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リアクション
第7章 キミの心に銅鑼銅鑼ラッシュ!?
それは非常に唐突な出来事だった。
シャンバラ教導団の少尉を務める久多 隆光(くた・たかみつ)という男の元に、1つのテープレコーダーが届いた。だがただ届けられたのではない。なんとそれは「矢文」という形で飛んできたのだ。
「危ないことしやがって。一体どこのどいつがこんなものを……」
なぜ自分のもとにこのようなものが送りつけられたのか。その理由については何となく想像がつくが、「指令者」に関してはどうにも覚えが無かった。
「ま、再生すればわかるかな」
ぶつぶつ言いながら隆光は矢に括りつけられたテープレコーダーを再生する。
『……おはよう、久多君』
発せられた声の持ち主は、寡黙で不気味、目的を果たすためなら手段を選ばない利己主義者にして一応の常識人であるシャンバラ教導団の軍人――と思っていたらいつの間にかパラ実に転入する破目に陥っていたロイ・グラード(ろい・ぐらーど)であった。3百万ゴルダの賞金がかかっているという噂があるが、事実かどうかは不明である……。
『昨今、シャンバラや地球どこでも、恋愛だの結婚だのといった桃色の空気が漂っているのは君も知る通りである。恋愛感情それ自体あるのかどうかわからない君にはもしかしたら関係の無い話かもしれないが、私としては君が間違いでも起こして「独身貴族評議会」などといういかがわしい集団に取り込まれてしまうという事態だけは避けたいと思っているのだ』
その「独身貴族評議会」とは、要するに独り身であることに対する寂しさが募りに募りすぎてついに頭のネジが数本外れてしまったかわいそうな連中の集まりであり、俗に言うラブラブカップルを滅ぼしたくなるような変人集団である。ちなみに隆光もロイもその集団とは何の関わり合いも無い。
『そこで君の使命だが、空京の街中に出動し、得意の銅鑼を鳴らしながらナンパをすることにある。もちろん成功するまでやり続けることだ』
「ど、銅鑼を鳴らしながらナンパするのか……、俺が?」
『言うまでもないことだとは思うが、君もしくは君のメンバーがナンパに失敗し、あるいはナンパ対象の女性に手酷い扱いを受けたとしても、当局は一切関知しないからそのつもりで』
「…………」
『なおこのテープは自動的に消滅する。成功を祈る……』
テープが停止してから数秒後、突然テープレコーダーから煙が上がり、中にあったカセットテープは完全に溶けて無くなっていた。
「確実に遂行すりゃいいんだろ。やることはやるさ。約束は守れよ、ロイ・グラード」
そう意気込んで空京までやってきた隆光であったが、街中に出たところで急に勢いが無くなった。
「……かっこつけたはいいが、結局何をやればいいのかさっぱりなんだよなぁ。つーか自分で言っておいて何だが、『約束』って一体何のことだよ……」
指令は「銅鑼を鳴らしながらナンパしろ」ということだったが、その理由についてはどうにも不可解だった。本当にロイは自分が意味不明の集団に取り込まれることを恐れているのか、それとも本当は別の理由があるのではないのか。ただ、何となくあの指令はロイ・グラード本人が出したとは思えない。別の誰かがロイと共に出したような、そんな印象を受けるのだ。
隆光の予想は当たっていた。指令を出そうと考えたのは確かにロイだったが、実際に内容を考えたのは彼のパートナーである常闇の 外套(とこやみの・がいとう)――愛称ヤミーだった。
「スーパーウルトラグレートマッドガイ、略して魔鎧な俺様なわけだが、なんだか巷じゃ妙な遊びが流行ってるらしいじゃねーか」
「……そうだな」
「ま、流行に敏感な俺様が遅れをとるわけにはいかねェよなァ」
スキンヘッドにサングラスという出で立ちの魔鎧男は、ロイの無反応さに構わず続けた。
「隆光の奴とは長い付き合いだから、ちょっとくらい過激な内容にしたって笑顔で許してくれる筈だぜ! ウヒャハハハハハ!」
実際のところ、ヤミーと隆光はそれほど親密な仲ではない。ロイと隆光にしたって、互いに知り合っているという程度の間柄でしかないのだ。とはいえヤミーは隆光の性格を把握しており、
「それにアイツ、銅鑼鳴らすの大好きだからよ。喜んでやるに違ェねェや」
実際は鳴らすのが好きどころか、【銅鑼を連打したい程度の病気】などと称されるほどに銅鑼を鳴らしたくて仕方が無い体質の持ち主である。もっとも、これは極一部の状況下においてのみの症状であって、本来の彼は徹底して黙々と、時には激情によって作戦活動に従事する真面目な男なのである。そうでなければ少尉になることなど到底できるわけがないのだ。
