葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

イコンお料理大会

リアクション公開中!

イコンお料理大会

リアクション

 

カレーいろいろ

 
 
「いろいろ交換してきたにゃー」
 捕ってきた海産物と物々交換で野菜を手に入れたイングリット・ローゼンベルグが、{ICN0000201#Night−gaunts}の背負っていたコンテナから食材をばらばらと取り出した。
「よし、すべて煮込むのだ!」
 嬉々として、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が、乗っている予備機のチョコームラントタイプLeonidasのビームランスで、野菜やら巨大ホタテやらを切ったり打ち砕いては、ばらばらと寸胴鍋に突っ込んでいく。
「ちょっと黒子ちゃん、コントロール戻して。ちゃんと下ごしらえしなくちゃだめなんだもん」
「なあに、まだこの段階では、難しく考えることはない。なんでもぶつ切りにして煮込んでしまえばいいのだ。いい出汁が出るぞ」
 あわてて止めようとする秋月葵を半ば無視して、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』はやりたい放題だ。出発前のイングリット・ローゼンベルグに長々と蘊蓄をたれていたのとはまるで別人のようだ。
「おもしろーい。イングリッドもやるよー。どりゃー」
 Night−gauntsに乗ったイングリット・ローゼンベルグまで一緒に何でもかんでも鍋に突っ込んでいく。
「ちょっと、伊勢エビ丸ごとはだめー」
「大丈夫じゃ、頭の所にはちゃんと切れ目を入れておいた。ほれ、もげた」
「嫌ー!!」
 その様子をメインカメラのどアップで目撃してしまった秋月葵が悲鳴をあげた。
「さて、次は大切なスパイスじゃ。どんどん入れるぞ」
「ちょっと、それじゃ辛すぎない?」
 ターメリック、パブリカ、唐辛子、タバスコ、クミン、なんだか分からないもの……。いろいろな物が大量に鍋に投入されていく。
「あたしは甘口がいいなあ……」
 秋月葵が言ったが、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』はあっさりとそれを無視した。
「あたしは、甘口がいいなあ! えいっ!」
 業を煮やしてイコンのコントロールを奪い返した秋月葵が、蜂蜜を瓶ごと鍋に突っ込んだ。
「まだ、隠し味が足りないよね」
 そうつぶやくと、秋月葵は、ビームランスを自分が乗っているチョコームラントに突き立てた。
「おお、腹切りデース。みごとな最期デース。でも安心してくだサーイ、残されたルーは、我が輩が無駄なく使ってさしあげマース」
 いろいろと勘違いしたアーサー・レイスが、自刃するかのようなチョコームラントにむかって言った。
「何をしているのじゃ」
「隠し味だよ」
 ちょっと驚いたフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』を尻目に、秋月葵がイコンの機体から削り取ったチョコレート装甲を鍋の中に投げ込んだ。
 
「うーん、負けてはいられまセーン。さあ、我が輩と一緒にカレー世界の深みへと参りましょーウ」
「深みですかぁ。もう現役を離れてからずいぶんと経ちますからぁ、ちょっと自信ないですー」
 両手を広げてポーズをつけるアーサー・レイスに、ちょっと自信なさそうに立川睦が言った。
「でも、強力な助っ人を用意したのよぉ。じゃーん、最新鋭最終兵器、野外炊具4号ですー。これがぁ、あればぁ、ごはんに困ることはありませーん」
「GJデース。それでは、具材をどんどん煮込んでいきますデース。今日のカレーのコンセプトは、ずばりイカスミカレーデース。この会場に黒いカレー旋風を巻き起こしてみせマース」
 ピッタリと息を合わせたカレーゴーレムのアーサー・レイスと、あづさゆみ2号の立川睦は、凄い勢いで野菜を刻んでいった。
「ええっと、いいのかなあ」
 あづさゆみ2号のコントロールをメインパイロットの立川睦に渡してサポートに回った樹神よもぎが、ちょっと心配そうにつぶやいた。
 ガネットのガネットランスが野菜を手当たり次第に切り刻んでいく間に、アーサー・レイスがメイン食材のイカにスピアを突き刺して中からイカスミの袋を取り出した。
「さあ、見なサーイ、これこそがイカスミデース」
 ソードとスピアを使って、アーサー・レイスが器用にイカスミを絞って鍋の中に加える。続いて、カレールーとガラムマサラを放り込んだ。
「あっ、真宵さんが飲み残してずっと放置しておいた紙パック入りコーヒーミルクがあるじゃないですかぁ。もったいないから、隠し味に入れてしまいましょう」
 はっきり言って、放置されていて何時間経ったのか分からないようなコーヒー牛乳を、立川睦が紙パックごと鍋に放り込んだ。
「さあ、茹であがりなサーイ」
 先に入れると固くなるので最後までとっておいた大王イカを、アーサー・レイスが丸ごと鍋に突っ込んだ。
 ぐつぐつと沸騰するどす黒いカレールーの中に、大王イカとその他もろもろがゆっくりと沈んでいく。
「あちちちちちちち!!」
 突然黒い飛沫を飛び散らせて、漆黒の天馬が鍋の中から飛び出した。よく見ると、その尻尾に何人もの女性が必死でつかまっている。大王イカにつかまったまま鍋の中に入れられたディジーと、リカイン・フェルマータ、シルフィスティ・ロスヴァイセ、日堂真宵だ。三人プラス一匹共に、服の上からもそれと分かる吸盤の後をお尻の所につけていた。
「シーット!! 具材の一部が逃げました。残念デース!」
 そのまま暴走するディジーに引きずられていずこかへ消えていく者たちを見送って、アーサー・レイスが悔しげに言った。
「完成デース。漆黒のイカスミシーフードカレー。さあ、そのうまさにひれ伏しなサーイ」
 自慢げにアーサー・レイスが言ったが。ほとんど客はいない。というか、わずかに、セレンフィリティ・シャーレットがその見た目もものともせずに食べているだけだ。
「セレン、恐ろしい胃袋の子……」
 さすがに、セレアナ・ミアキスも全力で引きながら、逞しすぎるパートナーの姿を見守った。
「いちおう、軍医としての肩書きも持っているから、後で困ったら来るがいい」
 見かねたダリル・ガイザックが、セレアナ・ミアキスに声をかけた。
「なんで辛い物ばっかりなんだ。甘い物はないのかよー!」
 食べたい物がなかなか見つからず、御弾知恵子が吼えた。
「なんだか、あまり食べてもらえていまセーン。仕方ありまセーン、後でちょっと他の屋台に出張して、カレーうどんとか、カレーオムレツとか、カレーステーキとか、カレーたこ焼きを布教してきマース」
 何やら、アーサー・レイスが悪巧みを計画し始める。
 一方の、秋月葵たちのカレーの方は、そこそこ盛況のようだった。だが……。
「伊勢エビ食いたいけど、どうすれば食えるのでありますか!」
 巨大な寸胴から飛び出した伊勢エビの頭と尻尾を指さして大洞剛太郎が、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』に聞いていた。
「しらん」
 食べる物のことなどまったく考えていなかったフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』は、一言答えると逃げていった。
 
