くセレンフィリティの隣でミアキスが弁当の中の梅干の種をペッと吐き出す。
 立ち上がってシフト表を見ていたルカルカが紙パックのお茶のストローから口を離して言う。
「明日の朝は、小次郎となななと、もう二人ね……応援来た方がいいかしら?」
「何とかしますよ、ルカルカ殿」
「本当に大丈夫? 小次郎?」
「大丈夫! ななながいるわよ!!」

「「「「「だからだよッ!!!」」」」」

 バックヤードに手洗いに来たセルシウスは、わいわいと盛り上がりながら弁当を食べるななな達を見て、ゴクリと唾を飲み込んで自身の腹部をさする。
「(そう言えば、私は昨晩以降、何も食べていないな……)」
 ふと彼の記憶にるるから与えられたヒトデが蘇るも、慌てて頭を振る。
「(忘れろ! アレは違う!!)」


 セルシウスが一旦離れた店内は、お昼の弁当を買い求める客で賑わっていた。
 レジを打つ店員の千種 みすみ(ちだね・みすみ)も大忙しである。
「480Gになります!」
 他の店員達と共に必死で働くみすみに、店内からこっそり視線を送る人物が二人いる。
 一人は、自称、覆面ジャスティシアの鬼崎 朔(きざき・さく)である。
 朔が店員のエプロンを着用していないのには理由があった。彼女は店員としては少し異質な仕事に就いていたからである。所謂、万引きGメンである。
 種もみ剣士として一生懸命生きてる彼女の姿に保護欲と言うか……空回っている姿が可愛いと言うか……とにかく、サイン入りCDを持ってるほどの千種みすみのファンである朔であるが、今回は仕事なので、その気持ちをやや封印していた。が、事前にみすみに禁猟区付きの小さな翼の御守りを渡すのは忘れてはいない。
 働くみすみをそんな風に見守りつつ、朔は気付かれない程度に店を巡回していた。
『ヘルメット着用での入店禁止』とのステッカーが張られている傍を、覆面姿の朔がスッと通りすぎようとした時、その視界に挙動不審な男性客が飛び込んできた。
 男性客は菓子パンの一つを手にとって眺めていたが、やがて自然な動作で肩にかけていたトートバッグの中にそれをストンッと落下させる。
「……行動予測通りの行動ですね」
 音もなく近寄った朔が男性客に声をかける。
「こんにちわ」
 突然、朔に話しかけられてうろたえる男性客。
「な、何だ!?」
「今、何か鞄の中に落ちませんでしたか?」
「か、鞄? し、知らないなぁ」
「へぇ……そうですか。まぁ、店内からお会計せずに出られましたら、犯罪成立になりますよ?」
 朔の言葉に男性客が慌ててトートバッグから菓子パンを出す。
「あ、本当だ……落ちてたよ、アハ、アハハハ……」
 乾いた笑いをする男性客に朔は「良かったですね?」と声をかけて離れる。