原案・常闇の外套、実行・ロイ・グラードという形で隆光に指令が送られたわけだが、ロイ自身がなぜこのようなことを起こしたのかといえば、答えはただ1つ「暇だったから」である……。
「まぁやることはやるさ。俺がどんな無茶ぶりでも出来る男だと証明してやろうじゃないか。所詮は銅鑼リズムだ、刺激的に行こうぜ」
こうして隆光のゲームが始まった。
始まったのはいいが、それはもう迷惑甚だしいものだった。
何しろ教導団の軍服を着た男がその手に銅鑼を持って連打しているのである。ナンパと言うよりは新手の大道芸人と認識されてもおかしくなかった。
さらにその男が女を見かける度に、やたらリズムに乗った銅鑼の音を響かせながら近づいていく様は、もう冗談ではなく奇行としか言いようがない。数人ほど隆光を知っているらしい女性が現れたが――ちなみに隆光の方がその女性を知らないというケースばかりだった――、隆光の行動がナンパだと知るとさっさと逃げるようにどこかへ行ってしまった。
「普段から銅鑼鳴らしてる人ですよねとか言われるけど……、俺ってそんなに銅鑼鳴らしてるイメージあるー? それどこ情報? どこ情報よー?」
無論、特定のどこと決まった話ではない。
それでもめげずにリズムに乗って銅鑼を鳴らし、
「共に鳴らそうぜ、魂の銅鑼」
などとのたまいながら女性に声をかけるが、やはりその奇行が災いしているのか、どうにもうまく行かない。
さすがに疲れが見え始めたのか、隆光は一旦銅鑼を鳴らす手を止めた。
「参ったな……、万分の一の確率で引っかかるだろうとか思ってたが、これは意外とキツい……」
それもそのはずである。隆光はただ普通に鳴らしておらず、一定のリズムに乗って連打していたのだ。無理矢理文字で表現するなら、例えば、
「銅鑼銅鑼ジャンジャン銅鑼ジャンジャン♪ 久多隆光の銅鑼ジャンジャン♪」
といった感じである。なんだかどこぞのテレビCMで流れているようなリズムだが、いずれにせよ、このままではナンパ成功など夢のまた夢というものである。
そんな隆光を、ロイとヤミーの2人は遠くから観察していた。銅鑼の音がうるさくない程度の距離であり、手元にあるリカーブボウの射程距離内。そこから2人は双眼鏡で隆光の様子を窺っていたのだ。
「まあ何というか、やはり無理があったようだ」
「そりャそうだろ。っていうか、銅鑼を鳴らしながらナンパなんて、成功するわけねェだろーがよ! ギャハハハハハハ!」
そもそもこの2人は隆光に指令を成功させる意思など無かった。初めから――特にロイが暇を潰せればそれでよかったのだ。だがもちろん確実に失敗するようなものではなく、どこぞの物好きが隆光に惹かれることによってナンパが成功する可能性もあるのだ。だからこそこのような指令を送りつけたのである。とはいえ、成功する確率は限りなくゼロに近かったが……。
「にしても休憩しっ放しで動きがねェな。これじゃ面白くもなんともないぜ? と思ってたらまた銅鑼を鳴らし始めたなァ。あ〜、でもさっきまでと同じだぜェ? これじゃ何も変わんねェよなァ」
じっと隆光の姿を観察していたヤミーだが、そろそろ焦れてきたらしい。その意思を確認すると、ロイはリカーブボウを手に取った。
「わかっている。そろそろ次の段階に移ろうと考えていたところだ」
あらかじめテープレコーダーを括りつけた矢は準備してある。それを器用にも片手でつがえ――ロイは様々な事件に介入した結果、左腕と、男にとって最も大事なモノを物理的に失っているのだ――、足で弓を構えると、右腕1本だけで矢を引っ張り、隆光の近くへと放った。
「おわっ! なんだ!?」
突然どこからともなく飛んできた矢が隆光の体をかすめ、近くの地面に突き刺さる。テープレコーダーが括りつけられているところからして、おそらくロイからの追加の指示なのだろうということは容易に想像できた。
「一体どんなケチをつけにきたのやら」
隆光がテープを再生すると、ロイの声でこのような言葉が流れてきた。
『音の響き具合が気に食わない。お前の銅鑼はその程度か。もっと激しく打ちつけろ。エイトビートで打ちつけろ』
「エイトビートだと!? そんな速さでやれってか!? いくらなんでもそれは無茶が――」
そこまで言った瞬間、突然テープレコーダーが大爆発を起こした。その効果音は当然、
どっか〜ん!!!
