葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

リアクション公開中!

勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

リアクション


第3章(2)
 
 
 西方大陸最大の港であるゾートランドの波止場を、リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)を先頭にした勇者達の一行が歩いていた。
 岸壁には大小様々な船が渓流され、港湾都市の名に相応しい姿を見せている。その中の一隻で積荷を運んでいる飛鳥 菊(あすか・きく)は、リデルの姿を見かけるとこちらへと走り寄ってきた。
「リデルか、どうした? やけに大所帯みてぇだが」
「何、また嬢ちゃんの気まぐれさ」
「あぁ……」
 菊が荷物を積み込んでいたこの船はインフィニティア家が所有している船『アークライト号』と言う。かつてハイヴァニア一世とともに近隣の海賊を制圧して回った伝説の船乗り、キャプテン・ロアの船と同名の物だ。今は商船という立場ではあるが、ある程度なら防衛用の装備も備え、さらに軍艦にも匹敵する速度を出せるインフィニティア家自慢の一隻である。
「菊様、またお世話になりますわね」
 アルト・インフィニティア(あると・いんふぃにっと)が微笑む。菊の本業は冒険家だが、東方大陸との海域に海賊が多く出没するようになった昨今では護衛役としてアークライト号に乗り込む事が多かった。アルトが各地を巡る際につき合わされた事も一度や二度では無い。
「ったく、今は海賊がこの港の近く以外はどこにでもいるような状態なんだからよ、お嬢様の遊びでかき回すなよな」
「あら、心外ですわね。今回はわたくしでは無くて勇者様の為ですのよ」
「勇者……?」
「えぇ、勇者様が少し前に出航した船にいる方を追いかけたいそうですの。それならアークライト号以上に適している船は無いでしょう?」
「なるほど、勇者ねぇ……」
 菊が勇者達の方を見る。何かしら考えているようだったが、それを甲板から呼ぶエミリオ・ザナッティ(えみりお・ざなってぃ)の声が遮った。
「菊〜! 荷物の方はどないな――って、何やの? この人数」
「勇者御一行だとよ! 一緒に行くみたいだから船を案内してやりな!」
「へ? いやいや、そういうのは前もってお兄ちゃんにちゃんと言うてや!」
「俺も今言われたんだよ! いいからとっとと船を出すぞ!」
 最後の荷物を持ち上げ、船へと乗り込んで行く菊。それに続いて次々と乗船する勇者達を眺め、エミリオはがっくりを肩を落とした。
「一応僕が船長なんやけどなぁ……」
 
 
 出航したアークライト号は東方大陸を目指す航路を取り、徐々に加速していった。甲板では篁 大樹が束の間の休息を堪能している。
「やっぱ船の上は風が気持ちいいなぁ。ハイラウンドからずっと走ってたし、しばらくは休ませてもらうか」
 甲板上には同じように風を感じようと船室から出てきている者達がちらほらと見られる。そんな中、船長として各所を見回っているエミリオの姿が見えた。彼はこちらに気付くと、明るい笑みを浮かべて近づいてきた。
「やぁ、あんたも勇者のお仲間さんやったな。どうや? 船旅は堪能しとるか?」
「今の所はのんびりしたもんだぜ。まぁ、また乗るとは思って無かったけどな」
「ん? 前にも乗った事があるんか?」
「あぁいやいや、こっちの話」
 大樹は以前、とあるマジックアイテムの効果によってキャプテン・ロアの物語を題材とする本の世界に巻き込まれた事があった。武装がある点などいくつかの差異があるが、その時もアークライト号という名の船に乗り、しかもエミリオは何人かいた操舵手の一人だったのである。
 もっとも、この世界のエミリオは知る由も無いのだが。
「そや、この船は商船やから色んな珍しい物も扱っとるんよ。良かったら下にある店も覗いたってや。ほな、僕は見回りがあるから、またな」
「商魂たくましいなぁ……」
 軽く手を振って立ち去るエミリオを見送る大樹。次いで彼の視界に映ったのは、黒帯の胴着に身を纏い、太陽の光を余す事無く照り返しているルイ・フリード(るい・ふりーど)の姿だった。
「おや、初めまして。どうですか? あなたもこの潮風の中、一緒に身体を鍛えてみませんか?」
(か、変わってねぇなぁ……)
 腕まくりをして上腕二頭筋をアピールするルイを見て内心でつぶやく。現実の世界でも彼はどこまでも己を鍛えようとする人物だった。
 
