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リアクション
シャーロットの前から逃げたイングリットだが、さらに新たな挑戦者が、その行く手を阻んだ。
「私と、手あわせてしましょう」
立ちはだかったのは、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)。その背後には、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が街路樹に寄りかかってその様子を眺めている。
「いや、彼女の相手は俺がする!」
すたっ、と屋根の上から飛び降りたのは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)。
「待て。私闘を見過ごすわけにはいかない。いち刑事としてはね」
別方向から、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が姿を現す。
「……3人、いえ、4人がかりですの? いささか、正々堂々とは言えませんわね」
「自分は、見学……いえ、付き添いです」
ぽつりと霜月が答え、手をあげている。
「確かに、数で押しては力押しとは言えないわね」
クコが周りの面々を見回しながら呟く。
「確かに、数の暴力は紳士的な振る舞いではないな」
「それなら、この中で一番強いものを決めればいいさ!」
しびれを切らしたように、エヴァルトが飛びかかる。その相手は、マイト! 殴るなら男から、というエヴァルトらしい判断である。
エヴァルトの鋼鉄の右足が閃く。胸の中央を狙ったその蹴りを、マイトは上体をスウェーさせてかわし、伸びきった足を腕で払った。反撃は素早いワンツー。英国式ボクシングだ。
「こっちもはじめるわよ!」
クコが素早く踏み込み、柔らかく握った拳で必殺の突きを放つ。が、イングリットのバリツは直線の攻撃にタイしてもっとも効果を発揮する。その拳をわずかに逸らすと同時、クコの足を払うために右足が閃く。
「かかったわね!」
この場にいるもの皆が徒手空拳で戦うことを選んでいた。が、クコはそのロマンに付き合うつもりはない。体勢を崩されながらも、口から火を噴いた。忍法・火遁の術だ!
「くっ!?」
業火が目の前に噴き上がり、イングリットが顔をガードする。ふたりは共に体勢をくずした。
それを見逃す男達ではない。マイトの低い体勢からのフックがイングリットを狙い、 エヴァルトは激しいダッシュと共にクコへ向けてミドルキックを放っている。
「く……っ!」
イングリットは放たれた拳……激しい軌道ゆえに逸らすのが難しい一撃を、わざと地面に伏せることでかわす。その長い足がマイトの膝を軽く叩いた。
「むう……っ!」
マイトが体勢を崩した。イングリットほどではないが、数歩、たたらを踏む。その軌道上には、クコの姿! クコはエヴァルトの一撃をかわしたとしても、マイトともみ合いになることは避けられない。
「仕方ありません……ねっ!」
ガギンッ、と固い音を立てて、エヴァルトの蹴りが受け止められた。受けたのは、霜月の強化光条兵器である。
「霜月……」
「今日は、ここまで……ですね」
ルールを決めていたわけではないが、事実上、パートナーの力を借りたクコはリタイアであろう。
「まだまだ、こっちは続けさせてもらうぞ!」
エヴァルトは即座に体勢を立て直し、跳ね起きるイングリットに向けてまっすぐに正拳突きを繰り出す。
「こんな技……っ!」
イングリットの体に染みついたバリツが、エヴァルトの手首を掴ませる。勢いを利用して、投げに転じる技だ。
「いまだッ!」
エヴァルトが力を振り絞る。拳を固め、腕を逆方向にひねる。柔術の技に、純粋な力だけで対抗する無茶な手だ。だが、サイボーグと化した彼の体は、その無茶を可能にした!
「そんな……っ!?」
驚愕の表情を浮かべるイングリットの首をエヴァルトの腕が捕らえる。これまた力任せの首投げである。
「そこまでだ」
マイトの放った投げ手錠が、エヴァルトの腕を捕らえた。半端な体勢で技が止まり、エヴァルトとイングリットがそれぞれ、別の角度で膝をついた。
「さすがに、レディを固い地面にたたきつける技は、見過ごせないからな」
別の手錠が、イングリットの腕を捕らえる。動きを封じられたイングリットが、悔しげにうめいた。
「……あなたの勝ち、ですわね。好きになさりなさいな」
「いや、俺は腕試しで挑んだんじゃない。最初から、これだけが目的だった」
肩をすくめ、マイトはイングリットの仮面を外した。素顔のイングリットは、その顔を見られるのが恥ずかしい、というように目を伏せた。
「……仮面の悪意に任せてこんなことまでしましたのに、わたくし……未熟を痛感いたしました」
「いや……仮面があったからこそ、かもな。武術は自らを修めなければ力を発揮しないものだ。素顔のおまえとも、戦ってみたいよ」
エヴァルトが座り直しながらも、告げた。
「……ありがとうございます」
イングリットはぽつりと、頭を下げた。
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