「ぐわっ! し、消滅どころか爆発した!?」
偶然爆発から逃れることはできたが、顔に浮き出た冷や汗を隠すことはできなかった。
この爆発はもちろんロイが仕組んだものである。空京の真ん中で銅鑼を鳴らし続けるというのは、明らかに迷惑千万の行いである。場合によっては隆光は空京警察辺りに連行されてしまうかもしれない。被害という被害は「騒音」のみなので厳重注意の後にすぐ釈放されるだろうが、もし彼の口からロイが加担していることが漏れれば、ただでさえ厄介な状況がさらに厄介なことになってしまう。
そこでロイは証拠隠滅のために、テープレコーダーに機晶爆弾と「悪魔の目覚まし時計」を組み合わせた時限式爆弾を搭載しておいたのだ。これにより隆光への「ダメ出し」が行える上、ついでに「証拠」を消滅させることができる。道のど真ん中で爆弾を破裂させることにより、テロと思われてしまう可能性が出てくるのだが、その辺りは気にしてはいけない……。
「ちくしょう……、いいだろう、やってやろうじゃねえか!」
無論、そんなロイの考えなど知る由もない隆光は、言われた通りにエイトビートで銅鑼を鳴らし始めた。もちろんナンパするのも忘れない。
だがエイトビートで鳴らしたところでナンパが成功するはずがなく、再び隆光のもとに矢文テープレコーダーが届いた。
『ナンパ中の表情が下心丸見えで気に入らない。もっと真剣にやれ』
「俺はさっきから真剣にやってるっつーの!」
どっか〜ん!!!
「ああもう! わかったよ! もっと真剣な表情でやればいいんだろうが!」
言われてその顔を引き締める隆光。
だが、いくら表情を真剣にしようとも、やはり「銅鑼を鳴らし続ける男から迫られる」というのに耐えられる女性などいるわけがない。
そんな隆光に、さらに次のテープレコーダーが舞い降りた。
『ナンパの際の第一声は、君の瞳は百万ボルト……だ。さあ言え。早くしろ』
「今時そんな古臭い口説き文句使う奴いるのか!?」
どっか〜ん!!!
「ええいチクショウ! 言えばいいんだろ言えば!!」
若干、自暴自棄になっている風のある隆光は、次に出会った女性に向かって本当にそのセリフを投げかける。
「君の瞳は百万ボルト……、どうだい、俺と魂の銅鑼を一緒に鳴らさないか?」
「け、けけ結構です!」
当然といえば当然だが、そんな言葉が使われようとも隆光に近づきたがる女性はいない。たった今声をかけた女性――なぜかその手に百合園女学院の新制服が握られていた――は隆光に迫られたかと思うと一目散に逃げ出した。
そして指令の分も含めて本日5つ目となるテープレコーダーが地面に突き刺さる。
『いきなりそんなことを言われたら誰でも逃げるだろう。馬鹿かお前は』
「お前が言えつったんだろうが!! おちょくってんのか!?」
どっか〜ん!!!
「ああ、もう! 本当に、どうしろってんだよコラ!!」
指令者の理不尽なダメ出しに隆光の怒りは募るばかりである。
それにもめげずに再びナンパを行うが、今度は女を引っ掛ける前に6つ目のテープレコーダーが飛んでくる。
『ジャーンジャーンうるさい』
「そもそもお前がやれと言った指令なんだろうがああああああ!!!」
頭を抱えて叫ぶ隆光だが、ふと違和感を覚えた。今度はテープレコーダーが爆発しないのである。
「あれ、何で爆発も消滅もしないんだ……?」
いぶかしげにテープレコーダーを観察する隆光だが、どうにも原因がわからない。
不発の原因は単なる偶然に過ぎなかった。そもそもが機晶爆弾と悪魔の目覚まし時計を組み合わせただけの安っぽい機構である。それが4連続でうまく爆発したことの方が奇跡に近いのだ。
だがこれで隆光が安心できるかといえばそうではなかった。ロイとヤミーは「隆光が爆発させたくなる」仕掛けを施していたのである。
爆発しなかったテープレコーダー――正確には再生中のカセットテープからヤミーの声が流れてきた。
『隆光君は童貞でーす! その上インキンタムシで包茎でーす! ほらほらァー、近寄ると妊娠させられるぞー! みんな逃げろォー!』
「銅鑼鑼アアアアアァァァァァァァッ!!!」
その声が聞こえた瞬間、隆光の体は勝手にテープレコーダーに攻撃を加えていた。手に持った銅鑼によるチェインスマイトである。
そして当然のことながら、
どっか〜ん!!!
