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パラミタ百物語

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パラミタ百物語

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第参話 王の眠りの怪
 
 
 
「はいはーい。次は余の番ぞよ」
「はいはい、好きにしてきなさい」
 犬養進一に送り出されて、蝋燭を持った英霊のトゥトゥ・アンクアメンがみんなの前に出た。
「これは100年くらい前のエジプトでの話なのだが、当時、記録にはあったが発見されていない王の墓がついに発見されたのだ。
 他の墓は、ほとんど盗掘されて何もなかったのだが、発見された墓は、そのまま副葬品の金銀財宝で埋め尽くされておったので大発見となった。
 しかしその後、墓を暴いた発見者たちに次々と恐ろしい出来事が襲いかかったのだ。
 最初の犠牲者は、調査隊のパトロンだったイギリスの貴族。熱病に感染し死亡。さらにその家族、考古学者、王のミイラを撮影したカメラマンなどが次々に不可解な死を遂げたのだ。
 後の調査でわかったことだが、墓の入り口には古代の言葉でこう刻まれておった。
 『王の眠りを妨げる者には、死の翼が触れるべし』と」
「ちょっと待て、その犯人は、お前のことじゃないのか」
 思わず、犬養進一が突っ込む。
「あ。なんのことであるかな。とにかく、それであるから、王の眠りを妨げてはいかんのだ。ちなみに、余は今猛烈に眠い」
 なんか凄く自信満々でトゥトゥ・アンクアメンが言った。
「あ、それ知ってます。確か、本当は年寄りの人が天寿で死んだだけで、他の人の交通事故とか病死とかは全部デマだったんですよね」
 水橋 エリス(みずばし・えりす)がポソリと言った。
「シーッ、真実は呪いの名の下に隠されていなければならぬのだ」
「いや、捏造はだめだろ。怖くないぞ」
 陰でこそこそ根回しをしようとするトゥトゥ・アンクアメンに、犬養進一が言った。
 
 
第肆話 車の怪
 
 
 
「はーい、次は私だよ」
 ケスケミトルを来た立川 るる(たちかわ・るる)が進み出た。
「るるはバイトでデコトラ使ってるんだけど、ドライバー仲間から聞いた話ね。
 その日、その人は嫌なことがあったらしくて、闇雲に山道を走ってたんだって。
 山の天気ってよく変わるでしょ?
 いつしか霧が出てきたんだって。そしてどんどん深くなる。まるで気持ちにリンクするみたいに。
 それでも構わずに車を走らせてたら、突然目の前に人影が――。
 危ない!
 キキーッ!!
 あわててブレーキを踏んだんだって。間一髪、ぶつかった感覚はなかったんだよ。
 それで、急いで車外に飛び出したの。すると、あんなに深かった霧がみるみるうちに晴れてきたんだって。
 ところが、そこに人はいなかったんだって。
 代わりに、眼前にあったのは、切り立った崖。崖だよ、崖。
 もうちょっとで、タイヤが崖からはみ出しそうになってたんだって。
 いつの間に立ち入り禁止の道に入り込んでいたんだろ。もし、あのまま走り続けていたら……。
 あの人影は霊か何かで、警告してくれたのかもしれない。
『ありがとう』
 そうつぶやくと、冷静になったその人は車に乗って引き返そうとしたんだ。
 でも、そのとき、その人の耳許で確かにはっきりと女性の声が聞こえたの。
『死ねばよかったのに……』
 多分、その声の主が、最初の人影だったんだと思う。だから、その人は言ったんだって。
『いやいや、マジ助かったよ。ありがとう』
『べ、別に助けた訳じゃないわよ! あんたなんて死ねばよかったのに!』
『いやあ、君を轢きそうになって止まったのは事実だから。それで落ちないですんだし。何度でも言おう、ありがとう、そして、ありがとう。また来るよ、じゃあね』
『来なくていいーっ!』
 その声は、そう叫んだっていう話だよ」
 語り終えると、立川るるがふうっと蝋燭の火を消した。
「よ、よかった……ですね」
「く、苦しいよー」
 ガタブルした神代夕菜にきつくだきしめられて、ノルニル『運命の書』がちょっと悲鳴をあげた。
「落ちてたら大変なことに……、お、落ちる?」
 ズンと重さを感じて、長原淳二がべたりと畳の上に突っ伏した。
 その身体の上には、また笹野桜が乗っていた。
「ああ、あんなところに人影が!」
 突然、アンネリーゼ・イェーガーが叫んだ。廊下に面した障子に、ゆらゆらと人影……というよりは人の形をした光が朧に見える。
「何者!」
 ルカルカ・ルーが勢いよく障子を開けて祓い串を突きつけたが、そのとたんに光の人影は消えてしまった。
「ふっ、たわいもないわね」
 ルカルカ・ルーが勝ち誇る。単純に笹野朔夜の光術が効力を失っただけではあるが、傍目にはお祓いされたようにも見えた……のかもしれない。
『ええっと、あれって誰かの知り合い?』
 アスカ・マルグリットが、相変わらず隅っこでガクブルしている木曾義仲に訊ねた。もしかすると、立川るるの話に出てきた女の人は奈落人かもしれない。そう思って、近くにいる奈落人に聞いて回っていたのだ。
『しらない、しらない……』
 だが、木曾義仲はそう繰り返すだけであった。
『朔夜もうまく目を引いてくれますね。囮が多ければ、私たちも動きやすいというものです』
 相変わらず長原淳二の上に乗っかったまま笹野桜が言った。
少しきつい……。重い……」
 姿が見えていれば、ほっそりとした美狐にだきつかれているという、ちょっとうらやましい状態のはずなのだが、そうとは知らない長原淳二としてはただ重たいだけであった。まあ、現実は座布団状態以外なにものでもないとも言えるのだが……。