「……ふむ、なるほど。皆さんは魔王を退治するべく旅を続けているというのですね」
 再三のブートキャンプ入りを拒否し、何とか普通の会話へと持っていけた大樹は旅の目的を話していた。ちなみにルイの方はこの世界では旅の武道家という設定らしい。
(でも確かルイの兄貴ってうちの親父並に方向音痴だったよな。まともに旅出来てたのか……?)
 話を聞く限り明らかに普通ではあり得ないルートを辿っていたのだが、そこはスルーしておく。最早その辺は突っ込んだら負けだ。
「分かりました! 同じ船に乗ったのも何かの縁。私の力、あなた方の目的の為にどうぞお使い下さい!」
 
 ――ルイ・フリードが仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?――
 
 ・はい
 ・YES
 ・いいえ
 
「…………」
 
 →いいえ
 
「よろしい! ならば、目的地に着くまで存分に鍛えて差し上げましょう!」
 
「結局同じかよ!?」
 
 
 一方その頃、先を行くマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)の乗った船は海賊の襲撃を受けていた。マッシュ自身は海賊と手を組んで航行していた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)率いる魔王軍の船に移乗している。
「ちょっと〜、迎えって言ってもこれは乱暴過ぎるんじゃないの?」
「気にするな。奴らにも実入りが無いといかんからな。あの勇者を名乗る破壊者達を倒す為には些細な事だ」
 二人の視線は九鬼 嘉隆(くき・よしたか)が指揮する海賊達によって物品を略奪されている商船の姿があった。迅速な行動によって既に船長を始めとした乗組員は全て捕らえられ、貿易の為に積み込まれた荷物は第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)達によって次々と海賊船の方に移されていく。
「お疲れ様です。こちらの被害は?」
 海賊に与する司祭である東 朱鷺(あずま・とき)が尋ねる。軽々とした動きで海賊船へと戻って来た嘉隆はどこかつまらなさそうに吐き捨てた。
「そんなものある訳ねぇだろ。ったく、手応えが無さ過ぎるってのも問題だな」
「そう……これからはどうするのですか?」
「あの魔王軍とかいう奴ら、信頼は出来ないが情報は確かだ。ならあいつらが言う『勇者』って奴ももうじき来るんだろう。だったらそいつを狙うさ……あの船を囮にな」
 
 
「菊、見えてきたわ。あの船やと思うけど……」
 エミリオが指差した先には三隻の船が止まっていた。一隻は商船のようだが、それを挟むように二隻の武装船がこちらを向いている。
「襲われたか……? あいつらが追ってる奴の仲間か、それとも別の海賊か……どっちにしてもやる気みたいだな」
「そやね。このまま何も起きずにってのは難しいと思うわ」
「よし、全員に伝えな! 戦える奴は上に、そうじゃない奴は船室に篭っとけ! これから一戦おっ始めるぞ!」
 菊の声で皆が動き、戦闘への準備が始まる。エミリオは自分が操舵をする為に船尾に向かいながらも小声でぼやいていた。
「だから船長は僕なんやけどなぁ……」
 
「あれは……インフィニティアの所のアークライト号か。商船らしからぬ実力と聞くが、さて……お手並み拝見と行こうか」
 嘉隆が砲撃手へと命じ、それぞれが砲弾を発射する。エミリオはそれを受けて舵を切ると、逆にこちらの乗組員に反撃の用意をさせた。
「初代の名を汚す訳にはいかんからね。お返しさせてもらうわ……砲撃開始!」
 砲弾が互いに飛び交い、船の近くに着弾する。性能や練度としては互角といった所か。予想以上の相手の実力に、嘉隆はマスクの下で笑みを浮かべた。
「なるほど、確かに商船では無く軍艦と見た方が良い相手だな。だが、これでも撃てるか……?」
 嘉隆の船が徐々に停止している商船へと近づく。こうなればこちらとしては砲撃に支障は無いが相手方は誤射を恐れて手が出せないだろう。
「ちっ、厄介な真似を。エミリオ! 銃が届く距離まで行けねぇのか!?」
 思わず菊が叫ぶ。エミリオも転進して距離を詰めるようにしてるが、このままだと向こうの矢面に立ったままだ。
 
「左舷、発射用意! ……撃てぇ!!」
 
 その時、別方向から嘉隆の船へと砲撃が始まった。砲撃はアークライト号よりも距離、正確性ともに上で、嘉隆達が行おうとしていた攻撃を見事に妨害する。
「軍艦だと? この正確な砲撃……フランシス・ドレーク(ふらんしす・どれーく)の『リヴェンジ』か!」
 嘉隆の言う通り、アークライト号の援護に入ったのはゾートランド海軍最強の軍艦、リヴェンジだった。その指揮を執るドレークは嘉隆達がアークライト号を狙えないよう、後ろを取ろうとする動きで牽制を行う。
「リヴェンジとは頼もしい援軍やね。でも、これなら行けるわ……アークライト号、突撃!」
 アークライト号の船速が増し、一気に相手へと接近する。強力な援護を受けた勇者達は、今度は白兵戦へと戦いを移す事になった。