衝撃を加えられた機晶爆弾が、今度は隆光を巻き込んで大爆発を起こした。
もうやめてロイにヤミー。隆光のヒットポイントはとっくにゼロよ。
「ぐ、ぐぐ……、こ、これはもう、ゴールしても、いいんじゃあないか、な……?」
銅鑼を鳴らし続けたために撥を持つ腕は筋肉疲労で上がらず、銅鑼の音を至近距離で常に聞き続けたために耳鳴りが激しい上、たった今機晶爆弾の爆発を食らったために、隆光はもはや満身創痍となっていた。
銅鑼を握り締め地面に倒れ伏す隆光に、もはや指令を続行するだけの体力は残されていない。ロイに電話をかけギブアップを宣言するべく、隆光は痛む腕をおして携帯電話を取り出した。
「……一体何やってるのよあなた」
ところがそんな隆光に待ったをかけるかのように女性の声が降り注いだ。
隆光がゆっくりと見上げると、そこにいたのは、ハイヒールを履いて、派手そうなドレスを身に纏い、肩にショールをかけ、大きい縦ロールの黒髪の乗った女――崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)であった。
「さっきから見てたけど、これって何かの冗談?」
「…………」
突然目の前に現れた知り合いを前にして、あまり無様な姿は見せられないと思ったのか――それ以前に銅鑼を連打する姿は十分無様と言えたが――隆光はその場で立ち上がった。ちなみに亜璃珠がこの場にいるのは、単なる偶然に過ぎない。
「……なあ亜璃珠」
「はい?」
隆光は亜璃珠の目を正面に捉えながら、先ほどまでの調子を変化させ、急激に真面目な表情を作った。当の亜璃珠の方は、そんな隆光の変化に戸惑いを隠せない。
そしてそんな隆光から紡がれた言葉は、亜璃珠を少なからず驚かせるものだった。
「……よく見たら亜璃珠って、結構きれいなんだな」
「……はぁ!?」
いきなり何を言ってるんだこいつは。亜璃珠はその場で目の前の男を張り倒したくなったが、それをする前に隆光が続けた。
「いや今まで知り合いだからって特にじっくりと見たことなかったんだけどさ、なんつーかこう、スタイルはいいし、肌はきれいだし、高飛車だのなんだと言われてるみたいだけど、そうじゃない一面も持ってるみたいだし……」
「…………」
真剣な表情で目の前の女を褒めちぎるその姿に、亜璃珠はどのようなリアクションを返していいのかわからなかった。
「いやホント、こういう美人が割と近くにいながら、俺今まで何やってたんだろうな、うん」
「何これ、ふざけてるの……?」
そもそもお前には片思いの上官がいるだろうが、と亜璃珠は言いたくなったが、隆光の方はそんな亜璃珠の心情に気づかず続けた。
「いやまあ……、確かにふざけてると思われてもしょうがないよな。さっきまでずっと銅鑼をジャーンジャーン鳴らし続けてたんだしさ」
「……その辺の自覚はあったのね」
「自覚無しにあんなことやるわけないだろ」
「銅鑼を連打したくなる程度の病気持ってるくせに、何を常識人ぶった発言してんのよ」
「スミマセン……」
先ほどまでの自分の姿を回想し、恥ずかしさのあまりに隆光は顔を赤く染める。
「というかその前に、さっきから何をわけのわからないこと言ってるのよ」
「……そりゃまあ、急にこんなことを言われても、意味がわからないのは当然だよな。ただまあ亜璃珠にはさっきの銅鑼連打を見せてもしょうがないと思ってるのは事実だ」
「確かに知り合いに悪ふざけで銅鑼鳴らしてる様を見せても、何も面白みが無いものね。それはわかるけど」
「ただそういうのは抜きにして、何となくさ、褒めたくなるんだよ。それも本心からな」
「はぁ……」
「思えば教導団員として活動してる時でも、何だかんだで知り合いに支えてもらってたりするしさ」
「…………」
「で、そういうのも含めて、亜璃珠」
「はい?」
「1日だけでいいから俺と付き合ってくれない?」
「……もしかして、これ、ナンパのつもりだったの?」
「いやぁ、お恥ずかしながらそのつもりだったんですよね」
