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イコンお料理大会

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イコンお料理大会

リアクション

 

うどん

 
 
「それじゃ、お鍋の方、お願いね」
「任せるのじゃ」
 立川るるに頼まれて、巨大マナ様が胸を張った。
「シャーミー、焚きつけを頼むのだ」
ここは某にお任せください、マナ様。喜んで!!」
 シャーミアン・ロウが、クロセルのマントと仮面の束を、特製竈の上に載った巨大寸胴の下に投げ入れた。部屋のクローゼットを占領していたクロセル・ラインツァートの私物だが、すべて同じデザインの物である。これほどの無駄があろうか。いや、それ以前に、マナ様のかわいらしいおべべをおく場所がないではないか。すなわち、これはゴミなのだ。ならば焼却せねばなるまい。
「お願いいたします。マナ様」
 確固たる意志を持って、シャーミアン・ロウが巨大マナ様に頼んだ。
「あっついの、いくのだあ。ぼーーーーーーーー」
 巨大マナ様が、口からドラゴンプレスを吹き出した。あっという間に、クロセル・ラインツァートの仮面が炎につつまれる。
「おーおー、よく燃えること」
 竈に火がつくと、購入した雪だるまたちが次々に鍋の中に飛び込んでいった。いちおう、炭団や木の枝は、事前に自ら外してから飛び込むというサービスのよさである。
 じゅっという音が響き渡り、鍋の中でお湯が沸いていきつつあった。
「よぉーし、がんばるよっ」
 ネコトラに乗った立川るるが、思いっきりアクセルを踏み込んだ。
 ぶにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!
 エンジンがかかり、ネコトラがタイヤ代わりについている八本の脚で、小麦粉と自称小麦粉から作ったうどんの種をこねくり始めた。
「いっけえー、ネコトラパンチ! ネコトラパンチ! 足ふみが重要だからね! ネコトラパンチ! ネコトラパンチ! ネコトラは前足でパンチするんだよ! ネコトラパンチ! ネコトラパンチ! 激突でフィニッシュ!!」
 しばらくして、恐ろしく腰のあるうどんの種ができあがった。
「今度は薄くのばすよー」
 ごろごろごろごろ……。
 うどん種の上で、ネコトラがごろごろと横に転がり始めた。なんか、無理矢理平たくのばされて、だんだんとうどんに近づいていく。
「フィニッシュ!!」
 最後に、無理矢理車体にとりつけたソードで、立川るるがうどんの細さに切りそろえていった。
「おー」
 意外なほどの手際のよさに、ギャラリーから拍手が起きる。
 尻尾でできあがったうどんをかき集めると、いよいよ鍋で茹でる。
「にゃー、にゃー、にゃー……」
 クラクションで300回鳴いて時間を計ると、ネコトラが鍋に体当たりして湯をこぼした。ちゃんと計算してあったザルの上に、ゆであがったうどんだけが残る。
「後はつゆだけだけど……」
 いけない、そこまでは考えていなかった。さてどうしたものか……。
「タマゴいりませんかー。タマゴ買ってくださらぬかー」
 そこへ、行商のタマゴ売りのアウレウス・アルゲンテウスがタイミングよく現れた。
 肉はなんとか売れるめどが立ったものの、タマゴが余ってしまったので行商にだされたのである。
「タマゴ……、買ったあ!」
 立川るるが叫んだ。
 手に入れたタマゴを、巨大なタライに入れた茹であがりの熱々うどんの上に溶きほぐしてぶっかける。
「釜揚げうどんの完成だよ!」
 ネコトラから下りてきた立川るるが、集まってきたお客さんたちにむかって告げた。
「美味しそうなのだー」
「ああ、マナ様、熱いですから、私が今ふうふうしてさしあげますのでちょっとお待ちを……」
 垂れかけたよだれを啜る巨大マナ様に、シャーミアン・ロウが言った。
「うむ、まさに豪快な手打ちうどんだな。いや、イコン打ちうどん……、いやいや、ネコ打ちうどんか」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、できあがった釜揚げうどんの写真を撮りながら言った。
「美味しければいいのよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が本質を突く。
「しかし、シンプルだな。うどんという物は、汁に浸かっている物と聞いていたが、これはまた珍しい……」
「釜揚げうどんって言うんだよ。うどんの本場じゃ、こうやって食べるんだから。はい、食べて食べて」
 ダリル・ガイザックのつぶやきを聞いた立川るるが、そう説明して出来たてのうどんを勧めた。
 しかし、さすがはイコンサイズである、うどんもぶっとい。極力人間でも食べられるようにと限界まで細くしてはあるが、それでもロープなみの太さがあり、それを啜る姿はまるで啜り餅を食っているかのようだった。
「だが、タマゴのおかげで、意外にもすんなりと口に入っていくな」
 はふはふ言いながら、ダリル・ガイザックが果敢にも巨大うどんを食べていった。
「ふーん、やるじゃないか。まさに、巨大イコンならではっていう食べ物だねえ」
 うどんにかぶりつきながら、御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が言った。
「ううむ、この素朴さが、老体の五臓六腑に染み入りますのう」
「そうでありますか? 自分は、もうちょっと濃い味のラーメンの方が好みでありますが……」
 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が、ちょっと正反対の感想をもらした。
「これなら、生き物を食べているという感じがしないから、私にも食べられそうだわ」
「うん、美味しそうですぅ。きっと、いいお水を使っているんですぅ」
 その横では、スノー・クライムが、ルナ・クリスタリア用に小さくうどんを千切ってやりながら、自分も美味しそうに食べていた。
「うん、これならいくらでも食べられそうだわ、後で肉料理を食べた後に、口直しにまた来ましょう」
 ズルズルとうどんを飲み物のように啜りながら、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が言った。
「そんなに食べると、他の物が食べられなくなって、ぽっこりお腹になるわよ」
 盛大なセレンフィリティ・シャーレットの食欲に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が容赦なく突っ込む。
「大丈夫、あたしは、いくら食べても体形は変わらないから。今そう決めたから」
 なんだかよく分からない自信を込めて、セレンフィリティ・シャーレットが答えた。
 