 みすみを見つめるもう一つの視線は物陰からのものであった。
 保護者として朔が付いて来ざるを得なくなった理由の人物であり、同時に朔のパートナーでもある自称「みすみのライバル」を名乗るエリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー) である。
 みすみがこの店で店員として働くと聞いたエリヌースは闘志の炎を燃やしていた。
「ライバルのみすみが出来て、あたしが出来ないってありえない! なんたって、あたしは「最凶の種もみ剣士」なんだから! みすみには負けないよ!」
「いや、エリヌース。バイトは勝負じゃないでしょう?」と朔の制止も聞かず、彼女は店員として応募し、見事バイト採用されたのであった。
 ところが、予想以上に怖い感じの客層に戸惑い、「殺気看破で警戒しつつ、特技の『隠す』の力を応用して、お客さん来たら物陰に隠れながら逃げるわ!」と言い、実際その言葉通りの勤務をしていた。つまり、こっそり隠れているだけである。その理由は「だ、だって、いきなり襲われたら怖いじゃない!」である。
 しかし、隠れていてもエリヌースのみすみへのライバル心はとどまる事を知らない。
「(何か、何かでみすみよりあたしが優れている事を見せないと!)
 みすみがレジ打ちをする中で、客の男が後方の煙草を追加で指差す。後方へと振り返るみすみ、その時、男の手がカゴの中の品物へ伸び、素早く自分のポケットにしまう。
「(あッ!)」
 みすみは当然それに気づいていない。
 エリヌースの脳内には『チャンス!!』の言葉が虹色に輝く。
「(フフフ、やはりみすみのピンチを救うのは最凶の種もみ剣士のあたしね!!)」
 スススッと、何食わぬ顔で買い物を終えた客を尾行しようと思うエリヌースであったが、身を隠すものがない。困惑した顔で周囲を眺めるエリヌース。しかし……。
「これだわ!」
と、弾んだ声を出す。
 ここで再び、視点は店内を巡回する朔へと移る。
「……ん?」
 訝しげに眉を顰める朔。
 それもそのはず、店内から出て行こうとする男性客……の後ろを移動する段ボールがある。
「……」
 自動ドアが開き、男性客とその後ろをつける段ボールが外へと移動する。
「ありがとうございましたー」
 みすみの声と同時に、段ボールの中からエリヌースが叫ぶ。
「捕まえて!! 万引き犯よ!!」
「任せて!!」
 スタンスタッフを持った朔が走ってきて……。
ボコッボコッ!!
 みるみる段ボールが凹んでいく。
「私のいる中で堂々と出ていけると思うな!」
「ちがっ……朔、違うよぉ!!」
「ん?」
 朔がボコボコになった段ボールをめくると、中から震えるエリヌースが出てくる。
「何してるんです?」
「店員じゃん!」
「……段ボールを被った店員?」
「それより、アイツ。万引き犯よ!」
 朔が店の外を見ると、全力で駆け出す男性客。
「へぇ」
「へぇ、じゃないでしょ、早く追いかけないと!!」
「わかってる……よぉッ!!」
 朔が振りかぶって、ワイヤークローを投擲する。
 空気を切り裂く様に放たれた鉤爪付きのワイヤーが男の瞬時に追いつき、その服の首元へひっかかる。
「ほら、釣れました!」
 ズルズルとワイヤーを回収する朔の傍で、ようやく立ち上がったエリヌースがみすみを見る。
「見た? みすみ! これであたしが最凶の種もみ剣士である事がバッチリ証明されたでしょ?」
「え? え? え?」
 未だ事態を把握しかねるみすみに、ワイヤーを回収する朔が一言言う。
「気にしなくていいです……それに、まだエリヌースはみすみより優れていると決まったわけではありませんから」
「え? じゃあ何をしたら認められるの?」
「簡単です」
 そして、朔の提案でエリヌースはみすみと同じレジで働く事にされる。
 やや涙ぐんだ目で朔を恨めしそうに見るエプロンをつけたエリヌース。
「分ったわよ……ちゃんと接客するわよ。あ、あたしは最凶の種もみ剣士でみすみのライバルなんだもん……ウッ」
「何故、この少女はレジで泣いているのだ?」
 万引きの男性客を警察へと引き渡した後、エリヌースが半泣きでレジに立つ理由をセルシウスが朔に問う。
「さぁ。嬉しいからじゃないでしょうか?」
 エリヌースにみすみが笑顔で声をかける。
「頑張ろうね、エリヌースさん?」
「う……うるさい! ……ヒック……」
 みすみとエリヌースのレジを見たセルシウスが感慨ひとしおに頷く。
「そうか。ライバル同士の和解や友情をバイトは育んでくれるのか……」
「違うと思いますが……」
 朔がそう言おうとすると、地鳴りがする。
「む……地震か!?」
「違います! 警備員のイコンですよ!!」
 みすみが店の外を指差すと同時に、セルシウスが外へと走る。
 ドンッと大型ビームキャノンが発射され、再び軽く地表が揺れる。
「おおッ……これがイコンか!!」