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第3章 不の感情を糧にする不老不死

「そこを退け!(刀傷を負わせるだけじゃなく、傷口を焼くとか最悪なヤツだなっ)」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に行く手を阻まれた七枷 陣(ななかせ・じん)は、金光聖母のいるラボを探すために、どうこの場を逃れようか考える。
「(リーズのスピードで叩こうにも、無闇に突っ込めば炎の餌食や・・・)」
「来ないなら・・・こっちから行くぜ!」
 どう回避しようかとしか考えていない彼を、獲物を見るように軽く睨み、切っ先を床に滑らせ漆黒の刀身に炎を纏わせる。
「そう何度もくらってたまるかってーの!」
 サンダーブラストでガードし、鍬次郎から離れようとする。
「ククッ、そんなものじゃ俺の炎は止められないぜ?」
 ズゴォオオオッ。
 炎の刃風が陣たちを襲う。
「げっ!?」
 間合いを詰められはしなかったが、刃の炎までは防ぎきれない。
「もうっ、陣くんってば何やってるんだよ!」
 彼の裾を腕を掴むとリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は、強化光翼のスピードで追ってくる炎から逃れる。
「(殺し合いっていうものは、いつも心躍るが・・・)」
 鍬次郎の方は敵を目の前にしながら、みすみす逃していいものか悩み・・・。
「リーズ、壁を破壊しろ!」
「ん?道がないなら作ればいいってことだね!」
 ドガァアンッ。
 金剛力でコンクリートの壁を破壊しラボを探す2人を、逃してしまったかのように見せかける。
「まぁ、向こうも何人かいるだろうから、大丈夫だろう。さて、俺はもう1人の方へ行くとするか・・・」
 刀を鞘に納めた鍬次郎はベルフラマントを羽織り、十天君のリーダの元へ走る。



 十天君の研究所では騒動に気づいた金光聖母が、天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)を検体に不老不死の実験を完成させようと急ぐ。
「ご気分は大丈夫ですか、葛葉さん」
「クスッ・・・今まで何を恐れていたのかわからないほどに清々しいですよ。さあ、金光聖母さん。実験の続きを早急に始めましょう」
「では第二段階の不老不死の実験に入りましょう」
「―・・・えぇ、ラボの外が騒がしくなってきましたからね」
 アルカ・アグニッシュ(あるか・あぐにっしゅ)は彼女の助手として、ゴーストの血をベースに作った水晶を魔方陣の周りにセットし始める。
 年寄りから幼い子供まで・・・人が老いていく過程を戻すかのように、様々な年代の血を含ませている。
「時計でいう老年の血を混ぜた水晶を、正午にあたる場所に並べてください」
「分かりました・・・」
 金光聖母の指示通りにアルカは時計回りに並べていく。
「魔導炉につないだこのチューブを、葛葉さんの魂につないでください」
「その・・・直接・・・・・・ですか?」
「はい、そうです」
 失敗すれば魂が砕けてしまうかもしれないのに何の躊躇もなく言う。
「どうしたんですか、待っている時間はまったくないんですけど」
「アルカさん、僕なら平気だから遠慮しないでやってください」
 十天君を信用しきっているのか、死を恐れる様子は微塵もない。
「―・・・葛葉様がそう言うんでしたら・・・」
 天神山が死んでしまわないか心配になり迷ったが、手にしたチューブを彼女の魂につなぐ。
「つなぎ終わりました・・・金光聖母様」
「ありがとうござます。では、少し陣から離れてください」
 不老不死の実験を開始しようとマシーンのパネルを操作し、魔導炉からレッドパープルの色をした液体がチューブへと流れていく。
 チューブの中をツゥー・・・とゆっくり通り、天神山の魂へ流れ込む。
「Seele・・・beh’’alter von k’’orper wurf es weg」
 “魂よ・・・肉体という器を捨てよ。”
 その声に天神山の身体がびくんっと反応する。
「Unendlichkeit verschwinden Sie nicht, iβt leben Sie lebensunterhalt sache negativ emotionen, neu k’’orper・・・」
 “無限に無くなることのない、生き物の不の感情を糧に生きる、新たな身体・・・。”
 水晶に手を置くと時計回りに鈍く毒々しく光っていく。
「Wenn k’’orper ist bruch, wenn k’’orper verloren・・・. Angst・Unbehagen・‘‘Arger・Trauer, als lang als einer macht verneinung emotionen existieren Sie, auferstehung irgend zahl von zeiten, setzen Sie fort lebe ewigkeit leben」
 “その身を砕かれようとも、失おうとも・・・。
 恐怖・不安・怒り・悲しみ、不の感情が存在する限り、何度でも蘇り生き続ける永年の生命。”
 幼い血を含んだ水晶が光ると、老いた血が含まれた水晶が砕け、順番にバラバラに吹き飛んでいく。
 それは天神山の身体と生命の老いが破壊されたという証拠だ。
「これで葛葉さんは永遠の命を手に入れることが出来たはずです」
「―・・・動きませんけど、大丈夫なんでしょうか・・・。葛葉様・・・・・・?」
 アルカが彼女に触れるとその器は崩れ落ち、跡形も無く消え去ってしまった。
「まさか・・・失敗ですか!?」
「フフフッ・・・心配しなくても大丈夫ですよ、アルカさん。僕はここです」
「―・・・・・・でも、身体は消えてしまったはずでは?」
 いつの間にか自分の傍に現れた天神山を驚いた目で見つめる。
「今、ここにあるのは、僕の魂がイメージしたものにすぎませんよ。この研究所の中や外・・・いろんな場所から不の感情を感じ取れますね・・・クスッ」
「葛葉様は・・・その感情を糧にして、・・・存在しているということですか」
「えぇ、そうですよ。それにしても、この身体はいいですね。肉体と違って身軽な感じがしますし。酸素を吸わなければ生きていけないっていう、息苦しさもまったくありませんよ」
「それと・・・アルカさん、これを・・・。先ほど成功したデータです」
「ありがとうございます・・・」
「では材料とデータを持って、研究所を出ましょう」
 金光聖母たちは全て破壊される前にと、必要なものをまとめて荷物を持って、ラボから出て行く。