そこまで聞いてようやく亜璃珠は事情が何となく飲み込めた。隆光に何があったのかはわからないが、少なくとも何かしらのきっかけでナンパに走ることになり、その手段がどういうわけか銅鑼を連打するという奇妙極まりない方法だった、ということがわかった。そしてなぜかその男は、知り合いの女を前にして、非常に真面目になっているらしい。
「まあほら、亜璃珠には想ってる人がいるっていうのはわかってるけどな。えっと、何て言ったっけ、白百合団の副団長やってた人で、ロイヤルガードでもある……」
「優子さん?」
「そうそう。その人のことがあるから、恋人になってくれなんていうつもりは無いけど、ただほら、なんていうかさ、この際1日だけでも亜璃珠と付き合っておくのも悪くはないっていうか――」
「ああ、もう、わかったから、とりあえず落ち着きなさいな」
段々と周囲の視線が痛く感じてきたのか、亜璃珠はナンパを続行する隆光を落ち着かせようとする。
「……まあさっきまでのは悪い冗談だとしても、少なくとも今のは誠意たっぷりなのよね」
「ホント色々あったんだよ……。テープレコーダーが爆発するしさ」
「別にあなたリア充じゃないのにねぇ……。ま、いいわ」
「うん?」
「その誠意に免じて今日1日くらいは付き合ってあげるわよ」
「え、マジで!?」
ようやく今までの苦労が報われたか! 隆光はその場で煤だらけの体を躍らせた。
「まあとにかくその汚れはどうにかしないといけないわね。とりあえず行きましょ」
「……どこへ?」
「あら、男と女が2人きりで行く場所といえば1つしかないじゃない?」
「…………」
目の前のプレイガールの言わんとするところを理解したのか、隆光は黙って亜璃珠について、その場から歩き去った。
一方でその様子を観察していたロイとヤミーはその顔面に驚きというタイトルの絵を貼りつけていた。
「おいおいおいおい、まさかホントにナンパが成功するたァ……」
「彼女は隆光とも俺とも知り合いだが、しかし……」
隆光はこの後、無事でいられるだろうか。ロイは少しだけ心配になるが、すぐにその考えを撤回した。
「まあ元々『ナンパで引っ掛けた女』をそのまま報酬にと考えていたんだ。これは隆光にとっていい結果になっただろう」
「そうかァ? 俺様には隆光にとって不幸な結果にしかなってねェと思うぜェ?」
だがどちらにせよ、隆光の健康に関しては関知しないと決めていたため、2人はその後の隆光の心配をやめた。
そしてホテルについてからの隆光だが、結果的にヤミーの予言が的中した。
部屋に入るなり亜璃珠は、普段から時々使っているダークネスウィップを取り出すなり、それで隆光の服をズタズタに切り裂いた――ついでに隆光の肉体にも少々のダメージが入ってしまったが。
「んなあっ!?」
「本当は光条兵器の方が都合がよかったんだけど、持ってくるの忘れちゃったのよね……」
亜璃珠の行動は止まらず、痛みと驚きで硬直する隆光を即座に押し倒し、持っていた20メートルロープで全身を縛り上げる。
「ち、ちょっと待て! いくらなんでもいきなりこれは――!」
「あら、私をナンパするということは、こうなることを『覚悟』してきてる人ってことでしょ?」
身動きの取れなくなった隆光に対抗手段は無くなった。そしてもちろん、それで許すような亜璃珠ではない。がんじがらめに縛られた隆光に、彼女は普段から履いているハイヒールによる蹴りや踏みつけを叩き込んだ。
「いてーーーーー!?」
「フフ……、戻れないわよ、あなた」
それからというもの隆光は亜璃珠から散々な責めを受け、それが終わる頃には彼は身も心もボロ雑巾のようになっていた。「散々な責め」というのがどのようなものだったのかは、残念ながら具体的に記すことはできないが、少なくともハイヒールとウィップによる適度なラッシュが繰り出された、とだけ言っておこう。
ベッドの上でひたすら涙を流す隆光に、亜璃珠は言い放った。
「私をナンパしたってことはこういうことされたかったんでしょ、ドMさん?」
愉快痛快といった表情で、亜璃珠は満足げに頷いた。一応補足しておくが、隆光にはドM疑惑は無いはずである……。
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