 
オムレツ

 
 
いきます
 イーグリット・アサルトのコックピットの中で、御神楽陽太がすうっと呼吸を整えた。
お手伝いするよ
 一緒に乗り込んだノーン・クリスタリアがサポートする。
 ザシュザシュザシュザシュ!!
 ダブルビームサーベルで、まな板の上においた野菜と肉を微塵切りにしていく。ビームのおかげで、切るそばから焼けてしまっているのだが、地味に御神楽陽太は気づいてはいないようだった。刻み終えた具材は、巨大フライパンでさらに炒める。
「どりゃあ!」
 高々と動かされるフライパンの上で、肉と野菜が踊った。そこに塩、コショウが舞う。
 近くにいすぎた観客たちが軽くむせた。
「ふむ、あれでは、先に火が通りすぎて味がうまくなじまないだろうが」
 調理過程を注視していたダリル・ガイザックがつぶやいた。
「次は、ワタシがやるね」
 ノーン・クリスタリアがコントロールを引き継いだ。
 買ってきたタマゴを、スイッチを切ったビームサーベルの柄で軽くかき混ぜると、別のフライパンに流し入れる。
 じゅわっと、黄色いタマゴが液体状から固体へと変化していく。
「今です!」
 御神楽陽太が、先に作っておいた具材の入っているフライパンを素早くつかむと、中身をタマゴの上に広げた。
「ここからは、スピードが命ですよ」
「分かってるもん」
 デスサイズを取り出すと、そのカーブの部分をうまく使って、具材をタマゴに絡めつつつつみ込んでいく。小刻みにイコンの腕を前後させると、少しずつ移動していった卵焼きが綺麗なオムレツ型にまとまっていった。
「フィニッシュ!」
 勢いよく、フライパンの中のオムレツを用意しておいた巨大な皿に叩きつける。
「さあ、できあがったよ。みんな食べてね」
 イーグリット・アサルトのコックピットから飛び出したノーン・クリスタリアが空中からお客さんたちに呼びかけた。
「おいしいよ!
 おいしいよ!
 ふんわりタマゴのミートオムレツおいしいよ!
 
 ひとくち食べれば笑顔満点
 Smile World!
 みんなで食べて
 Happy Paradise! 
 
 ミートオムレツおいしいよ!」
 自作のミートオムレツの歌を歌って、一生懸命客寄せをする。
「はい、御注文、ありがとうございます」
 御神楽陽太の方は、デスサイズでオムレツを人間の食べる大きさに切り分けてサービスしていた。
「タマゴだー、肉だよ、肉。タンパク質、LOVE!」
 セレンフィリティ・シャーレットが、飲み物のようにオムレツをむさぼり食いながら言った。
「ううん……。ちょっと味がなじんでいないようにも思えるけれど……。肉の味が薄い……。セレンったら、そんなことは関係ないのね……」
 さっきあれだけうどんを食べたのに、全然衰えないパートナーの食欲にちょっと引きながらセレアナ・ミアキスが言った。
「おお、これなら食べでがありそうであります。超じいちゃん、一緒に食べるであります」
「いや、年寄りには、こういった洋食はどうも……」
 大洞剛太郎にオムレツを勧められた大洞藤右衛門が、ちょっと遠慮した。
「いや、試しに食べてみるといいであります」
「そうか、ならちょっと……」
 一口ならと、大洞藤右衛門が食べてみる。
「うん、この程度の薄味なら……、いや、やはりわしにはちょっとハイカラすぎるかのう」
「オムライスじゃないんだ。もうちょっとタマゴがふわふわの方が好みなんだけど……」
 ルカルカ・ルーも、ちょっと想像と違っていたので、若干微妙な顔をした。
「まあ、大味になるのはしたかないだろう」
 調理過程を見守っていたダリル・ガイザックがうなずいた。イコンなどという物で料理をするのに、一流料亭なみの繊細さを求めるのはどだい間違っている。ここは、やはりB級グルメとして楽しむのが筋だろう。