「暢気に実験していられる場合じゃねぇなこりゃ・・・」
 ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は完全不死に必要な資料をまとめカバンに詰める。
「まったく、後ちょっとだっていうのに!」
 外の爆音が研究所の中まで響き、忌々しそうに顔を顰める。
「ここのままトンズラしたいところだが、金光聖母と約束しちまったしな。はぁ〜」
 俺様ってどこまで不幸なんだかと、彼女と合流しようとリュックを背負いラボから出る。
 一方、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)の方は・・・。
「混ざらないように固まってから加えないとな」
 幼い血を下の層にして順番に、老齢の血までの血の層を作る。
「逆の循環エネルギーで戻す作用を、発動させる術を固形の血にインプットさせておくか」
 キーボードで打ち込み容器の中のものにデータを保存する。
「陣を敷く時にこれで描かなければいけないが・・・」
 仕掛け用として何か使えるものがないか棚の中を漁る。
「ほう、こんなものもあるのか、使わせてもらおう」
 身の丈くらいありそうな巨大コンパスを見つけ、チョークのように固めた血をセットする。
「後は置き土産の言葉の意味を、解いた通りに唱えるだけだな」
 背負いベルトでとめて予備で作った固形の血をポーチの中に入れる。
「トラップとして仕掛け、相手が陣に入り聞こえるように言わなければいけないが。フラワシで抑えるか、どうにかしないとな」
 発動させる陣のメモを懐にしまい込むと、隣のラボの壁を破りリーズが侵入してきた。
「こっちの部屋は誰もいなかったけど、金光聖母はこの部屋にいるのかな?」
「残念だがいないな」
 考えナシに暴れているように見える侵入者に、苛ッとした大佐が彼女を見下ろす。
「不老不死の研究をぶち壊されて、怒ってんのか?ここにあるもんも、ぜーんぶ燃えカスにしてやらないとな。残念無念また来週〜、なぁんてな」
 苛立つ彼女の神経を逆なでするように陣が言う。
「ねぇ、陣くん。十天君の方を探したほうがいいんじゃない?」
「んまぁ、そうだな」
「ほう・・・人を怒らせておいて、簡単に行けると思っているのか?」
 縮めて袖に隠しておいた如意鉄棍を伸ばし、陣の腹を突き廊下へ吹っ飛ばす。
「―・・・陣くんっ」
「これくらい平気や、リーズ。オレに構わずそのラボをぶっ壊せ!」
 衝撃で口の中に溜まった血をベッと床へ吐き、命のうねりで回復する。
「分かったよ・・・。全部殴り壊しちゃえーっ」
 バーストダッシュのスピードに強化光翼で加速し、金剛力の拳で突き破っていく。
「不老不死を手に入れて、自分たちの思い通りにパラミタを変えようなんて許さないよ」
 飛び回るミサイルのように魔道具を破壊する。
「それだけじゃない・・・。オメガさんをあの屋敷から開放するには、あいつらを封神しなきゃいけないんやっ」
「ふむ、取りあえず突っ込んでいけタイプのようだ。陣・・・おまえのようなアホを、治療する薬は持ち合わせていないんでな。ここで沈め!」
「ア・・・ホ・・・だと!?こんのっ、もう簡便してやらん。ラボごと消し炭にしてやる!」
 ブチきれた陣がファイアストームの炎の嵐で大佐を囲むとする。
「すぐに、頭に血がのぼる・・・。それも欠点だ」
 大佐は歴戦の立ち回りで囲まれる寸前に逃れ、フォースフィールドで軽い火傷だけですんだ。
「やらせないよ!」
「フッ、遅いな」
 低く屈んだ彼女は、2mまで伸ばした鉄棍で陣に足払いをかけ、発現させたソリッド・フレイムに胸元へ目掛けて突進させる。
「(くっ、転んでも避けても、フラワシの炎が襲ってくるってやつか)」
 床へ転べば炎の羽の爆撃をくらい、避ければ本体の炎で火達磨・・・。
「ん〜〜っ!!」
 陣を助けようとリーズは炎の間を通り、陣の腕を掴んでフラワシから引き離す。
「あの中に飛び込むとか無茶すぎだっつーの!!」
「ちょっと火傷したけど・・・でも、2人とも助かったんだからいいじゃん」
「(フンッ、運だけはいいようだな)」
 相手が視線を逸らした隙に逃走しようと走る。