 
コロッケ

 
 
『おまたせー、女子高生イコンの作る、行列の出来るコロッケ店、開店だよー』
 ナタリーユ・ハーゲンフェルト(なたりーゆ・はーげんふぇると)と共に、クェイル・ミューセルカスタムに乗り込んだミューセル・レニオール(みゅーせる・れにおーる)が、滝川洋介が買い集めてきてくれたジャガイモを前にして言った。
「まずは、ジャガイモをマッシュするんだよ」
 クェイル・ミューセルカスタムの太腿のハードポイントからショットガンを外すと、ミューセル・レニオールが空高く放りあげた茹でジャガイモにむかって容赦なく発砲した。
 散弾の連射を受けて、ジャガイモが粉々になって雨のように降り注ぐ。地面に敷いたシートの上に、うずたかい芋の山ができあがった。
『次は、タマネギを微塵切りにするぜ』
 操縦を替わったナタリーユ・ハーゲンフェルトが、そばにおいてあった道路標識を手にとって、芋の破片が雪のように降り積もったシートの上にポツンとおいてあった巨大タマネギを、ゲシゲシと叩いて粉砕していった。
 あっという間に、周囲にタマネギのガスが充満し、ギャラリーの者たちが涙を流しながらむせて逃げ惑った。
「大丈夫か、ルカ」
「な、なんとか……」
「これで目を隠していろ」
 ぽろぽろと涙を流すルカルカ・ルーに、ダリル・ガイザックが濡れティッシュを手渡した。
「それにしても、タマネギの微塵切りは鋭利な刃物で細胞を極力壊さずにやるものだというのに。基本を知らないのか?」
「ふっ、素人ね」
 ダリル・ガイザックの尻馬に乗って、セレアナ・ミアキスがつぶやく。
「なんでもいいから早く食べたい」
 調理過程などお構いなしに、セレンフィリティ・シャーレットが言った。
「潰すんだよねっ! ててててててててててて……!!」
 シートの上でジャガイモとタマネギの粉砕破片を手でかき集めたクェイル・ミューセルカスタムが、鬼のようにパンチを連打した。
 無理矢理、コロッケの種がこねられていく。
 小判型に形を整えてパン粉をゴリゴリとまぶすと、クェイル・ミューセルカスタムがそれをよいしょっと頭上高く掲げた。
「揚げるんだもん!」
 ミューセル・レニオールの言葉と共に、クェイル・ミューセルカスタムがそばで煮えたぎっていた油の中にコロッケを投げ入れた。
 バシャンと大きく油が飛び散り、辺り一面が火の海になった。大惨事である。
「さすがは、家庭科1と3だよ。いや、その前に消火だよ、消火!!」
 消火器を持った滝川洋介が、あわてて周囲で燃えさかる火を消して回った。
なめんじゃないよ。やっぱり、イコンで料理しようだなんて、大元が無理なんだよ。あたいは、食い物が食いたいんだ」
 周囲のあまりの被害に、御弾知恵子が叫んだ。
「破れた衣から、具に油がたっぷりと染み込んでるじゃない。どうするのよ、これ。セレン、さすがにこれはやめて、やめてったらー」
 できあがったコロッケらしき物を見て、さすがにセレアナ・ミアキスがセレンフィリティ・シャーレットを止めた。